幻想4次元空間レムノンの冒険 第1章 ギター弾きのレアンと黒猫のメノウ編

Mr ハッピー

第1章 ギター弾きのレアン 『黒ネコのメノウ編』

第1話 黒猫との不思議なギター練習

「 イマジン オーザ ピーポ リビング ライフ インピース ユ フーウウウー。

チェッ また間違った」

 

レアンは、こずかいで買った中古のモーリスのアコーステックギターを思いきり床に叩きつけた。


「やっぱり、俺には才能がない。自己流じゃ上達するわけがないよ。やっぱり高い月謝を払って、ギター教室に行って基礎から練習しないとだめなのか」


 いつもサビを歌おうとして曲が盛り上がっても、ギターの演奏が、つまずいてしまう。


 特に、バレーコードのF(和音のファ ラ シ)の音が上手く音が出ない。レアンの左の指の先の皮は真っ赤にれ上がり、皮がむけそうだ。


「もう嫌だ。世の中にはもっと楽しいことが、たくさんあるのに、なんでこんな、下手くそなギターの練習をやんなきゃいけないんだ。

俺がやりたいのはシンガーソングライター。俺は歌をもっと歌いたいのに、伴奏ができない。伝えたいメッセージがいっぱいあるのに、曲が浮かんでこない。いったい、どうすればいいんだ」


 その日の夜は、蒸し暑くて寝苦しい夏の夜だった。レアンは家を飛び出して、道路に寝転がり、夜空を見上げた。


「ああ、なんて綺麗な星空なんだろう。今まで一度だって、こうして星空を見上げたことなんかなかったよ。

 そうか、もっと、身の回りの出来事を観察しよう。そして、自分の気持ちを素直にスケッチしていけば、いい歌詞になるんじゃないかな」


レアンは、星のまたたきがルビーやサファイアの宝石のように輝いて、心に降り注いで、熱い気持ちがたぎってくるのを感じた。


 レアンは自分の部屋に戻り、またギターを弾き出したが、やっぱり上手く弾ける様子ではなかった。


 ふと気づくと窓から一匹の黒猫が部屋に入ってきて、「にゃあ、にゃあ」と鳴いている。


「おい、黒猫ちゃん、もうおいらのコンサートは終わりだよ。さっさとお家に帰りな」


 レアンは黒猫を抱きかかえて、窓の外の屋根から帰そうとした。

ところが黒猫は、レアンに擦り寄ってきて、のどをごろごろ鳴らしながら、

「にゃあ、にゃあ」と鳴いている。


「しょうがねえなあ。そんなにおいらのギターが聞きたいのかい。

どうせ人間は誰も聞いてくれなさそうだから、黒猫ちゃん、おいらのライブ聞いてくれるかい。


赤い 目玉のさそり 

広げたワシのつばさ 

青い目玉の子犬」



レアンはギターを弾きながら歌った。

すると、黒猫も「にゃーにゃにゃにゃ」と鳴き始めた。


「いいぞ、これさあ、100年前に生きていた童話作家の宮澤賢治みやざわけんじさんが作った、『星巡ほしめぐりの歌』なんだけど、おいらが曲を現代風に新しく作ったんだ。


まだ誰にも聞かせてないんだけど、黒猫ちゃん、キミがおいらのファン第1号だぜ。聞いてくれるかい」


 レアンはどんどん曲を弾き続け、感極まって、いつしか涙があふれて止まらなくなった。


 不思議なことに黒猫のひとみも、涙が光でキラキラ輝いていたように見えた。


「どうだい、いい曲だろ。でもなあ。今のままじゃ、自己満足なんだよなあ。どうやったら、みんなにこの曲のメッセージを伝えることができるんだろう?」


 黒猫は、「ふにー」と気持ちよさそうに丸くなってレアンのひざの上で、のどをゴロゴロさせている。


「あれ、黒猫ちゃん、さっき、おいらの歌にあわせて、いっしょに歌っていなかったかい。おいら、ギターに集中してたから、気のせいかなあ。猫が歌えるわけないよね。

  まあ、いいや、楽しかったよ。おいらはもう寝るから、キミも帰りな」


 次の日の晩、蛙が求愛の合唱を奏でる満月の夜、月はまるで黄色水晶きいろすいしようのように美しく輝いていた。


レアンはまたギターの練習を始めた。するとまた、あの黒猫がやってきて、「にゃあにゃあ」と鳴き始めた。


「おお、黒猫ちゃん。また、来てくれたんだね。今日はレット イット ビーをやるからしっかり聞いてておくれよ」


 レアンはギターを弾き始めた。すると、今日ははっきりと、ギターとまったく同じリズムで黒猫が鳴いているのがレアンにも、わかった。


「にゃにゃにゃん、にゃにゃにゃにゃん」


「キミ、本当にリズムがわかるのかい。ようし、ここからがサビだ。

レット イット ビー

スピーキンワーズ ウイズダム レリビー」


 レアンと黒猫の不思議なコンサートは夜が明けるまで続いた。


 黒猫はいつのまにか丸くなって、気持ちよさそうに眠っていた。レアンもギターをかかえたまま、ソファで眠っていた。


さて、もう季節は10月になっていた。


 レアンはまだ進路先も決まらず、悶々とした生活を送っていた。


「おいレアン、もう勝手にするんだな。学校はもう面倒見ねえぞ」


 また鬼ゴリ先生に職員室に呼び出されて、説教だ。


「ぼくはミュージシャンになるんです。誰もぼくの夢をうばうことはでぎねえんです」


「こんのあほたれが。夢なら授業中にいつも見でんだべよ。現実をよぐ直視しろ。身の程ってもんがあんだろが、才能のない人間ほど、夢だ、希望だとほざきやがる。

俺なんか、若いときはそりゃあ、スタイルもカッコ良くて、花のインターハイ選手ともてはやされたもんよ。

ところが、20年も経っちまえば、今じゃ、ただのメタボオヤジだ。夢なんか見ないほうが楽に生きられるってもんよ。

就職して、社会の歯車になれば、何にも考えなくてもいいから楽なんだぞ。好きな音楽も趣味で出来るだろうがよ。

いいかレアン、それが社会でうまく生きるコツってやつよ。」


 『心の声』(だめだ。こんな人生を捨てている奴と話しても時間も無駄だ。適当に話をあわせて、早くギターの練習しなきゃ。)


「解りました。おいらは就職します。どこでもいいから探してください。お願いします」


「そうそう、最初から素直になればいいのよ。教室に、求人票あるから、読んでおくんだぞ。」

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