第12話 輝けし漢:決着
「さあ、決着を着けようか!!!! 」
僕と綺羅星は、互いにもはや満身創痍。
気を抜けば即座に倒れてしまいそうだ。
それでも、僕らはここに立ち続ける。
きっと綺羅星も今の僕と同じことを考えているんだろうな。
――コイツだけには絶対に負けない、って。
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★
「……さっきからちょこまかと背後に回ってくるのが、その《
綺羅星も僕も、今は立っているのがやっとの状態。
ましてや、もう先程までのような打ち合いは絶対にできない。
勝負は、決着は次の一撃で決まる。
だからこの会話はいわば
「ご名答。この【
ファイティングポーズを取ったまま、ステップを刻む綺羅星は鷹揚にそう答える。
「随分と簡単にバラしちゃうんですね? 」
「ハッハッハッ、構わないさ。転移能力はこの戦いの中で何度も見せたから推測も付くだろうし、何よりも――」
「……何よりも? 」
ニヤリと口角を上げる綺羅星。
「――タネが割れたところで防がれるとも思っていないのでな」
……どうやら綺羅星は随分と口が達者なようだ。
綺羅星の煽りに怒りとも悔しさともつかない、えも言われぬ感情が沸々と込み上げてくる。
思わず飛びかかってしまいそうな衝動を必死で抑えた。
ここで感情的になれば負けてしまう。
「……へぇ、そんなに自信だけは満ち溢れているなんて、ある意味羨ましいですよ」
ギリッと奥歯を噛み締めながら、精一杯煽り返す。
「ハッハッハッ、褒め言葉として受け取っておこうか」
が、綺羅星には暖簾に腕押し、どこ吹く風といった様子。
どうやらこの前哨戦は、綺羅星に軍配が上がってしまったようだ。
「……さて、楽しいお喋りもそろそろ終わりにしようか」
先程から続くステップが更にペースを増していく。
先ほどの煽りあいでペースを完全に持っていかれた。
綺羅星に主導権を与えてしまったのは非常に痛い。
「……望むところッ! 」
ならばこそ、ここは強気に攻めていくべきだろう。
もう何度目かもわからないが、【ブリューナク】をギュッと握りしめて気合を入れ直した。
「…………」
「…………」
極度の緊張状態から不意の静寂、凪とでも言うべき空間が生まれる。
綺羅星のステップとは対称的に、一歩一歩河原の地面を踏みしめるように、じわりじわりと距離を詰めていく。
「…………」
「…………」
……睨み合ってからどれくらいの時間が経っただろうか。
体感では30分以上にも感じる程だが、現実には1分も経っていないのかもしれない。
まだ5月も始まっていないというのに、冷や汗が頬を伝う。
いまだ響くのは綺羅星のステップと僕の足音、それから2人の息遣いのみ。
それ以外は、うるさいくらいの静けさがこの場を
そして、唐突にその時は訪れる。
「「…………フッ!!! 」」
綺羅星のステップと僕のすり足が重なったその一瞬で、どちらからともなく駆け出した。
相対速度を急増させながら互いに最高の一撃を叩き込むために力を込める。
その距離を互いに押し縮めて、間もなく僕の【ブリューナク】の射程圏内に重なるだろう。
だが綺羅星の《
綺羅星に『瞬間移動』という切り札がある以上、後手に回るのは致命的と言っても過言じゃない。
だが、『瞬間移動』は体力を消費するので、綺羅星の様子からして発動はあと1回が限度だろう。
ならば僕に残された勝機は――。
【ブリューナク】の間合いに綺羅星が重なるまであと3秒程。
2。
1。
「――今だっ!! 」
間合いに入った綺羅星に対して僕が選択したのは上段からの袈裟斬り。
走った勢いをそのままに、右足を地面を抉るほど強く踏み込んで繰り出したその一撃は、ビュウと熱風を撒き散らしながら綺羅星に襲いかかる。
この戦いが始まってから、というより槍など握ったこともなかった人生の中で恐らく最高の一撃と言っても過言ではないだろう。
だが、綺羅星は足を止めない。
迫り来る刃を避けようともせずそのまま突っ込んできた。
「っ!? 」
「ぐっ……」
ザクリ。
