第4話

5.馴れの果て

 

 「私の父はゴーン星人に殺された。なのに略奪品で巨万の富とは、父もうかばれまい」 

   ゴーン星人に破壊された第二十四宇宙基地生存者(注:ゴーン星人、愚具れば出ます)




 手前の本を叩く「私はこれに集中して、学習したいんです!」

無邪気な教授は静かに言った 「それならこなくちゃだめだよ」

会社と東京とキャンパスは結構な物理的負担だ 「いや、会社もあるので、そう時間もなくー」

無邪気な教授は静かに言った 「それならこなくちゃだめだよ」

「収入も得なければならないし、体のこともありますし」 必死に訴えた

 しかし、M内閣で経済顧問をし、日本経済をガタガタにした無邪気な教授は切った

 「だって、こないんだもん」

 結果、家も結婚も会社も全てを失った

 復讐に燃えないほうがおかしい。


 かく言う管理人の名誉、いやだろうがなんだろうが不法は望まない。

 だからこそ、スカウトとストーカーはぎりぎりのグレーゾーン。

 ま、言ってみればスカウター。

 資本主義契約論に則れば、品がなくとも許される。則らなければどんなに品格あろうとも、どんなに崇高であっても、もぐりであって罵声の対象となる。おかしなものだ。ま、そうでなければ社会が成り立たぬとの意見もごもっとも。しかし資本契約が品格に優先されてよいものだろうか。

 とりあえず掲示板に、才女にだけ事情が解るように、布石を打って陳謝した。ま、仕方ないので暫くはバイトの通勤道を別にして、図書館にも寄らぬようにするか。しかしこの頃、非資本主義入門書の著述はネオリベラルのピークにして、書かねばならぬ正念場とも言えたのだが。


 こんなエピソードがあった。

 衆議院選挙の折、ある野党候補がこちらに握手を求めてきた。その候補は以前はよくテレバイザーに出ていたのだが、最近めっきりご無沙汰だ。そこで理由を尋ねてみた

「それはね、勝手に編集されちゃって、言いたいことや観点が違ってしまうからなんですよ」

と申された。そこで当方、

「結局世間は政治ではなくメディアに直接支配を受けているので、その辺りも考えて欲しい」

とかえしておいた。

 数日後、テレバイザーの「夜中の生討論」でその議員と同じ党の議員が、最後のフレーズで

「庶民は直接は政治ではなくメディアに支配されているー そこんとこも考えなきゃいけない」

とどっかで聞いた全く同じセリフをのたまい、司会の"猛獣使い"に「いいこと言った」と褒められてやんの。その褒められた議員が今の総理大臣なんだら、笑っちまうが。ちなみにこの時の選挙は予見の通り、のちに「劇場型」との名前が付いたそうな。

 ほらみ、書かんとすぐお株が奪われるでしょ。


 もうひとつ危惧していることがあった。そう、マドンナのプライベートだ。これはノータッチを原理原則とはしていたので、気付かないつもりでいた。、ただ、彼女の近況を伝える掲示板のフレーズが余りにもナーバスになっていたので、ファンの書き込みもそれを気遣うものへとなんと言うかこう、全体がよくなくなっていたのだ。イオン 荒らし なら削除すればそれでよいが、当の御本人が板の雰囲気をよろしくしていないのは問題だ。さてはて、いかようにしたらよいのか?

 とにかくマネージャー抜きで打ち合わせできるか、メールで相談する。舞台稽古やら収録やらで何かと時間が取れないらしい。それにお父様が厳しい方で、なかなか仕事以外の外出を許さないのである。しばしこちらも様子見とするか・・・・できる限り明るそうな時事ネタ、舞台の感想などで、板に花を添えることで凌いだ。

 マドンナからお呼びがかかったのは、それから間もない頃だ。いつも打ち合わせに使っていた喫茶店に彼女ひとりで来た。やはり、疲れた感はぬぐえない

「最近、ブログって、皆さんはじめられましたよね」

ああ、あれね。私はまだ二十世紀だった頃からやっているのに、なーんも言われなかったあれね。

「あたしも始めたいと思うんですけど、いかがですか?」

 この頃はまだブログは始まったばかりで、ポータルの寡占はなかった。ゆえにこちらとしては、先ずは自前のプログラムで自らのサイトに設置することしか、頭になかった。彼女にはその辺り技術的なことも含めて説明をとりもった。

 さて、あのこと、いつ切り出すかだ。

「実は・・・・お気付きかと思うんですけど、プライベートでいろいろありまして、サイト運営にもご迷惑をおかけしています。」

そちらから切り出してくれたー ほんと、思いやりのあるいい娘さんだ

「ほんとうにプライベートなことでトラブルで、なんとも言いにくいんですけど・・・・」

 いや、聞きたいさ、本音を言えば。美人目の前にして、そこんとこ聞きたくない奴なんていない。だが、やや一本調子ではあるが、ここが管理人の管理人として裏稼業の筋ってもんだ。

 あー、でもそーゆーネタって、現実はどーなんだろ?

