Welcome to “Unhuman's Line”(Side:Fear)



世界は、運命は理不尽にできている。

だから、抗え。

“力”が有る者は。

力無き者は…………流されろ。最後まで。



数分後――

閑散としたカフェに入った私達を待っていたのは、

「7分47秒。……相変わらずだな。少尉、曹長、軍曹――その他の奴らは知らんが」

ODカラーの軍服を着た、体格の良いおじさんだった。

「……依頼か?中佐」

そのおじさんに対して、セルゲイさんは不機嫌そうに質問する。

「あぁ、依頼だ。……請けてくれるか?」

「内容次第だ。……説明してくれ」

「ビジネスライクか?まぁ、構わんが」

中佐、と呼ばれたおじさんは肩をすくめ、依頼内容を話し始める。

「今から約30分前、〈Lim-SE〉跡地にて、大型の魔物が出現した。……10年前の惨劇以来もあそこはギャングの根城だった事から考えて、魔物化したのはギャングに間違いないだろう。依頼内容は単純。同都市跡を闊歩する全魔物の殲滅。報酬額は出来高。どうする?」

〈Lim-SE〉……。

なんで、そこで……。

呆然とする私を他所に、話は進んでいる。

「〈Lim-SE〉か……。数年前に地震で陸路が潰れた気がするが……工事は完了したのか?」

「いや、まだ瓦礫の山だ。土方の野郎共、税金ピン跳ねして遊んでやがるよ……」

駄目じゃないですか……。というか、どんな駄目人間達だ。

「……無理だな」

この便利屋にヘリは無い。……というか、装輪輸送車とグラナデさんの私物バイクしかない。

……その分、何か突出しているわけでは無いらしいし。

「心配要らん。俺の方で足は用意した。〈AH CE-3C〉だがな」

「〈AH CE-3C〉……中佐が独自改良した装甲輸送ヘリか。……俺は請けてもいい。他の奴はどうだ?」

セルゲイさんがそう言うと同時に、

「……どちらでも」

「やる気十分だね~。あ、勿論私もやるよ?」

ノルシェさんとグラナデさんは肯定。

未回答者は私だけになる。

「……フィアはどうする?」

戦場は自分の故郷……。

そこを荒らす奴等は、お母さんの敵とも言える者達。

請けるには、充分な理由――ではない。これは私情に過ぎない。

仕事とプライベートは別にすべきではないか。

ならば、練度の低い私は出ない方が良い。

と、結論が出た直後――

「フィアちゃんも参加させようよ、セルゲイ」

何故かグラナデさんに推薦されてしまう。

「止めておけ。生半可な奴は餌になるだけだ」

当然の如く、セルゲイさんは許可しない。

理由も筋が通っているし。大型の群れは本当にキツい事は体験済みだ。

「……と、言いたいところだが、本人次第だな。死にたくないなら留守番だ」

あれ、私次第?

「……じゃあ、不参加で――」

「参加しようよ」

グラナデさんに止められる。

「何故ですか?練度の低い私は出ない方が良いに決まってます」

「そうかな?アイツらの系譜って、外見が変質してなんぼだから、発作は起こらないと思うんだよね。それに、私の後方支援って事にすれば比較的安全だよ。ね、セルゲイ?」

「……そうだな」

セルゲイさんは若干、顔をしかめる。……その理由は何となくだが、容易に察する事ができる。

――つまりは、グラナデさんに何を言っても無駄だし、筋は通っている。

「……で、どうする?」

だから、選択肢を与えられたのか。

「後方支援って…………また、迫撃砲ですか?」

この前のように。

「う~ん……それもあるけど、色々かな」

が、グラナデさんの回答は曖昧だった。

色々って……。狙撃なら無理ですよ?

