第27話 ケット・シーと猫の島!

11 レストラン


 絵を見た後、階段で2階にあがった。

 そこはレストランだった。


「ここでお昼にするにゃ」


 城はケット・シーの世界でもかなり目立つし、人気のスポットみたいだ。

 周りには大勢の人がいる。


 ここのレストランはビュッフェ形式だった。

 ギガンテスの世界でも体験したけど、色々な種族に合わせた料理が並んでいて、それらを自分でチョイスできるようになっている。


 フロア全体に所狭しと料理が並んでいる様は圧巻だった。

 遠くからでも目立つ大きな料理はギガンテス族用だろう。

 キノコ料理はゴブリン。

 あのゼリーっぽい料理はスライムかな。


 他にも何か燃えさかっていたり、うねうねしていたり、腐っていたりする感じの、僕たちには食べれなそうな料理も数多く用意されていた。

 まあそういうのは見た目でわかるし、間違えて食べてしまうことはないだろう。

 などと思っていると、


「オエエ〜! これ、腐ってるにゃ! プンプン!」

「それはゾンビ料理だみゃ! 早くトイレに行って吐き出さなきゃゾンビ化しちゃうみゃ!」


 ルーニャがトイレに駆け込んでいた。


 僕たちはエルフやゴブリンの世界で見たことあるような料理を中心に食べた。

 ケット・シーの料理は、星型の、じゃがいもみたいな食感のものや、魚の形のビスケットなどがあった。


 途中、燃え盛っているキマイラ料理にチャレンジしようとするテュピを止めたりしながら、何回もテーブルと料理の間を行き来した。

 壁には食べ物の絵が飾ってあって、見た目にも楽しかった。


12 風船


「ふー、よく食べたにゃー」


 食後は上の階のバルコニーで景色を眺めながら少し風にあたる事になった。

 空には飛行船や風船がたくさん浮かび上がっている。

 風船は街のいたるところでケット・シーのお姉さんが作って飛ばしているみたいだ。


「この風船を使うと空を飛べるにゃ」


 ルーニャは下から飛んできた風船の紐をつかんだ。

 すると彼女の体はフワーッと浮き上がった。


「風船の紐を引っ張ると、その方向に飛べるにゃ」


 ルーニャはその場でぐるっと円を描くように飛ぶと、着地して風船を手放した。

 ぱちぱちぱち。

 僕たちは拍手した。


 それからまたバルコニーからの景色をしばらく楽しむ。

 下には彫刻の間を走り回る色々な種族の子供たち。

 ルーニャの家もよく見える。


「ねえ、ほら」


 コトが真下にある城の入り口の前の広場を指差す。


「おや」


 そこには見知った3人の姿があった。



「あー、旅行なんて数百年ぶりだ。体が大きい時は異世界に行ってもほとんど自由に動き回れなかったし、最近では城を出るのもままならなかったからな!」

「ここが美術館か。私の芸術的なTシャツを飾ってもらうように交渉してみようかな」

「ふああー、腹減った。早くビュッフェとやらに行こう」


 ギガンテスの女王様と、エルシアさんと、ミレイユさんだった。

 どういう経緯があったのか知らないけど、3人で旅行をしているようだ。

 女王様はまたエルシアさんの魔法で小さくしてもらったみたいだ。


 ミイニャはエルシアさんの姿に気づくとゴリラのような顔をした。


「気づかれないうちにここを立ち去るみゃ」

「まあまあ、ちょっと挨拶ぐらいしていっても……」


「あっ、モノ殿!」


 エルシアさんが僕に気づいたようだ。

 上を見上げて指差している。


「おおっ、モノ! こんなところで再会するとは! これは運命!?」


 ミレイユさんがこちらに手を振りながらシャウトする。


「今すぐ抱きしめに行くからなー! そこを動くなよー!」


 ミレイユさんは大声でそう叫ぶとダッシュして城に駆け込んだ。


「城の中は走らないでくださーい!」

「ぎゃー! 風圧で絵が!」


 スタッフの叫び声が聞こえる。


 僕たちは手近な風船を掴むと、バルコニーから飛び立った。


13 風船で空へ


「わーっ、ほんとに飛んでるよ!」


 僕とコトは一つの風船にしがみついている。

 右手に風船の紐を絡みつけて、体の前にコトを抱きしめた状態だ。


 二人でも風船は沈むことなく、僕たちの体を軽々と浮かせてくれている。

 前を飛んでいるルーニャやミイニャたちに置いて行かれないように風船を操作する。


「今度は動物島の方に行ってみるにゃ」


 ルーニャがミイニャと一緒の風船につかまりながら、向こうの島を指差す。



「あっ、ママ〜!」


 真下にルーニャの家が見える。

 ちょうどルーニャのお母さんが外に出て、ミイニャのお姉さんたちと立ち話をしているところだった。


「おーい、おーい!」


 ルーニャはぶんぶんと両手と尻尾を振った。


「風船に掴まりながらそんなことしたら危ないみゃ! あっ、バランスが! んみゃー!」


 二人はフラフラとよろめきながら飛んで、近くにあった高い木に引っかかった。


「「助けてー!」」


14 猫の島


 結局そこからは歩いて島まで向かった。

 橋を渡って島に入ると、猫たちが足元にやってきた。


「わっ、かわいい!」


 猫は人懐っこく、僕の足元に擦り寄ってきたり、ぴょーんと肩に飛びついてきたりした。

 ちょっと重い。


 ここの猫たちは、毛の色がグリーンだったりピンクだったり、多少鮮やかなことを除けば、地球の猫と見た目はあまり変わらないみたいだ。


「にゃにゃんにゃ」


