第21話 ギガンテスの女王様と水浴び!

18 聖なる洪水


「あばばばばばば!」


 ゾウ様が噴き出した水を全身で浴びる女王様。


「う、うわあ、流される〜!」


 横にいた大臣が水に飲み込まれそうになって、柱にしがみついている。

 もう自分では制御できなくなってしまったようで、ゾウ様の鼻からはまだまだ水が噴き出している。


「パ、パオオーン……」

「何とかしてー、だそうだ!」


 大臣が柱を握りながら翻訳してくれた。

 何とかって言われてもなあ……。


「わ、私の方も何とかしてくれー!」


 女王様は玉座から転げ落ちてしまっている。

 ゾウ様はおろおろと動き回るので、あちこちが水浸しになる。


「私に任せ、うわー!」


 ゾウ様から転げ落ちていたミレイユさんが城に入ってきて、あっという間に流された。

 水の勢いは増す一方だ。


 ここまでくると完全にゾウ様の容積を超えてると思うんだけど、どうなってるんだろう。


「ええい、こうなったら、大きさを変える呪文でゾウ殿を小さくしてやる!」


 エルシアさんがゾウ様の上で立ち上がって、呪文の詠唱を始めた。

 なるほど、ゾウ様が小さくなれば中の水も少なくなるということか。


「むにゃむにゃむにゃ、ぶつぶつぶつ……よし」


 エルフの世界で見せてくれた風や水の魔法の時よりも長い時間をかけて、ようやく詠唱が終わった。


「えいっ、ちいさくなーれ!」


 エルシアさんが叫ぶと、ゾウ様が、光でできた泡のようなものに包まれた。


「パオー、オー、オー、ォー……」


 おお、ゾウ様がどんどん小さくなっていく。

 ちょっと心配だったけど、今回は成功したみたいだ。

 ゾウ様は最終的に猫ぐらいのサイズになって、鼻から出る水も普通のホースぐらいの水量になった。


「ふう……。一時はどうなるかと思った。すごいですねエルシアさん!」

「はっはっは、そうだろうそうだろう。今度ダリアに会ったら言ってくれていいんだぞ。このエルシアこそがギガンテスの世界を救った英雄であると……」


 そこまでの話じゃないと思うんだけど。

 でも本当に良かった……。


「お、おーい」


 後ろから当惑したような声がする。

 振り向くと、そこには僕と同じぐらいの背丈の、王冠をかぶった女の子がいた。

 もしかして女王様!?


「ど、どうしたんだ!? なんで私ちっちゃくなっちゃったんだ!?」

「………………」


 やっぱり魔法はちょっと暴走していた。


19 清めの儀式


 結局、女王様が小さくなって、城から出られるようになったので、清めの儀式は洞窟の泉でやることになった。

 洞窟に到着し、中を歩く。


「そなたたち、旅行者であるにもかかわらず私のために水を運ぶ手伝いをしてくれたとは……気に入った! 特別に私と清めの儀式を行うことを許そう」


 女王様は上機嫌だった。

 女王様は大きくなりすぎたため、ここ数十年は手狭になった城でかなり不便な思いをしていたようだ。

 魔法は1日で解けるみたいだけど、つかの間の小さな姿を堪能しているみたいだ。


 水に関しては、自主的に手伝ったというより、ミレイユさんに無理矢理巻き込まれたというのが真相なんだけど。


 そのミレイユさんも、口笛を吹きながら僕たちの横を歩いている。

 頭の上には小さくなったゾウ様が載っている。


「たまには小さくなってみるのもいいな! これからもエルシアとやらにはたまに魔法をかけてもらいたいのだが……」


 エルシアさんはこの場にはいない。

 彼女はあの後カンカンに怒ったミイニャが現れて連れて行かれた。


 長時間はぐれていたので、心配になってエルフの世界のダリアさんにも連絡を入れたらしい。

 帰ったら怒られるぞー。



 洞窟の奥、泉のところに到着した。


「ではこれより清めの儀式を執り行う」


 そう言うと大臣はウクレレのような楽器を手に、演奏し始めた。

 泉の周りで、数人のギガンテスが舞を踊る。


 その中で女王様は衣服を脱いで、泉に足を付けた。


 僕たちも脱ぐのか……。

 やっぱり周りが女の子だらけの中で脱ぐのは緊張する……。

 神聖で厳かな空気も緊張感を倍増させている。


 コトやルーニャ、テュピも服を一枚一枚脱いでいく。

 もたもたしていたら目立ってしまう。

 僕も急いで脱がないと。


「ひゃっほーい!」


 ミレイユさんは服を一気に全部脱ぎ捨てると、猛ダッシュして泉に飛び込もうとして……


 ツルッ、

 ブルルルルルルルオオォン! 


