第26話 ケット・シーとぺろぺろアイス!

05 ルーニャの家


「ここがワタシの家だにゃ!」


 徒歩で何分か街を歩くと、サーカスの小屋のテントみたいな家がぽつぽつと並んでいた。

 そのうちの一つがルーニャの家だった。

 家全体が青と白の縦縞に塗られている。


「ちなみにミイニャちゃんの家はこっちだにゃ」


 すぐ隣の黄色い縞模様の家を指差すルーニャ。


「そんな近くなら一緒に帰ればよかったのに……」

「ミイニャちゃんは恥ずかしがり屋さんだからにゃ。モノさんたちの部屋にあったアニメでいう、ツンデレさんだにゃ」


『みゃーっくしょん! 誰かが私の根も葉もない噂を流してるみゃ!』


 隣の家の中からミイニャの大声が聞こえた。



「さあ、中に入るにゃん」


 レニャさんが扉を開けて中に入ったので、僕たちも続く。

 テントの中は壁に沿ってテレビ、タンス、本棚、ソファーなどの家具が並んでいて、中央に大きなコタツがあった。

 壁が丸くカーブしているので、家具もそれに合わせて丸く沿った形をしている。


 僕たちは入り口で靴を脱ぐと、レニャさんに促されて、コタツの中に足を入れた。

 僕はコトの隣。ルーニャとテュピとレニャさんは向かい側だ。

 コタツは円卓の形になっていて、かなり大きいので、足を伸ばしても向かい側の人と触れ合うことはない。


「ふう……」


 出されたお茶を飲んで、みかんのような甘いフルーツを食べてくつろぐ。


「にゃー……。やっぱり実家は良いにゃー。……あっ、モノさんの家も、おやつとかいっぱいあって快適だにゃ?」


 そんなフォローされてもなあ……。

 最近ずっとうちに泊まりっぱなしだし、もっと実家に帰っても良いんだよ? 

 おやつは僕のだし。


 ルーニャは僕の反対側で、寝転がって顔だけコタツから出している状態みたいで、こっちからは姿が見えない。


「ああ〜、あったかい〜。うちもコタツ欲しいねー」

「うん」


 僕もコトもコタツ持ってないからなー。

 コタツでみかんなんて専ら漫画の中の体験だよ。


「みんな、明日には帰っちゃうにゃん? どこかに遊びに行かなくて良いにゃん?」

「あっ、そうにゃ。ミイニャちゃんと街を色々回るにゃ!」


 コタツの中でゴソゴソと音がする。


「さあ、出かけるにゃ!」


 ルーニャが、僕とコトの間から顔を出した。


06 ミイニャの家


「ミーイニャちゃ〜ん、あーそびーましょー」


 ミイニャのいるテントの扉をガバッと開けるルーニャ。

 鍵はないみたいだ。

 ノックしなくて良いのかな? 


