第3話 恒例の報告会
「最近はどうなの?」
報告会はいつも若葉のこの言葉から始まる。特に決めた訳でもないのに、いつの間にか恒例化していた。
「私は変わりないかな。毎日同じ事の繰り返し。旦那を見送って、家事して、旦那の帰りを待って・・・。変わり映えしなさ過ぎて、時々自分が置いてきぼりにされた気分になる」
二年前に結婚した雪乃。それまでは人並みに働いていたが、体が弱い事もあり、結婚を機に仕事を辞めている。
雪乃が決めた事とは言え、毎日淡々と過ぎて行く毎日に多少の不満があるのが若葉達にも伝わってくる。
「まぁまぁ。そんな事言っても晃さんの事は好きなんでしょう?」
晃とは雪乃の夫の名前である。
「晃君の事は好きだよ。優しいし、家事も手伝ってくれるし・・・私には勿体ないくらいの人だよ」
「そうだよね。晃さんに会う前の雪ちゃんの男運思ったら、あれ以上の人はいないよね」
雪乃自身、晃に会うまでの男は思い出すだけで頭を抱えたくなるほどなので、若葉の言葉に反論する余地もない。
このままでは雪乃の黒歴史の話になってしまうと話を逸らそうとすれば、空気を読んだ凛が先にさり気なく矛先を変えてくれた。
「若葉はどうなのよ?透ちゃんももう4歳でしょう?元気なの?」
若葉は23歳の時にできちゃった結婚をし、その二年後に夫は別れている。親権は若葉が取り、今はシングルマザーとして一人息子の透を育てている。
透に負担をかけない程度に男遊びはしているようだが、基本は長続きしていない。
「透は元気すぎる程元気だよ。今日も雪ちゃんに会いたいから一緒に行く!って言ってたけど、お母さんに頼んで見てもらってる」
「ちょっと!!会いたいのは雪乃だけなの?私には?」
「・・・だって透は雪ちゃん大好きだから。凛ちゃんは基本子どもに好かれないんだし、諦めなよ」
昔から雪乃は子どもに好かれやすい。反対に凛は子どもと遊ぶ時も真顔の為、怖がられ泣かれることが多かった。何度アドバイスしても真顔は直らないので、もう子供に好かれるのは諦めた方が良いと雪乃も若葉も思っているのだが、凛はまだ望みを持っているようだ。
「子どもに好かれるか好かれないかは一先ず置いといて・・・凛は最近どうなの?やっぱり仕事が忙しいの?」
三人の中で凛だけが独身であり、出版社では地味に出世している。地味に出世という所が凛らしく、このまま地味に出世し続けて欲しいと雪乃と若葉は願っている。
毎回報告会では凛のみ男関係ではなく、仕事関係の報告をしてくるのだが・・・仕事の報告をされる度に私達は凛の上司かと雪乃達にツッコまれていたりもする。
「あー・・・仕事ね。うん・・・仕事は順調なんだけどさ」
今日もまた当たり障りのない仕事報告が来ると思っていた雪乃達は、凛の歯切れの悪い返事に何かあったのかと表情を変えた。
二人の変化に敏感に反応した凛は、大したことないのよと笑って話を続けた。
「今度ね。女性誌の企画でホストに嵌る主婦たち。って言うどこかで聞いた事があるような事をするんだけどさ・・・その前に取材がてらホストクラブに行って来いって上司から言われたのよ」
凛が言った瞬間、それは人選ミスだろうと凛を知る者なら誰もが思っただろう。
基本的に凛は余程仲良くない人以外の人間には線を引いて付き合っている。それに加えて人見知りの男性に苦手意識を持っているのだ。
そんな凛がホストクラブに行って取材など・・・苦行でしかない。
「・・・何ていうか・・・上司ももう少し人選は考えた方が良いよね」
それ以外に出てくる言葉が雪乃にはなかった。
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