第15話 ハーピーと一緒にお風呂!

14 宝探し


「宝探ししていきますかー? 今なら目玉商品、願いが叶うという幸運の卵の殻を使ったペンダントが見つかるかも!?」


 受付のお姉さんが笑顔で僕たちを案内する。

 部屋の中は木の外に流れているような雲がたくさん浮かんでいた。

 何人かのハーピーがその中に潜って一生懸命お宝を探している。

 床には木の実が生っている小さな木が何本も植えてあって、その木の実を割って中を調べている人もいる。


「さて、お宝はどこに隠れているでしょう? 制限時間は一時間! ペンダント以外にもお宝はいっぱいあります。いろいろ探してみてくださいね」


 案内が終わると早速ピヨやルーニャたちが駆け出した。


「どこ探そっか」

「そうだねー、まずは地面から調べようか」


 雲の上を調べるには車で飛んでいく必要があるし、小回りが利く、という意味では最初に床周辺を歩いて調べたほうがよさそうだ。

 コトは木に近寄ると、実を摘んだ。

 パカッと中を開けると、空っぽだった。


 僕も実をもいで開けてみたら、紙が入っていた。

 一体なんだろうとワクワクして読んだら、悪口が書いてあった。


「むきー!」

「おおよしよし」


 コトが僕の頭を撫でて慰めてくれた。

 それからいくつか実を開けたけど目ぼしいものは見つからなかった。


「うーん、甘いよぉー!」


 ピヨの歓声が聞こえた。

 彼女は雲の上にいて、たくさんの飴を掘り当てていた。

 ルーニャやテュピもペロペロキャンディを舐めている。

 いいなあ。


「よし、僕たちも雲を探そう」


 コトを抱っこして車に乗せると、早速上を目指した。


 ルーニャやピヨたちがいる所よりももっと上に、人がいない雲があった。

 たまたま目につかなかったのか、もう探し終えちゃったのか。

 とりあえずここを少し探してみよう。


 雲は手で簡単に掘れる。

 コトと並んでどんどん掘っていく。


 うーん。

 何も見つからないぞ。


「あっ、ぬいぐるみが出てきたにゃ!」


 ルーニャがキラービーのぬいぐるみを手に抱えて飛び上がってる。

 むむむ。


 数分後、雲は粗方調べつくしてしまった。

 収穫はなし。

 下ではルーニャやピヨが相変わらずお菓子や小物を掘り当てている。


「他の雲を探そう」


 制限時間はあと五分だ。

 ちょっと焦る。


15 雨雲


 上を見ると、さっきまではなかった、黒っぽい雲がそこにあった。

 よし、次はあれにしよう。


 車に乗って上昇する。

 上昇して上昇して、


「わあっ」


 勢い余って雲に突っ込んでしまった。

 焦りすぎた!


 壁とか人とか、ぶつかると危ない場合は自動的にブレーキがかかるけど、今回は止まらなかった。

 まあふわっとしてて痛くはないし、それよりも早くお宝を探そう。

 などと思って体勢を立て直すと、


「うわあ!」


 ざーざー。

 黒い雲から雨が降り始めた。

 ぶつかった衝撃のせいかな?


 雲はどんどん広がって、天井を覆って、どんどん水を流す。

 土砂降りだ。


「ひえー! いったい何が起きたにゃー!」

「おやぶんまたやらかしたのー!?」


 宝探しに夢中になっていた人たちは何が起きたのかわからずに慌てる。

 ひええ、お化け屋敷に続いてまた出入り禁止に!? 

 密かに怯えながら下の様子を眺めていると、何かがこちらに向かってくるのが見えた。


 それは木の先端だった。

 雨を浴びた木が、天井に向かってすくすくと、ニョキニョキと伸びているのだった。


 細長く伸びた木は、僕とコトが乘っている車の脇まで伸びると、僕の方に先端を向け、

 ぽん!

