レッツ!ブースイン

 学生の間では、一人で昼食を食べる人間というものは最も恥ずべき人間だという。

 なんらかのグループに属し、友達同士で弁当を広げるのが最低限のステータスなのである。それすら出来ない――友達も寄るべきグループもない人間というのは、それだけで嘲笑の対象になってしまうのだ。

「困ってるんです」

 トイレの花子さんはしょんぼりとして女子トイレの前に立っている。放課後が過ぎて校内に誰もいなくなった頃、僕は偽怪部の部室から抜け出して校内を散策していた。そこで例の女子トイレの前まで来ると、花子さんがいたのだ。

「便所飯って、知ってます?」

「便所で食べる飯――ということかな」

 言葉をそのまま受け取ればそうなる。

「そうです。都市伝説というかジョークだと思ってたのに、今日とうとう実行に移す人が現れて……」

 僕は首を傾げる。のっぺらぼうになった僕は全くの無知なのである。

「なんでわざわざトイレでごはんを食べるんだい?」

 そこで花子さんは学生間の認識を説明した。

「でも、さっきも言ったようにこれは半分ジョークのような話なんです。元々ネットスラングですし、そこまでして一人ぼっちということを悟られたくないなんて人はそうそういない――というか、それ以前にお昼の行動以外で友達がいるかいかないかなんて察せられます」

「確かに。でも、恥の上塗りを避けたいという思いもあるんじゃないかな」

「でも、第一、この言葉が流行ったのは結構前ですよ? 流行ってた時期にもこんなことをする人はいなかったのに……」

 ふむ、と僕は考える。

 この花子さんが出るのは女子トイレなので、便所飯を決行したのは女子と見るのが妥当だろう。

 となると男子である僕には察しがつかない。いや、それより元より僕はのっぺらぼうで、授業にも参加していないから生徒のことは女子だろうが男子だろうが及びもつかない。

 そういう訳でこれは女子生徒に聞いてみるのが得策だろう。

「じゃあ明日、いっちゃんかにーこ辺りに聞いてみるよ」

 花子さんは若干不満げだったが一応納得はしてくれたようで、僕はまた校内をぶらつき始めた。

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