ぬらりひょん更生計画
偽怪部の部室で目覚めると、ぬらりひょんがやけに真剣な顔をして僕を見下ろしていた。
朝日が差し込んでいるが、まだ薄暗い。僕は欠伸のような何かをしてソファーから身体を起こす。
「何か話でもあるのかい?」
ぬらりひょんに言うと、重々しく頷いて見せた。
「わしは滅茶苦茶だ。誰かのせいでな」
「僕だって自分が誰なのかわからなくなってしまっているんだから、お互い様じゃないか。顔があった頃の僕の所業を責められても、覚えてないんだから謝りようもないよ」
「そうだ。最早謝罪を求めようとは思わん。そこでだ、お前、わしを再構築しろ」
さっぱり意味がわからず僕は首を傾げる。ぬらりひょんはこれもお前の知識なのだが――と前置きしてから話を始める。
「わしはお前によって感得され、設定を滅茶苦茶にされて現形した。全てお前のせいだ」
「だから僕を責めたって仕方ないじゃないか」
「煩い。わしはお前によって感得されたから、見鬼でもない者には認識することは出来ん。だが、わしを感得したお前の属する『世間』は今のところ狭い。この学校内に限られているからな。そこでだ、世間内のわしに対する認識を新しく、強力無比なものに塗り替えるのだ」
「ちょっと何言ってるかわからないなあ」
「世間――つまりこの学校の中で、新しくわしのイメージを作ってしまうのだ。そうすれば、この中でわしはきちんとした設定を得て悩むこともなくなる」
「妖怪は因果律に支配されない――だったっけ」
「わかっているではないか。果を因とすることも妖怪であるなら本来可能なのだ。だが、妖怪である身、わし自身では行動を起こせない。現し身であるお前がやるのだ」
「えー」
「何がえーだ。元はといえばお前のせいでわしはこんなことになっているのだぞ。誠意を見せろ誠意を」
「だから僕を責めたって仕方ないじゃないか。二回目だよ、これ言うの」
それでもぬらりひょんは引き下がろうとしないので、仕方なく僕は引き受けることにした。
ぬらりひょんが提案した新しい設定は以下のようなものだ。
一つ、ぬらりひょんは妖怪の総大将である。
一つ、ぬらりひょんはとんでもなく強い。
一つ、ぬらりひょんはすごくかっこいい。
「なんというか妖怪がやっていい領域を逸脱しているような気がするよ」
創作物である妖怪が自分の設定を自分で弄くり回す。違和感というか、冒涜的というか、どうも釈然としない。
「誰のせいだと思っている」
「だから僕を責めたって仕方ないじゃないか。三回目だよ」
さて、とは言ってものっぺらぼうの僕がそう易々と校内の認識を変えることが出来るとは思えない。
こういうことは専門の相手に任せるのがいいだろう。となれば、今僕がいるこの部室――偽怪部が一番合っているように思う。
まだ朝だ。放課後になるまで待って、部長とみっちに相談しよう。
そう決めて、僕はぼうっとソファーに腰かけたまま固まった。
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