 と音を立てて実をつけた。


「…………」


 それをコトと一緒に手を伸ばして恐る恐るもぎ取る。

 そして中を開けると、青く光る小さな卵の殻が付いたペンダントが入っていた。


「おおー、それが幸運の卵のペンダントです! おめでとうございまーす!」


 受付のお姉さんがパタパタと僕のところまで飛んできてマイクを使って僕を祝福し、手を叩いた。

 パチパチパチ……。

 周りのハーピーたち、そしてルーニャとテュピも僕に拍手を送ってくれた。

 コトと手を繋いで、二人で頭をさげる。


16 夕食


「やったね! さすがおやぶん! 幸運の卵はね、持ってるとどんどん願いが叶うんだよ」


 ピヨが僕の周りをぴょんぴょん跳ねる。


「やっぱり親分さんはすごいですね!」


 コッコたち3人もコトの手の中にあるペンダントを見て興奮している。

 照れるなあ。

 でへへ。


 それから上のフロアのレストランでみんなで夕食をとることになった。


 ここのレストランは料理の種類やサービスの趣向によって幾つか選択肢があったけど、下の方にあったゴーストのお化けレストランは、ゴーストたちが僕とコトの顔を見た瞬間逃げ出してしまった。

 彼女たちの間でお化け屋敷での話が広まっているらしい。


 なので上の方にある普通のレストランに入ることになった。


「このあとはみんなでお風呂に入って、部屋で遊んで、寝る!」


 食後に出されたジュースを飲みながらピヨが言う。

 外はもう真っ暗だ。

 星は見えない。

 その代わり雲がぼんやりと光を放っている。


「それにしてもこんな上のフロアまで来たのは久しぶりだなー。アミューズメントで楽しめたし」


 コッコが伸びをした。

 料理学校の卒業が決まった記念に、ケーキを頼んだ。


「私たちが学校を卒業できたのも、ピヨたちがたくさん実を持ってきてくれて、親分さんがキラキラシロップをくれたのが大きかったと思いますし、本当にありがとうございます!」

