Activity Gunners (Side:Fear)



力は力である。それ以上でも、それ以下でもない。

だからこそ、遠慮無く力を振るえ。相応の場所、状況にて――



――激痛の原因は分かっていた。

痛む箇所を探り――鉄心を掴んで、力任せに引き抜く。

更なる激痛と共に、鮮血が吹き出し――数秒後に痛みが引いて、出血も止まる。

「はぁ……はぁ…………」

荒い息を整え、胸に手を当てる。

ハッキリとした心臓の鼓動ビート。……問題なさそうだ。

後は武装の方……。

二挺の散弾銃、自動拳銃は当然無事。対軽装甲ロケット…………奇跡的に無事。

よし……。

立ち上がると、前方にデカブツが見える。

10ゲージ散弾銃〈CA CSG12-L〉を抜いて、走り出し、

(うわ、身体が軽い!そして、よく動くっ!?)

驚愕。異常なまでに身体能力が上がっている。

(さっきのグラナデさんの言葉はこれの事を差していたんだ……)

これなら……やれるっ!

デカブツの手が何かを掴み、振りかぶる動作を確認。

方向を見極め――ステップッ!

真横をコンクリート塊が通過。

『聴こえる~フィアちゃん?』

同時に、ヘッドセットからグラナデの声。

「はい、聴こえますよ。グラナデさん」

応答。

『さっきセルゲイが苦戦しているって言ってたけど、正確には分断されてるんだよね。私と……セルゲイとノルシェの二手に。フィアちゃんは私の方に近いっぽいから、こっちに合流してね☆多分、11時方向だから♪』

「分かりました。すぐに行きますっ!」

通信を切り、再びステップ。擦過するコンクリート塊。

デカブツとの距離は200m程度。

今の脚力を考えれば、10秒程度で駆け抜けられるかな。

……いや、そんなにかかりそうに無いか。

デカブツの方も、こっちに向かって近付いてきているし。殴る方が確実だと察したのか。

何にせよ、まずはコイツからっ!

走り出す。

――距離150m。

飛来する瓦礫。狙いは私の胴か。

疾走する勢いを利用し、スライディング。

回避成功。

代わりに、大小至るところが擦り切れるが、傷はすぐに癒える。

――距離100m

次いで飛来する瓦礫も胴狙いだが、やや下半身よりで軌道が低い。

斜め前方へのステップ。

回避。

距離70m。

今度は、小粒の瓦礫が複数。

脚に力を込め、急制動と同時に反対方向へ跳び、大半の瓦礫を回避。着地早々にスライディングで残りの瓦礫も避け、疾走再開。

――距離20m。

振りかぶられた右拳。

――距離10m。

綺麗な弧を描くフックのモーション。

当然、予測軌道上に私がいる。

が、

「よっと!」

地を蹴ってジャンプ。

デカブツの肥大化した右腕に着地し、更にジャンプ。

空中で散弾銃を構え――ファイア。

緩やかに回転するフラッグ弾がデカブツの額に着弾。

発生した微細金属と燃焼ガスの奔流たる、メタルジェットが皮膚を裂き、骨と混じり合いながら、貫徹。脳を焼く。

でも、所詮は10ゲージ。純粋な対装甲用兵器よりも、装薬量が圧倒的に少ない為、当然の如く、1発では足りない。残る3発も撃ち込み、確実に中枢神経を破壊。

倒れた所で死体を蹴って跳び、別の廃墟群へと侵入する。

案の定というべきか、中には麻薬系種の魔物で溢れかえっていた。

即座に自動拳銃へと持ち替え、脳天を撃ち抜いていく。何せ、12ゲージは残りワンマグ。自動拳銃これと12ゲージ散弾銃以外はデカブツ用の兵装だから無駄撃ちできないし。……あ、ナイフもあったけど、論外。現状の私では、魔物相手の格闘戦は自殺行為。

(……というか、麻薬系種多いなぁ)

