第16話 ハーピーと幸せの青いニワトリ!

22 おやすみ


「もう寝よっか」


 コトが言うと、


「ん、まだー、まだ遊ぶの……」


 ピヨは半分寝ながら返事をする。そのうちぬいぐるみを抱えながら寝てしまったので、抱っこしてハンモックの上に乗せた。


「僕たちも寝ようか」


 部屋を見ると、隅の方にタオルケットが何枚か積んである。

 コッコたちが泊りに来た時に使っていたのかもしれない。

 これを使わせてもらおう。


 僕たちはそれをかぶると、小声で会話をしながら眠くなるのを待った。

 しばらくすると、


「ママ……」


 ハンモックから声がする。

 寝言を言っているようだ。

 お母さんは下の階での仕事が忙しくてなかなか会えないってコッコが言ってたよね。


 起き上がって、すでに寝ているルーニャを起こさないようにそっとピヨのところに向かう。


「ん……」


 ピヨは少し泣いてるみたいだった。

 僕は自分の寝床に戻ると、脇にあるカバンを開けた。

 中からさっき手に入れた幸運の卵の殻のペンダントを取り出す。

 そしてハンモックのところに戻って、しばらくピヨの顔を見守る。


 すると、後ろから腰に手を回された。

 振り返るとコトがいた。


「コト……」


 コトは僕がすることをわかっているみたいで、微笑みながら頷いた。

 ペンダントをピヨの首にかける。


「ピヨがお母さんと会えますように」


 さっきの受付の人は、願いが叶うアイテムだって言ってたけど、どうやってお願いをするのかも、本当に効果があるのかもわからない。

 人間の世界みたいに、単なるおまじないのようなものなのかもしれないし、エルフの世界みたいに何か魔法のような力が働くのかもしれない。


 それでも、まあ試してみる価値はあるよね。


 それから二人でじっと様子を見ていたけど、特に何も起こる様子はなかった。

 でもとりあえずピヨもそれ以上寝言を言うこともなかったので、そろそろまた寝ようということになった。


「ピヨちゃん、服めくれてる」


 コトはピヨの服を整えると、お腹を撫でて、寝床に戻った。



 横になって二人で手をつないでいると、外から悲鳴のようなものが聞こえた。


「あー、待ってー!」


 声はだんだん大きくなって、すぐそばまでやってきた。

 バーン!

 という音とともに木の窓が開いて、丸っこいニワトリのような姿の青い鳥と、その長い尾にしがみついたハーピーが飛び込んできた。


「待ってー!逃げちゃったら教皇様に怒られるー!」


 どうやらその女性は鳥が逃げないように必死に捕まえているようだ。


「もー、一体どうしちゃったのー!」


 青い鶏はハンモックのそばに着地して、羽を畳んだ。


「ふう、やっと分かってくれたの? おとなしくしててね」


 女性はそこでやっと、体を起こして呆然としている僕たちに気付いたみたいだ。


「あれ、あなたたちは誰……、そしてここは……ん、もしかして私の家!?」


 女性はハンモックの中を覗き込んだ。

 そこにはピヨがすやすやと寝息を立てている。

 今の騒ぎでも起きなかったみたいだ。

 ついでに言うと、ルーニャもにゃふにゃふと寝ている。


「ピヨちゃん……!」


 女性はぎゅっとピヨを抱きしめた。

 この人がピヨのお母さん? 


