第17話 ギガンテスさんに乗って街に行こう!

01 家


 最近では、ルーニャが僕の部屋にずっと居座るようになってしまった。

 今も僕のベッドの上でテュピを膝の上に乗せて、アニメ映画のDVDを観ている。

 ルーニャはもともとテュポーン号の中や、色々な異世界の宿屋に泊まったり、あちこちを転々としているみたいだ。

 僕の部屋はその拠点のうちのひとつみたいな感じなんだろう。


「まあケットシーの世界に帰れば実家はあるけどにゃ。あそこには立派な異世界案内人になるまで帰らないって決めてるにゃ」


 いつになることやら。


「うーん、アニメって初めて観たけど、面白いにゃ! もっと色々な番組を観せるにゃ!」


 ルーニャは人間の文字は読めないけど、声はケット・シーの特殊能力を通して翻訳できるので、テレビやラジオはうってつけの娯楽だった。


「じゃあ今度私の部屋にあるDVDも持ってくるよ」


 コトが僕の膝の上で言う。


「本当にゃ!? コトさんはどんなDVDを持ってるにゃ?」

「モノの可愛い場面を集めた映像集とか……」

「それはいいにゃ……」


 コトは一体何を作ってるんだろう。

 検閲の必要がありそうだ。


02 ギガンテスの世界へ


「明日はギガンテスの世界に行くにゃ」


 寝る時間になって、電気を消した後でルーニャが言う。

 いきなりだなあ。

 寝る場所はくじで決めていて、今日は僕とコトがベッドで、ルーニャとテュピが床だ。


 ギガンテスの世界かあ。

 この前ハーピーの世界で会ったミレイユさんの世界だよね。

 ギガンテスといえば某RPGの敵キャラとして有名だよね。

 単数系のギガースの名前で出てるゲームもあるね。

 だいたい巨人でパワータイプという点が共通してるかな。


 今まで旅行に行った世界はどちらかというと華奢な子が多かったから、今回はちょっと毛色が違う感じになりそうだ。

 一緒に筋トレとかやる事になったらどうしよう。



 次の日。


「さあ行くにゃ。準備はいいかにゃ?」

「おーう」


 リビングに集まって腕を振り上げる僕たち。

 今回の装備は鉄の鎧だ。


 鎧と言っても全身を覆うものではなく、頭、腕やおへそ、脚の部分は覆われていない簡易的なものだ。

 それでも今までの服よりはずっと重い。

 こんな格好の集団が現代日本の普通の家庭に集まっているのはちょっと妙な光景だ。

 お母さんが笑いを堪えたような表情でこっちを見ている。


「さあ、早く行こう」


 僕が急かすと、テュピの髪がシュルシュルと僕たちを包んだ。


03 ギガンテスの世界


 テュポーン号はギガースの世界の上空に到着すると、すぐ下の方にあった、開けた草原に降りた。

 途中、窓から外を見たけど、この世界は周りを高い壁で囲まれていた。

 その箱庭のような世界の中に、草原、王国、森、洞窟、塔などがある。

 上から見るとまるでRPGのマップのようだった。


 ただし、その一つ一つがかなり大きい。

 全てのものがだいたい人間の世界の3倍近くに大きくなった感じだ。

 というより僕たちが小人になったような気分だ。


 さて、いつまでもここに留まっていないで、どこかに移動したいけど、


「か、体が動かない……」


 僕たちの目の前にはゾウのような生き物がいた。

 やっぱり人間の世界の生き物よりもはるかに大きい。


 敵意はないようで、僕たちの事を横目で見ると、興味なさそうに近くの木になっている実を食べ始めた。

 それでも怖くて体が竦(すく)んでしまう。

 ひええ。

 20メートルはありそうだ。


「だ、大丈夫にゃ……。この辺りの生物は人を襲わないはずにゃ……」


 ルーニャはそう言うものの、体はガタガタ震えている。

 やっぱり大きいだけで恐いもんね……。

 ゾウの他にもカメやシカ、カラス、トンボなどが大きなサイズでウロウロしている。

 周りに生えている草も背丈が高くて歩きづらいし、たまに視界をふさがれてしまう。


「テュピー、やっぱりもっと街に近い場所までテュポーン号モードで移動しようよー」

「うーん、でも町はすぐ近くだし、せっかくだから歩いてみるにゃ。いざとなったらテュピちゃんが髪で包んで守ってくれるにゃ」


 ルーニャが脚を震わせながら言う。

 まあ確かに向こうの方に街の入口が見えるし、見た所こっちに向かってくるような動物もいない。

 行ってみるか。