 だめだだめだ! やれ民度がどーのって、普段お前がのたまってんだろーが!

 「もう噂でわかってますよね・・・・」 マドンナの顔が勢い紅潮する

「私がプレイボーイさんとお付き合いしているのは・・・・」

 やっぱあいつか! もーどーして恵まれる奴ばっか恵まれんだろ?

 格差社会も極めりだ!

 だいたいおんなっつーのは、外見に左右されない特権を持っているのに、なんで中身を吟味せず、カッコやパフォーマンスやうわべの優しさしかエサにせんのやろ? 俯瞰的優愛なんてもんは理解するあたまねーのかね! あほだよ、あほ!

 と、思っていたのだが、そんなことおくびにも出さず、極めて同情的な芝居をしたくらいはまぁ、是非、貧困にあえぐ者の人道的立場からお許し願いたいものだ。いや、ひらに。



 それから間もなくした日の夕方だった。

 あえて禁足を破る決心がついた。

 キャンパスの外で、その日才女が現れるであろう時間、門の近くのベンチに腰をかけた。知っていたが、あえて待ちはしなかった時間。そのお決まりのベンチは実はもう十年も、恵まれた学生たちを羨望していたいわく付きのベンチだった。

 まぁ、デマチはグレーゾーンだが、あのファーストコンタクトから二ヶ月ほど経って、こちらの書き込みで彼女の疑心もかなり氷解しただろう。キャンパス内での声かけは偶然でもない限りご法度だろうし、営業的にはここが限界点だ。

 ただ最も考慮せねばならないのは「ヌケガケ」だ。「デマチ」は応援される側からの視点、一方『ヌケガケ』は応援する側からの視点、だ。人が一番不満を感じるのは不公平であると言う (管理人自体もそうなのだから、気持ちはよーわかる)。そう言う視点からも、直截接触はご法度とする向きもある。しかし当方としては、このままぼーっとして、折角先方がこちらのテリトリーに居たもの、絶好の機会を失うつもりもなかった。これがもし自らの昔からのテリトリー外であったなら、問題もあるだろうが。そしてマドンナサイトとの一番の相違もここにあり、マドンナのサイトでは私が直接接触したとしても別儀不公平は生じない。ところが、才女と直接接触すると不公平感が生じかねない。この差は社会科学者としては極めて興味ある感覚差である。いわゆる「階級構造」は存外、こんな感覚から生じているのかもしれない(絶対ポテンシャルなら、この時点ではどう考えてもマドンナの方が先に位置していたにもかかわらず)。

 その日はクリスマス間近い極寒の日。まだ十六時でも夕方というより夜に近い。

 ふと十年前、この場で知り合った女学生のことを思い出す。本当に可愛い子で、当時も修士論文をそこで書いていた管理人と専攻が同じで知り合いとなり、キャンパスで出くわす度に挨拶をしていた。結局、電話番号まで交換するに至ったが、ところが余りに偶然出くわすもので (本当に誓って偶然!)、その内先方がストーカーと勘違いしはじめ、最後は実に無残な結末が待っていた。

 そうか、あの時と似たパターンかな・・・・歴史はコンドラチェフだな

 よくある話、若干気を抜いたその途端、足早に門から出てくる妖精が目に留まるー 

 才女だ! しかも全く変装していない。変装していないどころか、息を呑むほどの華麗なドレスに身を輝かしていて、いやもうそれはこの世のものとは思えぬほど魅力的だった。

 「こんばんわ」

 あちらもこちらに気付き、笑顔でやってきてくれた。書き込みが効を奏した様だ。

 あーー、とんでもなく、ほっとした。まさに。

 「いつもありがとうございます」 書き込みと状況から、わかってくれたらしい。笑顔で挨拶してくれた。間髪居れず営業用の名刺を渡し、管理人の正体をここはあっさりと伝えたのであるー 極めてアヤシイながら、怪しくないと、ね。

 どうやらパーティかデートの衣装らしい。引き止める気はさらさらないので、ここはこちらでずっこん遠慮する 「いや、お忙しいところすみませんー ご挨拶したかっただけなので。お気をつけて」 いや、やっぱりアヤシイか(笑)!

 才女は軽く会釈し、その場を去った。幸運なことに、その場に他の学生はいなかった。なぜなのだろうか・・・・またもや幸運だったな。

 達成感と、初めて繋ぎをつけられた管理人としての喜びに満ちていた帰り道。

 なになに、個人的な達成感はって?

 そいつは、秘密かな!

 

 とにかく、先日のややブルーな響きも、ここに一掃されたことだけは、そのクリスマスのイルミネーションくらい、明らかな光明だった。

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