第25話 ケット・シーとネコミミ衣装!


01 公園で


 マーメイドの世界に行った二日後の朝。

 僕たちは旅行の準備をすると、家を出て公園に向かった。


「最近はモノさんの家から直接異世界に行ってたけど、この辺でちょっと原点に帰るにゃ!」


 という事みたいだ。


 公園には誰もいない。

 異世界を旅行し始めてからここには何回か来たけど、誰かが遊んでるのは見た事ないよ。

 寂れてるのかな。


「うおっほん、じゃあ、準備はできたかにゃ?」


 ルーニャは手に持っている旗を振った。

 いつもよりもちょっと真面目な感じ。

 まるでガイドさんだみたい。

 ケット・シーの世界に行くにあたって、立派に仕事をしている姿を故郷の皆に見せたいらしい。


「今日は久しぶりに会うママに良いところを見せるにゃ!」


 ルーニャはびしっと胸を張った。


「さあ、しゅぱーつ、しんこーう!」


 テュピは砂場の中央に立つと、テュポーン号に変身した。

 ピンク色の、クジラの形の飛行船。

 大きさは自由に変えられる。

 今は砂場と同じぐらいの広さ。

 3人が乗り込むと、結構ぎゅうぎゅうだ。


 テュポーン号は一旦ふわりと浮かび上がると、それを合図に、砂場が真ん中からパカッと割れた。

 飛行船はそこから地下に潜っていった。


02 テュポーン号の中


「さあ、おやつでも食べてくつろいでにゃ」


 テュポーン号の内部はむくむくと徐々に広くなっていった。

 ようやく学校の教室ぐらいの大きさになった。


 今日は公園からの出発という事で、僕たちの服装は普通の人間の私服だ。

 モンスターの格好で道を歩いたら、すれ違う人がびっくりしちゃうからね。

 というわけでここでケット・シーの格好に着替える事にする。


「はい、これが今回の衣装だにゃ」


 渡されたのはもちろん猫耳と尻尾。

 コトはともかく、僕は結構きつくないかな……。

 とりあえず頭とズボンにそれらを装着する。

 服の上からペタッとくっつけるだけで良いみたいだ。


「きゃー! かわいい!」


 僕の姿を見ると、コトは目をハートにして飛びかかってきた。


「冗談でしょ!?」

「ううん、モノはかわいいよ! 好き! 大好き! ちゅっちゅっ!」


 コトは僕を押し倒すと、頬をすりすりしてきた。


「ぼ、僕もコトの事、大好きだよ。だから落ち着いて……」


 コトが猫耳をつけている辺りを撫でると、彼女は目を細めてだんだん大人しくなった。


「にゃにゃーん! ケット・シーの世界到着までみんなでじゃれあうにゃ!」


 ルーニャも飛びついてきた。

 ひいー、重いよー!


03 ケット・シーの世界


『到着ー……。ケット・シーの世界ー……。ケット・シーの世界ー……』


 テュピの声がする。


「んー、やっと着いたにゃー」


 ルーニャが伸びをする。やっとと言っても1時間程度だ。

 どこかに旅行をする時の移動時間としては短か過ぎるぐらいだよね。


「テュピちゃん、外の様子を見せてほしいにゃ」

『ほい……』


 パッ、と音がして、テュポーン号の壁が透明になった。

 実際に透明になったのか、壁がスクリーンになっていて外部カメラの映像が流れているのかはわからないけど、とにかく外の様子がわかるようになった。


「うわあ……」


 周りにはテュポーン号のような飛行船がたくさん浮かんでいた。

 今はケット・シーの世界の上空を飛んでいるようだ。

 下には観覧車やジェットコースター、色々な動物がいる小島や湖、お城などがあり、その周りに彫刻や色々な形に手入れされた木がまばらに存在している。

 まるで遊園地と動物園と美術館が合わさったような世界だ。



「さあ、そろそろ着陸の準備をするにゃ」


 ルーニャは湖の近くの広い空き地を指差した。

 そこにはたくさんの飛行船が止まっている。

 発着場みたいなものかな。


 ルーニャが壁のボタンをポチッと押すと、ういーん、と床からハンドルのような物が出てきた。


「ふふふ、あとは着陸するだけだし、ここからはワタシが操縦するにゃ。テュピちゃんは休んでていいにゃ。」


 ルーニャはハンドルを握ると、グルングルンと動かした。

 急に不安になってきたぞ。

 無事に地上にたどり着けるのかな? 


