第24話 マーメイドと体を洗おう!

08 歓迎会


「じゃあそろそろ歓迎会をやるよー」


 フロアの中央に、大きな火が焚かれた。

 キャンプファイヤーみたいだ。

 いつの間にかマーメイドたちも大勢ケロちゃんの中に来ている。

 彼女たちは火を囲むように並ぶと、ハープを演奏し始めた。

 セルキーたちはそのまわりで踊る。


「モノちゃんたちも踊ろうよ!」


 ルキちゃんは僕の腕を引っ張って、踊りの輪の中に入った。


「にゃんにゃーん♪」


 ルーニャはさっきのスポーツの疲れを見せずに踊っている。

 ダンス好きだもんね。


 壁際には食事が並べられていて、自由に食べられるようになっている。

 テュピはひたすら食べている。


 ルキちゃんと踊った後は、コトやルーニャとも踊って、マーメイドの奏でる音楽が何曲か終わった。

 そろそろ何か食べるか。


「テュピー、何かオススメの物ある?」


 ずっと料理の前に張り付いているテュピに尋ねる。


「これ……」


 テュピはお皿の上に料理をひょいひょいと乗せて行った。


「コトにはこれ……」


 テュピはもう一つお皿を取ると、さっきとは別の料理を乗せて、コトに渡した。


「いただきまーす」


 クリームシチューやピザなどを食べる。

 途中コトのお皿の物もいくつか分けてもらったけど、やっぱり僕に渡してくれた料理のほうが好みだ。

 テュピは僕たちの食べ物の好みをしっかり把握しているようだ。

 すごい。


「テュピちゃん、ワタシにも料理選んでにゃー」


 踊り疲れたルーニャがやってきた。


「これ」

「ありがとにゃん! うにゃー! ワタシが苦手な辛い料理ばっかりにゃー!」


 ルーニャは火を吹いている。

 危ないなあ……。


09 クラーケン


「あっそびに来たよーん!」


 突然入り口の方から明るい大きな声が聞こえた。


「あ、クララちゃん!」


 そこにはイカの頭のような三角の頭巾をかぶって、イカの足のような触手が生えたスカートを身につけた少女がいた。


「クラーケンのクララちゃんですよー」


 マメちゃんが教えてくれる。


「クララちゃんは海をさすらっていて、たまに私たちのところに遊びに来てくれるんですよー」

「いやー、フォルちゃんのところに行ったらみんないなかったから、ケロちゃんの方に来たけど、お祭りやってたんだねー」

「旅人さんが来たから歓迎会やってるんだよ!」

「旅人さん? ちょー珍しいね」


 クララと目が合い、僕たちは挨拶をした。


「あたしはクララだよん! 今日はここに泊まるから、よろしく!」


 クララと握手をする。


「よーし、じゃあ踊っちゃうよーん! モノちゃんも、ほら」


 クララはスカートの触手を僕たちに巻きつけると、キャンプファイヤーの方に走って行って、激しく踊り出した。


「あー!」


 クララの動きに合わせて揺れる触手と僕たち。

 マーメイドさんたちはクララの踊りに合わせて激しい曲を演奏しようとしているけど、なかなかついていけずに汗を浮かべている。


10 イソギンチャク洗濯機


「ふう、疲れたねー」


 料理は無くなり、火は消え、歓迎会が終わった。

 マーメイドたちはみんな今日はケロちゃんの方で夜を明かすみたいだ。

 もう深夜だ。

 そろそろ寝たいけど、踊ったり、そのあとスポーツをしたりしてかなり汗をかいてしまった。


「じゃあ体を洗いましょうかー」


 マメちゃんは部屋の隅を指差した。

 壁際にはイソギンチャクがいくつも並んでいた。

 さっき僕たちが中で寝たのとは、ちょっと種類が違うみたいだ。

 セルキーもマーメイドもそっちの方に集まっていく。


「ふーっ、いっぱい汗かいちゃったー」


 セルキーたちは着ぐるみを脱ぐと、イソギンチャクの中にそれを投げ込んだ。

 クララも服を脱いでイソギンチャクの中に入れた。

 マーメイドは胸につけた貝を外し、地面に置いた。


「ほら、モノちゃんたちも脱いで脱いで」


 僕たちは言われるままに着ぐるみを脱いだ。

 それをルキちゃんがイソギンチャクの中に持っていく。

 みんな裸になってしまった。


「さあ、体を洗うよー! まずはモノちゃんたちから!」


 ルキちゃんは僕の背中を押すと、持ち上げてイソギンチャクの中に押し込んだ。

 イソギンチャクは10個ぐらいあったけど、みんなの服を入れていったら残りは4個になった。

 そこに僕、コト、ルーニャ、テュピが入った。

 そしてセルキーたちが一つ一つに何か液体を入れていく。


「キレイになる成分を溶かした水だよー」


 全部にその青い液を入れると、


「さあ、洗濯開始!」


 セルキーたちが手を叩いて、踊り始めた。


「ん? うわああーっ!」


 突然イソギンチャクがモニョーン、モニョーン、と蠕動運動を始めた。


「ウイーン! ウイーン!」


 イソギンチャクは激しい音を立てながら僕の体を回転させたりして洗っていく。

 周りで踊るセルキーたちが視界の端に見える。


 数分経つと、すぽーん! という音を立てて、僕はイソギンチャクから大砲の玉のように飛び出した。


「いえーい!」


 セルキーが手を上げてはしゃぐ。

 僕はアザラシの着ぐるみが重ねて積んであるところに尻餅をついた。

 着ぐるみは先に洗濯が終わったようだ。

 すっかりキレイになって、乾いている。


「モノちゃんもピカピカだよ!」


 周りにはマーメイドやセルキーが集まっている。

 僕もみんなも裸だから恥ずかしいよ……。


「裸の状態だとルキちゃんたちと似ていると思ったんですけど、違うところもあるんですねー」

「見ないでー!」


 すぽーん、すぽーん、すぽーん! 