「ともかく、私が全て殺っちゃえばいいだけの話♪フィアちゃんは社会見学みたいなものだと思えばいいよ」

「どんな社会見学ですか……」

血と炸薬の社会見学なんて誰も受けたくないだろう。

……でも、少し気が楽になり――

前回の中規模戦闘より、多少難しい位なのだろうか、と考えてしまう。

その結果、

「……分かりました」

私は参加表明を出してしまう……。

「参加だな。……中佐」

「……話は纏まったようだな。詳しい説明に移るぞ」

中佐の発言により、場の雰囲気は再び引き締まる。

「周囲300㎞範囲に都市が無いとはいえ、何時までも野放しにはできん。正規軍俺らの方で第13機甲大隊と第3重野砲大隊を派遣させた。が、いかな主力戦車とはいえ、デカブツの群れ相手では分が悪い。基本はお前ら頼みだが……彼らも効果的に使ってやれよ?」

「……上層部は俺達だけで駆逐しろと言ってるようなものだな」

「……だろうよ。お前らは実際できるからな」

「…………そうだな。はそういう部隊だったから」

セルゲイさんは含みのある言葉を呟いた。

「説明は以上だ。何か聞いておく事はあるか?」

と、聞かれるが、質問する者はいない。

「よし。15分後、スラム前の広場に来てくれ」

「了解だ。各自、準備に移れ」

セルゲイさんの号令と共に、全員動き出す。

「フィア。コイツをやる」

同時に、数束の弾薬箱を投げ渡された。

中身は10ゲージのフレシェットと、HEAT弾仕様のフラッグ。

デカブツ相手に散弾は効果が薄い為、ですか。

(当てられるかなぁ……)

どんなに強力な弾薬でも外すなら、ただの銭投げ。気を付けよう。

そう思いながら、自室へと急ぐ。


10分後。

装備を整えて、指定された場所に行く。

既に完全武装のセルゲイさんとノルシェさんがおり、物々しいODカラーのヘリが止まっていた。

来ていないのはグラナデさんだけか。

……念の為にもう一度確認しよう。

腰部ホルスターに収めた二挺の散弾銃には、それぞれ12ゲージシェルと10ゲージHEATフラグを装填済み。レッグホルスターにはいつもの.45自動拳銃。

ついで、デカブツ相手だから60㎜対軽装甲ロケット〈CA LRSL60C1〉と予備弾薬も。

各種弾薬はベルトポーチと弾帯に納めてある。

……よし、問題無い。

二人は既に準備も確認も終えているのだろう。年期の違いだ。

「あと2分だが……グラナデはまだ来ねぇのか。……全く、ルーズな娘だな」

「あぁ。……どうにも矯正できない」

「……医者もさじを折る」

中佐と世間話をする余裕まであるようだが――

ノルシェさん、その慣用句間違ってますよ。『匙を投げる』では?いや、お手上げどころか我慢の限界とでも?……それは酷い。依頼を一緒に請けて、まともな人では無いと思ってはいるが。

「待った~?」

と、この声はグラナデさんか。

振り返り、先輩の姿を見て、

(…………はい?)

呆れる。

着崩した野戦服に、機関砲用と思われる大口径ライフル弾の弾帯を巻き付け、レッグホルスターに短機関銃。柄付き手榴弾を収めたホルダーも腰に提げている。この時点でも充分重武装だが、それだけではなかった。

