第4話 凛のお願い

「それでね・・・二人にお願いがあるんだけれど」


ホストクラブの取材に行かなければいけないと言われた後の凛のお願いごと。

いくら鈍い者であっても勘付くだろう。


「嫌!!私は絶対に嫌だからね!!」


お願いごとを聞く前に雪乃は全力で拒否をするが、敵も必死である。


「まだ何も言ってないじゃない。まぁ、考えている事は正しいけどね」


「嵌ったら怖いもん。テレビでよく見るじゃん。自分だけは大丈夫と思って行ったら、嵌って泥沼ですみたいな」


絶対に行かないと頑なに拒否する雪乃。だが反対に若葉は乗り気だった。


「えー!!私は一回行ってみたかったから行きたい!いつ行くの?行こうよ」


目をキラキラさせながら凛に尋ねる若葉の姿に、雪乃は背中に冷たいものが流れて行くのを感じる。

こうなった若葉を止めるのは至難の業であり、いつもは一緒にフォローに回る凛からの援護も今日は期待できない。

それでも最後まで抵抗だけはしようと口を開きかけた・・・その時。


「じゃあ、せっかく集まったしこの後行ってみようよ。一応事前に人気の所はリサーチしてあるし、ここから歩いて10分くらいだよ」


あー。嵌められた。と思った時には遅かった。恐らく凛は上司から依頼が来た時点で雪乃達を巻き込む事を決め、今日の店を選んだに違いない。この場に来た時から雪乃の運命は決まっていたのだ。

恨みがましい瞳で凛を睨めば、居心地悪そうな苦笑いが返ってくる。


「ごめんね。最初に言ったら絶対雪乃来ないと思ったし・・・でも若葉と二人で行くのも怖かったからさ。お詫びにはならないけれど、ホストクラブの飲み代は経費で落とすから・・・ね?」


「もう!分かった。付き合うよ」


「良かった。それなら何件か選んだから、そこからどこにするか決めよう」


雪乃は知らなかったが、ホストクラブを紹介するサイトがあるらしく、凛はその中から人気店を何店か選び見せてくれた。雪乃は特に興味もなかったので店は二人に任せると言うと、未だに綺麗にライトアップされている桜を眺めていた。



三人は知らなかった。

この時の選択が後に始まる破滅への第一歩だった事を。

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