そうして勢いよく振り下ろされた【ブリューナク】は綺羅星の右手に食い込んだ。
本来ならば防いだ右腕ごと切って落とす程の威力だったはずの袈裟斬り。
しかし、歩みを止めなかった綺羅星に対して無意識下でブレーキがかかったのか、その刃は勢いを弱めた。
「……捕まえたぞッ!! 」
完全に計画が狂ってしまった。
綺羅星の圧倒的アドバンテージである【
上段からの袈裟斬りはこれに対処するための技だった。
振り下ろした刃を避けるために綺羅星が瞬間移動したところを討つ計画。
瞬間移動で不意打ちできる場所は僕の死角、つまり背後から頭上にかけての空間だと予測することができる。
だからこそ、上段からの袈裟斬りの後にノータイムで右足を軸にした斬り上げを後方に放つつもりだった。
だが、綺羅星は振り下ろされた【ブリューナク】を避けるどころか受け止めて反撃に打って出た。
初撃の優位性を完全に殺され、【
そして右腕を血に染め、大やけどを負っても、綺羅星は容赦なくその脚を振り抜く。
「りゃあっ!」
「……っ!! 」
ミヂッ。
軋む音と共にそのキックは僕の鳩尾に吸い込まれた。
瞬間、爆発するような痛みと呼吸代わりに込み上げてくる吐き気。
「うぷっ……」
綺羅星は鳩尾に突き刺さった左足を腰の捻りを利用してさらに抉り込む。
ミヂヂッ。
重い、綺羅星の全体重を乗せた一撃。
そのまま綺羅星は足を振り抜いた。
「がはっ! 」
なすすべなく吹き飛ばされる僕。
綺羅星は更に踏み込んでもう一撃放つ構えをとる。
「これで……終わりだっ!! 」
そうして綺羅星の姿が掻き消える。
『瞬間移動』を防御ではなく追撃に使ってきたのか。
後方から来るのは分かっている、だが、身体が動かない。
「ラァッ!! 」
「ガッ…………」
空中に転移した綺羅星のソバットが僕の背中で炸裂した。
突き抜けるような痛みとフワリとした浮遊感が身体を襲う。
走馬灯というやつだろうか、風景がスローに見えてきた。
僕は考える。
この戦い、作戦も技量も何もかも綺羅星に負けていた。
蹴りは重く、身のこなしは軽く、《
だけど、それでも、僅かでも可能性があるならば、僕はまだ諦めない!
僕の《
だが、《
頭に思い浮かべるのは寺本くんに借りた『ファンタジー武器大全』の一文。
『投げれば敵を貫き、その姿から太陽神ルーは<長腕のルー>と呼ばれたそうです』
これから察するに、【ブリューナク】の《
――ならば、これに賭けるしかないだろう。
吹き飛ばされた空中で軋む身体を捩って無理矢理タメをつくる。
不安定な体勢だが、そんな事は関係ない。
見据えるは綺羅星のその姿のみ。
今だソバットの体勢のまま空中に漂う綺羅星に逃げ場はない。
「……っがぁぁぁぁぁあ!! 」
僕は我武者羅にその捻れを開放した。
「『
その槍が僕の手から放たれた瞬間、能力が発現する。
対価にゴッソリと体力を持っていかれる感覚、急激な疲労がのしかかる。
だが、その槍【ブリューナク】は対称的に輝きを増した。
いや、この表現は正しくないだろう。
【ブリューナク】は正しく光そのものになったのだ。
太陽のレリーフからどんな白よりも真っ白な光色が槍を包み込む。
超高温を伴った一条の光は河原の石を溶かし、熱風を巻き上げながら、ただただ真っ直ぐに敵を穿たんと進んでいく。
「うぉおおおおおおおっ!!! 」
驚愕に顔を染める綺羅星。
だが、彼にこの攻撃を避ける術はない。
そして白の光線は綺羅星の右足を貫いて血飛沫を撒き散らしながら、遥か後方に突き刺さってその勢いを止めた。
――ドサリ。
僕と綺羅星がほぼ同時に地面に落ちる。
落下の衝撃で身体が軋むが、最早身動きすらもままならない。
河原の地面のひんやりとした冷たさが火照った身体に染み渡る。
まぶたは重りでも付けたかのような重量感。
限界を迎えた僕にポケットから無機質な声が発せられた。
「You Win」
ああ、僕は勝ったんだ……。
その短い音が耳に届いたのを最後に、僕は今度こそ意識を手放した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます