第29話 ケット・シーと湯上り!

22 流れるお風呂


 次は……なんか水面がうねうねしているお風呂があるな。

 そこにはテュピとポポンが入って二人で泳いでいた。

 僕たちも入ってみる。


 足をつけてみると、ちょっと水温が低い。

 これはお湯じゃなくて水だ。


「わっ、な、流されるー!」


 小さいながらも、流れるプールみたいになっているようで、体がどんどん押し流されていく。


「きゃっ!?」


 コトが足をすくわれたみたいだ。背中から倒れていく。

 僕はとっさに彼女の背中に手を回して体を支えた。


「あっ……」


 体が密着している。


「あ、ありがと……」


 お互い赤くなってしまっている。

 また倒れたりしないように手をつなぎながら、しばらく水の流れに身を委ねて体を冷やす。


「これはクラーケン風呂だにゃ」

 

 ルーニャがやってきた。


「クラーケンかー。クララは元気かな?」


 クララとマメちゃんの顔を思い出す。

 まだマーメイドの世界から帰ってきてから数日しか経ってないから、全然懐しむ段階じゃないけどね。


「んー、呼んだー?」


 バシャッ、と音を立ててイカの触手のような物がついたスカートをはいた少女が水の底から飛び出してきた。


「どわーっ! クララ! ずっと水中にいたの!?」

「んーん、今来たとこだよん」


 クラーケンやマーメイドには水を介して異世界に移動する能力があるんだった。


「じゃーあたしは旅の途中だからー。また会おうねー!」


 そう言うとクララはまた水に潜ってどこかに去ってしまった。


23 緑のお風呂


 今度は緑色のお湯に入ることになった。

 葉っぱが何枚も浮いている。


「ドリアードの湯だみゃ。美容に効果があって、これだけのためにドリアードの世界に旅行に行く人もいるみゃ」


 ミイニャ一家がお湯に浸かりながら説明してくれる。

 中に入ると、さわやかな森の匂いがする。

 僕たちはそのお湯を体に擦り込むようにしてゆったりとくつろいだ。


 僕たちの他にも何人か別の種族の子もいた。

 ゴブリンやハーピーもいるけど、見たこともない種族の子の方が多かった。

 これからこの子たちの世界にも遊びに行くことになるのかな? 

 楽しみだ。


「ところでモノ殿」


 エルシアさんがやってきた。

 ミレイユさんは見つからなかったみたいだ。


「またエルフの世界に遊びに来る気はないかな? ダリアも会いたがってたぞ」


 そうかー、今まで行った世界をまた訪れるのも良いよなー。

 やっぱり1日だけじゃ全然物足りないし。


「スライムの世界にもまた行ってみたいよねー。鬼ごっこ3姉妹との約束もあるし、プルナちゃんとも会いたいし」

「そうだねー。今まで行き当たりばったりだったけど、たまにはちゃんと計画を練って行きたいかも」


 なんてことを話しているうちに結構時間が経った。

 パレードで演奏していた人たちもやってきて、お風呂はさらに混雑してきた。


24 お風呂上がり


「そろそろ上がろうか」


 お湯から出て、出口に向かう。

 うーん、良い湯だった。


「モノもお肌すべすべになったんじゃない?」


 そう言うとコトは僕の背中を撫でてきた。


「お尻もなんかツヤツヤしてるし。触って良い?」

「だ、だめだよ!」

「え〜、良いじゃん。えっへっへ〜、触らせろ〜!」

「ひー!」


 早歩きで脱衣所に逃げる。

 体を拭いて服を着ようとすると、


「おお、モノ! 昼間見かけた時からずっと探してたんだぞ!」


 後ろからミレイユさんが声をかけてきた。

 彼女はすでに服を着ていて、エルシアさんを待っているようだ。


「いやー、まさか旅先でお前たちと再会できるとはな。ここで会えたのも何かの縁だ! 今日は一緒に飲むぞー!」


 そうシャウトするとミレイユさんは僕を抱きかかえ、外に飛び出して行った。

 ミレイユさんはドドドド、と爆音を立てながら走り、城の外の銅像がたくさんある場所に出た。


「うーん、どこかに酒が飲めるところはないか? おや、あんなところに屋台があるぞ。さっきまではなかったのに。うーん、美味しそうな匂いだ。もう我慢できん。あそこに行こう」


