第9話冒険者登録

 リーデットを旅立った俺は、街の復興で殆どお金を使ってしまったので、生活費等を稼ぐべく冒険者になろうと決めて冒険者登録の為に再びオリビエに向かったのだった。

 オリビエに向かってる途中、俺は誰かに声を掛けられた。


「さて、落ち着いたようなので少し話をしようか我が主よ」


「え?誰?」


「我が名は龍王グリルドである」


「お前喋れたの!?」


「ああ、この世界に新たに産まれ自我が出来たようだ」


「この世界のことなにか知ってるのか?」


「いや、それは我にも分からぬ。我は元々0と1の存在、そしてその時のデータを元に我の人格を形成し産み落とされただけである故に」


「へー、そうなんだ。それで話ってなんだ?」


「大したことではないさ、我の今の状態を伝えておこうと思っただけだ」


「今の状態?」


「ああ、先程も言ったように元々我は0と1の存在であったので、召喚中以外はデータとして保存されているだけだったが、今は生きているが故に召喚中以外は我も普通に生活しておる。なのでゲームの時のように瞬時に召喚出来ない時もあるということを覚えておいてほしい」


「なるほどね。分かった覚えておくよ」


「では、そろそろ目的地が見えてきたようなのでこれで失礼する」


「ああ、ありがとね」


「それと、一つ忠告だ。普通はドラゴンがこれ程人里近くに現れると騒ぎになるのでむやみに我を呼ぶと大変なことになるぞ」


「え、まじか」


「ではさらばだ」


 グリルドの召喚が解除され、重力に引かれ自由落下していく俺。

 空中で主を投げ出して帰っていくってどういうことだよ。

 まあ、グリルドも俺なら大丈夫だと分かってたからやったのだろうけども。

 とりあえず、これからは別の移動手段を考えないといけないな、結構離れてたつもりだったが騒ぎになるらしいし。

 その後歩いてオリビエに到着した俺は、グリルドの忠告が本当であったことを実感した。


「君、そこで何をしているんだい、危ないから早く街に入りなさい!」


 俺はオリビエに着くとオリビエの警備兵の人が俺を見つけ、すぐさま街のなかに放り込まれた。


「えっと、何かあったんですか?」


「ああ、実はこの近辺にドラゴンが現れてね、この前も現れて騒ぎになったのに短期間の間にまた現れたこともあって緊急非難が発令されたんだよ」


 やっぱり俺のせいか…

 しかも、なんだかものすごく大事おおごとになってしまっているようだ。


「そ、そうだったんですか、怖いですねー」


「そう言うことだから、暫くは街の外に出ないようにね」


「分かりました」


 優しそうな警備兵の人と分かれた後、俺は冒険者登録をするために冒険者ギルドに訪れた。


「あのー、すいません。冒険者登録をしたいんですがどこで受付をしてますか?」


「はい、冒険者登録はこちらで受け付けておりますよ。冒険者登録には簡単なテストを受けていただきますがよろしいですか?」


「あ、はい、分かりました」


「では、こちらの用紙に御自身のクラスと年齢とお名前と性別と種族の記入をお願い致します」


 俺は半年間掛けて習得したこの世界の言語で、渡された用紙に必要事項を記入していったのだった。


「出来ました、これでいいですか?」


「拝見いたします。リデル様14歳性別は女性で種族は人間でクラスはグラディエーターでお間違えないでしょうか?」


「はい、あってます」


「では、こちらの用紙を持って13時にこのギルドの隣にある訓練場にお越しくださいませ」


「分かりました」


 無事に受付を終え、テストまでまだ少し時間があるのでその間に今日の宿を取りに行ったのだった。


「おい、ぶつかっといて何て態度だコラ」


 宿を探してる途中、路地裏で気弱そうな少年がスキンヘッドの男性二人組に絡まれているのを目撃した。


「い、いや、でもっそっちがぶつかって来たんじゃないか…」


「ああん、このガキィ、俺達が悪いって言いてぇのか?」


「っけ、素直に謝れば俺達も穏便に済ませてやろうと思ったのになぁ、仕方ねぇからボコって財布でも頂くか」


「ああ、そうするか」


「ひっ、そんなぁ…」


「大人しく財布を出すならまだ許してやらねぇこともねぇぜ?」


「このお金がないと冒険者登録が…」


「なんだ、てめぇも冒険者志望か。悪いことは言わねぇから止めときな、お前みたいなよわっちぃ奴は冒険者になっても意味ねぇさ」


「そうだな、恥かく前に俺達に止めてもらえたことを感謝するんだな、ガハハハハッ」