 僕の肩に乗った猫が向こうにある木の方を指差す。


「この辺にいる猫は案内猫にゃ。この島を案内してくれるから、ついていくと良いにゃ」


 僕たちは猫の群れと一緒に島を歩いた。

 時刻はお昼過ぎぐらいで、日差しがポカポカと暖かい。

 木陰で寝ている猫がたくさんいる。

 僕もその隣で横になりたい気分になってきた。

 でも猫はどんどん先に進んでいくので、それについていく。


 途中小さな川があった。

 猫たちが水に向かってニャーニャーと鳴くので見ると、川の中には猫が何匹か泳いでいた。


「カワネコにゃ」


 尻尾がアザラシみたいになってる。

 陸の猫たちは泳ぐ猫の上に飛び乗って、川を渡った。


「僕たちはどうすれば……」


 泳ぐ猫はあまり大きくないので、僕たちが乗るわけにはいかない。


「浅いし流れも穏やかだから、普通に歩いて渡れば良いみゃ」


 僕たちは靴を脱ぐと、ザブザブと川を渡った。

 水は適度に冷たく、透き通っていた。

 近くには水着ではしゃいでいるケット・シーたちもいた。


 テュピとポポンは水を軽く掛け合っている。

 水しぶきを上げながらぴょんぴょんと跳ねる猫たちを眺めながら向こう岸にたどり着く。


 持参した小さなタオルで足を拭くと、また靴を履いて歩き出す。

 僕の目の前を歩いている猫たちは、いったいどこに案内してくれているんだろう。

 あんまり大きな島でもないし、もうそろそろ端の方につくと思うんだけど。


 不意ににゃー、にゃー、という鳴き声が上の方から聞こえたので見上げると、近くの木の上にソラネコがいた。

 この世界に来た時に、テュポーン号の上に止まっていた猫たちだ。

 コトが手を振ると、何匹かこっちの方にやってきた。

 パタパタと僕たちの周りを飛び回るソラネコ。

 しばらく猫たちを撫でたり、近くの草木を眺めたりした。


 それからちょっと歩くと、島の端に着いた。

 ここから飛行船の発着場が見える。

 様々な色や形の飛行船が入れ替わり立ち替わり飛び回っている。



「にゃーにゃー」


 猫が僕の裾を引っ張る。


「どうしたの?」


 猫の指差す方を見ると、地面に大きな穴が空いていた。


15 猫のアジト


 その穴の中には、ゴブリンの世界で見たような光るキノコがあちこちに散りばめられていて、仄かに明るかった。


「猫島にこんな所があるにゃんて、ワタシも初めて知ったにゃ……」


 猫の後ろをトコトコと歩き続けると、開けた場所に出た。


「にゃおーん」


 そこには鍋や長靴、カゴなどがたくさん転がっていて、その中で猫が眠っていた。


「ここは猫たちの居住空間になってるみたいみゃ……」


 ミイニャは感心した様子でいうと、ルーニャと一緒に奥の方に歩いて行った。

 僕たちのまわりにいた案内猫たちはそれぞれ鍋の中に入って寝たり、他の猫と遊んだり、別の部屋に移動したりした。

 ここで案内は終わりみたいだ。


「じゃあしばらく自由に歩き回ろうか」

「うん!」


 コトは僕の腕に自分の腕を絡めると、別の部屋に続く道を歩き出した。

 道の途中にはスコップを持った猫が何匹かいて、新しい穴を掘っていた。

 彼らがこの洞穴を作ったのか。


 長い道を抜けると、2匹の猫が床に座ってお菓子を食べている場所に出た。

 2匹は僕たちの来訪に気づくと、ぺこりとお辞儀をして、部屋の隅にある棚から何かを取り出して僕に渡した。

 お菓子を分けてくれたみたいだ。

 猫にお礼を言って、その筒状の包みを見た。


「あっ……」


 それは日本の有名なスナック菓子だった。


「何でこれがここにあるんだろ?」


 賞味期限を見ると、かなり最近のものみたいだ。

 僕たちはもちろん持ってきていないし……。

 誰か他の日本からの旅行者がいるのかな? 

 ルーニャは、人間界と異世界との交流はもうほとんどないというようなことを言ってたけど。



「ねえ、これ、どこで手に入れたの?」


 僕は猫に話しかけた。


「にゃにゃ!」


 ここの猫は人間界の猫とは違って色々な事ができるみたいだし、もしかしたら話が通じるかもしれない、と思って話しかけてみたんだけど、さすがに会話はできないみたいだ。

 そりゃそうだよね。


「『そのお菓子は私が自分で人間界から持ってきました』って言ってるにゃ」

「うわっ!」


 突然背後から声がして僕たちはのけぞった。

 そこにはルーニャとミイニャがいた。


「びっくりしたー」

「ごめんごめんにゃ」


 ルーニャがペロッと舌を出した。


「さっき色々な猫と話したんだけどにゃ、ここの猫は島の地下にある穴から色々な世界に行けるんだって。だからそのお菓子も、穴を通じて人間界から持ってきたものなんだにゃ」

「にゃーにゃ!」


 猫は頷いた。


「その猫は人間界では誰かに飼われてるみたいみゃ。たまにこの島でこうやってお茶会を開いて息抜きしてるみたいみゃ」


 そうだったのか……。

 僕は近所でたまに見かける野良猫たちの顔を思い浮かべた。

 彼らもここに遊びに来てるのかもしれない。

 それから大きな部屋に戻って、しばらく猫たちの絵を描いた。


「そろそろ外に出るにゃ。今夜のイベントに備えるにゃ」

「イベント? 初耳だけど。一体何があるの?」

「にゃっふっふ……、それは見てのお楽しみだにゃ」

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