第23話 マーメイド&セルキーと水中かくれんぼ!
04 セルキーの街
「さあ、ルキちゃんの家にしゅっぱーつ!」
そう言うとマメちゃんは鼻歌を歌いながら僕たちを引き連れて、フォルちゃんの端まで移動した。
フォルちゃんに僕たちが飲み込まれた時に放り出された場所だ。
口のあたりなのかな?
「外に出るので、また尾びれを装備してくださいね」
僕たちはまた魚の下半身部分を模したズボンを装備した。
「フォルちゃーん、お口をあーんしてくださーい。出かけますのでー」
マメちゃんが声をかけると、あーん、という重く低い声と一緒に口があいた。
そこから外に飛び出し、再び海の中に出る。
相変わらず光に満ちた海だ。
「この世界は、大きな大きな透明の玉の中にあるんですよー。玉の外には空があって、玉の中の海を光で照らしてくれるんです」
だから海なのに360度どこまでも明るいのか。
「ほら、あっち見てー」
ルキちゃんが僕の腕を引っ張る。
「おお……」
彼女の指差す方向に、巨大な亀がいた。
ギガンテスの世界の平原にも大きな亀はいたけど、それとも比べ物にならない大きさだ。
「あれが私たちセルキーの住む場所。アスピドケロンのケロちゃんだよ!」
ケロちゃんの中は、フォルちゃんと同じように、大きな空洞になっていて、そこに20人ほどのセルキーたちが暮らしていた。
マーメイドは多分100人はいたと思うから、それに比べるとずいぶん少ない。
そのぶん生活空間も広々としている。
お店はないようで、みんなそれぞれの場所でおしゃべりをしたり、走り回ったりしている。
ボール遊びをしている子もいる。
マーメイドたちの間では音楽が盛んだったけど、ここではスポーツが盛り上がっているみたいだ。
「さあさあ、適当にくつろいでよ」
ルキちゃんは地面に敷かれた絨毯の上に腰を下ろした。
「あ、マメちゃん! と、旅人さん?」
周りのセルキーたちが集まってきた。
「マメちゃんのお客さんのモノちゃんたちだよ。今日はここに泊まってもらうから、歓迎会をしよう!」
「わー!」
セルキーたちは歓声をあげると、
「わーっしょい! わーっしょい!」
なぜか僕たちを胴上げし始めた。
これが彼女たちの歓迎の仕方なのかな?
「モノちゃん、一緒に遊ぼう!」
セルキーたちは僕を引っ張ると、マーメイドの衣装を脱がせ、アザラシの着ぐるみを着せてきた。
「えへへ、これでモノちゃんもセルキーだよ!」
「あー! モノさんはマーメイドのお客さんなんですー!」
マメちゃんは僕を引っ張ると、セルキーの衣装を脱がせ、人魚の服を着せてきた。
「今はセルキーなのー」
「マーメイドですー」
二人で僕を着せ替え合う。
「恥ずかしいからやめてー!」
「ルキちゃん、やめてあげましょうよー」
「マメちゃんこそ、えい!」
ルキちゃんはまた僕の人魚の衣装を脱がせた。
しかし、勢い余って僕の腰に巻いていた海藻まで引っ張ってしまった。
「あーれー!」
海藻が帯のように解け、回転しながら裸になる僕。
まだ胸には貝が張り付いてるから、全裸じゃないぞ。
セーフ!
05 海で遊ぼう!
ひとしきり遊んだ後、冷たいミルクのような飲み物を飲んで、それから夜まで自由時間になった。
夜はまたパーティーをしてくれるらしい。
結局服に関しては、僕とコトがセルキーの衣装、ルーニャとテュピがマーメイドの衣装ということになった。
それにしても今更だけど、ルーニャは猫耳としっぽの上に人魚の服だから、いろいろ混ざってるなあ。
「ねえねえモノ! どう? 似合う?」
「うん、かわいいよ」
「えっへっへー」
コトは着ぐるみでぴょんぴょん飛び跳ねてる。
セルキーの衣装が気に入ったみたいだ。
「じゃあちょっと外で一緒に遊ぼうよ!」
ルキちゃんに誘われて、また海に出ることにした。
マメちゃんも一緒だ。
ケロちゃんの口の付近まで行くと、不意にルーニャの方からニャニャニャニャ、という電子音が聞こえてきた。
「あ、ちょっと電話だにゃ。モノさんとコトさんは先に行っててにゃ」
ルーニャは隅の方に行って電話をし始めた。
テュピもそっちの方に行ってしまったので、僕とコトで海に行く事にした。
「よーし、森の方に遊びに行こう!」
「海の中なのに、森?」
「まあ付いてきなって」
ルキちゃんとマメちゃんは並んで泳ぎだした。
さすがに速いけど、僕たちも負けてない。
このセルキーの着ぐるみも、マーメイドの服と同じように、泳ぎを早くする効果があるみたいだ。
やがて目の前に大きな海藻やサンゴが茂るエリアが見えてきた。
木のように太いサンゴがたくさん生えていて、そのあちこちに貝が木の実のようにぶら下がっている。
その間を熱帯魚や、巨大なタツノオトシゴ、クラゲなどが泳いでいる。
「ここが森だよ!」
「わ、あのクラゲ、ピンクとか緑とか、いろいろなのがいるよ! もっと近づいてみようよ!」
「でも刺されたらまずいんじゃ……」
「あのクラゲちゃんはそんな事しませんよー。ほら」
マメちゃんはクラゲにそっと触れると、それを持ち上げて、頭にかぶった。
「ああああああ〜」
クラゲはマメちゃんの頭の上でもにょもにょしている。
マメちゃんはなんか気持ち良さそうだ。
頭皮マッサージみたいな感じなのかな……?
