Ⅰ章 ~Activity Gunner~

プロローグ(Side:???)




――世界は火薬と同じだ。

いつ爆発するか、分かったものでは無い。

しかし、そんな世界で我々は生きるしかない。





十数世紀前、人類は〈錬金術〉なる技術を開発していた。

低質な素材から、高価かつ希少な金を作り出す技術だが、それは化学的に不可能な事。

そんな事を知らない当時の人類は、金の製造に躍起になっていたわけで、長い年月をかけて行われた試行錯誤は無駄に終わ――――らなかった。

七~八世紀ごろのエリアChiにおいて、偶然の産物として火薬が生み出されたのだ。

高い圧力、高温によって急速的に反応、爆発する性質を持ったこの物質は、灯りには適さず、兵器転用の道へと走る事になる。

火薬を用いた兵器が急速に広まり、それまで戦場の主役だった近接武器達は軒並み、無用の長物と化していった。

代わりに台頭する兵器が銃火器で、弓や弩といった、個人の力に左右される武装とは違い、銃火器は力無き者でも扱える。

故に、歩兵の武器は長剣ブロード・ソードスピアから長銃マスケットに代わり、二度の世界大戦を経て、突撃銃アサルトライフル拳銃ハンドガンに落ち着いている。

しかし、何かを忘れているとは思わないか?

現代歩兵のお守り、手榴弾ハンド・グレネードの事を。

7世紀頃から既に、手投げ式の焼夷弾はあったらしいが、手投げ式の爆弾の初出は15世紀ごろの欧州と言われており、当時は点火タイミングのシビアさから、専門の兵種が作られるほどの難物だった。

では、現在の手榴弾はいつ頃から使用されたのか?

諸説はあれど、《第一次世界大戦》と呼ばれる戦争の時だという説が有力である。

当事の戦争は塹壕戦が主体であり、縦横無尽に掘られた塹壕に籠り、突撃する敵を重機関銃の掃射や、小銃の一斉射撃で屠るものであった。

長期戦となるのが必然であると同時に、様々な兵器の実験として扱われた同大戦において、威力を発揮したものは幾つかあるが、その一つに手榴弾がある。

手榴弾の殺傷力は爆発と爆発によって弾け飛ぶ弾殻からなり、爆発は同心円状の殺傷範囲を持ち、弾け飛ぶ弾殻も同様である。つまり、閉鎖空間では逃げ場を与えない。

また、人力投擲する為、遮蔽物越しの攻撃も可能である点も重要だ。同時期に開発されたとも言われている迫撃砲も遮蔽物越しの攻撃が可能だが、手榴弾は射程が個人の腕力に比例する代わりに、非常に軽便。

それらの利点から、手榴弾は歩兵のお守りになったのだ――


「――そうだったなぁ~」

少女は紙面から顔を上げ、呟く。

このような知識は、普通の生活には不必要であり、ましてや女の子が興味を持つような内容でもない。……あくまで一般論であり、例外などいくらでもいるのだが。

「……続き読も」

少女は紙面に目を通そうとして――

「あ、そろそろ時間だ」

左腕に巻いた腕時計が目に入り、読んでいた本を閉じて立ち上がる。

時計が指し示す時刻はA.M.23:10。

少女が今いるカフェはA.M.24:00には閉まる。

ラストオーダーまでの猶予は20分ほど残っているが、構わないだろう。

なにせ、少女以外に客はいない。早く出れば、その分店仕舞いも早くできる。

「お代は幾ら?」

だから、早く出よう。

「15ユーロだ」

「これで足りる?」

手早く代金を支払い――

「っしょっと」

近くに立て掛けておいた、自分の身長に匹敵するコンテナを担ぎ、カフェを出る。

これの所為で客が来なかったのだろう。

今後、客足が減るかも知れない。けれど、少女にとってはどうでもいい事。

どうせ、休憩がてら立ち寄ったのだから。

「ふぁぁ……」

夜風を浴び、大きな欠伸を噛み殺す。

カフェのコーヒー、効かないなぁ。

なんて、思いながら、駐車場に停めたサイドカー付き大型バイクに近付き、コンテナをサイドカーに載せて、少女はバイクに乗る。

(早くマスターのコーヒー、飲みたいなぁ)

そして駐車場を出て、近くにあった高速道路の料金所に入る。

所定の料金を払うとゲートが開き、外灯とランプの照らすインターチェンジ《無法地帯》への出入口が少女を出迎えた。

(Ready……Go!!)

