第9話 輝けし漢:遭遇
「全く……英司も奈緒も酷いよ……」
「わりぃわりぃ、輝があんまりにもいい反応するもんでな」
「絶対Mの素質あるわよ、輝は」
「全然嬉しくないよ……」
実験と称して火炙りの刑(ライターで)に処されてから数分後、僕は河原の高架下で実行犯2人を正座させていた。
奈緒と英司が悪ノリするのは多々あることだけど、その度に正座で反省会を開くのは最早お約束だ。
「でもライターはやりすぎ! 万が一があったら危ないでしょ! でも、こんなのなんで持ってたの? 」
「いやーごめんごめん。ライターは英司がいつも持ち歩いてるやつね。無駄に物持ちがいいんだから」
「他にもいろいろあるぜ? ほれ」
英司がポケットを探ると出るわ出るわ。
ライター(2本目)、ハンカチ、十得ナイフ、10円玉、ポケットティッシュ、etc……。
「そうだった……。英司のポケットを忘れてたよ……」
英司は僕たち3人の中でも兄役というか、昔から僕と奈緒の世話をよく焼いてくれた。
奈緒は昔からお転婆少女で、よく怪我をしていたのを治療するために絆創膏を持ち歩いたのが始まりだったと思う。
それ以来、英司のポケットには役立つ小物が沢山入るようになった。
僕自身、何度もそれに助けられたことがある。
「もう、今度から危ない悪ふざけはやめてよね? 」
「分かった、分かった。ほら、昨日も遅かったし今日はそろそろ帰ろう――」
ヴー、ヴー、ヴー。
英司の声を遮って耳障りな振動音が生じた。
音源は胸ポケットの黒いデバイス。
《
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★
時刻は午後5時過ぎ。
デバイスの画面に表示された《Rレーダー》の赤点は時々刻々と僕の赤点との距離を縮めてきていた。
「……確実にこっちに向かってるね」
「え、えっと、寺本くんの可能性は? 」
「なくはないが、限りなく低いな。まだ部活の終了時刻じゃない」
「昨日からイベントの密度が濃すぎるよ……」
ため息を吐きつつも、【ブリューナク】の柄をギュッと握りしめる。
《
僕のスペックは普通の高校一年生、一般人に過ぎないのだ。
「こんなことになるなら武術の一つでも習っておけばよかったな」
無意識に膝が震える。
自分ではさほど緊張していないと思っていたが、身体は正直だ。
「輝、落ち着け。相手は夕方にしても早い時間に行動できるようなヤツだ、大人の可能性は低いはず。それにいざとなったら俺も戦うさ。ナイフもあることだしな」
ポンポンと背中を叩いて慰められる。
英司だって怖いだろうに……やっぱり英司はすごいなぁ。
ふとデバイスに目を落とすと赤点同士の距離はあと300mあるかないかといったところになっていた。
「本当に無理だけはしないでね? 輝が元気なのが一番なんだから……」
若干涙目になった奈緒が上目遣いで僕を見上げてくる。
チアガールが人気な理由が少しわかった気がした。
美少女の応援は確かに力が湧いてくる。
「大丈夫、ほら【ブリューナク】もあるし。なんたって炎が出るんだからね」
本当? と聞き返してくる奈緒に何度も本当だと念を押すのを繰り返しているうちに赤点の距離は150mを切っていた。
そろそろ赤点の主が見えてくるはずだ。
「……ふぅ……」
一つ深呼吸をして黄金の槍を構える。
奈緒には強がったが、やはりどうしようもなく怖い。
懸かっているものが自分の命なのだから当然といえば当然なのだが。
《
だから恐らく『棄権』という選択肢は用意されてないだろう、というのが3人で話し合った結論だ。
でも、殺そうとしてくる相手にわざわざ無抵抗でやられてやる程僕はお人好しじゃない。
例え誰であれ、敵対するなら容赦はしない。
刻一刻と遭遇の時が近づいていく。
デバイスの振動に比例して《Rレーダー》の赤点が近づき、100m以内に入った。
90……80……70……。
そうして視線の先に見えてきた参加者は――
「ハッハッハッ!! そこの少年少女たち! 君たちが《
「「「えぇ……」」」
なんか予想と違った。
なんだろうこの虚無感は。
ビシッと僕たちを指さしているホスト風の男――恐らく、というかほぼ間違いなく参加者――は何故こんなに自信満々なのだろう。
スタイリッシュなスーツときらびやかな装飾品が彩るのは身長175cmほどのイケメン。
少し長めの金髪をたなびかせ、微笑みを湛えたその顔は、いわゆる王子系というやつに近いのだろうか。
ともかく、散々気張っていたところに現れたのがチャラそうなホスト男、しかも言動がだいぶ怪しいとなれば今の僕の困惑も仕方ないと思う。
「ん? どうした、少年少女たち。……ははぁん、なるほど読めたぞ? さてはこの綺羅星 北斗の美貌に見惚れていたな? まあそれも致し方ない。なにせ俺は綺羅星 北斗なのだからな! ハッハッハッ!! 」
どうしよう、ウザい。
「おっと少年、そんなに見つめられると照れてしまうぞ。だがすまんな、生憎と男に惚れられて喜ぶ特殊な感性は持ち合わせていないのだ。ハッハッハッ!! 」
……なんとなくこの人のことが分かってきた気がする。
「ねえ、英司、奈緒……この人……」
「……輝もそう思う? 」
「多分そうだろうな……」
3人で顔を見合わせて頷きあう。
きっと、この綺羅星さんとやらはそうなのだろう。
無駄に自信に満ち溢れた言動、夕方の河原にホストスタイルで来てしまうセンスのなさ、一人称を自分の名前にしてしまう辺りからもヒシヒシと感じられてしまう残念さ。
これらの情報から導き出される結論、恐らく、目の前のホスト男の正体は――
「「「ただのバカだ! 」」」
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