mission7-7 ターミナル
列車がガルダストリア首都の"ターミナル"に着いたのは日が暮れ始めた頃だった。
窓から顔を出して前方を眺めたルカたちは、眼前に迫る目的地の光景に思わず息を飲む。
ガルダストリア首都。
かつて工業大国として世界を圧巻した国の首都は、まるで街全体が巨大な機械仕掛けのようだった。
街は黒い金属の箱が何層にも重なって山のように高くそびえ、横に滑るようにして動いたり、上下に組み変わったりしているようだ。
そして周りには巨大な歯車のようなギザギザとした歯のある二つの輪があり、ゆっくりと回転しながら街を囲っている。列車の車掌曰く、あれは首都を守る防護壁のようなものらしい。ガルダストリア最先端の技術で形成されており、破れるとしたらそれこそ破壊神くらいだろう、と。
列車が首都に近づくにつれ、線路の先を阻んでいた二つの輪がギギギと音を立てながら外側へと開いて道をあける。進行方向の線路は上り坂になっているようだ。列車はスピードを上げて坂を登り、吸い込まれるかのようにして街の中へと入っていった。
『”ターミナル”……”ターミナル”……』
列車が停止すると、電子音が周囲に響き渡る。車掌たちが積み荷を降ろし始めたのを見て、ルカたちも列車を降りることにした。もはや鼻が慣れてしまった魚の臭いともこれでお別れである。
列車から降りると、放射状に並ぶようにして列車がいくつも停車していた。広い領土の各地に張り巡らされた路線からやってきたのだろう。中には雪をかぶっているものもあるし、洞窟の中でも通ってきたのか砂埃で汚れているものもある。
“ターミナル”は様々な土地の服を着た人々で賑わっていた。閑散としていたココット村とはまるで雰囲気が違う。
「ココット村が開発を望む気持ちも分かるわね……」
アイラがぼそりと呟いた。
列車だけでもルカたちにとっては新鮮だったが、ガルダストリアのガーライト産業はそれだけではない。
街の下部にあたるこのターミナルは照明によって昼間のように明るく、貨物列車の荷物を運び出すための運搬車がせわしなく駆け回る。
そして極めつけは——
『ナガタビ、オツカレサマ、デシタ。ワタシハ、ナビゲーション、ロボット、デス。オコマリノサイハ、オコエガケ、クダサイ』
腰ほどの背丈の筐体ロボットが、コロコロと足元のローラーを転がしながらルカたちのそばを通りすぎていった。
「す、すっげー! なんだあいつ!?」
ルカはそう言うと、アイラが止める声など耳に留めず、目を輝かせながらロボットの後を追う。ロボットは決して足が速いわけではない。ルカはすぐに追いついて、歩調を緩めながら背後から様子を伺ってみた。すると、ロボットは急にプシューという音を立ててその場に停止してしまった。
『エネルギー、ギレ、デス。カツドウサイカイ、ニハ、ゼンマイヲ、マイテ、クダサイ』
そう言ってぴたりと動きを止めたかと思うと、ロボットの背につけられているゼンマイが赤く光る。
「これか……?」
ルカがそれを回すと、ロボットの体内でボンという小さな破裂音が聞こえた。内部にガーライト鉱石が搭載されていて、ゼンマイを巻くとそれが加熱される仕組みなのだろう。ロボットは再びプシューという音を鳴らしてカタカタと動き始めた。
『アリガトウゴザイマス、"トオリスガリ=サン"。オレイニ、ガルダストリアシュトヲ、ムリョウデ、ゴアンナイシマス。オナマエヲ、ウカガッテモ、ヨロシイデスカ?』
「ルカだよ」
『インプット、シマス。”ルカダヨ=サン”デスネ』
「いや、『ルカダヨ』じゃなくて『ルカ』なんだけど……」
だが、一度登録した名前を変更できるほど融通の利くロボットではないらしい。ルカの突っ込みには無反応で、ロボットは淡々と電子音を発した。
『”ルカダヨ=サン”、イキサキハ、ドチラデスカ? ガルダストリアハ、オオキクワケテ、イツツノエリアニ、ワカレテマス』
「それぞれどんなエリアなんだ?」
『”フォートレス”、”ロイヤル”、”オフィス”、”ラボラトリー”、”ストリート”、デス。モクテキチヲ、オキカセ、クダサイ』
ルカがいつまで経ってもロボットから離れないので、呆れたアイラたちの方からルカとロボットの元にやってきた。ルカは仲間の顔を見て、この大陸に入る前に見ていたミッションシートのことを思い出す。
「そしたら……メイヤーズホテルってとこに行きたいんだけど」
ルカがそう言うと、ロボットの目がピカッと光った。
『メイヤーズホテル……データベース、ショウゴウチュウ……カクニンデキマシタ。エリア・”ロイヤル”、デスネ。ソレデハ、”ルカダヨ=サン”、アンナイヲ、カイシシマス』
ロボットはそう言ってコロコロと足のローラーを動かしてターミナルの中央部に向かう。そこはこのターミナルから他のエリアにつながっている昇降機があるようだった。
「ま……知らない土地だし、とりあえずついていってみるのもありかもしれないわね」
アイラの言葉に他の三人も頷く。外観から見た限り、ガルダストリアは今まで訪れたどの街よりも広い。土地勘がわからないまま彷徨っていたら、それだけで一日が終わってしまうだろう。そうなるくらいなら、このやや頼り気のないロボットについて行った方が早いかもしれない。
『イキマスヨ、”ルカダヨ=サン”』
「はいはい……」
そうしてルカたちは、ロボットとともに昇降機の中に乗り込んだ。
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