物量で攻める事が前提だろうから分からなくは無いけど、随分と犠牲になった人がいる事なる。

……いや、違うか。

中佐の話から考えれば、コイツらは自ら望んで魔物になっただろう。ならば遠慮はいらないし、今も遠慮無くトリガーを引いているわけだ。

二挺共に撃ち切った頃、殲滅完了。〈CA CSG12-L〉に持ち替え、弾を込めながら廃墟群を抜ける。

「うわぁ……」

廃墟群を抜けた先は、血塗れになった麻薬系種の死体が散乱する焼け野原。

『遅いよ、フィアちゃん!』

その中心で身の丈を超える大口径機関砲を振るうグラナデさん。

今なら分かる。グラナデさんも、私と同じで……セルゲイさんも同じなんだ。

同じ、

「すみません。邪魔が入ったもので」

『邪魔?……それは大変だったね――っと!』

会話が途切れ、グラナデさんが横に跳ぶ。

瞬間、擦過するH鋼。

飛来した方を見ると、一際筋肉が肥大化したデカブツ。

無駄とは一瞬で分かったが、咄嗟に掩蔽えんぺい物となりそうな瓦礫の下に潜り込む。

「残り一体、アイツが面倒なんだよ~」

直後、同じく瓦礫の下に潜り込んで来たグラナデさんの言葉に、やる気が感じられない。

……平常通りのグラナデさんだ。

「それで、何か作戦はあるんですか?」

「ん?……無いよ?」

撃ち切っていたのだろうか、機関砲のマガジンを交換しながら、信じられない事を言われる。

「無いよ?じゃないですよっ!?」

ゴリ押しとか、私は嫌ですよ!?玉砕前提じゃないですか。

「……ぷ、アッハハ☆……本気にした?冗談だって。単純だけど、プランはあるよ」

「……冗談は止めてください」

今は戦闘中ですよ。

いつ、この場所を踏み抜かれたりするか、分からないのに。ふざけている場合ではないでしょうっ!?

と、思った所で、グラナデさんからふざけた雰囲気が消えた。

「オーケー。冗談抜きの話だね。……プランは簡単。脚を潰して脳髄を砕くってだけ」

「本当に簡単ですね」

デカブツ相手の定石でしかない。それ故に確立され、精錬された方法でもある。

「その上でフィアちゃん。……前衛、やれるかな?」

「前衛、ですか……」

一番、危険なポジショニング。でも、携行武装の関係上、適任とも言える。

「……やってみます」

発言と共に、自動拳銃のマガジンを交換。……今更ながら、撃った分の再装填を忘れていた事に気付いたから。

「じゃ、私は援護砲撃しつつ、隙を見て頭蓋にコイツをブチ込むから」

グラナデはそう言うと、背負っていたコンテナの中身を見せる。

――3本の筒が纏められた、無骨な投射器ランチャー。

「85㎜3連装ロケットランチャー〈JA TRG-2D〉。瞬間火力は保障するよ?……と、機関砲コッチも説明しとかないとね。……40㎜擲弾機関砲〈AA MW-00〉。早い話が炸裂弾とかをバラ撒く機関砲って事。今、込めてるのは成形炸薬弾HEATだけど、あんまり着弾地点に寄らないでね?……死ぬから」

当然だ。指向性があるとは言え、基本的には爆薬であり、飛散する微細金属と燃焼ガスの奔流には、人間ぐらいならば余裕で殺せる威力がある。

「分かりました」

了承すると、コンテナを背負い直し、〈AA MW-00〉を構えたグラナデさんが出口付近に移動。

私も別の出口付近へ移動し、

「3、2、1……Ура!!」

同時に飛び出す。

「私はここだよぉっ!!」

横合いから聞こえる声と砲音をバックに、デカブツ目掛けて全力疾走。

コンクリート塊やらH鋼が飛んでくるが、それら全てを潜り、あるいは飛び越えて近付く。

数秒で比嘉の距離を50以下に詰め、散弾銃ではなく、携行ロケット〈CA LRSL60C1〉を抜き、

砲口カバー、簡易照準を跳ね上げて、現れたプッシュ式トリガーを握り込む。

狙いをデカブツの左足首に合わせてトリガー解放。

圧縮されていたスプリングが解放され、ロケット射出用の推進薬を起爆。

瞬間、ランチャー後部からバックブラスト。

数瞬後にロケット弾もデカブツの左足首に着弾。

発生したメタルジェットが天然の装甲を貫く様は見ずに、距離を取りながらランチャーの再装填。

反動相殺物カウンター・ビスの詰まっていた後部ユニットを捻りながら抜き、背中のホルダーから反動相殺物の詰まったケースと一体になった弾薬を取り外して、ランチャー後部から捩じ込む。

