第6話始まり
窓から朝日が差し込み、小鳥のさえずりが聞こえてくる部屋の中で一人の少女がベットで安らかな寝息をたてていた。
少女は目が覚めたのか、目を擦りながらむくりとその場で起き上がった。
少女は辺りの状況を確認するようにキョロキョロと首を動かし、その度にサラサラの銀髪がふわりと宙を舞った。
自らの銀色の髪の毛を視界に捉えた少女は、自分の身体を見てからぺたぺたと髪や肌を触った後動きを停止させた。
少女はベットの上で膝を抱えて座ると、暫くの間ぶつぶつと何かを呟きながら考え込んでいるようだった。
そして、少女は急に立ち上がり大きな声で叫んだのだった。
「何だこれはーーーっ!」
「どうしたんだっ!」
俺は急に現れたおっさんにびっくりしながら、今の自分の状況も飲み込めず返事を返すことが出来なかった。
「良かった、目が覚めたんだな。気分はどうだ?」
「えっ、あの、えーっと、なんともないです?」
喋った瞬間自分の出した声の可愛らしさで思わずドモってしまったが、恐らく普通に返事で来たと思うことにしよう。
「なんで疑問形なのか分からないが案外元気そうで安心したよ」
そこは突っ込まないで、死にたくなるから。
まあ冗談はさておき、俺こと高橋恭也は何処かわからない場所に居て、身体が女になってしまっているようだ。
それで、目の前のおっさんは誰か分からないが、俺の事を心配してくれてるし悪い人ではなさそうだ。
黙り込んで考え事をしている俺を見て、おっさんが不安そうな顔をしているので俺は急いで返事をしたのだった。
「えっと、ここって何処ですかね?それとあなたは誰でしょう?」
「ここはリーデットって街の俺の家だ。それで俺はガイエル=ノヴァって名前でこの街で自警団に勤めている」
「リーデット…」
俺はこの名前に聞き覚えが会った。
リーデットとはFUOでプレイヤーが最初に訪れる街の名前なのだ。
俺はゲームの中に居るのではと一瞬考えたが、即座にその考えを捨てたのだった。
何故なら、この世界はゲームにしてはリアルすぎる。
しかし、この街がFUOの最初の街と一緒の名前と言うのはただの偶然では無いだろう。
今は情報が少なすぎるので、俺は目の前のガイエルがさんからもう少し話を聞く事にしたのだった。
「あの、なんでお…、私はガイエルさんの家に居るんでしょうか?」
「ああ、それは街の外の草原で倒れていたから、丁度警備中に通りかかった俺が保護したんだよ」
「そうなんですか、ありがとうございます」
「モンスターにでも襲われたのかと思ったが、特に外傷も無かったのと奴隷の首輪を着けてるから奴隷商からでも逃げてきたんじゃないのかと思ってたんだが、特に人に対する恐怖心なんかも無さそうだな」
俺の首には、あの中村とか言う男に付けられたのと同じ奴隷の首輪が付けられているようで、擦って見ながら奴隷の首輪の事がもう少し詳しく知りたいと思っていると、俺の目の前にメニューウィンドウが現れ、奴隷の首輪のステータスが表示されたのだった。
名前:奴隷の首輪
種類:装飾
等級:LU《レジェンドユニーク》
効果:装備者の全てのステータスを初期値にする。
装備者は奴隷の首輪以外の武器、防具、装飾を 装備することが出来なくなる。
装備者は自ら奴隷の首輪を外す事が出来ない。
備考:この首輪を着けた者は主に逆らうこと出来なくなる呪われた首輪。この首輪を着ける者が現れない事を祈っている…
等級がレジェンドユニークだと!?
