第二部第六話 新型アンチスペル 前編
「さすがに声かけづらいですわね・・・」
「Magicに
そう小さく微笑む斉藤の視線の先には、いかにも冴えないポスドクといった風貌の若い男がパソコン上の論文に目をやっては手元のレポート用紙に何かを書き込んでいて、時折、ブツブツいいながら頭をかいたり、口に手をあてたりを繰り返している。書いていた紙がメモで埋まるとそのページをくしゃっと破って丸め、それを近くのゴミ箱に投げる。投げた紙がゴミ箱の周りに散らばっている。
「"シン"? センパイの名前って、そんな漢字じゃないですよね?」
不思議そうに黎花が聞き返す。
「ああ、新人だから"シン"。彼がまだボクの指導で学部の卒業研究してた頃に、在籍してた大学院生たちがつけた
斉藤が小声でそう言って指を指すと、パソコンの前の男は右手を顎にあて画面をじっと見ながら、ニヤっと笑みを浮かべている。黎花はそれを
(笑ってる? 自分の研究に強力な競合相手が出てきたのに?)
「そろそろ入りましょうか」と斉藤に促されて、黎花も院生部屋に入る。自分たちにまったく気づいていなかった様子の冴えないポスドクの男は、慌ててゴミ箱の周りの紙くずを片付け始める。
(・・・能力ばっかりに気を取られていたけど、ちょっと興味湧いてきたかも)
黎花はいつだったかと同じようににんまりという感じの顔で、その男を見つめる。
「シン君。ダメですよ?院生部屋は黎花ちゃんも使うんですから。綺麗に・・・とまでは言いませんけど、ゴミを散らかすのはやめて下さいね。
・・・それで、どうでした?その論文の感想は。」
斉藤先生がにっこりと笑いながら尋ねてくる。
「一言でいうと、『最ッ高ーーーに面白い!!』ですね。この筆頭著者のLili G.っていう
「ちょ、ちょっとシン君。落ち着いて。呪術が専門じゃない黎花ちゃんもいるんだし、ちょっとゆっくり話してくれますか?」
斉藤先生が困ったように右手を前に出して、僕を制する。興奮すると早口でべらべらとしゃべり過ぎてしまうの、われながら悪い癖だと思う。
「・・・あ、すいません。つい・・・
ええっと、この論文は、ジェネラル・アンチスペルの解析だったり、不完全性だったり、僕らが去年までやってきた内容ではなくて、ジェネラル・アンチスペルとは違う新たな
彼らがこの研究を始めた動機については、背景や、さっき言ったようにdiscussionで、『ジェネラル・アンチスペルには未だ不透明な部分があるので、このまま一般的に普及させ続けていいのか』というところから、今回の新しいアンチスペル開発を思い立ったと書いています。その点に関しては、僕達と同じですね。
それで、彼らがとった方法は、これまでの
そこで、Liliたちがどうしたかというと、このような呪術式を破壊する魔法式のなかで、"
僕が説明を続けようとすると、黎花ちゃんがそれを
「ちょっと待って下さい、センパイ。私が呪術について、そんなに詳しくないせいかもしれませんけど、"
この質問は、呪術学を学んでいれば当然の質問で、黎花ちゃんが短期間とはいえ呪術学をしっかりと勉強している裏付けにもなる。
「そう。そうなんだ。たった6文字とはいえ、同じ配列の魔法文字が繰り返す部分なんて、普通の呪術式にはほとんどない。いや、まったくと言ってもいいくらいないんだ。 ・・・でもね、その繰り返し配列が対象の呪術式にまったくないからこそ、彼らの新型アンチスペルは効果を発揮するんだよ!」
斉藤先生も黎花ちゃんもポカンとした顔でいるのを気づきもせずに、僕は嬉々として説明を続けるのだった。
■田中佳苗の「最後」まで、あと
―1年と10ヶ月
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