ゆうた1‐1
俺は何週間も前からイメージトレーニングを繰り返していた。
大学のテストどころではない。今年こそ、今年こそは、ちはるの誕生日にデートに誘うんだ・・・!
昔からちはるは、誕生日を祝われるのを極端に嫌う。それにはちゃんとした理由があるから、仕方がないと思ってる。だから、毎年なんとなくやり過ごしてきてしまったけど、俺もやっと大学生になったわけで、大人の階段をまた一つ登ったわけで、そろそろ弟キャラを卒業しないといけない。
なんてね。
俺とちはるは、家が隣同士で小さい時からいつも一緒にいたし、お互い一人っ子だから、本当の姉弟みたいに育った。今更俺のことを、そんな風に見てもらえないかもしれないけど、俺はあの時から、ちはるのことを絶対に守るって決めたから。
でももう、全部終わった。作戦失敗。
どこかへ行ってしまいそうな心臓を手で押さえて、家の中に飛び込んだ。ガクガクした足で、そのままリビングのソファーに倒れ込む。
「あら、裕太おかえり。ちょっと、手洗ったの?」
「ああ・・・終わった・・・」
「え?なんだって?」
母さん、俺は今、手洗いどころじゃないんだよ。
一人反省会だ。ちはるが断るのは想定内だったが、思ったよりも反応が冷たくて、俺は動揺してしまった。いや、でも、あれがちはるだ。いつも通り。いつも通り可愛いし。えへ。
それは置いといて。
プレゼントも強引に渡しちゃったし、最後の最後で俺の悪いクセが出てしまった。子供っぽい弟キャラはもう卒業じゃなかったの?俺。
「なに、どうしたの裕太」
こんな最悪な感じで終わったのに、あの後カッコつけたドイツ語のメッセージ読まされるちはるの身にもなれよ、俺。穴があったら入りたい、ってやつだ。床下収納とかな。うちにはないけど。
「裕太、もしかして、ちぃちゃんにフラれた?」
背筋が凍りつき、ガタンと音を立てて携帯電話が床に落ちた。聞こえないフリしてたけど、全部聞こえてるんだよ、母さん。
「そ、そ、そんなんじゃ、ねーよ!そもそも、フラれるとか・・・そんな関係じゃねーから!」
「あら、そう?」
全てお見通しよ、みたいな、そんな顔してキッチンに立つ母さんの姿が想像できた。でも絶対に確認してやらない。
ほんの少し気持ちが落ち着き、ようやく手を洗いに行こうかな、と思った瞬間。
ソファーの下でブブブ、と大きな音が床に響いた。今度は心臓が止まるんじゃないかと思った。
メッセージの受信を告げた携帯電話の画面を10秒ほど眺め、すぐにメッセージを開いたらカッコ悪いだろうか、なんて思いを巡らせたけど、やめた。そんな余裕は今の俺には、ない。
目を閉じて、メッセージを開封し、目をゆっくり開けた。
”いつもありがとう”
「あ・・・」
なんの飾り気もない、いつも通りの、ちはるのメッセージだった。思わず顔が緩む。
「えへへ」
「も~裕太、今度はなに?気持ち悪い」
すると、ポンッと、2通目のメッセージが届いた。
”でも、スペルミスしてるから、減点”
「ええええ~?!・・・嘘だろ・・・!!!」
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