第11話 輝けし漢:攻防
ガキィン、と甲高い音を立てて交差する槍と足。
「――っつ!? 」
だが、【ブリューナク】の衝撃は受け止められても纏う炎は避けられないようで、綺羅星はすぐに数歩分後ずさった。
「やぁッ! えいッ!! だあぁッ! 」
僕はすかさず距離を詰めて、がむしゃらに槍を振るう。
上段、左からの薙ぎ払い、一歩踏み込んでの突き。
怒濤の三連撃で綺羅星を追い詰める。
武術の心得など欠片もないが、僕の《
長槍の利点は、まさしくその名前が示す通りに、リーチの長さにある。
素人の僕でも遠心力に任せて振るうだけで、威力のある広範囲攻撃が放てるのだ。
現に、攻撃の主導権を握った瞬間、先程までとは打って変わって綺羅星は防戦一方。
【ブリューナク】が《
「うりゃぁぁぁ! 」
トドメとばかりに、突きを放った体勢から、無理やり慣性に抗って頭の上に槍を振り上げた。
「ガアッ!? 」
その穂先は見事に綺羅星の左脇腹、ちょうどくびれの辺りを切り裂いて、身につけているスーツに鮮血を滲ませる。
さらに追い討ちをかけるかのごとく、【ブリューナク】の炎を纏った黄金の穂先は傷口とその付近に火傷を負わせる。
脇腹の傷は赤黒く変色し、掠っただけの腕や太腿も赤く腫れてところどころ火膨れを起こしていた。
「ぐぅっ……がぁぁぁぁっ……!! やってくれたなッ! 少年!! 」
綺羅星は苦痛に顔を歪ませながらも鋭くこちらを睨んでくる。
「……これは到底出し惜しみなどできそうに無いな……。ここからは本気で行くぞ少年、気張れよ? 」
綺羅星がゆらりと構えるのを見て、僕は即座に距離を取った。
僕の得物は長槍、対する綺羅星は徒手空拳。
槍と足、このリーチの差は僕にとっての大きなアドバンテージであり、【ブリューナク】を薙ぐことができる距離さえ稼いでしまえばこのまま綺羅星を近づけずに押し切れる――と思っていた。
綺羅星はグッと身体を縮めると、一瞬でそれを開放、恐ろしいほどの加速で僕に飛びかかってくる。
だが、いくら速いダッシュと言っても程度は知れている。
僕は、そのままカウンターで綺羅星を仕留めるために【ブリューナク】を振るった。
それが綺羅星の策だと気付かずに――。
「――かかったなッ! 」
瞬間、綺羅星の姿がブレる。
そのまま空を斬る【ブリューナク】。
まずいッ! ――そう思った時には既に遅かった。
振り向いた僕の目に飛び込んできたのは【
その直後、僕の頭部を激痛が襲った。
「あぁぁぁぁぁ!?!? 」
直撃したのは綺羅星の『カカト落とし』。
目の前で火花が散ったかのように錯覚するほどの痛みと、首や鎖骨がミシリと軋んだ音を立てるほどの衝撃、そして何より、前から突っ込んできた敵に後ろから攻撃されるという謎。
この3つを同時に叩き込まれた僕は混乱とダメージで意識が途切れそうになる。
が、容赦なくボディーを狙って打ち込まれる綺羅星のラッシュがそれを許さない。
「ぐっ! がっ! がはっ! おぐっ! げひゅっ! 」
「どうしたッ、貴様のッ、限界はッ、この程度かッ、少年ッ!! 」
左、右、左、左、右。
まるでサンドバッグでも叩くかのように滅多打ちにされる僕。
朦朧とする意識と先ほどの攻撃で出血した額、全身の痛みと強烈な吐き気をどうにか抑え込み、必死で【ブリューナク】を薙いだ。
「――っフッ! 」
だが、それを見越したかのように、またしても綺羅星の姿が消える。
「っ!? 」
驚愕するのも束の間、背中を狙うハイキックをモロに喰らって、体内の空気を強制的に全て吐き出させられた。
息が詰まり、呼吸ができない。
「カッ……ハッ……」
ドサリ、とそのまま倒れ込んだ僕を見下ろす綺羅星。
しかし、その顔には何故か極度の疲労が浮かんでいた。
傷ついた身体で激しいアクションをしたせいでもあるのだろうが、それだけではない。
もっと、息も絶え絶えといった様子だ。
「はぁ……はぁ……【
綺羅星はそう言い残すと未だ倒れ伏している僕に背を向け、去ろうとする。
今の僕には、もう起き上がる力すら残っていない。
このまま重力に軋む身を任せて眠ってしまいたい……。
そうしたら……どれだけ気持ちいいだろうか……。
僕は……充分頑張ったはずだ……綺羅星の言う通り……僕のベストを尽くした結果がこれだ……もう……諦めても――。
「――輝!! 負けるなぁぁぁぁ!!! 頑張れぇぇぇぇ!!!! 」
不意に耳に届くのは毎日のように聞いてきた声。
僕の幼馴染、服部 奈緒の叫び声だ。
ああそうだ、まだだ、僕はまだ終われない。
まだ綺羅星に英司を蹴り飛ばした借りを返していないし、僕自身こんなにボロボロになるまで殴られたんだから一矢くらい報いてやりたい、そして何より――。
「――健気な美少女の前でくらい格好つけなきゃ、男じゃないよね!!! 」
全身が痛む、視界は霞む、頭痛はぐわんぐわんと唸りを上げて襲いかかり、【ブリューナク】を持つ手は小刻みな震えが止まらない。
限界などとうに超えている。
だけど、それがどうした!
「……僕は……負けないッ!!!! 」
僕に呼応するかのように【ブリューナク】から黄金色の輝きが発せられた。
「……まだ立つのか、少年」
一方、歩みを止めて振り返った綺羅星はというと、髪は乱れ、血を流し、顔は青白く、額には玉のような汗が浮かび、数え切れないほどの火傷と脇腹には大きな切り傷を負い、まさしく満身創痍といった風貌だ。
「友と女のために何度でも立ち上がる、か……」
だが、それでも、それでも綺羅星の爛々とした目の輝きは欠片も失われていなかった。
「嫌いじゃないぞ、その心意気ッ!!! 」
綺羅星の【
輝きを増した2つの《
「さあ、決着を着けようか!!!! 」
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