更に、身の丈を超える全長の重機関砲を肩に担ぎ、重そうなコンテナも背負って、歩いてくる。

目測に過ぎないが、500㎏は下らないだろう。凡そ人間の保持できる重量じゃない。

「2分前だ。真面目にやれば7分前位には着けるだろうに……」

「流石に無理ですよ、中佐~」

「……さて、無駄話はここまでだ。――各員、搭乗」

グラナデさんの屁理屈が流され、私達は輸送ヘリに乗り込む。

中は意外と広く、簡易の椅子すらあった。

確認している間にグラナデさんとセルゲイさんが側面の回転式多銃身機銃の銃座に着き、

「分担的にお前と曹長だろう、少尉。……まぁ、いいか。さて、嬢ちゃん。俺達は座っといた方が良いぜ?」

私は椅子に座るよう、中佐に促される。

当人は運転席に着いていた。

「アンタは変わらないな。……中佐の言う通りだ。フィアは座っていればいい」

「了解」

簡易椅子に座る。

「各自、ヘッドセット及びヘッドホンを装着、周波数を〈194.587〉に合わせておけ」

続けて出された指示通り、ヘッドセットを装着。周波数も合わせる。

「出発だ。落ちんなよ?」

言葉と共に、ローターが唸りを上げ、機体上昇。

ある程度の高度に着くと、移動開始。

「こちら〈チェルミ〉。第13機甲大隊、第3重野砲大隊、聴こえるか?」

『あぁ、聴こえる。……援軍か?』

『同じく音声良好。問題でも起きたか?〈チェルミ〉』

「15:10頃に援軍を投下する。……喜べ、旧〈Ъедый・Медвдъ〉隊の連中が混じってるぜ」

『〈Ъедый・Медвдъ〉!?ソイツは助かるっ!』

……メドベーチェ?なんのことだろう?

「中佐、その名前を使わないでくれ。……既に棄てた肩書きだ」

「良いじゃねぇか。……新兵どもを安心させる為に、な。士気は重要だからよ」

「…………裏があるだろ?」

「さぁな。任務完遂後に教えてやるよ」

二人の会話を小耳に挟みながら、私はただ待つ。

いつの間にか、目の前の簡易椅子に座っていたノルシェさんも同じく、待っている。

灰色系統の野戦服を纏い、抱えているのは14.5㎜対物ライフル。隣に115㎜対装甲擲弾筒と予備弾頭が置かれていた。

どちらも対装甲用の兵装。デカブツ相手だから当然か。

『……こちら第13機甲大隊。作戦領域到着まで1時間ほどかかりそうだ。……そっちの到着は1時間30分後だろう?それまで位は、俺達主導でやる。……こちらにも意地というものがあるからな』

「好きにしろ。その代わり、全滅しても責任は取らんぞ?」

という、中佐の忠告に対して、

『戯れ言ほざいてろ、老害が。デカブツだか何だか知らねぇが、撃ちゃあくたばる。それだけだろ?』

戦車兵の一人が軽口を叩く。

「ほぉ……。その声は第2小隊のガキだな。生き残っていたら、覚悟しな。口の聴き方を頭と身体に教え込んでやる」

……中佐の口から危ない言葉が聴こえた気がするが、無視しよう。君子危うきに近寄らず。

「~♪」

ほら、グラナデさんだって鼻歌歌ってるし!

「……中佐は、同性愛者らしい」

「ちょっ!?」

ノルシェさんっ!否定したかったか事を言わないでくださいよぉ!!

「曹長。勘違いするなよ?俺は男性の肉体美が好きなだけで至って普通だ。きちんと女の嫁もいるし、娘だって三人いるんだぞ?」

「……うち一人はアンタの嫁のせいで同性愛者だという噂があったはずだが?」

「ハハハッ!!それがなんだ?」

大問題です。とても。

「…………そうだったな。中佐はそういう人間だったな」

なんで納得してるの?周知の事実っ!?

正規軍に不安を覚え始める。

変態さんばっかりじゃないよね?異常性癖持ちの人が多そうだよっ!?

「中佐が特殊なだけだよ~フィアちゃん」

その不安を払拭したのはグラナデさんだった。

当然だが、機銃のグリップから手は離していない。側面警戒も重要。

なんて、思っていると、

「……予定より遅れてるな。少し飛ばすぞ、掴まってろ!」

中佐が注意を促し、私は近くにあった手摺を掴む。

直後、耳をつんざくような轟音と共に、ヘリが急加速。

「イヤッホー♪この加速感、なっつかしいなぁ!」

……グラナデさんにとって、この加速感は心地良さそうだ。……私にとっては不快な感覚なのですが?

