第8話 機会都市?
結局、奈々と拓也と三人で一旦宿舎ーーもう寮って呼んだ方が早いか?ーーに戻り、一息つこうと談話室に入り座ったところで、奈々から左腕の治し方について教えてもらった。
それはとても簡単な方法で、霊刀を創る時のイメージを思い出しながら魂を身体の中で循環させるだけでいいそうだ。そうすると自然に患部ーーこの場合は左腕だがーーそこに魂が流れ込み、動くようになるとのことだった。
また、霊刀に斬られた箇所は普通の怪我と同じく、自然に閉じていくらしい。深い傷になると、中々傷口が閉じないでどんどん魂が流れ出て、最終的には死んでしまうという。
「魂が無くなると死ぬ……か。全然不思議でもないか」
「まあね。魂が無くなると、そのうち脳も心臓も動かなくなっちゃうし」
「僕達の中に憑依してきた魂は、元々自分の中にあった魂と完全に混ざりあってるからね。身体のあらゆる機能はそれに頼りきりなんだよ」
「なるほどなぁ。鞘の事といい、魂の消費を出来るだけ抑えるかってことを重要視するわけだ」
下手をすれば戦場のど真ん中で指一本動かせない状態になるって事だもんな。
魂の使い方によっては消費を少なくしたりもできるかもしれない。
とりあえず、この腕を治すとこから始めるか。
立ち上がり、目を閉じる。
試験で霊刀を創り出した時の感覚を思い出す。右腕を流れる、暖かい感覚を。
よし、なんとなくわかってきたぞ……。あとはこの感じを、全身に回すつもりで、左腕に……。
しばらくすると、左腕でも暖かさを感じられるようになった。
ゆっくり、慎重に指を動かしてみる。
動く。当たり前のことがなんだかとても嬉しかった。
温かみを逃さないように、ぐっと、握りしめた。
「できた……」
「うん。おめでとう」
奈々が、まるで聖母のごとき優しい笑みを浮かべてこちらを見ている。
……これで、さっきまで腕のことを完全に忘れられていたということさえなければ完璧だったのに……。
拓也は奈々の笑顔がツボに入ったのか、顔を背けて笑いを堪えていた。体がプルプル震えていたのでバレバレだったが。
「でも、なんだろうな。さっきよりちょっと怠くなった気がする」
「体内の魂を少しずつ左腕に回したから、全体的な濃度が下がってるんだ。だから少し怠く感じるかもね。元の量まで戻ればそれも失くなるはずだから、心配しないで」
拓也は笑うのを我慢しながら、ちゃんと教えてくれた。
こいつ、面倒見はいいのかもな。嫌な奴ってわけでもないし。なんだかんだいい奴なんだろう。
「うし。じゃあそろそろ行ってくるかな」
「「行ってらっしゃい〜い」」
と二人に見送られて談話室を出ようとして気が付いた。
「いや待て待て待て。拓也、お前だって今日学校じゃん。一緒に行かねーのかよ?」
「ん? あー、そういえば僕も学校行かなきゃ行けないんだっけ?でも面倒くさいから遠慮しとくよ。先生によろしく言っといてね」
「なっ!こ、こいつ……」
「ケンヤが真面目すぎるんだよ。わざわざこんな大変な日まで学校行かなくてもさ。気楽に生きようよ」
なんて言いつつ大きな欠伸を一つ。そのまま椅子で寝始めた。
こ、このやろう。別に眠くはないんだが。俺だって疲れてるっての!
「はぁ、もういいや。行ってきます」
少しぶっきらぼうに言って部屋を出た。
午前八時ちょい前。
今から家に荷物を取り行くから……遅刻は確定だな。この際焦っても変わらないしのんびり行くか。
べ、別に拓也じゃないんだから、ある意味合法的に遅刻できてラッキー、とか思ってないし!
一時間後。
いやー、この辺りが住宅ばかりとはいえ、同じような建物が多すぎるんじゃないかな?
もう三回目だし。まさか。似てるだけだもんね。絶対同じ場所とかじゃないもんね。
……こ、こほん。どうやら迷子になったらしい。
来るときは結構ぼっーとしてたし、奈々の後にくっついてただけだからあんまり道とか覚えてないし。
どうしよう?
今更戻って奈々に頼むってのもなぁ。
そもそも本部に戻れるかも怪しい。
うーん、と悩んでいると後ろから
「ケンヤー!」
と呼ぶ声が聞こえた。
こ、この声は……女神かっ!
バッと振り向くと私服に着替た奈々が駆け寄ってくるところだった。
黒と赤の細かいチェック柄の長袖のパーカー。まだすこし肌寒いからか春物にしては厚い服。デニムのショートパンツに黒のストッキング。靴は……スニーカーぽっく見えるが微妙に違う。戦闘用だろうか?