「う、うるさい!よわっちくたって、これから頑張って強くなるんだよ!」


「このガキィ、反省してねぇようだな。仕方ねぇから分かるように体に教え込んでやらぁ」


「う、うわぁー」


 俺は少年に殴りかかろうとするスキンヘッドと少年の間に割って入り、スキンヘッドのパンチを左手で受け止めた。


「その辺にしとけ、これ以上やるなら俺が相手になるぞ?」


「なんだこいつ、離しやがれ!」


 俺が掴んでいる右手を必死に抜こうとしているスキンヘッドの男だが、どれだけもがいても俺から逃れることができなかった。


「糞ガキがぁー」


 遂に痺れを切らしたスキンヘッドの男は左足で俺に蹴りを放ってきたが、俺はスキンヘッドの右手を離して体を少しずらして蹴りを躱し、左足を振りきった状態のスキンヘッドの右足を払って転ばした。


「このやろう!」


 もう一人のスキンヘッドも殴りかかってきたが軽く躱した後、殴ろうとして来た右腕を掴んで背負い投げの要領で地面に叩きつけた。


「まだやるか?」


「お、覚えてやがれ!」


 いかにも小悪党らしい捨て台詞を吐いてスキンヘッドの二人組は走り去っていった。


「あの!ありがとうございます!」


「いや、別に大したことはしてないよ」


「いえ、あなたが来てくれなかったらどうなっていたか…」


「まあ、無事でよかったね」


「はい!でも君すごく強いんだね!あんなに体格の違う男性を軽々倒しちゃうなんて!」


「あ、ありがとう。じゃあそろそろ冒険者登録のテストだから行くよ」


「え!?君も冒険者登録を受けるの?僕もなんだよ!一緒に行かないかい?」


「別に良いけど…」


 この少年めっちゃグイグイ来るな…


「じゃあ行こうか!」


 結局宿は取れなかったが、諦めて少年と共に冒険者登録のテストが行われる訓練場に向かったのだった。


「君の名前は?」


「俺はリデルだよ」


「へー、君はリデルって言うんだね。僕はマルクって言うんだ、それと君って女の子だよね?」


「そうだけど、なんで分かったんだ?」


「そりゃあその可愛らしい声ならわかるよ、それに腕も細くて綺麗だったし」


「あー、なるほど」


 やっぱりマントを被ってても声でばれるか。

 そんな会話をしつつ歩いて行き、俺達は冒険者登録テストが行われる訓練場に到着したのだった。

 訓練場の入り口で受付の人に用紙を渡し、訓練場に通されて説明を受けたのだった。


「えー、ではテストの説明を行います。テストは筆記試験と実技試験を行います、テストは筆記試験50点満点と実技試験50点満点の合計が50点以上で合格でFランク冒険者に認定されます。更に80点以上であればEランクから、100点満点であればDランクから冒険者を始めることができます。テスト内容は筆記試験が冒険者生活に必要な事と一般常識、実技試験は基本的な体力テスト五項目の各10点満点のテストです。では、質問が無いようでしたら実技試験を行うため、こちらで用意した服に着替えて来てください」


 説明を受けた後着替えるため男子と女子で別の更衣室に行き、用意された服に着替えたのだった。


「えー、では、皆さん着替え終わりましたので実技試験を開始いたします。試験は腕立て伏せ、上体起こし、反復横跳び、握力測定、ボール避けの5つを行います。こちらで分けた3つのグループで各試験を回っていただき、説明は各試験担当の者が説明いたします。全員が全ての試験を終え次第筆記試験に移ります。では、始めてください」


 なんだか、学校でやった体力テストみたいだなぁなんて思いつつ試験を受けるため移動していると…

 皆にめっちゃ見られてる。

 なんだ!?俺なにか変なことしたか!?

 さっきのマルクって少年も俺の顔を見て呆けているようだった。

 ん?俺の顔を見て?ああ、着替えてマントを外した俺の髪の毛の色とかが珍しいから見てるのかな?

 半年間生活してきたが銀髪の人とはまだ出会ってないし。

 そう思う事にして、一番最初の腕立て伏せの試験に向かったのだった。


________________________


 僕の名前はマルク。

 冒険者だったおじいちゃんに憧れて、小さい頃から冒険者に成るのが夢だった。

 そして今日、やっと両親から冒険者になる許可を貰い試験会場に向かったのだが、道中でスキンヘッドの二人組に絡まれてしまった。

 スキンヘッドが殴りかかってきたその時、小柄な僕より少し小さいマントを被った人がスキンヘッドと僕との間に割って入り、スキンヘッドの拳を細く繊細で簡単に壊れてしまいそうな腕で受け止めた。

