第8話旅立ち
俺はグリルドに全速力を出させてリーデットに向かっていた。
風圧が凄かったが、ステータスが元に戻った俺は風圧をものともせずグリルドの上で立ってリーデットの様子を伺っていたのだった。
馬車で半日かかる距離をグリルドは三十分で到着したのだった。
空の移動なので最短の直線移動と地上の道がしっかり舗装されていない事もあるが、グリルドが如何に速いか分かってもらえるだろう。
俺はリーデットの上空に到着しリーデットの状況を確認すると、街の半分ほどが既に破壊されており、残りの半分はバリケードでモンスターの進行を抑えてなんとか耐えているようだったがそれも長くは続きそうに無かった。
俺はグリルドから飛び降りたあとグリルドの召喚を解除し、その後抜刀術装備に換装したのだった。
地面が近付いて来ると空歩で勢いを殺し、地面にふわりと着地した。
「みんな離れてくれ」
俺は着地と同時にバリケードを必死に死守している人達にそう言ったのだった。
「リデル…なのか?」
「はい、リデルです」
俺は聞いてきたハーリッシュさんの事を真っ直ぐ見つめてそう答えた。
ハーリッシュさんは俺の姿を確認したあと、一瞬目を瞑りなにか考えたあと目を見開き大きな声で叫んだのだった。
「みんな退却しろっ、リデルの邪魔になる!」
みんなは少し戸惑っていたが、ハーリッシュさんはみんなから信頼されているようで、速やかにみんなが撤退していった。
「リデル、すまないが後は頼んだ」
俺の横を通りすぎる時、ハーリッシュさんはそう呟いて行った。
「ありがとう、任せてください」
俺の事を信頼してくれたハーリッシュさんの気持ちに答えるべく、俺は目の前のモンスター達を駆逐すべく意識を集中させていった。
抜刀術スキル真眼を発動させると、知覚速度と認識可能領域が上昇し、俺のスキル範囲内には味方が居ないことを確認し攻撃を開始した。
「神刀・
解放した神刀・
「─弐の太刀『花月』」
俺の放った花月は範囲攻撃スキルで、その威力と範囲は解放した
俺は高い家の屋根に登ると、真眼で街のなかに残っている呪術士とモンスター達を認識し、排除に向かった。
走り出したときには二刀流用装備に換装しており、仲間と合流しようとしている呪術士を発見すると、速やかに意識を刈り取った。
聞きたいこともあるので殺さず気絶させるだけに留め、次なる獲物のもとに向かった。
合流を果たした呪術士達の数は12人程だった。
街を攻め込む程のモンスターを操るには些か少ないと思ったが、先程の花月で消し飛んだのだろうと思い、意識を目の前の呪術士達に向けた。
「お前達、大人しくするなら痛い思いはしないで済むがどうする?」
「ふざけるな小娘がっ!痛い思いをするのは貴様だ、このモンスター達が見えないのか!」
見えてはいるんだが、一番強いモンスターでも中盤に出てくる程度の俺からすれば雑魚同然のモンスター達なのでなんとも思わないのである。
ふむ、俺が思ってる以上にこの世界の戦力は低いのかもしれない。
「じゃあ、抵抗するってことでいいんだな?」
「当たり前だ、馬鹿みたいにこんなところに来るから痛い目に─」
「うるさい黙ってろ」
「カハッ!」
俺は体術スキル『縮地』を使い一瞬で距離を埋め、剣を鞘に入れた状態で喋っていた呪術士の鳩尾に突きを放ち気絶させた。
「な、何が起きた!」
「別にお前達が知る必要はない、安心しろ今はまだ殺さない」
俺は先にモンスター達を倒すべく、鞘から剣を抜き放ちモンスター達に斬りかかった。
中盤程度のモンスターならば一撃で屠れるので、30匹程いたモンスター達は一瞬にして死体に成り果てたのだった。
「ヒィィ」
流石に自分達の連れてきたモンスターが一瞬にして倒されたのを見て恐慌状態に陥った呪術士達は、その後たいした抵抗もせず大人しく気絶させられていった。
街にもうモンスターが居ないことを確認した後、気絶させた呪術士達を回収し、衣服などを引っぺがしパンツ一枚にしたあとロープで縛ったのだった。
「凄いなリデル、まさかお前がこれ程強かったとは。とりあえず、助けてくれてありがとう」
「いえ、それよりガイエルさんはまだ帰ってきてないんですか?」
「なに?ガイエルはリデルと一緒にいたんじゃないのか?」
「先に帰ったはずなんですが…」
「お前らああぁぁぁあああ、動くなよこのおっさんがどうなるか分からねぇぜ」
急に叫びながら街の裏門から入ってきた呪術士達の仲間と見える男達は、ナイフを手に持ちガイエルさんの首に当てていたのだった。
「ガイエル!」
「ガイエルさん!」
「へっへっへ、このおっさんの命が惜しかったら俺達の言うことを聞け」
「っち」
半年間のブランクが無ければすぐにでもナイフを吹き飛ばしガイエルさんを助けることもできるのだが、先程の戦いで少し動きが鈍ってしまっているのが分かったので、確実にガイエルさんを助ける自信が無い今は敵の指示に従って隙を伺うしかなかった。
「要求はなんだ」