「次ッ!」

射線修正。ファイア。

同時に再装填しつつ、左脚の被害状況を確認。

……さして被害が無い。成形炸薬弾は硬質対象用だからか。

まずは肉を裂かないと……。

〈CA LRSL60C1〉を背負い直し、〈CA CSG12-L〉に持ち替えてレシーバー側面のハンドルを“Free-Slam・Fire”。

左足首の傷に合わせて、トリガーを引き絞り――フォアエンドも往復運動。

速射火器とは比較にならないが、高速でワンマグ分の弾薬が吐き出される。

〈スラムファイア〉と呼ばれるテクニックの一つらしいが、あまり好かれていないらしい。

(それも当然か。危ないし――って、そんな事は後々)

空になったチューブマガジンにフラッグではなく、フレシェットを込める。

構え直して、全弾発車。今度は通常の方法で。

着弾。

筋繊維の裂ける音が聞こえ、デカブツが怯む。

「追撃だねっ!」

数瞬遅れて、同じ部位目掛けて成形炸薬弾の嵐が襲い、

足首に幾つもの風穴が開く。

このぐらいやれば、自重で破砕するはず……。

「うわっ!?」

だが、デカブツの足は砕けず、反撃の前蹴りを紙一重で躱す。

……そう、うまくはいかないよね。

蹴り出された左足に側面からワンマグ分のフレシェットを撃ち、ダメ押しにロケットも射出。 これで折れる……よね?

デカブツが蹴り出した脚を戻し――――自重で足首が砕けた。

「よしっ!次は――」

「横から来るよ、フィアちゃんっ!!」

「え――?」

気付いた時には、もう遅い。

「へぶっ!?」

強い衝撃を感じながら、私は宙を待っていた。

横……恐らくフックを受けたのか。

デカブツの打撃を受けて、よく生きてるなぁ……。本当に人外になってる――って、それもあとっ!

体勢を整え、状況確認。

デカブツは目の前。両手を組んで頭上に掲げている。

(ハンマー!?)

これは流石に、食らえば死ぬ。

何とか、躱さないと……。

対処方法は――

考えている内に、迫り来る拳。

どうする?

思案し――――思い付いた頃には、直撃寸前。

組まれた拳に対して、壁蹴りの要領で横に跳ぶ。

そして、ワンマグ分のフレシェットを叩き込むが、咄嗟の射撃だった為、全てデカブツの胸部に着弾。

刺さりはしたが、厚い胸筋に阻まれて致命傷には至らない。

(咄嗟の射撃精度はまだまだかぁ……)

改善点を確認しつつ、弾薬装填。着地。

(……決めた。腕も折ってやる)

片足を潰したおかげで、デカブツの動きも鈍くなっている。

とはいえ、近接戦闘しか能のない私にとっては、両腕が残っている以上、危険があるわけだが。

『フィアちゃん☆後は私がアイツの顔面にロケットを撃てば終わるよ♪……だから、注意を引いておいて、ね♪』

「……了解」

釘を刺されちゃったか。

まぁ、先輩の指示には従わないとね……。

私情で死ぬのは御免だ。

(注意を引く、か。なら……重い一撃の方が良いけど……)