「みゃみゃっ!?」


 中ではミイニャが下着姿で何人かのケット・シーに髪を梳かしてもらったり、服を着せてもらったりしていた。


「あ、ルーニャちゃん! 今ね、ミイニャがルーニャちゃんと遊ぶからオシャレしたいって言うんで、手伝ってるみゃん! もうちょっと待っててみゃん!」

「おっ、お姉ちゃん! デタラメなこと言わないで欲しいみゃ!」


 ミイニャは顔を真っ赤にして、目をぐるぐるさせて叫んでいる。


「ミイニャ、お姉さんがいたんだ」

「そうにゃ。3姉妹の末っ子だにゃ」


「きーっ! 普通に会話してないで、とっとと出て行ってみゃー!」


07 遊びに行こう


 ミイニャの着替えが終わって、僕たちは城の方に向かって歩き始めた。


「で、どこに行くみゃ!?」


 まだ少し怒った感じのミイニャ。


「うーん……とりあえず歩きながら考えるにゃ!」

「適当みゃ!?」


 空は相変わらずたくさんの飛行船が飛んでいる。

 周りにはエルフやゴブリンなど、いろいろな種族が歩いている。

 ギガンテスの世界よりも旅行者は多いみたいだ。

 さすが異世界案内人が住む世界だ。


「ここは全異世界の中心地だから、遥か昔から異世界交流が盛んだったにゃ」


 道を歩くエルフを見てたら、エルシアさんのことを思い出した。

 ギガンテスの世界でミイニャが案内してたけど、どうなったんだろう。

 何気なくミイニャに訊いてみたけど、露骨に嫌な顔をされた。

 思い出したくないみたいだ。


08 ソフトクリーム


「あ、ほらほらあれを見るにゃ」


 向こうにソフトクリームの模型が置いてある小さなテントが見える。


「昔はあそこでよくミイニャちゃんと一緒にソフトクリームを食べたにゃ。みんなで食べるにゃ」


 メニューには何種類か書いてあったけど、ミルクを頼む。

 驚いたことに、お金は普通に円が使えた。


「この世界ではあらゆるお金が使えるにゃ」


 さすが異世界の中心地。

 コトはチョコを頼んだので、僕と少しずつ交換する。


「チョコも結構おいしいね」

「私はミルクのほうが好きだけどね」

「じゃあなんでチョコ頼んだの……?」

「だってモノと食べ合いっこしたいもん! ぺろぺろ〜!」


 結局3分の2ぐらい交換した。


「ワタシたちも食べ合いっこするにゃ! ぺろにゃーご!」

「きーっ! 私たちはどっちも同じマタタビ味だみゃ! 汚いからやめるみゃ!」


 ルーニャの頭を鷲掴みにして自分のソフトクリームから引き剥がそうとするミイニャ。

 二人は相変わらずだなあ……。


「醜い争いだね♪」

「うん……」


 テュピとポポンは意外と仲が良いのかな? 

 二人とも違う味のソフトクリームを両手に2本持って、交換しながら並んで歩いている。


09 お城の外


「さあ、お城に到着だにゃ」


 ソフトクリームを食べ終わってしばらく歩くと、大きな西洋風のお城の前にたどり着いた。

 門は開いていて、自由に出入りできるみたいだ。

 僕たちの周りには木や彫刻がたくさんある。

 子供たちがその間を走り回っている。


「この中に女王様がいるの?」

「ここに女王様が住んでたのは昔の話だにゃ。今はここは美術館として旅行者さんたちに開放されてるにゃ。あと地下にはお風呂もあるにゃ」


 美術館か……。

 どんな物があるんだろう。

 わくわく。


 城の外は彫刻がメインで、中は絵画がたくさんあるらしい。

 まずは外を回ろう。


 コトはスマホであちこちの写真を撮っている。

 マーメイドの世界では、水中だから荷物を持って行けなかった。

 今回はスマホとかスケッチブックとかを持ってきたので、色々記録しよう。

 すっかり忘れがちだけど、僕には異世界のことを書いて、ルーニャの異世界案内を宣伝するという使命があるんだった。

 何というか、ルーニャ自身が一番忘れてる気がするんだけど。


 僕はさらさらと周りの彫刻をスケッチした。

 猫の像とか、他の種族の像とかが多かった。

 ルーニャやテュピたちが像の前で、像と同じポーズをして遊んでいる。


「ミイニャちゃんも、ほら、一緒にやるにゃ」

「わ、私は恥ずかしいからそんな事はしないみゃ!」

「いいからいいから♪」

「ポポンちゃんまで!? とにかく私はそんな子供っぽい事はぜーったいやらないみゃ!」

「えー、一緒にポーズとってにゃー」

「絶対かわいいって」


 コトもルーニャに加勢する。


「か、かわいい……? う、ううん、絶対やらないみゃ」

「ミ・イ・ニャ……! ミ・イ・ニャ……!」


 ボソボソとコールするテュピ。


「ミ・イ・ニャ! ミ・イ・ニャ!」


 テュピの真似をして小声でコールするみんな。


「あーもう! わかったみゃ! 1回だけ、とっととやるみゃ!」


 ミイニャは顔を真っ赤にして折れた。


「で、どのポーズをとればいいみゃ?」

「とりあえず次の像にするにゃ」

「これだみゃ? どれどれ……『果たして芸術か猥褻か……超ギリギリセクシーポーズの像』!? こんなのできないみゃー!」


 ミイニャは泣きながら城の中に逃げて行った。


10 お城の中


 僕たちも続いて門をくぐった。

 城に入ると、まず広間に出た。

 ここからテーマごとに道が左右に分かれているみたいだ。


 僕たちはまず入り口から見て左の廊下に入った。

 壁に沿って何枚か絵が飾ってある。


 ケット・シーの作品はファンシーで、くっきりとした色使いのものが多かった。

 コトと並んでゆっくりと絵を眺めていく。

 ルーニャはあまり絵には興味がないのか、ぼーっと歩いている。


「お城の中に入ったのは初めてかもしれないにゃ」

「子供の頃学校の遠足で一緒に入ったみゃ!」

「えー、そうだっけかにゃ……覚えてないにゃ!」

「まったく……」


 幼馴染同士で仲良く(?)喋ってる。

 僕も昔のことを忘れて、コトにあんな感じで叱られることがよくある。



 広間からもう一方の廊下には、異世界の種族の作品が飾ってあった。

 ギガンテスの世界で買った画集に収められている絵もあった。


「えっ……!」


 ある絵を見て僕は思わず固まった。


「どうしたの?」


 どこかで見た感じのタッチだと思って横の説明を読むと、それは人間界の有名な画家の絵だった。


「人間界も昔は結構異世界交流をしていたらしいにゃ。エルフとか。でも最近は危険度が上がってすっかり遊びに行く種族もいなくなっちゃったにゃ」


 なるほど。

 かなり昔の画家さんの作品だし、そのころ人間界に遊びに来たケット・シーが絵を持ち帰ったのかな? 

 あるいは、画家さんが異世界に行って、そこで描いた絵なのかも。

 そんな想像を膨らませながら何時間か絵を見て回った。

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