 大きな音が立て続けに3回聞こえて振り返ると、裸のコトとルーニャとテュピが空中で手を広げてこちらに迫っていた。


「ぎゃー!」


11 ケロちゃんの夜


 みんなイソギンチャクの洗濯機でキレイになったので、そろそろ寝ることにした。

 海藻を編んで作られた薄手の服をみんな着ている。

 特にベッドはなく、地面の上にアザラシの着ぐるみを敷いて寝ている。

 マーメイドとセルキーが入り混じって、相当な人数だ。


 僕たちはフロアの真ん中の方で寝ることになった。

 もうケロちゃんの中の明かりはだいぶ薄暗くなっているので、誰かを踏まないように注意深く移動する。


「モノ、一緒に寝よ」


 地面に座ったコトが、隣をポンポンと叩く。


「うん」


 僕は横になると、コトの手を握って、目を閉じた。

 深い海の音が、静かに頭の中に響いている。


12 朝


 誰かの話し声で目をさますと、部屋はすでに明るくなっていた。


「あ、モノちゃんおはよー。まだ眠いでしょー。寝てていいよん」


 隣で肘をついて横になっていたクララが僕の頭をポンポンと撫でる。

 もう朝か。

 寝るのが遅かったからなー。


 ルーニャが僕の家で寝泊りをするようになってからは、あんまり夜更かしはしてないんだよね。

 彼女は日付が変わる前には眠くなるみたいだから。


 コトが僕の腕にしがみついて寝ているから、もうしばらくは横になっていよう。

 横目でフロアを見ると、マーメイドたちがいなくなっている。

 マメちゃんもだ。

 もう帰っちゃったのかな? 

 昨日までのお祭り騒ぎが嘘みたいに静かでちょっと寂しい。


 それからテュピが起きて、コトが起きて、最後にルーニャが起きて、ルキちゃんたちと一緒に朝食の海藻のスープを食べた。

 クララに誘われてしばらく海を泳ぎ回る。


13 不思議な巻貝


 ケロちゃんの中に戻ると、マーメイドたちが集まっていた。


「モノさんこっち来てください」


 マーメイドに手を引っ張られて、マメちゃんの元に連れてこられる。


「モノさんー、おはようございますー。これ、やっと完成したのであげますねー。お土産ですー」


 マメちゃんは僕に大きな巻貝を渡した。

 まるで宝石のようにピカピカに磨かれた、水色の貝だ。


「ありがとう……」


 しばらくつやつやした貝の表面を撫でて眺めていると、


「ちょっと耳に当ててもらえますかー?」

「?」


 貝の穴を耳にそっと近づけると、何かが聞こえる。


「あっ……」


 それはハープの音だった。

 マーメイドたちの演奏する音楽が、海の音と混ざって聞こえてくる。


「私にも聞かせて!」

「ワタシも聞きたいにゃ」

「皆さんの分もありますよー」


 マメちゃんはコトたちにも同じ物を配った。

 しばらく皆で貝を当てて、海の音に耳をすましていた。


 それからルキちゃんたちと外で魚を見ているうちに、帰る時間になった。


14 帰宅


「この世界の海はとってもキレイだったでしょう? また来てくださいねー」

「うん。また泳ぎに来るよ」


 ルキちゃんがぴょーんと僕に抱きついてきた。


「今度来たら珍しい貝の場所いっぱい教えてあげるね! おいしい海藻の場所も! あとあと……」

「う、うん……」


 クララが僕の肩をポンと叩く。


「あたしはこの辺りだけじゃなくて、色々な世界を旅してるからさ、どっか旅先で会うこともあるかもね!」

「うん。その時はよろしくね!」


 マーメイドたちがみんなで音楽を奏でる中、テュピは僕たちをシュルシュルと髪で包んで、マーメイドたちの世界に別れを告げた。


15 家で


 家に帰って、しばらく着替えとかお土産を親に渡したりとかして過ごした。


 夕食を食べ終わる頃には、僕はもう眠くなっていた。

 3時間ぐらいしか寝てないからなー。

 お風呂入ってもう寝ようかな。

 今はコトが入ってる。


 ルーニャはもうすでに僕のベッドの上でうつ伏せになってうとうとしている。


「ルーニャ、僕お風呂入ってくるからね?」

「んにゃ……はっ!」


 ルーニャはほとんど眠りかけていたけど、突然ガバッと飛び起きた。


「そうにゃ、すっかり言い忘れてたけど、昨日ミイニャちゃんから連絡があったにゃ。それで、都合がついたから、明後日みんなでケット・シーの世界に行くにゃ!」


 え、中1日で……?


「楽しみだにゃー♪」


 踊り出すルーニャと、つられてステップを踏むテュピ。


 最近旅行行きすぎじゃない? 

 そのうちこの世界より異世界にいる時間のほうが長くなっちゃうかもしれない。

 でも、それも良いかなと思ってる自分もいるんだよね。

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