「4人でかくれんぼしようよ」
「いいですねー」
ルキちゃんの突然の提案に、マメちゃんは即座に同意した。
確かに、こんなに大きな海藻やサンゴとかが生えていれば、隠れる場所には困らないよね。
06 水中かくれんぼ
「私が鬼ねー。あんまり遠くに行ったら見つけらんないから、隠れる時間は30秒。一回隠れたらなるべく移動しないでねー。じゃあ始めるよー。いーち、にーい……」
カウントが始まったので僕たちは慌てて海藻の森の中に逃げる。
マメちゃんは僕たちとは反対の方に逃げた。
「どこに逃げよっか」
コトと相談する。
30秒しかないからあんまり考える時間はないよね。
「うーん、あっちのサンゴの陰なんてどうかな」
とりあえずコトが指差す方に泳ぐ。
「じゅーよん、じゅーご……」
制限時間はもう半分だ。
この辺りでいいかな。
「ここにしなよ……」
どこからか声がする。
辺りをキョロキョロすると、
「こっちこっち」
海藻の間に、ドラム缶のような大きさのイソギンチャクがいくつかあった。
声はそこから聞こえる。
「私の中に隠れなよ」
ひえー、イソギンチャクがしゃべってるよ!
コトと顔を見合わせる。
「でも……」
なんかちょっとこわい。
「にじゅーく、さーんじゅー!」
わっ、もうルキちゃんのカウントが終わっちゃったよ!
迷ってる場合じゃないよ。
僕はコトを抱き上げると、一緒に近くのイソギンチャクの中に入った。
イソギンチャクの中はうねうねしている。
「わあ、くすぐったい」
それに、さすがに二人だとちょっと狭い。
密着して、顔がくっつく。
僕はコトの背中に腕を回して、抱きしめた。
「ん、安心するよぉ……」
コトは足を僕の腰に絡めてきた。
「どこかなどこかなー」
ルキちゃんが近くを通り過ぎる。
それからしばらくの間、静かな時間が続いた。
「ふあ……」
うーん、イソギンチャクの中は暖かいし、コトの体温と柔らかい感触もあるし、なんか眠くなってきたぞ……。
僕はコトの背中を撫でながら目を閉じた。
「あ、モノちゃんとコトちゃんみ〜っけ! イソギンチャクの中にいるなんてー……って、寝ちゃってる……」
「ふふっ、かわいいです。ギンちゃんの中はあったかいですからねー。私たちも隣で寝ましょうかー」
「うーん、夜は歓迎会で盛り上がるからねー。今のうちに寝るのも悪くないかもー」
そんな声が聞こえた気がする。
07 夜の海
目を開けると、真っ暗な闇が広がっていた。
その中を、クラゲがぼんやりと光ながら泳いでいる。
ちょっと怖い。
コトはまだ眠っているみたいなので、抱っこして一緒にイソギンチャクを出る。
「夜になっちゃったみたいですねー」
すぐ隣でマメちゃんが囁いた。クラゲの光でかろうじて見える。
隣にはルキちゃんもいる。
寝ている僕たちを待っていてくれたのか。
「急いで帰りましょう。迷子にならないように後ろから誘導していきますねー」
そう言うとマメちゃんは僕を背後からふにょんと抱きしめて、押してきた。
「ん……」
コトがちょっと身じろぎしたけど、また動かなくなった。
この光るクラゲの群れは是非見せたいけど、起きてからでいいか。
ルキちゃんは僕たちのすぐそばで、クラゲや魚を撫でながら泳ぐ。
しばらくマメちゃんに押されながらクラゲの鑑賞を楽しんでいると、
「着きましたよー」
ケロちゃんが見えた。
カラフルなクラゲがたくさん甲羅に張り付いて発光しているので、遠くからでもはっきりとわかった。
ケロちゃんの中にたどり着いて、コトを床に下ろすと、彼女はすぐに起きた。
「クラゲ、綺麗だったね!」
「起きてたの!?」
「モノがぎゅーって抱きしめてくれてたから、寝たふりしちゃった!」
そう言えば電話をしていたルーニャはどうしたんだろう。
彼女の姿を探すと、
「おらおらー! もっと真面目にボールを追わんかーい!」
「ひえー、やっぱりモノさんたちを追ったほうがよかったにゃー!」
セルキーたちとボール遊びをして、熱血指導を受けていた。
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