一話 王都事変 その二十六 騎士二人

 ガレウンはリィンがある程度遠ざかるのを見計らってから、ザッケンの方を向いた。


「お心遣い、ありがとうございます」


 ザッケンに向かって、ガレウンは深々と頭を垂れた。


「なに、大したことはしていない。それよりお前は、私を二度も助けてくれた」


 ザッケンがニヤリと笑った。


「一度目はヘンカートの時でしたな」

「ほう、覚えているか」

「はい。初陣に緊張し、木の根に躓いて、鼻垂らして泣いていた小僧が、ここまで偉くなったのですから」

「鼻は垂らしてなかったぞ」

「ははは、さようでしたかな?」


 二人は笑った。ひとしきり笑うと、黙った。一瞬沈黙が訪れた。


「ガレウン、分かっているだろうが、一応言っておく、リィンと共に落ち延びろ」

「これは異なことを申されますな。騎士たる者、敵を目の前に背を向けることはありえません」

「逃げるのではない、リィンを助けろと言っているのだ」

「ザッケン様、『アレ』はああ見えて一騎当千の騎士。この老いぼれなど、逆に足手まといになります」

「ガレウン、皆まで言わねばならんか?」

「いえ、結構でございます。ザッケン様のお心遣い、真に有り難く存じます。しかしながら騎士として、死ぬべき場所を見誤る愚は犯したくありません」

「戦場で死ぬのが騎士の華か」

「古来よりの習わしならば」

「騎士とは、面倒なものだな」

「しかし、そこが良い」

「違いない」


 また二人は笑った。


「ガレウン、お前と同じ戦場で死ねること、誇りに思うぞ」

「身に余る光栄でございます」


 今度は声を出さずに笑い合った。


「ではガレウン、しばしの別れだ」


 最期の会話が終わった。

 言うなり、ザッケンはガレウンに背を向けた。ガレウンも同じく背を向けた。背を向けあった二人は歩き出し、離れていった。一度も振り向くことなく。

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