第2話 ドリ-ムメイカ-の実験

 次の日、目覚まし時計がけたたましく鳴った。


「やべえ、遅刻だ。また、担任に怒られる。」


 ここはレアンの高校、モリーオ高校。ひげ面のこわもて担任教師オニーツカ、通称『鬼ゴリ』が職員室でレアンを廊下に立たせて、大声で怒鳴りつけていた。


「ばっかもーん、おい、レアン、おめえさんよう。どうすんだ、こんな高校3年の6月のにもなって遅刻はするわ、授業中は寝てるわ、こんなんじゃぜってえ就職なんかでぎねえぞ。

しかも来週は、三者面談だあ。学校はお前を推薦しねがらなあ」


「そうなんだ、おいらは高校3年生。親は地元で就職しろ、とうるさいけど、おいらの夢は都会に行ってシンガーソングライターになることだ。


夢は捨てない、誰がなんと行ってもだ。夢はあきらめない、あきらめたくなんかない。


 おいらは、いいオリジナル曲たくさん作った。こんな商売で教えている先生なんかに、おいらの夢が理解できるもんか。


でも現実は厳しい、環境が悪すぎる。

ここは田舎だし、親は貧乏だし、おいら何もかもが、ないないずくしだ。」


 レアンは廊下で、物理担当のラムリアス先生に呼び止められた。


「ねえキミ、僕の実験に付き合ってくれないか。30分でいいからさあ」


 髪はいつもぼさぼさで、汚い白衣を着た中年教師、噂では怪しげな研究をしているらしい。

でもレアンはラムリアスの授業が好きだった。特に宇宙の話は、現実から夢へいざなってくれるようで、ワクワクしていつも聞いていた。


「レアン君、これが僕が発明した、ドリームメイカーという機械だ。

この機械をかぶって、君の夢を思うだけで、君がなりたい自分になれるという機械だ。どうだい、最近悩んでるみたいじゃないかい。」


 レアンは、言われるままに椅子に腰掛けてその機械をかぶってみた。ヘッドホンからは、癒しのピアノ曲が聞こえた。


メガネは、真っ暗だったが、赤い点滅が定期的に瞬いていた。レアンは、星みたいだな、と思ったが、いつの間にか、気持ち良くなってきて、ウトウトしてきた。


すると、夢のような映像が目の前に浮かび、その映像は自分が大きなライブ会場で満員のお客さんを相手に歌っている姿だった。しかも、客はみんな泣きながら、叫んでいる。


それは、レアンがyou tubeで見た、尊敬するアーチスト、ミスターエンドルフィンの映像みたいだった。


しかし、ギターを弾きながら歌っているのは紛れもなく自分だった。そこで映像はプチんと切れた。


「どうだい。気持ちよかったかい。」


「ありがとう先生、なんかやる気が出てきたよ。」


 家に帰ると、たまたまテレビでCMをやっていた。モリーオMUSICフェスティバル、これだ、レアンは何か運命的なものを感じて週末、なけなしのこずかいを財布に入れて、北行きの電車に飛び乗った。


 イハトブ県の県都、モリーオ市で去年から始まった、音楽祭。アマチュアやプロのミュージシャン達が、大都会のトキオからもやってきて、コズミック公園を中心に野外ライブを二日間に渡って繰り広げる、トオホクト地区最大の音楽イベントだ。


レアンはモリーオ駅におりたった。


「テンション上がってきたあ。さて、誰のライブを見ようかな。」


 駅前では、もう、ROCKバンドのローズカンパニーがギターを唸らせていた。


「 ええじゃないか ええじゃないか ええじゃないかRockロール 乗ってるか〜い、モリーオ。


おれ達はロックンロールしか知らねえ。だから、おれ達のおれ達だけの愛を、君に、君だけに。君たちだからこそ、聞いてほしいんだ。準備はいいかいモリーオ。おれ達のバッテリーはビンビンだぜ。」


 会場から女性ファンの悲鳴が上がる。ボーカル ギター ベース ドラムの4人バンド。赤い制服に、長い髪。


「じゃあ、行くぜ。しつかり受け止めてくれよ。」


 すると、ボーカルとギターの、観客席ダイブが始まった。観客は二人を後ろの客まで送り続ける。そしてまたステージへと戻ってきた。


「今投げたのはおれの夢だから、みんなしっかり受け止めてくれたかい。」


 そしてまた、ボーカルのシャウトが始まった。


「愛スクリーム You スクリーマー 愛 ビリーバー You ドリーマー 愛してるぜー ロックンロール 愛してるぜー モリーオ」


「ううん、おいらもハードロックが好きだけど、ジャンルが違うんだよな。ええじゃないかって?全く意味わかんねーし。」


 次にレアンは、モスモビルという映画館と本屋のビルの前での野外ライブを見た。


彼女はシンガーソングライター、全国をライブで回ってるらしい。


「おお、アコースティックギター弾き語り、これこれ聞きたかったのは。」


「ピヨピヨ豆です。聞いてください。」

愛が、あればあ 君がいればあ 世界はばーら色 すみれ色 さくら色 。」

 

おっかけファンの男の子たち10人くらいが、声援を送ってる。オタ芸みたいな光る棒でみんな踊っている。楽しそうだ。


「ピーヨコちゃーん、LOVE SMILY ピヨコ。オットー、そこで、あえてギターを弾かない。ピヨコダンス からのピヨコスマイル。僕たち、気絶しちゃうよ」

と、みんなで、合唱しながら踊っている。


「アイドルかー、可愛いけどねー。上手なんだけど、退屈だよな。なんか、違うんだよな」


 レアンは、だんだん疲れてきた。コズミック城跡の石垣の中ではメジャーなプロのアーチストたちが有料でライブしていた。


「本当は聞きたいけど、こずかい残り少ないし、帰り電車賃しか残ってないぞ。しょうがない、もう帰ろう。ああ、いいミュージシャンいないかな?」


 レノアンはトカワクデパートの前で、黒いサングラスをしたおじさんが、リハーサルをしているのを見つけた。

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