※27話 ありのままの君が好きって、真顔で誤魔化す。
うちの嫁さんは、猫又だ。日曜日は猫になる。
「旦那さん、旦那さん」
「ん、なに?」
「日曜日の私と、普段の私。どっちが好きですか?」
「――普段の嫁さんが好きです」
平日の夜に、二人して夕飯のカレーを食べていたら、なんの前触れもなく、そんな質問がとんできた。
「そうですかー。普段の私がお好みですかー」
「……嫁さん、とつぜんの抜き打ちテストみたいな真似はやめよう?」
浮気チェックの亜種は良くない。リトマス紙判定をされているようでもあり、正直落ち着かない。ちょっと背筋も凍りますよ。
「フッ、やましい事がなければ、なんの後ろめたさもなく、さくっと答えられるはずでしょう? ヒト型で、見目麗しく、性格も良く、第一に旦那さんの事を慮ってくれる奥様がいるのに、なにをもって猫の方を愛さにゃならんですか」
「……自分で言うか……」
「なんの後ろめたさもないですからね!」
どやぁ。と胸をはる。その自信だけは、本当に凄いと思う。
「だったら、嫁さんよ。実際に、自信の根拠になるような事を見せてくれるか?」
「ふぇ?」
俺が作ったカレーを食べながら、嫁さんが小首を傾いだ。
「普段の自分、今この瞬間に、俺が、君を美しい! 素晴らしい! 愛嬌がある! 世界で一番可愛いよ! と喝采できる程のことを成し遂げてるいるか? いや、ない」
「なくないです! してますよ!」
「だったら、今ここでアピールしてもらおうじゃないか」
「あ、アピール?」
「そう、自己PRだ。今の私は、日曜日の嫁よりも可愛いのだということを、全力でアピールしてみせろ。今この場で、俺を萌えさせてみるといい」
「っ!?」
カレーを食い終わった。最後に福神漬けをぽりぽりと齧りながら、ジト目でにらんだ。追い詰められた嫁さんは、冷や汗を垂らしながら、こう応えた……。
「……にゃ、にゃあ~ん」
「君には失望した」
「即答!?」
「実家に帰り、お義母さんに報告したまえ。自分の女子力はその程度だったとな」
「っ!」
「本当の自分、本来の姿を見てくれ、愛してくれと言いながら、所詮は安易に飾りたてた自分で勝負するしかない。哀れだよ」
「ふえぇ……。旦那さん、もう一度、もう一度だけチャンスを!」
「いいだろう」
福神漬けを飲み干し、最後に麦茶で喉をうるおす。ほんのりとした甘味が残る。この心地良いの至福の瞬間に、嫁さんは言った。
「今夜のお皿の後片付けは、私が一人でやります!」
「そう。風呂掃除も頼んでいい?」
「お任せください」
「そうかそうか。うん。日曜日の嫁さんよりも、今の方が可愛いよ?」
俺が笑顔で言うと、顔面にらっきょが飛んできた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます