第11話 ルービックキューブ
子供の頃から、頭が良いことだけがとりえだった。頭の良さ以外に自慢するものはなかった。運動は標準やや下、格好良さはダッサダサ。なのに、テストだけはほとんど百点だった。
テストで百点がとれないことの方が不思議だった。みんなはわざと手を抜いていたのだろうかと、いまだに思う。
子供の頃は、自分に解けない謎は存在しないのだと本当に思っていた。この世に存在するあらゆる謎を解き明かし、偉人伝に載るような天才になることを夢見ていた。中学生の頃まで、確かに自分に解けない謎には遭遇しなかったのだ。中学生までに自分で発見することのできた問題は、すべて自分の脳で考えて、正解を出すことができたのだ。
だから、中学生までは、自分に解けない謎はないと信じていた。高校生になり、絶対に自分の力だけでは解けないような数学の問題を突きつけられるまでは、本気でどんな謎も自分の力だけで解けると信じていた。
そんなおれだが、ルービックキューブが解けない。
ルービックキューブは、世界中にあふれているありふれたパズルだ。誰もが知っていて、そして、解ける人なら、数分で解決してしまう超有名なパズルである。その、ルービックキューブが解けない。ルービックキューブを解ける人は誰でも、おれよりも頭の良い人ということになってしまう。頭の良さだけがとりえのおれの致命傷、それは、ルービックキューブが解けないことだった。
この世の中には、ルービックキューブが存在する。三面体まではそろえたことがある。だが、六面体を完成させたことが一度もない。ルービックキューブの六面体を一度でも完成させたことのある人は、みんな、おれより頭の良い人だ。
だから、おれにはとりえがない。おれから頭の良さという特技を取り去ってしまったら、おれには何の特技も残らない。この世界には、ルービックキューブが存在する。誰もが当たり前に知っていて、解き方を当たり前のように知っている多くの人々が存在する。ルービックキューブを解ける人が多数存在するかぎり、おれにはとりえなど何もない。
ルービックキューブの解き方を知っていても、世の中の役に立つことなんてほとんどない。だけど、ルービックキューブはおれにおれより頭の良い人が大勢存在することを証明してしまう。解き方を誰かに教わらないかぎり、おそらく、自分の力だけでは一生、ルービックキューブの六面体は完成しない。ルービックキューブは、世の中におれより賢い人が当たり前のように存在する証拠であり、おれが誰かの助けを借りなければ生きていけないことを証明する証拠でもあるのだ。
この世界には、ルービックキューブが存在する。おれには、誰かの助けが必要になる。そして、おれにはとりえなど何もない。
ルービックキューブが存在するこの世界で、おれは何かの役に立っているのだろうか。
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