「後三十分で着く。各自、準戦闘体制に移行。少尉、軍曹は引き続き側面の警戒も行ってくれ」

「了解」

「了解」

「りょうか~い」

「り、了解」

間の抜けたグラナデさんの了承に続き、私は噛みながらも、了承。

散弾銃のセフティを確認。……大丈夫、掛かってる。


約30分後――

「目標エリア到着。……機甲大隊、そっちの状況は?」

『5両やられた。急いでくれっ!』

「……5分間耐えろ」

『…………了解。なんとかするっ!』

「……聴こえていたな、少尉。……5分後に投下だ」

「……了解した。各員、異論は無いな?」

セルゲイさんの質問に対し、

「はい」

「……」

私達は返答するが、一人足りない。

「……アイツめ。中佐、グラナデが先行した」

足りない一人はグラナデさんだった。

「あの馬鹿娘が……。こちら〈チェルミ〉。が先行した。誤射に注意しろ」

『〈火薬庫〉だとっ!?り、了解っ!各員、注意しろっ!!』

彼らには、事の重大さが理解できたらしい。私は理解できないが。

『さぁ、成形炸薬HEAT弾の食べ放題だよっ!お腹一杯召し上がれっ♪』

だが、無情にも響く、グラナデさんの声と発砲音。

「…………冥福を祈るぜ……」

「……」

中佐とセルゲイさん達には、地獄絵図が見えたのだろうか?

とはいえ、それも束の間。すぐに気持ちが切り替えられる。

「お、見えたぜ。……デカブツは約20体……と腐るほどの雑魚か。いけるよな?」

「……問題無い」

「なら、OK。支援攻撃を開始っ!各自、バラ撒けッ!!」

高らかな叫びと共に開戦の号砲の如く、ヘリに搭載された25㎜チェーンガンと180㎜ミサイルが放たれ、数体のデカブツに風穴を穿つ。

同時に、側面の機銃も射撃開始。空いていた左の方には、ノルシェさんが着いていた。

「雑魚は腐るほど、か」

「ミサイル残弾無しっ!周辺の雑魚の掃討は?」

「完了した」

「降下開始っ!」

「「了解」」

セルゲイさんとノルシェさんがヘリから飛び降りた。

大丈夫なのっ!?それなりの高度があるのにっ!