「良かった〜すぐに見つかって。ケンヤに大事なこと伝え忘れてて。急いで追いかけてきたの」
「へ、へー、そうなんだ」
な、なんだろう。大事なことといえば二人の結婚式の日取りとか…て、何考えてんだ俺!最近の俺の頭の回路はどうなってんだ……。これは、あれだな。
妄想はほどほどにね!
ってやつだな。
「本部の周りのことなんだけどね」
ですよね。
「この一帯、具体的にいうと本部から半径……ええと、何キロだったかな?確か十くらいだった気が……どうだっけ?」
「むしろ俺が聴きたいんだけど」
「だ、だよね。まあいいや」
いいのか?
「ええっとね。本部から出る時は、必ず事務の係のところに行って許可を貰わないといけないの。じゃないと、どの出口も封鎖されちゃって、全く動けないってことになっちゃうんだ」
「出口って言ったって、それらしいドアとか門とかあったっけ?」
三回も同じ景色を見てたんだから、気づきそうなもんだけど。
「そうじゃなくてね。あっ、そろそろ始まるよ。百聞は一見にしかずってね!」
な、奈々がことわざを使うなんて……流石に馬鹿にし過ぎか。
奈々は一つの家を指差していた。
壁は真っ白。特に目立つ特徴もない、普通の建て売り住宅。『売地』と看板がでているから、中には誰も居ないはず。まさかあの家のドアのロックが外れて裏口から外に出るとか、そんなんか?だとしたらなんか地味だよな。って、うおっ⁈
前方からゴゴッという凄まじい地響き。
い、家が沈んでやがる!最初に思いついて、最初に捨てるような選択肢できやがった!どこぞの機械都市じゃあるまいし、こんな大掛かりな設備を……。
「てゆか、これメチャクチャ目立つだろ!継魂者エターナーには守秘義務とかないのかよ⁈」
「もちろんあるよー?学校の友達とかに喋っちゃダメなん」
「もうそういうレベルじゃねぇよこれ!」
そうまくしたてている間に家は完全に沈み、地面という名の蓋が被せられた。それは何事もなかったかのように、平然と周りの風景と混ざりあっている。
「なあ、もしかして、本部から出入りする度にこんなことしなくちゃなんないのか?ぶっちゃけ、凄いめんどくさいんだけど」
正直げんなりとしていた。最初は少年心を思い出して感動もしたが、何より時間がかかり過ぎだ。普通に鍵付きのドアでいいだろ?誰だよ、こんなの発案したやつ……。
「ちなみにこのアイデアは大将が考えたんだよ?目立つの好きだから、そのせいかも」
「大将?」
「関東エリア全体のリーダーのことだよ。凄く強いの!」
奈々は眼を輝かせて語ってくれたが、冗談じゃない。うちの大将さんはなんて恥ずかしい奴なんだ。痛々しいにもほどがある……。
「そーいえば、他にも出口はあるんだよな?まさか全部こんな感じなのか?」
「いや?こうなってるのはここだけ。他の出口はスーパーとか映画館とかの従業員専用入口を使ったりしてるよ」
「じゃあなんでここだけ……。というか、それってそこで働いてる職員の人達に迷惑じゃないか?」
「それは大丈夫!この辺り一帯のお店はほとんど関東エリア本部が経営してる所だから」
「それで小遣い稼ぎってわけか」
「うちの本部はそんなにお金がないから、しょうがないよ」
なるほど、バイトとかで雇ってもらえるなら俺も手伝うか。おっと、話がそれたな。
「お金がないって、この前『縛ばく』を売り払ったばかりだろ?」
「それは結構前の話だよ。それからもう八十年くらい経ったから。それに……」
「それに?」
「この門を造る時に出来た借金を返すのにも使ったんだよね……」
「な⁈」
「漢の浪漫がどうとか大将がうるさくてね、あははは……はぁ」
そりゃ嫌でも溜息でちゃうよな。わざわざ借金までして造るとか、何考えてんのか……。そいつの顔が見てみたいぜ。
「それはそれとして。ケンヤは時間大丈夫なの?もう本部を出てから一時間以上経ってるよ?」
「ん?あっ!完全に忘れてた!とはいえこの時間じゃな……。うーん、今日は家でゆっくり休むか」
「それがいいよ。あとこれ、受付の人に頼まれたから渡しとくね」
「これは?」
「本部に入る前に教えたでしょ?本部から連絡の入る専用の端末。見た目はほとんど普通のスマホだから日常生活で使っても怪しまれたりはしないと思うよ」
「おお。そういえば言ってたな。サンキュー」
ケンヤは端末を上着の右ポケットに忍びこませる。
「よし、そろそろ帰るわ。わざわざ案内してもらっちゃって、悪かったな」
「ううん、気にしないで。お疲れ様!また明日ね〜」
「おう、また明日」
奈々に手を振って、新しく出来た道を家に向かって歩き始める。
あっ。
引っ越し。どうしよう?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます