第12話 世界の終わりにたった二人で
世界の終わりにたった二人で、おれとあいつは生き残っていた。
世界を滅ぼす戦争があり、おれとあいつはその戦争のたった二人の生き残りだった。
おれは十五人に分身して、本隊を斜め後ろに配置した。両手で抱えるぐらいに大きな狙撃銃を十五人で持って構えて、敵に備えた。もし、敵の襲撃があったら、一撃で消し飛ぶかもしれない。そんな緊張感がおれを包んだ。
敵、といっても、もうあいつしか生き残ってはいない。
おれとあいつは世界最終戦争に生き残ったたった二人の一般兵だった。
あいつはたった二人しか生き残らなくても、生き残ったもう一人の敵を殺すために戦争状態を継続中だった。
世界の表面を二度、焼き尽くすだけの火力をあいつはまだ持っていた。
おれはそれに怯え、なんとか生き残る方法を模索していた。
世界の表面が一度、完全に炎上した。
おれはそれに耐えるために、必至に防熱していた。
あいつは世界を滅ぼしたと勘違いして、ゆらゆらと空を飛んでいた。
ここから撃ち落としてしまおうか。
いや、それはできない。おれとあいつはたった二人の生き残りなのだから。
「降参しろ。武装を解除して、下りてくるんだ」
おれがあいつに拡声器で放送する。
まだ生き残りがいたことに、あいつは驚く。
「作戦は味方以外を殲滅しろだった。作戦失敗なのかな」
あいつが呟く声を集音機で拾う。
「もう、この地上には、おれとお前しかいない。戦いは無意味だ。おとなしく投降するんだ」
おれがあいつに呼びかける。
これは愛なのだろうか、と不思議になる。
世界の終わりにたった二人で生き残って、それで人類を存続させなければならない。
幸いにも、生き残った相手は女だ。
そうだ、これは愛だ。おれは頭が混乱して、そんなことを考え始める。
「おれたちは愛し合っているんだ。殺しあう必要はない。武装を解除して、下りてくるんだ」
おれは拡声器でおかしなことを言い始めた。自分でもいってることがおかしいと思う。
世界の終わりにたった二人で生き残ったのだ。これはとてつもなく壮大なロマンスだ。
「愛は残酷なのよ」
あいつはそう呟いて、世界を再び炎上させた。おれは必死に防熱する。これに生きのびれば、あいつにはもう攻撃する余力はない。
おれは生きのびた。
そう、きっとおそらく、おれたちは愛し合っているのだ。
「世界の終わりにたった二人きりなんだ。これが愛でなくて何だというんだ」
「そんな愛なんて、聞いたことがないわ」
「おれたちは愛し合っているんだ。そうに違いない。武装を解除して、一緒になろう」
世界の終わりが愛を強制させるのだろうか。
世界の終わりにたった二人で生き残って、おれは空しく愛を語っていた。
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