無敵のふたり
四つの
それぞれ傷を負った腕を庇うかたちで並び立ち、互いに一歩の遅滞も許さず、黙々と進み続ける。
対称的に彼らの手にする刀憑きたちは、この期に及んでも尚悠長に軽口を叩いていた。
『ぁー……まだ目が痛いわ。ほんっと最悪。そこのクソ坊や、あんたのせいよ。あんたの! 絶対許さないから。いずれこれ以上の苦痛と屈辱を与えてやる……覚えときなさいよ! 畜生っ……あぁ痛い』
『ほほほ、随分と言葉遣いが粗暴になっておるようだのぅ? 平素の余裕ぶった振る舞いは
『黙りなさい下女が! 真っ当なやり合いで勝てないからって愚策に走って、アナタそれでも恥ずかしくないの!? ハッ、これだから卑しい刀憑きは困るわ! 品位を落としてるのはどっちかしら!』
『負け惜しみ、御苦労! お陰でわらわは気分が良いぞ! さぁ如何様にでも申せ、愚策に敗れたま・け・い・ぬ! 今宵は遠吠えが映える月よなぁ! ほっほっほ!』
『言わせておけば抜け抜けと……! カテナ、隙を見てあの坊やとドグソの刀憑きを不意打ちしてやりましょう。ぶっ殺すしかないわ!』
『おぉ怖い怖い。用心するが良いぞイタチ! 病気持ちの狂犬が噛みついてくるぞぅ!』
「「黙れ」」
いつぞやと同じく、威太刀と克那が口を揃えて一喝する。だが今回は苛立ちよりも警戒による所が大きい。
生身でも十分すぎるほどに感じ取れる異様な空気。
夜闇に紛れる異形たちの気配が、尋常ならざる密度で群れているのだ。
綿江中央公園へと近づくほどに気配は膨れ上がり、固まりから円状へと形を変え、威太刀と克那を取り囲んでいく。
どこから奇襲を受けてもおかしくはない。
そう思ったのも束の間、物陰に隠れていた厄叉が飛び掛かってくる。
数は三。二時方向から一体と、七時方向から二体だ。
「任せたぞ、克那!」
「言われるまでもない」
奇襲を察知するや否や、威太刀は後方の二体を迎撃すべく振り返る。一方は鉈状の腕、もう一方は小型の鎌を両腕に生やしている。先に片付けるなら後者だ。
先制する鉈の一撃を首を逸らして回避し、鎌のほうへと肉迫。間合いの有利を活かして手首、肘と順に斬り落とし、とどめに首を刎ねる。
斬首から振り抜く勢いを残し反転、第二撃を放とうとする厄叉をすかさず脳天から一刀両断する。
確かな手応え。もはや躊躇うことは許されない。それが名も知れぬ人間の成れの果てだとしても。
克那はすでに一撃で厄叉を葬ったらしく、威太刀を置いて駆けだしている。続いて前方から飛び出した厄叉も必ず一手のうちに排除し、どんどん加速していく。威太刀は側面及び後方からの襲撃に対応。
あらかじめ打ち合わせた戦法通りだ。
克那は大太刀のリーチを活かして一点突破の前衛を努め、比較的小回りの利くスティークを手にする威太刀が他方面をカバーする。
「っ……威太刀!」
今度は前方の手勢が増え、克那の行く手を阻む。前方のみで四体、丁字に陣を組んで迫る。亞切の取り回しを鑑みても、足止めは免れないだろう。
すると威太刀も前線へと飛び込む。
克那は先行する二体を、姿勢を低くして横凪ぎに纏めて斬り捨てる。その背を跳び箱のようにして越えた威太刀が後続を蹴り飛ばし、更に追い越した克那がとどめを刺す。
「ほらよ、行け!」
時に配置を入れ替えつつ、しかし突貫する勢いは殺さずに駆け抜け続ける、荒波が如き怒涛の攻勢。
もとは腕を庇うための措置だったが、むしろ普段以上に力を引き出せている気すらする。
当初の予想を超えて二人の息が合っているのだ。
今でこそいがみ合う関係であっても、かつては共に研鑽を積んだ者同士。
ものの一分とせずして、撃破数は優に三十を数えた。
「あちらも焦れたようだ。油断するな」
「分かってる!」
刀から伝達される索敵結果が、残る全戦力による急襲を知らせる。
全方位を取り囲む徹底した包囲網。おぞましい異形どもが三六〇度くまなく押し寄せる。中には
しかし突破口ならある。
二人は示し合わせるでもなく頭上へ飛び上がり、円陣の四時方向と八時方向の外側に降り立つ。
虚を突かれた厄叉たちの何体かは案の定、衝突して体勢を崩している。そこを優先して撃破しつつ、時計の頂点へと両側から上るようにして次々に斬り捨てていく。
僅かに早く頂点まで辿り着いた克那は、方向転換に手間取る
追い付いた威太刀は踵を返して、反対方角にいるもう一体の
「これで終わり、か。
ほんの数秒。十倍はあろう頭数の厄叉たちが狩り尽されるまでの所要時間としてはあまりに短い。
「……待たせたな、瀬田」
撃滅が完了すると共に、二人は公園へと踏み入っていた。
最奥には桜が満開に狂い咲き、月光を薄紅に透過して、小さな後ろ姿を儚げに照らし出している。
此岸にあらざる桃源郷が目の前に顕現したかのような光景だ。
「来てくれてありがとう。威太刀くん」
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