「ふんふんふーん♪ にゃ! 急に横から飛行船がー!」


 ぎゅおーん、と船体が揺れる。

 なんとか避けたけど、僕はよろけてコトと抱き合う形になってしまった。


「うーん、最近テュピちゃんに任せっきりだから、運転技術が鈍ってきてるかもしれにゃいにゃ……」


 さらに不安にさせる事を言うルーニャ。

 なんか自動運転車の未来を見たような気がするよ。


 それでもなんとかフラフラと空き地の真上までたどり着く。


「あ、ほらほら上見てにゃー」


 透明になった天井を見ると、

 ひえー、

 小さな翼が生えた猫が何匹かテュポーン号の上に止まっていた。


「ソラネコだにゃ。あれが止まる船にはいい事が起こると言われているにゃ。まーこれも普段のワタシの行いが……」

「ルーニャ! 前見て! 前!」

「にゃ?」


 どーん! 


 衝撃と揺れが僕たちを襲う。

 他の飛行船にぶつかってしまった。

 ソラネコは慌ててどこかに飛んで行ってしまった。



 テュポーン号はふわふわふわ〜……と発着場に落ちると、


 BOM! 


 爆発してしまった。


「げほっ、げほっ!」


 アフロの状態で出てくる僕たち。

 テュピも、飛行船モードから女の子の姿に戻っている。


04 ミイニャ


「みゃ〜……、一体何が起きたみゃ〜……」


 前から二人の女の子がヨロヨロとやってくる。

 僕たちがぶつかってしまった飛行船に乗ってた子のようだ。


「ん、あ、ミイニャちゃん!」

「あー! ルーニャ! やっぱりあんただったみゃー! ホント良い加減にしてほしいみゃ!」

「良い加減にしろよ♪」

「ポポンちゃんも元気だったにゃ?」


 ルーニャはミイニャの隣の小さな銀髪の女の子の頭を撫でた。

 多分テュピと同じテュポーン族だと思う。


「気安くなでないで♪」


 言葉とは裏腹に眼を細めて嬉しそうなポポン。


「きーっ! うちのポポンちゃんにぺたぺた触れないでほしいみゃ!」

「じゃあミイニャちゃんもなでなでー」

「みゃ〜、気持ちいいみゃ〜。ごろごろごろ〜……って違うみゃ!」


 まあ思わぬアクシデントはあったけど、怪我もなくたどり着けてよかったなあ……と思っていると、


「うっうっ……」


 何だろう。

 発着場の片隅に泣いているケット・シーの女性がいるぞ。


「娘が立派になって帰ってきたと思ったら、ダメダメだったにゃん……」

「げえっ! ママ!」


 気まずそうに叫び声を上げるルーニャ(アフロ)。

 お母さんだったのか。

 久しぶりに娘が帰ってくるから、迎えに来たんだな。

 ルーニャは帰郷して早速NGシーンを見られてしまったようだ。


 ルーニャのお母さんは、ルーニャと顔立ちはそっくりで、ルーニャよりも長い青髪を肩のあたりで結んでいた。

 僕たちは彼女に自己紹介をした。


「私はルーニャの母のレニャだにゃん」


 レニャさんはしっぽをふりふりとさせて、控えめに踊った。

 ルーニャがすかさず周りをグルグルと回りながら踊る。


「それにしても、やっぱり不安が的中したにゃん。私が監督役として現役復帰するのも、やぶさかじゃにゃいにゃん」

「誤解だにゃ! 今のはたまたまだにゃ!」

「あやしいにゃーん。ねえモノさん、ルーニャにとっても迷惑かけられたにゃん?」

「え、えーと……」


 レニャさんがじーっと僕の眼を見つめてくる。


「た、確かにたまに失敗して、怖いゾンビの世界に飛んでいったりして漏らしちゃったことはあるけど、でもそういうのも良い思い出というか……。とにかく、ルーニャと出会わなかったら異世界に行くことなんてなかったと思うし、ルーニャと旅行できてよかったと思います!」


 しどろもどろになりながらも答えると、


「モ、モノさん……!」


 ルーニャは僕に抱きついてきた。


「うーん、まあ一応最低限の仕事はしてるみたいだし、復帰するのは我慢するにゃん」


 レニャさんはひとまず安心したのか、ルーニャの頭を撫でる。


「おかえりにゃさい、ルーニャ」

「ただいまにゃ!」



「ふん! 旅行者さんを危険な目に合わせるなんて、とんでもない失態だみゃ! みんなの憧れだったレニャさんとは大違いだみゃ!」


 ミイニャはずかずかと発着場の外に歩いていく。


「ミイニャちゃん、どこ行くにゃ?」

「一旦家に帰って家族に会ってくるみゃ」

「みんなからお小遣いを貰わなきゃ♪」


 ミイニャとポポンは並んで去って行った。

 こうしている間にも飛行船が行ったり来たりしてるし、僕たちもあまり長居はしていられないな。

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