「ほら、嬢ちゃんも急げ――って、嬢ちゃんには高過ぎるか」

良かった。このまま蹴り落とされかと思った。

パラシュート無しのスカイダイビングなんて御免だ。……もっとも、パラシュートを使うにしても、高度が低過ぎて無意味だろうけど。

「待ってろ。高度を下げ――チッ、目ぇ回すなよっ!」

「うわぁあぁっ!?」

ヘリが急にサイドロール。

輸送ヘリで行う機動じゃない。

吐きそうになる。

が、直前まで飛んでいた位置を鉄骨が通過したのを見え、吐き気が失せる。避けなかったら死んでいた。

「ふぅ……一安心。……んでもって、こんぐらいなら大丈夫だろ?」

「え?……あ、大丈夫です」

気がつけば、地上から1mぐらいの高度になっていた。

また、回避機動で内臓をシェイクされるのは嫌なので、すぐに降りる。

すると、ヘリが着陸し、

「……行こうか、嬢ちゃん」

〈JA TRG-4〉を背負い、手に7.62㎜機関銃を携えた中佐が出てくる。

「久々に暴れられそうなんだ。敬老精神って事で、サポートを頼むぜ」

「……ご高齢に見えませんけど?」

三十代後半位に見えますが。

「言葉の綾だ。ま、それはさておき――お客さんだな」

正面を向き直ると、こちらに向かってくる魔物の群れ。

近くの瓦礫下にでも潜んでいたのか。

「……みたいですね」

〈CA CSG15-C〉を抜き、セフティリリース。コック。

「3、2、1……Go!!」

そして走り出す。

比嘉の距離は100m。

雑魚相手に対戦車兵装を使うわけにはいかない。故に、まだ射程外。

突撃銃ライフルぐらい持っとけよっ!」

代わりに、中佐は機関銃を撃ちつつ、やや後方から追従してくる。

私の武装から、近接型だと思ったからだろう。ありがたい。

距離が50を切る。ここからが本番。

だが、それは相手も同じだろう。見た感じ、麻薬型〈F〉の系譜の魔物しか見当たらないから。

確認した直後、何体は跳躍。

確かに頭上は死角だが……何分、距離が遠い。

無防備な上体目掛けてトリガーを引き続け、一体ずつ丁寧に散弾の雨で撃墜する。

全ての跳躍物を粗悪な挽肉に変えた後、地上の魔物掃討に移行。

数回トリガーを引き、スライドストップ。

弾倉を落として、腰のパウチから取り出した予備を装着。ボルトリリース。

射撃再開。

「へぇ、近接だとやれんのか。極端だな」

「自覚してますよっ!」

再び撃ち切った散弾銃をリロードしつつ、片手で自動拳銃も扱い、隙をカバー。

「コイツで――最後っ!」

その間に、残りは中佐に狩られたようだ。

「よし。辺りの雑魚は喰ったな。……第3重野砲大隊、そろそろスタンバイだ」

『了解。俺達がアンタらのケツを拭うような事態にならないと良いが、まぁ準備しておく』

「良いジョークだ。生き残れたら、覚悟しておけ」

……冗談ですよね、中佐。…………いや、ノルシェさんが言った通り、同性愛者ならやりかねない。

『ハッ、やってみろよ。……なんてな。アンタは変わらねぇな。通信終了』

「……聴いてたな、嬢ちゃん。後はデカブツ狩りだが――嬢ちゃんは少尉達に合流しろ」

通信終了するなり、出された指示に私は、

「あの……中佐は?」

困惑する。何故、私一人?

「俺は輸送ヘリの御守りがある。足がなくなんのはお互いに御免だしな。……早く行けっ!」

「り、了解っ!」

きびすを返し、市街地跡の中心部へと走る。

途中、瓦礫の中から何体も麻薬系種が湧き出るが、

「邪魔っ!」

残らず散弾を喰わせて、駆除。

同時に、セルゲイさんと連絡を取る。

「セルゲイさん、状況は?」

『順調……と、言いたいところだが、意外と苦戦している』

……意外と?

疑問を感じるが、前方の廃墟群から断続的に上がる黒煙を見て、無理矢理呑み込む。

「分かりました。もうすぐ合流します」

『……了解した。無茶はするな』

通信を切られた。

急ごう。私一人が加勢した所で、どれ程の役に立つか分からないけれど。

散弾銃をホルスターに戻し、走る。構えたままでは走りづらい。

さして時間もかからず、廃墟群に侵入。

やはり、魔物だらけ。

(急いでいるんだけどなぁっ!)

〈CA CSG-15C〉を抜き、交戦開始。

閉所なら、外す心配も無い。

ファイア。

気兼ね無く、撃てる。

撃って、狙って、また撃って。

ただそれだけの動作で次々と魔物を吹き飛ばし、私は廃墟群を突き進む。

ここを抜ければ、主戦場。セルゲイさん達と合流できる。

だから、突き進みながら、

「出てくるなっ!!」

立ち塞がる魔物に散弾を撃ち続け、走る。

湯水の如く、12ゲージショットシェルが減り、最後の予備弾倉を込めた頃――

「着いた……」

廃墟群を抜けた。

直後、

『ッ!?避けろ、フィアッ!』

セルゲイさんからの注意。

けれど、遅いかった。

「がはっ!?」

音速で飛来した鉄筋コンクリート柱が私に直撃。

コンクリートが砕けて飛び散り、残った鉄心が胸部――心臓と右肺、腸――を貫き鮮血が舞う。

両脚から力が抜け、全身の感覚が薄れていく。

(私……死ぬんだ……)

あの時、反対していれば……こんなに早く死ぬ事は無かっただろうな……。

世界って……運命って……理不尽に出来てるんだね……。

セルゲイさん、ノルシェさん、グラナデさん、中佐……。

役目も果たせず――済みません……。先に……逝きますね……。

瞼を閉じる。

後は死神が私の魂をあの世に連れて行くだけ――

「ク――ッ!!」

あぁ……セルゲイさんの悪態が聴こえる。

怒ってるなぁ……。でも、もうどうしようもない…………。

薄れ行く意識に身を任せようとして――気付く。

ボヤけていた意識が徐々に鮮明になっていく事に。

どういう……事……?

困惑するしか無い。

致命傷を負ったはず。

(そう……心臓と右肺と腸に……)

すると思い出したかのように、

――痛っ!?痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いっ!!

激痛が身体中を駆け巡る。

そして急速に意識が回復していく中で、グラナデさんの声が聴こえた気がした――


「Welcome to Unhuman's line♪」

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