mission6-23 謁見
波乱に満ちた闘技大会が幕を閉じ、ルカは一度宿に戻って休んでいた。連戦で極限まで体力を消耗していたのだ。
やがて部屋にアイラとユナが入ってきた音で目が覚め、ルカは身体を起こす。
「もう大丈夫なの?」
アイラに聞かれ、ルカは頷いた。
「うん、だいぶ回復したよ。それで……ウーズレイは見つかった?」
「いいえ、完全に見失ったわ。
「そうか……ユナの方はどう?」
「エドワーズさんに『ターニャ・バレンタイン』について詳しく聞こうと思ったんだけど、あの人も騒ぎの後どこかへ行っちゃったみたい。メイヤーさんたちはショックが大きかったんだと思う。しばらくは話を聞けそうな状態じゃなかった。今ガザが宿まで送ってるよ」
「そうか……そうだよな。ターニャってのはエルロンド王国の革命を起こした人なんだろ? それがまさか世界的な犯罪者になっていて、しかも目の前で捕まるなんて、メイヤーさんたちは混乱しただろうなぁ」
ユナは頷く。途中までメイヤー夫妻に付き添ったのでその様子を知っている。自分たちを解放してくれた恩人の消息が分かって嬉しいやら、彼女が自ら出頭してしまって悲しいやらでひどく狼狽していた。
アイラは煙草に火をつけながら言う。
「噂では鬼人族のグエンもあの騒動の時に姿をくらましたらしいわ。準決勝で銀髪女と接触しているから、ちょっと怪しいわね」
銀髪女が捕まったと同時に姿を消した者が三人。あまり穏やかな状況ではない。宿の外を見やると、ミトス神兵団の兵士があちこちを巡回しているのが見えた。彼らもまた銀髪女に関連のある人間を探しているのだろう。
「何にしても
アイラもユナも黙りこくる。ルカの問いに対して答えを持ち合わせている者はここにはいない。
いずれにせよ全て振り出しだ。闘技大会の優勝を逃したことで大巫女との謁見の機会は失われてしまった。また別の方法で原典を読み解く方法を探さなければいけない。
三人が頭を抱えていた時、コンコンと扉を叩く音がした。
「ガザじゃないかな」
ユナがそう言って扉を開けると、そこに現れたのはがたいのいい鍛冶職人ではなく、ウグイス色のローブに身を包んだ華奢な女だった。
「あ、あなたは……!」
服装の地味さで一瞬気がつかなかったが、フードの下に覗く整った顔を見てユナはハッとする。彼女はナスカ=エラに入ったばかりの時に出会った踊り子であり、闘技大会の受付嬢でもあった。
「しー、お静かに。ここへは他の者に見つからないよう忍んで来たものですから」
唇に細い指を当てられ、ユナは口をつぐんだ。
踊り子は音を立てないように室内に入ると、声を潜めて言った。
「急に訪ねてしまって申し訳ございません。私は大巫女イスラ様の侍女をしております。この度はイスラ様のお
「大巫女様の!?」
思わず声を大にするルカに、踊り子は再び「しーっ」と指を立てる。
「他の者に知られると都合が悪いのです。今回はあくまで大巫女様個人のお考え。ミトス神教会公式の見解ではございません」
彼女の口調には緊張と焦りが混じっていた。
アイラはふうと煙を吐くと、直球に問う。
「分かったわ。それで、その言伝って何なの?」
「イスラ様が皆様とお会いしたいそうです」
「「「え!?」」」
三人とも思わず声を上げてしまい、慌てて口を塞ぐ。踊り子はやれやれと肩をすくめた。
「驚かれるのもしょうがないですよね。理由については直接イスラ様にお聞きくださいませ。今はあまり時間がありません。とりあえず大聖堂へご案内します。……ルカさん」
「はい」
「闘技大会で使っていた神石の力で瞬間移動することは可能ですか? 大聖堂に入った後、他の者の目につかず謁見の間にお連れするにはそれしかなくて」
ルカはゴクリと唾を飲んだ。
この宿から大聖堂までとなると、歩けば三十分ほどはかかる距離だ。その間ずっと瞬間移動を使い続けるのはかなりの体力消費になるはず。
闘技大会が終わったばかりで正直あまり気乗りはしなかったが、自分が逃したものを再び手にできるチャンスだ。ルカは縦に頷き、ベッドから抜け出した。
「わかった。やるよ」
——ブンッ!
風を切る音と共に、ルカの瞬間移動の能力が切れた。
「ハァ……ハァ……こんなに長距離で力を使ったのは初めてだよ……おれもやればできるんだな……」
胸で浅く息をするルカの背中をユナはさすってやる。
ルカの神石の力で、ナスカ=エラの市街から大聖堂の中の謁見の間までわずか三分でたどり着いた。当然並大抵の人間に捉えられる速度ではないので、誰かに見られることもなかっただろう。
踊り子はローブのフードを脱ぐと、謁見の間の奥へと進み出る。奥には薄いヴェールが張られていた。彼女がそれを横に引くと、やがて人影が現れる。
「やぁ。やっと来たな、ルカ・イージス」
柔らかいソファに寝そべる、巫女装束を着崩したウグイス色の瞳に白髪の女——大巫女イスラがそこにいた。
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