いや、そんなことよりもメニューウィンドウが出たことの方が重要な事なのだ。
この世界はゲームではないはずなのだが、メニューウィンドウは俺の見馴れているFUOで使われているものと全く一緒の物なのだ。
メニューウィンドウを操作していくと、俺がFUOで使っていた物と殆ど一緒だが、所々が文字化けしており使用不可になってしまっているようだった。
「なにしてるんだ?」
メニューウィンドウを確認するのに夢中でガイエルさんの存在を忘れてしまっていた。
「えっと、メニューウィンドウの確認をしてました」
「めにゅううぃんどう?」
俺はメニューウィンドウを可視化してガイエルさんに見せてみた。
しかし、ガイエルさんはメニューウィンドウは見えていないようだった。
「そのめにゅううぃんどうって言うのは何なんだ?」
「いえ、何でもないです、少し混乱してたみたいです」
ガイエルさんはメニューウィンドウが見えない様なので、面倒くさいことにならないようにとりあえず誤魔化しておいた。
「そうか、とりあえずお腹空いただろう?飯を作ってくるから少し待っててくれ」
「はい、ありがとうございます」
ガイエルさんが部屋を出て行った後、俺は今後どうするか考えたのだった。
とりあえずこの世界は現実と考え、FUOとの関係を調べてみるのが目先の目的になるだろう。
しかし、今の奴隷の首輪を着けた状態では街の外に出てモンスターに遭遇した時点でゲームオーバーだろう。
とりあえず教会で奴隷の首輪を外す事にしよう。
等級がレジェンドユニークなので、外すのに結構な金額が掛かるかも知れないが俺の所持金からしたらはした金だろうと思いメニューウィンドウの所持金を確認した時俺の目が点になった。
俺のFUOの時の所持金は21億Gであったはずなのだが、今の俺のメニューウィンドウに表示されている所持金は2100Gとなっていた。
うおぉぉい!ゼロ6つどこいったよ!
確か、一番安いのが等級ノーマルで、呪いの装備を解除するお値段が1000Gそしてレア、ユニーク、スーパーレア、レジェンドレアと等級が上がる毎に0が1つずつ増えていくのである。
レジェンドユニークの呪いの装備は今まで誰も着けたことがないので値段は分からないが、流れから行けば奴隷の首輪を外すのに1億G掛かることになる。
アイテムボックスを確認すると文字化けして使用不可の物があり、売れるものを売っても1億Gに遠く届かない。
それに、俺の持っているアイテムは普通の店では取り扱う事の出来ない物なので買い取って貰うことすら不可能と思われた。
しかし、諦めるのはまだ早い。
FUOの設定に裏オークションと言うものがあり、通常プレイヤーは入れないがクエストで一度だけ入ることが出来るのだ。
入場料に100万Gと高額だが、その裏オークションでならば俺の持っているアイテムを買い取って貰えるだろう。
幸いな事に裏オークション会場はリーデットの次の街のオリビエと言う街にあり、そこには教会もあるので次に向かうのはオリビエとなるだろう。
だが、ここでもまた問題が発生する。
まず、オリビエに向かう方法がない。
もちろんオリビエに向かうまでにもモンスターは出現する。
いくら初期のモンスターと言えど、今の俺のステータスならモンスターと戦闘になった時点で死亡である。
二つ目に今の俺では金を稼ぐ方法がないので、100万Gすら稼ぐ事が出来ない。
どうやって金を稼ぐか考えていると、扉がノックされガイエルさんが声を掛けてきた。
「ご飯が出来たが食べれそうか?」
そこでいい匂いが漂って来ていることに気付き、俺のお腹もきゅるると音を鳴らしたので、俺は力強く返事を返したのだった。
「はい、今行きます!」
俺はお腹が空いたので考えることを一旦放棄し、いい匂いのするご飯を目指して駆けていったのだった。
出てきたご飯はトーストとサラダとコーンスープで、お腹の空いている俺は席に着くとトーストに齧りついたのだった。
ガイエルさんは俺が食べ終わるのを静かに見守り、俺が食べ終えた頃に話を切り出してきたのだった。
「さて、そろそろ落ち着いて来たと思うから少し質問をさせて貰うぞ?」
「あ、はい」
「まず、君の名前と年齢を教えて貰えるか?」
「えっと─」
俺はメニューウィンドウを開いて、ステータス画面に表示されている名前と肉体年齢を確認したのだった。
「名前はリデル、14歳です」
思ってたより若かったんだが…
「ふむ、リデルちゃんか。それで、なんであんなところで倒れていたんだ?家族とかは居るのか?」
俺が聞きたいよ!