アクセルを踏み抜く。

既に暖まったエンジンが唸りを上げ、バイクが急発進。

一気に料金所を抜けて、ハイウェイに躍り出る。

スピードメーターを見れば、既に100㎞/hを越えていた。

まだ6月になったばかり。加えて、このハイウェイはエリアRosに向かうもの。当然、吹き付ける夜風は冷たい。だが、少女にとっては良い眠気覚ましだ。

(やっぱり、肌寒いなぁー)

欠伸が出そうなほど、低速で走る一般車を追い抜き、少女は加速する。

早く走ろうが、遅く走ろうが寒いものは寒い。

ならば、一気に駆け抜けた方が得策なんじゃないかな?

そうこう考えるうちに、前方を走る車両がいなくなる。

深夜だからね。走っている奴らなんて大体、決まってる。

速度厨スピードジャンキー、暴走族、ならず者か――――運送業者。

今日は前者三つが少ないなぁ……。この辺りの機動隊が変わったのかな?

だとすれば嬉しいことだね。一般人の見方からすれば。

でもさ、こういうのって……感じた直後に裏切られるんだよね。

「ヒャッハー!!」

「ヒャアッ!」

思った通り、何処かで見たようなゴロツキが、悪趣味なバイクを走らせ、夜の闇へと消えていく。

……ほっとこ。

関わるとロクな事無い。どうせ、国境警備隊に潰されて終わりだろう。

アクセルを踏み直し、更に加速。

数十分後、エリアRos Lim-Sの国境検問に到着。

国境警備隊にされた男達の死体が転がっていた。

弾痕から察するに、近距離からの散弾銃ショットガンかな?……御愁傷様。

「よぉ、嬢ちゃん。パスポートはあるか?」

「あるよ~。はいっ」

検問の兵士にパスポートを渡し、待つ。

その間に、顔見知りの兵士と話をする事にした。

「最近、治安はどう?」

「悪過ぎて弾が足りねぇよ」

兵士はそう言い、路上に転がったゴロツキの死体を一瞥。苦い顔をする。

いつも通りのようだ。

「へーそうなんだ。何か変わったことは?」

「あー……E-Cenで中規模の戦闘があったな。偉いさん方、ロクな戦力回さなかったんで、ヤバかったらしいが、ある便利屋のお陰でどうにかなったらしい」

「その話か。あの便利屋、噂じゃ元軍人らしいが……って、嬢ちゃんには関係無いか。通って良いぞ」

「ありがとー」

話の途中で、先程の兵士が戻ってきたので、パスポートを受け取り、検問を通過。

そのまま何度もパーキングエリアに立ち寄り、燃料を補充しつつ何日もハイウェイを走り続け、


約一週間後にエリアRos West-Cen付近のパーキングエリアに入り、何度目かの燃料補充。

小腹が空いていたので売店へ。

ピロシキを買い占め、胃袋を満たす。

(やっぱり……マスターの方が美味しい……。早く食べたよぉ~)

なんて、思いながら地図を見、目的地までの距離を確認する。


エリアRos Lim-E……9700㎞


三、四回はパーキングエリアで燃料補充が必要か。

(大人しく航空機にすれば良かったかなぁ……。お金かかるけど)

今更、悔やんでも遅い。ら《、》に帰省を告げてから四日程経過しているのだ。自分の言葉に責任を持たなければならない。

――一週間以内にはLim-Eに入ろう。

少女は自分に言い聞かせ、バイクに乗ると、再びハイウェイを走り出す――


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