23 ピヨママ


「あの、あなたたちは?」

「あ、僕たちはピヨの友達です」

「まあ、いつの間に新しいお友達が……。私はピヨの母親です。ずーっと下の教会で働いてます」


 そこでピヨがもぞもぞと寝返りを打って、会話が途切れる。

 青いニワトリは静かにハンモックのそばで寝ている。


「それにしても、ハーピーの羽で教会からここまで一年かかるのに、数時間でついちゃうなんて、不思議ね」


 お母さんが呟く。

 この鳥がそんなに速く飛ぶようには見えないけど……。


「この幸せの青いニワトリは、願いを叶える卵を産むんだけど、誰もそれを見たことはないの。私はそのお世話をするために教会に住み込みで世話をしてるの」


 ピヨの母親はそんなことを小声でポツポツと話した。

 どうやら今夜はここにいることにしたようだ。

 娘を起こさずに見守っている。


24 幸せの青いニワトリ


 結局それからうとうと寝たり、お母さんとちょっと話したりしている間に、開け放したままの窓から見える空が白くなってきた。

 すると突然、


「コケーッ!」


 と青いニワトリが鳴き始めた。

 僕はちょうど眠りかけていた時なので、心臓が止まるかと思った。


「ニャニャーッ!」


 ルーニャはマンガみたいにかぶっていたタオルケットごと飛び上がった。

 全身の毛が逆立っている。


「な、なに、なんなの……!」


 ピヨも驚いてハンモックから足を出して落ちそうになっている。


「えっ、ママ……?」


 自分の母親がそばにいることに気づいたみたいだ。

 ちなみにお母さんは慣れているようでニワトリの声にも微動だにしない。


「ピヨちゃん!」

「ママ……!」


 ピヨがハンモックから飛び降りて、親子で抱き合う。

 青いニワトリはその周りをぐるぐると回った。


 そして二人の抱擁が終わって離れた途端、二人の間に立つと、


「コケッ!」


 ピヨの首のペンダントについている卵をそっとついばみ、


「コケッコ」


 飲み込んでしまった。


「あっ、卵が! っていうかあたしいつの間にペンダントを……?」


 ピヨが僕の方を見た。

 ペンダントの飾りを飲んだ青いニワトリはハンモックの周りをしばらく飛ぶとその中央に降りて、


「コ、コ、コケーッ!」


 口からポンポンポン、と青い大きな卵を3個産んだ。

 え、口からなの? 


「ひゃー! 青いニワトリが卵を!?」


 さっきニワトリがけたたましく鳴いた時も動じなかったピヨの母親が、今は腰を抜かしそうになっている。


「わあ……」


 ピヨとコトが並んでそのピカピカ光る卵を見ている。



 結局、ピヨのお母さんは教会に戻らず家で生活することになった。

 青いニワトリが卵を産んだハンモックから離れなくなったので、ここで世話をすることになったのだった。


 コッコたちもその卵を見に来た。

 コッコは、


「大昔の伝承の中にしか存在しない卵がいま目の前に! びっくりして全部漏らしちゃった!」


 と騒いでいた。

 本当に大丈夫? 


 そして一通りみんなで慌しく過ごした後、僕たちの帰る時間がやってきた。


25 帰る時間


「おやぶん、本当に行っちゃうの?」

「親分さん、もうちょっといてくださいよー」


 ピヨとコッコたちが僕にしがみついてきた。


「旅行者だからね。家に帰らないと。でもまたすぐに来るよ」


 実際テュピに頼めば簡単に来れるからね。


「約束だよ! 嘘ついたらキラービーの槍飲ますからね!」

「大丈夫だよ、ほら」


 コトはピヨを抱きしめると青い卵を指差した。


「お願いしよ? みんなで一緒に入られますようにって」

「うん……」


 今まで黙っていたテュピがピヨにビシッと指をつきつけた。


「ゲームの勝負は終わってない……。私はまだ本気出してないだけ……。今度は負けないから……」


 こうして今回の旅も終わった。


26 お土産


「あ、今回もお土産忘れた」


 家にたどり着いてコトと荷物を整理している時に気づいた。

 お風呂のエリアの近くにショッピングのエリアがあったみたいだけど、慌しくて忘れてしまっていた。


「うーん、私も今回は何もないよ。宝探しで何か手に入ったらあげようと思ってたんだけど」


 そっかー。

 まあしょうがないか。

 と思っているところにお母さんがやってきた。


「おかえりモノ。旅行は楽しかった?」

「う、うん」


「はい、ママさん。お土産だにゃ」


 ルーニャがお母さんにキラービーのぬいぐるみを渡した。

 宝探しで掘り当てたやつか。


「まあ、ありがとうルーニャちゃん!」


 お母さんはルーニャの頭をくしゃくしゃと撫でてから僕の方を見る。


「で、モノは? 何かないの?」


 僕は無言で首を横に振る。

 ジト目になるお母さん。


 このままでは旅行に行くたびに僕の肩身が狭くなるシステムになってしまう。

 次ピヨに会いに行く時は、お土産を忘れないようにしないとね。

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