 僕は何が起こったのか理解が追い付かない間に、マントの人はスキンヘッドの二人組を簡単に倒して追い返したのだった。

 その人の名前はリデルって言うらしく、丁度リデルちゃんも冒険者になるらしいので、一緒に試験会場に向かったのだった。

 そこで僕は驚愕した。

 まず、僕はリデルちゃんの見た目を見て驚愕してしまった。

 さっきまではマントで顔を隠していて見えなかったが、試験を受けるため用意された服に着替えたためマントを取ったのだろうが、その姿はまさに美の女神と呼ぶに相応しい容姿をしていた。

 サラサラの肩に掛かるくらいの綺麗な銀髪、透き通った穢れのない紅色の瞳、可愛く薄いピンク色をした唇、白くきめ細やかな肌、細く引き締まった身体と発展途上であろうが確かに存在を主張している胸、その全てが絶妙なバランスで合わさり全員の支線を引き寄せた。

 これはマントで顔を隠していたのも頷ける。

 だが、僕の驚愕はこれだけで終わらなかった。

 先程スキンヘッド二人組を簡単に倒した事から強いんだろうとは思っていたが、リデルちゃんは僕の想像を軽く越えていった。

 まず腕立て伏せだが、30秒間で腕立て伏せを何回出来るかという試験だった。

 因みに僕の記録は44回だったがそんなことはどうでもいいとして、リデルちゃんの記録は104回だった。

 どんな速度で腕立て伏せをすればそんな回数になるのか分からないが、リデルちゃんは実際にやって見せたのだった。

 だが、凄いのは腕立て伏せだけではなかった。

 次は上体起こしで、こちらも30秒間で何回出来るかの試験だった。

 参考までに僕の記録は26回だったが、リデルちゃんの記録は84回だった。

 最後は足を押さえてる人が吹き飛んでいた。合掌

 はい、続いての反復横跳びは20秒間に何回出来るかの測定になります。

 比較対象の僕は47回でリデルちゃんは189回だった。

 もはや残像が残るほどの速度でだった。

 次は握力測定で、僕は右が38㎏で、左が32㎏だった。

 リデルちゃんは両手とも測定不能だった。

 ここまででもリデルちゃんの異常さが際立っていたが、最後のボール避けは異常さが一番分かりやすかった。

 ボール避けは、全部で100球飛んでくるボールを避け出来るだけ当たる回数を少なく抑えると言うものだ。

 ボールは当たっても痛くない物だが、時速80㎞で360度全方位から飛んでくる。

 僕の当たった回数は27回と散々なものだったが、一番少ない人でも7回だった。

 この試験は最後に逃げ場の無い配置で10球のボールが同時に飛んでくるので、どれだけ頑張っても最低3回は当たってしまう。

 しかし、最後にこのボール避けの試験を受けたリデルちゃんの動きはそれこそ人外の動きだった。

 最初は流れるような動きで軽く躱していただけだったが、最後の10球同時の時、リデルちゃんの実力の一端が見えた気がする。

 最後リデルちゃんの動きは誰も捉えることが出来ず、一瞬リデルちゃんの姿がブレて気がつけばボールは地面に転がっていた。


________________________


 筆記試験が終わり試験結果を待っている間、先程の試験を振り返っていた。

 しかし、この体で筋トレ的な事をしたことは無かったが、凄まじいスコアを叩き出すことができてなかなか楽しかった。

 最後のボール避けだけスキルを使ったがまあボールには触れてないし試験は大丈夫だろう。

 問題なのは筆記試験だが、全く分からなかった…

 まだこの世界に来て一般常識すらちゃんと理解できていないのに、冒険者の知識問題なんか解けるか!

 それと、気のせいかもしれないが実技試験が終わってから皆に避けられてる気がする…

 楽しくなって少しやり過ぎてしまったのかもしれない。

 そんなことを考えていると、試験結果が出たようで合格者だけ別室に呼ばれたのだった。


「まずは、合格おめでとうございます。この後皆さまには冒険者のギルドカードを発行させていただきます、それを受け取った瞬間から皆さまは冒険者になります。それでは、これから冒険者のルールと規律事項の説明をさせていただきます。まず$◇(´◯$ゐ¶」


 冒険者ギルドの職員のエルフのお姉さん長くなりそうな話が始まった瞬間、俺は夢の世界に旅立ってしまった。

 そして、説明が終わった頃に起きた俺の目の前には、笑顔で額に青筋を浮かべたエルフのお姉さんが立っていた。


「おはようございます、よく眠れましたかリデルさん?」


「えっと、いや、あの、違うんです…」


「何が違うんですか?私の話はちゃんと聞いてましたか?」


「すいません、聞いてませんでした」


 この後、エルフのお姉さんに30分程説教を受け、試験結果とギルドカードを受け取り試験会場から出たのだった。

 試験結果を確認しながら宿を取るため歩いていると後ろから声を掛けられた。


「あの!リデルちゃん!」


「うぇ?」


 後ろを振り返るとマルクが立っていたのだった。


「僕を弟子にしてください!」

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