 盛大に転んだ。


「うわっはー!」


 足を大きく開いて尻餅をつくミレイユさん。

 うわあ、とんでもない場面を見てしまった。


20 水浴


 水に足をつけてみる。

 ちょっと冷たいな。

 感触は普通の水と変わらない。


「あんまり動き回らないほうがいいぞ。中心部はかなり深いからな」


 そうか、ギガンテスが水浴びできるような泉だもんね。

 僕はコトと手を繋ぐと、泉の淵に背を預けてくつろいだ。


 ルーニャはテュピを膝の上に抱えてのんびりしている。

 女王様も今は小さい状態なので大人しく端の方で水を浴びている。

 ミレイユさんだけは泉のあちこちをバシャバシャと泳ぎ回っている。

 ゾウ様を背中に乗せながら。


 その水音と、大臣が鳴らす楽器の音に耳を傾けながら、ほのかに光る蛍のような虫を眺めていた。


 不意に、僕の足のあたりからゴボッ、という音がした。


「何?」


 下を見ると、ザバーッと勢いよく何かが僕の脚の間から飛び出してきた。


「ふーっ、やっと帰れましたー。あれ?」


 そこにいたのは、長くて青い髪の女性だった。

 一瞬裸かと思ったけど、胸には貝殻が張り付いている。

 下の方に視線を移すと、なんと、おへそから下は魚のようになっていた。


 彼女はしばらくの間キョロキョロすると、僕の方を見て、


「また間違えちゃったみたいですねー」


 自分の頭をコツンと叩いた。


「あの、あなたは……?」


 コトがぽかーんとしながら尋ねる。

 ルーニャたちもこっちの方を見ている。


「私はマーメイドのマメちゃんですよ。マーメイドの世界はいいところですよー。お魚がいっぱいで。今度ぜひ来てくださいねー。私も、その時までに帰れたらおもてなししますからー」


 そう言うとマメちゃんはザブンと水に潜って……、消えてしまった。


21 ギガンテスの夜


 街に戻って、女王様をお城の中まで送って、僕たちは宿屋に戻った。


 それから間もなく夕食の時間になった。

 ルーニャはミイニャとの約束があるので、宿のレストランに向かった。


 僕たちも誘ってくれたけど、

 久々に会った友達だし、二人でゆっくりした方が良いんじゃない? 

 という事になった。


「さっきのケーキみたいに食べ過ぎないようにね?」

「だーいじょーぶにゃ。同じ失敗はしないにゃ」


 僕たち残りのメンバーはバルバラさんのオススメのお店に行く事にした。

 そこはビュッフェ形式なので、自分が食べれるだけの分量を取ることができた。


 そのあといろいろなお店に入りながら宿屋に戻って、テュピを膝に乗せながら、昼間に買った画集をコトと一緒に眺めていると、ミレイユさんがやってきた。

 腕にはルーニャを抱えていた。


「こいつ、うっかり食べ過ぎて動けなくなっちゃったみたいだから連れてきたぞ」


 やっぱり……。



 今日はなんだかんだ言って結構歩いたし、疲れたなー。

 少し早いけど寝る事にしよう。


 ベッドは一つに4人余裕で寝れる大きさだったけど、二つあるので二手に分かれる事にした。

 まだ動けないルーニャと、残りの3人。

 僕の両側にコトとテュピ。


 途中でお酒を飲んだミレイユさんが乱入してきて、すぐにバルバラさんに引っ張られて出ていくという一幕もあったけど、なんとか眠りについた。


22 帰る


「また来いよ」


 ミレイユさんが僕の肩をたたく。

 中庭にはミレイユさんやバルバラさん、まだ小さいままの女王様が来ていた。


 もう帰る時間だ。

 テュピはテュポーン号に姿を変えて、噴水の前で待機している。

 鳥がその上に何羽かとまっている。

 相変わらず大きいなあ。


 でも、過ごしやすい世界だったな。


 ん、木の向こうに何かが見える。

 隠れているみたいだけど、リボンがついた可愛らしい尻尾がはみ出ている。


「ミイニャちゃん?」


 ルーニャが呼びかけると尻尾がビクッとして、渋々といった感じでミイニャが木の陰から出てきた。


「……昨日は大丈夫だったみゃ?」

「あー、うん。大丈夫にゃ。ほんのちょーっとだけ食べ過ぎちゃったにゃ」

「ホントーに世話がやけるみゃ!」


「にゃにゃ……申し訳ないにゃ。ところでそのうちモノさんたちをケットシーの世界に連れて行くつもりなんにゃけど、予定を合わせられないかにゃ?」

「みゃみゃっ!? 何でそんなことしなくちゃならないみゃ!?」

「久しぶりに一緒に遊ぶにゃ! 遊びながらモノさんたちにケットシーのいろいろなスポットを案内すれば一石二鳥、一挙両得にゃ!」

「私はルーニャと違って人気の異世界案内人だから忙しいみゃ! そんな時間は……ちょっとしかないみゃ!」

「じゃあまた異世界ネットでメールするにゃー! 予定考えといてにゃー」

「話を聞くみゃ〜!」


 ミイニャが叫ぶと同時に僕たちが乗り込んだテュポーン号は離陸し、ギガンテスの世界から飛び去った。


23 帰宅


「ふう、きれいに貼れたなー」


 帰ってからしばらく休んで、お茶を飲んだりお母さんにお土産を渡したりしたあと、僕は自分の部屋の壁にギガンテスの世界の地図を貼った。


 今回は結構お土産買ったぞ。

 コトも確かカップとか買ってたっけ。


 部屋を見回す。

 まだまだ異世界のお土産は少ないけど、これから増えていくんだろうなあ。

 楽しみだ。


「でも……」


 もう一度部屋のあちこちを見る。


 ルーニャの座布団。

 ルーニャの帽子。

 ルーニャのバッグ。

 テュピの本。

 二人の枕。

 二人のタオルケット。


 ……だんだん僕の部屋が侵食されてる気がするよ。

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