見つからない幸せ

「先輩、シャー芯」

 いっちゃんに言われ、僕ははてと首を傾げる。

「シャー芯、昨日貸しただろ。箱ごと」

 シャー芯というとシャーペン――シャープペンシルの芯のことだろう。シャーペンはその中に別途細い芯を入れて、その補充口を押すことで先端から芯を伸ばす。そのくらいは流石に僕でもわかる。が――

「はて、そうだったっけ。なにせ僕はのっぺらぼうだから、記憶というものがあるかどうかもよくわからないんだ」

「はっきり言ってください」

 にーこに言われ、僕は観念する。

「記憶にないんだ。つまり行方不明だね」

「なんだと! まだ芯結構残ってたのに! 捜せ!」

 いっちゃんに怒鳴られ、僕は言われた通りにこの空き教室中を捜し回った。にーこも参加して、最後にはいっちゃんまで一緒に捜索に当たったが、どうやっても見つからない。

「もしかすると部室かも」

 僕がそう言うと、一同は部室棟に移動し、偽怪部の部室を捜索し始めた。ありがたいことに部長とみっちも参加してくれたのだが、やはり見つからない。

 いっちゃんはだんだん不機嫌になっていき、部室を隅々まで捜索し終えた時にはもう完全に頭に血が昇っていた。

「もういい! 新しいのを買う!」

 肩を怒らせて購買の方へと歩いていくいっちゃんを見送って、僕達はひやひやとしていた。

「そういえば先輩、さっきからポケットに手を突っ込んでなにしてるんですか」

 にーこに言われて、僕はいついっちゃんの怒りが爆発するかわからない中、手持無沙汰でポケットの中に入っていた何かのスライド式の蓋を開けたり閉めたり繰り返していたことに気付く。

 それを掴んでポケットから出すと、透明なケースに細い黒鉛がいっぱいに入っていた。

「あー」

「これは」

「シャー芯ですね」

 めでたく捜し物は見つかった訳だが、当のいっちゃんは新しいシャー芯を買いに購買へ行ってしまった。

 つまり、僕がとるべき行動は一つ。

「見つからなかったことにしよう」

 ポケットにシャー芯を突っ込んで、僕は素知らぬふりを徹底することにする。

「ですね」

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