「えっと、すいません名前とかは覚えてるんですが少し記憶が無くて…」
とりあえず無難に記憶喪失設定で乗り過ごすことにしたのだった。
「そうか…、その首輪の事も覚えてないかい?」
「はい…」
「うーむ、どうしたものか、このままほったらかしにするわけにもいかんしなぁ。とりあえず妻と息子に事情を説明して、暫くの間うちで面倒を見てあげよう」
「え!いいんですか!?」
「ああ、このままはいさようならって訳にもいかんだろう」
「ありがとうございます!」
俺が一番心配していた食と住の問題がこれで解決しそうである。
「とりあえずその首輪を外してあげたいが、呪いの装備みたいだし等級も高そうだから俺の金で外してあげるのは難しそうだなぁ」
「いえ、気にしないでください。後、この街でお金を稼げる仕事ってありませんか?」
「自分で稼いで外す気かい?多分外すのに掛かる金額はとんでもないものだぞ?」
「はい、タダで泊めてもらい続ける訳にも行きませんし、少しですがお金を入れたいのもありますし、少しずつでもお金を貯めていつか外そうかと思ってます」
「そうか、それにいくらかかりそうかは分かるのか?」
「100万Gくらいですかね?」
「100万Gか、高いな。だが、仕事なら丁度良いのがあるぞ?」
「ほんとですか!」
「ああ、自警団はむさ苦しい男共ばっかりだから掃除や洗濯なんかを雇った人に頼んでるんだよ。それで丁度この前、働いていた女の子が辞めてしまって人手不足なんだよ」
「なるほど」
「日給も1万Gと結構高い方だからやるなら隊長に話は通してあげるぞ?」
「やります!」
「分かった、それなら今から行こうか」
そうして、俺はガイエルさんに連れられて、リーデットにある自警団に向かったのだった。
街はFUOと似たような配置だったが、FUOのリーデットより広くなっていた。
「着いたぞ」
俺が街を見渡していると、自警団に着いたらしくガイエルさんに声を掛けられた。
その後自警団の奥に通され、自警団の隊長のハーリッシュさんと対面したのだった。
「君がリデル君だね」
「はい!」
「それでこの自警団で働きたいと言うことでいいのかな?」
「そうです」
「なるほど…、それじゃあ質問だ、君のスリーサイズを上かrへぶぇ」
バシーンと小気味いい音を響かせガイエルさんがハーリッシュさんの頭を引っ叩いた。
「なに言ってるんです隊長」
冷たい目でハーリッシュさんを見下ろすガイエルさん。
心なしか周りの気温が下がった気がする…
「い、いやぁ、ほんのジョークじゃないかガイエル。それにこんな可愛い子には聞きたくなるだろう?」
「はぁ、全く。後でこの事は奥さんに報告しておきますよ」
「ちょ、ちょっと待ってくれよぉ、それは勘弁してくれ、後で昼飯奢るからさぁ」
「そんなことより、先に話を進めてあげてくれ」
「ああ、そうだったね。君みたいな可愛い子だったら歓迎だよ、他の男共も君が居たらやる気もあがるだろうからね」
「ありがとうございます!」
「ああ、これからよろしく頼むよ。仕事内容は先輩の人達に聞いてくれ、仕事は明日から頼むね」
「分かりました!」
こうして無事仕事も見つかり、ガイエルさんの家に戻りガイエルさんの家族に挨拶をしたのだった。
「あら、大変ねぇ。私達の事は家族と思って接してくれると嬉しいわ」
「分かりました」
「うふふ、なんだか可愛い娘が出来たみたいで嬉しいわ」
ガイエルさんの奥さんは寛大な人で、嫌な顔1つせず俺の事を歓迎してくれたのだった。
挨拶も済ませ、その後夕食を食べ終えお風呂に入った後、新しい環境で疲れてしまったのかベットに寝転んだ後睡魔に襲われ、俺は安らかな寝息をたてて夢の世界に旅だったのだった。
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