ロケットは撃ち切り。フレシェット3マグ、HEAT……あまり効果的ではない。

残弾は少ないが、フレシェットで頭部の筋肉を削いでおくか。

いかな、頭部は急所とはいえ、そこそこ頑丈だし。

そうと決まれば、実践。

〈CA CSG12-L〉を構え直し、速射。

幾分か貫徹。突き刺さって運動エネルギーを吸収される。

左右のフックを避け、再装填。残り8発。

最後の一発を込め終え、フォアエンドの操作と同時に、3発のロケット弾がデカブツの顔面に直撃。

苦悶の叫び声が響き渡るが、死んではいないようだ。

『リロードするよ。10秒間、ヤツの注意を引いてっ!』

「了解」

込めたばかりのフレシェットを爆炎の向こうにバラ撒くが、気付いたのか、射線上に腕を重ねられて防がれる。

意外と反応速度が速い、と思いながらリロード。残り4発。

再射撃の必要は……無いかな。

『Fire!!』

リロードを終えたグラナデさんが〈JA TRG-2D〉を速射したのが分かったから。

先程同様、苦悶の叫び声が響くが――途中で止む。

脳を焼いたらしい。

数秒後に爆炎が晴れると共に、デカブツが地面に倒れ、地響き。瓦礫が舞う。

『目標沈黙ってね♪セルゲイ達と合流するよ』

「分かりました」

私達は互いに獲物を構えたまま、走り出す。

待ってて下さいね、セルゲイさん、ノルシェさん。


通路上の魔物は一掃していた為、数分でセルゲイさん達に合流する。

「遅かったな」

既に辺り一面、血と死体だらけで、立っているのは、セルゲイさんとノルシェさんだけ。

「ゴメン、ちょっと硬いヤツがいてさ☆」

「……で、フィアと潰してきたと」

嘆息を吐かれる。

私、何か間違ったのかな……。

「フィアに失態があるわけじゃない。……むしろ、残念だったと言うしかない」

「……どういうことです――」

セルゲイさんの発言に不審なものを感じ、聞き返そうとした直後、

『クソッ!17番車両、主砲の弾薬が尽きたっ!!』

『21番車両、同じく主砲残弾無し。これより機関砲による掃討に移行します』

『化け物共がブッ殺してや――ぐあっ!?』

『4番車両、大破っ!』

無線が戦車部隊の惨状を知らせた。

「……第13戦車大隊、現在の状況を教えてくれ」

『はい、第4、第5中隊が全車両大破。搭乗員は全員戦死しています』

うわぁ……酷い状況。

「恐らく、麻薬系種を含む雑魚が湧いているな。現在位置を教えろ?」

『ポイントS21です』

通信主からの情報を聞いたセルゲイさんが暫し考え込み――

「……第4重野砲大隊、砲撃支援を要請する」

砲兵部隊に頼る事にしたようだ。

『了解。何処に熱々のステーキを送ればいい?』

「ポイントP20、P21、P22」

『Да(了解)、野郎共っ!熱々のステーキを配達するぞ、客を待たせるなっ!!』

という部隊長の声が聴こえ、セルゲイさんが次の指示に移る。

「第13戦車大隊、後退しろ。“雨”が降るぞ」

『砲兵ですか?分かりました、先輩。……各車両に伝達。牽制射撃を継続しつつ後退してください』

『Да(了解)。後退開始っ!』

戦車大隊の後退が始まって数分後、遥か後方から火薬の爆縮する音が聴こえた――気がする。

「……始まったな。各員、前線に移動開始だ」

が、それは正しかったのだろう。セルゲイさんの指示が響く。

「了解」

同時にセルゲイさん、ノルシェさんの2名が移動開始。少し遅れて、

「残党狩りだよ、フィアちゃん♪」

私を気遣うようにグラナデさんが言い、二人に追従する。

「了解っ!」

更に数瞬遅れて、私が続く。……まだまだ連携にもなれちゃいない。

『着弾っ!!』

『戦車大隊、まだ残ってるか?』

『腐るほどいやがる。ありったけを俺達の前方にバラ撒いてくれっ!』

『了解だ。お客さん、ステーキのおかわりだそうだっ!!』

移動中に聴こえる、部隊間の無線は何処か楽しそう。まぁ、砲兵の方が、だけど。

前方を見ても、継続的に火柱が立ち、土砂とコンクリート片が舞っている。

戦車大隊にとって、頼もしいものだろう。

こっちも急がないと。

セルゲイさん達との距離が離れてるし。速過ぎですよ、皆さん。

私がまだ、人外として未熟なだけかも知れませんけど。

『お前ら、榴弾HEの残りは?』

『今込めたのが最後です!』

『よし、最後は一斉に行こうか。……Стрельба(発射)!!』

そして、私達が最前線に着くと同時に、

爆風と土砂のカーテンが形成され、肉片と血飛沫も舞い上がる。

「派手にやったねぇ~」

「……私語は後だ。残りを殲滅する」

『了解』

指示に従い、各々が焼け野原に向かって走り出す。

(どの程度、雑魚が残っているだろうか……)

私はそんな事を思いながら――


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