※29話 お返し券が許されるのは、いつまでですか?

 この前、旦那さんから綺麗なネックレスを贈ってもらった。私の誕生石がついていて、陽に反射すると、ほんの僅かに光るのだ。

(えへへへへ)

 ネックレス自体は目立つ物でもなくて、普段のお仕事でも付けられた。指輪を毎週通すのは、ちょっと手間がかかってしまうからやってないけれど、これなら簡単に付け外しもできて、邪魔にもならない。

(なにを、お返ししようかなぁ。なにをあげたら、喜んでくれるかなぁ)

 旦那さんのお嫁さんになってから、明日が待ち遠しい日が増えた。私は、彼のことが好きなんだなぁと思った。


 会社の昼休み。上司である「虎子さん」とお昼を食べていたら、彼女が私の襟元に気がついた。


「後輩。なにそれ、新しく買ったの?」

「旦那さんからのプレゼントです。へへ」

「いいわねー」


 虎子さんは、私のことを『後輩』と呼ぶ。理由はよく分からない。


「休みの日は、ゲームばっかりやってる、うちの草食系ボンクラ亭主と交換しない?」

「謹んでお断りさせて頂きます。――それでですね、なにをお返しをしようかなって、悩んでるんですよ」

「タダでもらっときゃいいじゃん。アクセなら、いざって時に、質屋にも持ってけるしな」

「いえ、私は虎子センパイと違って、人情に厚い女ですからね。そういう訳には」

「噛むぞ。あたしだってなー、そういうモン貰ったら、もちろんお返しは考えるわよ」

「虎子センパイなら、なにをお返します?」

「んー、そうだなー……肩たたき券とか」

「肩たたき券?」

「うむ。六回分割払いのお返しで、最高のコストパフォーマンスをほこるぞ」

「ふえぇ……」


 肩たたき券。そういうのも、あるのか。

 この時の私には、虎子センパイの言動が冗談だと分からなかったのである。


 

 土曜日。手書きされた六回分のチケットを手に入れた。この前贈った、サプライズプレゼントのお返しだったが、こう書かれていた。


 『日曜日の私、モフモフ券(5分)』


 これが5枚もあった。さらに、


 『日曜日の私、撮影券(3分)』


「どうですか、旦那さん。嬉しいですか?」

「う、うーん……」


 これは、アレだ。

 お父さんが、自分の誕生日を覚えてくれない娘から急遽もらうやつだわ……。


「じゃあ、明日まとめて使うわ……」

「ダメデス! まとめて使うなんて、モッタイナイ!」

「……」


 でも分割すると、そのうち券の存在を忘れるんでしょう? 書いてないけど、実は有効期限があったりするんでしょう? ソースは俺の父親。


「えへへ、明日になったら使ってね。使ってくださいねぇ」


 嫁さんが嬉しそうに言ってくる。けっして煽られているわけではないと思う。思いたい。思わせてください。――愛が、試されているのかもしれない。



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