第3話 幽霊たちのからくり
おれは二十五歳のとき、遺産を奪おうとしたミカにナイフで刺されて死んだ。死因は腹部からの多量の出血。意識がなくなるとき、おれは自分を刺したミカの足を必死になって見ていた。
死んだらどうなるのかって? 死んだ後のことなんて、生きているうちは推測でしか分からない。その推測の話によると、死ねばそれで終わりなのだそうだ。おれは死の後に待っているのは完全な無だと思っていた。死んだら何もなくなってしまって、無に帰るんだとそう思っていた。
おれは死んだ。殺されたのだ。これで、無に帰るはずだ……。
死んでしまったおれは、意識をなくしていた。
目が開いているのに、景色を認識できない睡眠状態があった。
はっ。
気づいた時には、おれは青白い床の大きな部屋にいた。
なぜ、おれは生きているんだ?
それに、ここはどこだ……。
「おい、おまえ、とっとと起きろ」
小さな女がおれを蹴とばしながら、起こそうとしていた。
「おれは死んだはずじゃ……」
「そうだよ。おまえは死んだんだから、だから、ここにいるんだ。分かったら、立って。そして、とっとと歩け」
おれは女に小突かれるままに立ち上がって、ドアに向かって歩いた。部屋を出ると廊下があり、廊下の奥の方は曲がっていて見えなかった。
「ここは、どこなの?」
「おまえは死んだんだろ。死んだから、死後の世界にいるんだよ。あたしも死んだから、ここにいる。ここにはいっぱい人がいるけど、みんな死んでここにやってくるんだよ」
死後の世界?
そんなバカな。どうなってるんだ。死後の世界なんて、本当にそんなものがあるわけがない。確かにおれは死んだ。しかも、まわりのやつも死んだやつばかりみたいだ。だけど、おれは死んだあとにまだ人生につづきがあって、おかしな場所に迷いこんだとしても、それだけで死後の世界を信じたりはしないぞ。本当に死後の世界なんてあるわけがない。そんなのは納得できない。何か、からくりがあるはずなんだ。
「どこにいくの?」
「死後の世界なんてあるわけがない。この謎を解くんだ。最初の部屋を調べれば、きっと何かあるはず」
最初の部屋をくまなく調べたところ、天井に大きな穴があって、上の部屋とつながっているらしかった。おれは有り合わせのもので台を組んで、上の部屋に上がってみた。
そこには、この世界の真実があった。死者たちだけが暮らす死後の世界のからくりが確かに存在した。
遠隔人格スキャナー。それは球形の機械だった。人間の脳の情報を遠くからでも勝手に読みとることのできる機械で、この町の住人たちの脳を勝手に走査していた。そして、その人物が死ぬと、読みとった人格情報をもとに、新たな体を再構成するのだ。
この町で死んだ人間はみんなこの機械に読み取られて再生する。
文明の発達が死後の世界もつくりだしていたのだ。
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