 重い腰を上げて歩き出そうとすると、


「ふあぁー……」


 ゾウが実を食べている大きな木の上の方から気の抜けたあくびの音が聞こえた。


「あ〜よく寝た。腹減ったなあ、リンゴでも食べるか」


 木に近づいて上の方を見ると、大きな女性が枝の上に座って木の実を食べている。


「あ、ミレイユさん?」

「ん、おお、あんたたちはこの前の!」


04 ミレイユさんと再会


 ミレイユさんはこちらに手を振ると、木から降りようとした。

 が、その際に手を滑らせて、持っていたリンゴを落としてしまった。


「パオ!?」


 リンゴはゾウの背中にヒットした。


「パオーン! パオパオ!」


 ゾウは激怒して、木をゆっさゆっさと揺らした。


「ひええー! ごめんよー!」


 ミレイユさんは必死に木にしがみついている。

 僕は草の陰からその様子を見ていた。

 やっぱり恐いよー。



「パオ! パオンパオ!」


 結局ミレイユさんは木から落ちて、そのあとゾウにガミガミとお説教された。


「ふう。やっと解放された。あのゾウ様は私が子供の頃からよく世話になってるから、頭が上がらないんだ」


 ミレイユさんは頭をかきながら僕たちの方にやってきた。


「ギガースの世界にようこそ。改めてよろしくな」


 ミレイユさんは屈むと、僕たちに握手を求めた。

 その態勢は、お姉さんと小さな子供みたいな感じだった。


「よろしくお願いします」


 握手と自己紹介をする僕たち。


「よし、じゃあ街に行こうか。私の宿屋に案内してやろう。客を連れてこないとママ……じゃなくて母親がうるさいんだ。さあ、乗ってくれ」


 そう言うとミレイユさんはしゃがんだ状態で両手を広げた。


「えーと……?」


 どうすればいいのかわからずに戸惑っていると、


「早く乗ってくれ。両手と、胸と背中。4人乗れるだろ?」


 ええー……。

 いくら大きいとはいえ、4人も乗せたら150キロ以上、200キロ近くはあるよ……。

 大丈夫かな……? 


「もう、なにぼーっとしてるのさ」


 ミレイユさんは目の前にいた僕を両手で抱きしめて胸に押しつけると、そのまま右腕にテュピ、左腕にルーニャを乗せた。


「さ、コトちゃんは背中に乗りな」

「は、はい」


 コトが素直に背中に乗ると、


「ふん! ふぬぬー!」


 ミレイユさんは立ち上がると、猛然と走り出した。


「うわあっ」

「はっはっはー!」


 すごい速さだ。

 頑張ってしがみつかないと。

 

 僕は胸側で、首筋に顔を押し付けている状態だ。

 ミレイユさんは鉄の胸当てを着けているので、お腹のあたりがちょっと冷たい。


 肩越しにコトの顔が見えるけど、ちょっと怖がっているように見えたので、手を彼女の頭の後ろに回して撫でた。

 コトは安心したように頬っぺたをすりすりしてくる。


「にゃにゃ〜っ! 風が気持ちいいにゃ〜! ミレイユさんはすごい怪力だにゃ〜!」

「すすめー……」


 ルーニャとテュピは腕の上で楽しんでいるようだ。

 僕からはあまりよく見えないけど、風に髪がなびいている。


「はっはー! 凄いだろ〜! 力持ちだろ〜! もっと凄いことしてやるぞー」


 ミレイユさんは上機嫌にそう言うと、両腕を広げたままぐるぐると回りだした。


「にゃああー! にゃああー!」


 遊園地のコーヒーカップみたいな状態だ。

 胸にしがみついている僕はまだいいけど、腕にいるルーニャたちは結構きついんじゃないかな……。


「はっはっはー! はっはっはー! はっは、うわああーっ!」


 ミレイユさんは回りすぎてバランスを崩し、地面に倒れこんだ。

 倒れた先は運悪く、街の周りを流れる水路の中だった。

 

 どぼーん! 

 大きな音とともに僕たちは水の中に沈んだ。



「パオ〜! パオオン! パパオ!」


 ミレイユさんが正座してゾウに叱られている。

 結局あのゾウの長い鼻によって僕たちは助け出された。

 ありがとうゾウさん。

 

 今回のお説教は長くなりそうだったので、僕たちは彼女を置いて先に街の中に入った。


 入口の前には槍を持った二人の兵士が立っていたので、少し緊張したけど、普通に通れた。

 横目でその人たちの顔を覗くと、立ったまま寝ていた。

 鼻提灯が出ている。

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