「まず、そこの嬢ちゃんは装備を全て外せ。嬢ちゃん何だろう?モンスター達を倒し俺達の仲間を捕らえたのは」
「ああそうだ、装備を外せばいいんだな?」
「へっ、可愛くない喋り方だな。まあいい、次に仲間達の拘束を解いてこっちに寄越せ。嬢ちゃんは動くな、そこのおっさんが拘束を解け」
俺が動こうとすると男はすぐさま命令をしてきたので俺は動けず、ハーリッシュさんが呪術士達の拘束を解いて男達のもとに運んだ。
「よし、じゃあ俺達は去るが追ってくんじゃねーぞ!」
「まて!ガイエルはどうなるんだ」
「必要なくなったらそこら辺に捨てていくさ、行くぞお前達─」
「逃がさねぇよ、死ね!」
「え?」
俺は一瞬後ろを向いた男の隙をついて縮地で近づき、男の頭を掴んで烈破で頭を吹き飛ばした。
残りの男の両脇に居た二人を体術スキル『雷鳴』を軽く当て気絶させたのだった。
こうして、リーデットを襲った首謀者達を捕らえ、今回の事件は幕を閉じたのだった。
次の日の朝にはマールさんも無事に帰ってき、ガイエルさんも無事に目を覚ましたのだった。
「助かったよリデル、不甲斐ないところを見せたな」
「いえ、でも街が半壊してしまって、少なからず死傷者も…俺がもっと早く来れていれば…」
「リデルが気に病むことはない、リデルが来てくれなければ全滅していただろう」
「街の方は足りないかも知れないですけど、俺が金を出します」
「断りたい所だが、今の状態では少しでも多くお金が必要になる、何から何まですまない頂きたく思う」
俺は持っている金を全て差し出し、街の復興等も手伝ったのだった。
後日、今回の事件で死んでしまった人達の告別式が行われ、死んでしまった人は主に自警団の人達で、街の人達を命懸けで逃がし命を落としてしまったのだと言う。
告別式には多くの人が参加し、死んでしまった人達の為に涙を流した。
夜のみんなが寝静まった頃俺は今後の事について考えていた。
奴隷の首輪も外れステータスが戻ったので、当初の目的通りこの世界を調べる為に旅立つか…
しかし、この街の人にはお世話になったし、こんなことがまた起こらないとも限らない。
だがいつまでもこの街に居ても何も分からないままだ…
俺が悩んでいるとき、後ろから声を掛けられた。
「何を悩んでいるんだリデル?」
「ガイエルさん…」
「何か悩みごとがあるなら聞くぞ?」
「実は俺旅に出ようかと思ってるんです」
「俺?」
「あっ、いや…もう誤魔化すのは止めます。俺は多分この世界と違うところから来たんです、それで元の世界で俺は男だったんです」
「そうだったのか、何となく女の子っぽくないなと思っていたがそう言うことだったのか」
「信じてくれるんですか?」
「ああ、半年も一緒にいればお前がしょうもない嘘を言う奴じゃないってことくらい分かるさ」
「ありがとうございます。それで俺はこの世界の事を知りたい、元の世界に戻れたら嬉しいけど、別に生きていけるなら元の世界に戻れなくてもいい。ただこの世界を見て回りたいと思ってるんです、でも…」
「街がこんなことになってしまって出ていくのを躊躇っているのか?」
「はい…」
「お前と離れるのは寂しく思うが、人の人生は短いんだ自由に生きなくてどうする、生きているなら世界を楽しまなくちゃ損だぞ?」
「世界を楽しむ…」
「ああ、お前はこの街に出来ることを沢山してくれた、後は街の住人達だけでなんとかなるさ、お前は自分の人生を楽しんでこい!」
「ありがとうございます、なんだかスッキリしました」
「そうか、それならよかったよ。さて俺はそろそろ寝るか、リデルも早く寝ろよ?」
「はい、おやすみなさい」
翌朝、俺はガイエルさんとニーナさんに、旅に出ることを告げた。
「そうか、寂しくなるな」
「怪我には気を付けて、たまには顔を出してね。あなたはもう私達の息子のようなものなんだから」
「ニーナさん気付いてたんですか?」
「ええ、必死に誤魔化そうとしてる姿が可愛らしくて黙ってたのよ」
「っぐ、恥ずかしい…」
ぬおー、ニーナさんに分かってて遊ばれてたのか。
いま思えば遊ばれていた場面がいくつも思い浮かぶ…
「まあ、旅立つ前に街の奴等に挨拶はしていってやってくれ」
「はい、分かりました」
俺はその日の内に挨拶を終え、ガイエルさんの家での最後の夕食を噛み締めて食べたのだった。
「じゃあ、行ってきます」
俺は翌朝、自警団の人とニーナさんに見送られ、出発しようとしていたのだった。
「元気でな、これは餞別だ受け取ってくれ」
「マント?」
俺はハーリッシュさんからフードのついたマントを受け取ったのだった。
「ああ、リデルは目立つからな、リデルは目立つのはあまり好きじゃないだろう?」
「ありがとうございます、使わせてもらいます」
「達者でな」
「みんないままでありがとう!」
俺はグリルドを召喚し、みんなに別れを告げ飛び立ったのだった。
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