 ミレイユさんは屋台の前に駆け寄ると、僕を地面に下ろした。


「おや、あんた何で全裸なんだい?」

「着替える前に抱きかかえられたからだよ!」


25 屋台


 それから慌てて僕の服を持ってきたコトやルーニャたちと一緒に屋台で軽く食べていくことになった。

 ミイニャの家族は帰ってしまったけど、ミイニャやレニャさん、テュピとポポンもいる。


 ミレイユさんとエルシアさんはお酒を、僕たちはジュースやミルクを注文した。

 パンやチーズなどを食べながら旅行の話をして、1時間ほど経つとミレイユさんたちはすっかり酔っ払っていた。


「私はそろそろ帰るみゃ」


 ミイニャがちょっと眠たそうにしている。


「じゃあワタシたちも……」


 僕たちはお会計を済ませると屋台を出た。

 お酒は飲んでないけど、ゆったりとお風呂に入って、お腹も満たされて、僕はすっかり良い気分になっていた。


 ミイニャ、ポポンと別れて、ルーニャの家に帰った。


26 ケット・シーの夜


 レニャさんが灯りをつけて、僕たちはコタツに入った。

 レニャさんが果物を向いてくれたので、それを食べながらくつろぐ。

 ルーニャはレニャさんの膝の上に頭を乗せて半分寝てしまっている。


「私たちもそろそろ寝ましょうか」


 レニャさんは壁際にある3つの大きなカゴを指差した。


「あれが私たちの世界のベッドです。普段は私とルーニャとテュピで一つずつ使っていましたけど、今日は私とルーニャで一緒に寝ることにします。後の二つのベッドをモノさんたちとテュピで分けることになりますが……」

「私モノと一緒に寝る!」

「私も……モノと一緒……」


 コトとテュピが同時に僕の腕を引っ張った。


 結局僕とコトとテュピで一つのカゴを使うことになった。

 カゴは3人が一緒に入るには少し狭く、コトとテュピは真ん中の僕に腕を絡めて密着する形になった。


 どこか遠くの方でまだ誰かが演奏する音が聞こえる。


27 朝


 次の日、目を開けて体を起こすと、レニャさんが朝食を作っていた。


「おはよう、モノ」


 コトとテュピが家の外から帰ってきた。

 どうやら先に起きて朝の散歩に行っていたみたいだ。

 ルーニャはまだ寝ていて、隣のベッドの中でモゾモゾと尻尾を動かしている。


「ご飯ができたにゃーん」


 レニャさんの声でルーニャが「んぅ……」とうめき声をあげる。

 僕たちはコタツの前に集まった。

 朝食はフルーツサンドとミルクだった。


「このフルーツはハーピーの世界のものを、ミルクはエルフの世界のピョコットのものを使ってるにゃん! ケット・シーの世界ではあちこちの異世界の食料がスーパーで売ってるにゃん!」



 食べ始めてからしばらくしてルーニャがようやく起きた。


「んー……、あ、もうご飯出来てるにゃ? いっただきまーす! んー、おいしいにゃー!」


 ルーニャはご飯を食べ終わるとまた横になってしまった。


「ほら、今日の夕方にはモノさんたち帰るにゃん? それまでどうするかちゃんと考えるにゃん」


 レニャさんがルーニャの体を揺する。


「ん〜、そういえば、ミイニャちゃんはもうそろそろ次のツアーのお客さんを迎えに出掛けるって言ってたにゃ。見送りに行くにゃ」


 ルーニャは起き上がると、僕たちを連れて外に出た。


28 見送り


「!!」


 扉の前にミイニャがいた。


「あっ、ミイニャちゃん! ワタシの家の前で何してるにゃ?」

「も、もう出発するから一応ルーニャに一言挨拶しようと思っただけだみゃ!」


 隣にはポポンが控えている。


「ミイニャちゃん、もう1時間もここで待ってたんだよ。中に入れば良いのに♪」

「ポポンちゃん! 余計なことは言わなくて良いみゃ!」


 ミイニャは照れ屋さんだなあ……。

 ルーニャはミイニャの手を握ると、ぶんぶん振った。


「久しぶりにミイニャちゃんと遊べてすっごく楽しかったにゃ! また今度会うにゃ!」

「……予定が空いたらまた会っても良いみゃ。そんなことは滅多にないけどみゃ」


 ミイニャはプイッと顔を背けた。


 ポポンは少し離れたところに駆け出すと、光に包まれ、テュポーン形態になった。

 銀色のクジラの姿の飛行船。

 ミイニャがそれに乗り込むと、飛行船はふわぁ〜っと浮き上がった。


「テュピちゃん、ワタシたちも一緒に飛ぶにゃ!」


 ルーニャがそう言うと、テュピはテュポーン号になった。

 こっちはピンク色のクジラだ。

 僕たちはそれに乗ると、ミイニャの飛行船を追いかけた。


『ちょっと! また昨日みたいにぶつかるからついて来ないで欲しいみゃ!』


 ミイニャが通信で僕たちに話しかけてきた。


「ギリギリまで見送りたいにゃ〜! それに何回も同じミスはしないにゃ!」

『もう既にぶつかってるみゃ! ドンドン音がして揺れてるみゃ! これ以上遅れたら遅刻だからほんと勘弁してみゃー!』


 それから鬼ごっこのように一緒に飛んで、しばらく並んだところでミイニャの機体は光に包まれて消えた。

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