第18話 ギガンテスさんと大きなケーキ!

05 街に到着


 街に入ると、まずレンガの家が規則正しく並んでいるのが眼に入った。

 通りには鎧を着た人たちがどこかに向かったり、脇にある露店で商品を眺めたりしている。

 そしてその一番奥、遥か彼方には大きなお城が見える。


 本当に大きなお城だ。

 100メートル以上はありそうだ。


 ごーん、ごーん。

 そのお城のてっぺんにある鐘がなった。

 街中に重い音が響く。

 何かの時間を知らせているのかな。


「これは鎧を脱いでもいい時間になった合図さ」


 ミレイユさんが後ろからやってきて言った。


「あれ、もうお説教は終わったんですか?」

「いや、ゾウ様が鐘の音に一瞬気を取られた隙に走って逃げた」


 門の方を見ると、


「パオ〜! パオオー!」


 ゾウがプンプン怒って腕を振り上げている。


「あわわ、ゾウ様どうか怒りをお鎮めください!」

「ミレイユのやつには後で言って聞かせますから!」


 さっきまで寝ていた二人の門番さんが慌ててゾウをなだめている。


「さ、行こうか」


 ミレイユさんは意に介さずに大股で歩いて行った。


「ギガース族は体を鍛えるために午前の間は金属の装備を身につけて生活するんだ」


 歩きながらミレイユさんは鉄の胸当てを外した。


「ここが宿屋だ。さ、入ってくれ」


 僕たちの目の前には大きなお屋敷があった。

 広い庭には赤や黄色、様々な花が眼を楽しませてくれる。


 真ん中には噴水があって、小鳥(といっても僕たちの世界のニワトリぐらいの大きさ)が羽を休めている。

 蝶々が辺りをヒラヒラと舞っていて、これも色鮮やかなんだけど、やっぱり大きくてちょっと怖い。


 テュピはさっそく虫を追いかけている。

 ルーニャは隅の方に生えている木のそばに寄って見上げている。

 何か実が生っていないか見てるのかな? 


 植木の手入れをしているギガンテスの横を通って、お屋敷の扉の前に着く。


06 宿屋


「ミレイユ! どこ行ってたんだい? また客引きサボってたんじゃないだろうね!?」


 宿屋の中に入ると、ミレイユさんよりもさらに一回り大きいギガンテスが仁王立ちで待ち構えていた。


「そ、そんな事ないよママ。聞いてくれ、お客さんを連れてきたんだ。それも4人」


 ミレイユさんに促されて前に出る。

 彼女の母親が驚いた表情を見せる。

 ミレイユさんの影に隠れていたから今気づいたようだ。


「おやおや、いらっしゃいませ。宿屋・大地の巨人亭にようこそ。私は亭主のバルバラです。ごゆっくりおくつろぎください」

「じゃあ私は泊まる手続きをするから、その辺で待っててにゃ」


 ルーニャは受付でバルバラさんと話し始めた。

 そういえば忘れがちだけど、ルーニャは異世界旅行の案内人なんだった。

 そんなに時間はかからないだろうし、ちょっとコトと近くをウロウロするか。


 大きい宿屋だけあって、客室以外にも色々あるみたいだ。

 バーとか、レストラン、ミュージアム、ショップなど。

 本屋さんもあるぞ。

 字は読めないけど、パラパラと雑誌のような大きな本をめくってみる。


 テュピはカフェの前でメニューを眺めている。

 と思ったら店の中にふらふらと入っていった。


「ちょっとテュピ、食べるのは後にしようよ」

「ケーキ……」


 テュピを抱っこして連れ出す。

 エントランスの方に行くとちょうどルーニャが手続きを終えたみたいで、手招きをしている。


「これから部屋に案内してもらって、そこで鎧を脱いでから街を散策するにゃ」

「はーい」


 ミレイユさんが先頭に立って僕たちを案内してくれた。

 部屋は2階にあるけど、階段が高くて登りづらい。

 みんなで手をつないで、ミレイユさんにちょっと引っ張ってもらう形で登る。


 2階は客室が並んでいる。

 窓から外を眺めている貴婦人風の女性の脇を通って奥の方の部屋に向かう。


「ここがあんたたちの部屋さ」


 ミレイユさんが鍵を使ってドアを開け、中に通す。

 部屋の中もやっぱり広くて、物も大きい。

 ベッドはダブルベッドを縦横に2倍ぐらいにしたものが二つ置いてある。

 すごいなあ。

 ベッドだけで僕の部屋より広いよ……。


「風呂も一応ついてるけど、銭湯も近くにある」


 一通り説明すると、ミレイユさんは出て行った。

 それから僕たちは鎧を脱いだ。

 鎧の下は黒い薄手のシャツだ。

 ふう、だいぶ軽くなった。

 今度は逆に薄着すぎるぐらいの格好になっちゃったけど、暖かくて、適度に風があって、過ごしやすい気候だから心地よい。


 しばらく窓から庭の様子を見た後、下に向かう。

 階段を一段一段慎重に降りる。


「おう、準備できたか。じゃあどうする? 街に行くなら案内するよ」

「いや……」


 僕はテュピの方を横目で見る。


「まずはここのカフェでケーキを食べようかと思って」


07 カフェ


 カフェでは飲み物とケーキのセットを頼んだ。

 当然の事だけど、ケーキも大きい。

 スーパーサイズだ。


 なので僕と事は二人で一つのものを頼む事にした。

 でもルーニャとテュピは一つずつ頼んだ。

 大丈夫かなあ。


「甘いものは別腹にゃー♪」


 ルーニャはニコニコしながら待っている。

 すぐにケーキがやってきた。


 僕とコトが頼んだのはシンプルなショートケーキ。

 ルーニャはチーズケーキ、テュピはバナナのタルトだ。

 一口食べてみる。

 味は驚くほど人間の作るものに近い。


 飲み物はアイスティーにした。

 量が多いから、甘い飲み物だと大変そうだもんね。

 ストローを2本挿してコトと一緒に飲む。


「ああ〜、おいしいにゃ〜」


 ルーニャは幸せそうにチーズケーキを食べている。

 テュピも黙々とタルトを食べていたけど、


「はい……」


 タルトを刺したフォークが僕の前に差し出される。


「あーん……」


 ちょっとくれるみたいだ。

 僕もバナナのタルトは好きだからありがたい。

 バナナのタルトって、どこのケーキ屋さんにもあるわけじゃないからね。

 おいしいのに。


 ちょっと恥ずかしいけど、フォークにかぶりつく。

 むむむ、あまーい。


「いいなー」


 コトが羨ましそうに見てくる。


「コトも一口食べたいの?」

「それもだけど、私もモノにあーんしたい〜! はい、あーん!」


 コトがショートケーキを差し出してくる。

 それを食べていると、横から肩をトントンと突かれる。

 振り向くとテュピが小さく口を開けている。


「…………」

「え?」


 なんだろう。


「…………」


 しばらくして気づく。

 僕はショートケーキをフォークに刺して、テュピの口に入れた。

 もぐもぐと小さく口が動く。


「……おいしい」


 無表情の中に少し笑顔が見えた気がする。


「…………」


 それとは対照的に、さっきまで満面の笑みだったルーニャが今度はフォークを持ったまま無表情になっていた。

 顔にはうっすらと汗が浮かんでいる。

 ケーキはまだ半分ぐらい残っている。

 大きすぎたのか。

 やっぱり。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る