「いや、僕の方こそありがとう! 案内してくれたおかげで充実した1日だったもん!」


 僕たちは立ち上がってお辞儀をしあった。

 ちょっと目立っちゃってる。


 食事のあと、早速お風呂に向かうことになった。

 お風呂はピヨたちの部屋からちょっと下。

 ここからだとずーっと下だ。


17 巨人


 レストランを出ようとすると、向こうからとても大きな人がのっしのっしと歩いてきた。

 翼もないし、明らかにハーピー族とは違う。


「ギガンテスだにゃ」


 ルーニャが僕に囁く。

 身長は僕の3倍ぐらいある。


「おや」


 ギガンテスは僕とすれ違うと、振り返って声をかけてきた。


「お前たち、ハーピーじゃないね。そこの子はケットシーか。ってことは旅行者だね?」


「は、はい……」

「私はギガンテスのミレイユ。ギガンテスの世界で『大地の巨人亭』という宿屋をやっている。うちの世界は異世界旅行者が大勢来ている。お前たちも一度来るといい」


 そう言うとミレイユさんはレストランの中に入って、


「メニューに書いてあるもの全部くれ」

「ひ、ひえー!」


 シェフたちを震え上がらせている。

 確かに、ハーピーの料理は量的には結構控えめだし、あの巨体には物足りないのかもしれない。

 それでも全部は食べすぎだと思うけど……。


18 お風呂


 僕たちはアミューズメントエリアの最初の階まで降りると、車を返却した。

 そしてハーピーたちの背中に乗ってお風呂のエリアまで飛んだ。


「この階で服を脱いで、下の階でお風呂に入るんだよ」


 ピヨが服を脱ぎながら言った。

 全員裸になると、下の階に降りた。

 なんかザアザアという音が聞こえてくる。



 雨が降っていた。

 湯船の真上には大きな雲が浮かんでいて、そこから暖かい雨が優しく降り続いていた。

 ハーピーたちはそれを気持ち良さそうに浴びながら入浴を楽しんでいた。


「さ、一緒に入ろ!」


 ピヨは僕の手を引っ張ると湯船に飛び込んだ。

 ざぶーん、と水しぶきが上がった。


「えい!」


 ピヨがすかさず僕にお湯をかけてくる。

 しばらくコトやルーニャたちも混ざってのお湯の掛け合いになった。


「そろそろ体洗おっか」


 ピヨは羽をパタパタさせて湯船から飛び出すと、上にある雲を少しちぎって僕たちに配った。

 そして壁際の洗い場に向かった。

 そこに小さな雲をセットする。

 ジョウロのようにチョロチョロとお湯が出てくる。


 僕はコトと背中を流しあった。


「おやぶん、頭洗ってー!」


 ピヨが言うので、彼女の後ろに回って柔らかい金髪を洗う。

 翼が時折体に当たってくすぐったい。


「あ、羽も洗ってー。自分で洗うの大変なんだよー」


 えー。

 なんか、自分に無い物を洗うのはちょっと緊張するな……。

 どうすればいいんだろ。

 とりあえず背中の方から、羽毛の流れに沿って泡立てたタオルで洗う。


「くすぐったいよー」


 ピヨは羽をパタパタさせて楽しそうだ。

 隣ではルーニャがテュピの長い髪を洗ってあげている。


19 お風呂上がり


 お風呂から出て、ピヨの羽を拭いて、服を着る。

 ふう。

 すっきりした。


「じゃあおやぶん、あたしの部屋に行こ」


 今夜はピヨが泊めてくれるみたいだ。

 この辺りに宿屋はないみたいだし、ありがたい。


「ずーーーっと下の方にはあるみたいだけどねー。宿屋。でも多分何年も飛ばないとダメだろうねー」


 ピヨが言うには、下に行くほど幹が太くなっていて、入り組んだ部屋になっているらしい。


「私たちは部屋に戻るからねー。親分さんもピヨもまた明日ー」


 コッコたちは手を振ると自分の家に帰って行った。

 帰り際にコッコは僕を呼び寄せると、


「ピヨのママはずっと下の方の教会でお仕事をしていて、滅多に帰ってこれないんです。それでいつも寂しそうにしてました。あんなに楽しそうなピヨは久しぶりに見ました」


 僕は明るいピヨしか知らなかったので、その話は意外だった。


「だから、ありがとうございます。帰るまでの間、ピヨのこと可愛がってくださいね」

「う、うん」


20 ピヨと遊ぶ


 ピヨの部屋に戻る。

 中はさっき見たときのままだ。


「ねーねーおやぶん、遊ぼう」


 ピヨはぬいぐるみを僕たちの前に並べた。

 それを使ってしばらくのあいだ人形劇、というかおままごとをした。

 恥ずかしがる僕に対して、コトとルーニャはノリノリだった。

 それから一時間ほど経つと、次第にピヨは退屈した様子になっていった。


「次は何しよっか。えっとね、えっとね……」


 体育座りしたまま足をバタバタさせる。

 ワンピースの裾から白い下着がチラッと覗く。


21 ピヨとテュピ


「これは、どう……?」


 テュピが何かを髪の中から取り出して、ピヨに渡した。


「……? 何これ」


 それは携帯ゲーム機だった。

 持ってきてたんだ。

 僕のなんだけど……。


「もう1個ある」


 テュピはまた髪からゲーム機を取り出した。

 赤いやつだ。

 コトが僕と対戦ゲームをするために買って、僕の部屋に置いていったものだ。


「じゃあレースゲームで遊んでみようか」


 あれなら僕もコトも、ゲーム機本体にダウンロードしてあるから、ソフトは必要ない。

 ゲーム機を起動して、ソフトを選択する。


「わっ、なんか映った!」


 ピヨが目を丸くする。

 ピヨの部屋を見る限り、ラジオやテレビみたいなものはあるみたいだけど、こういうゲーム機はないみたいだ。


「面白そう! どうやるの!?」


 ピヨが身を乗り出す。

 僕はピヨに操作方法を説明した。

 まずは一人でプレイしてもらって、それから対戦しようと思ったけど、

 コンピューター相手だと、相手がどんどん先に進んでしまって差がついてしまうので、

 結局僕と対戦プレイをして、ピヨが操作に慣れるまで僕はウロウロと適当に走り回ったりしていた。


 一通り説明して、ピヨが慣れると、僕は自分のゲーム機をテュピに渡した。

 どうやらゲームが気に入ったみたいで、さっきからずっと僕の画面を覗き込んでそわそわしてたからね。

 テュピはゲーム機を受け取ると、ピヨの真正面に正座して、真剣な表情でキャラクターを選択した。


「テュピちゃんと勝負だね! やっとやり方もわかってきたし、負けないよ!」


 それから三十分後……。


「いえーい! また勝ったー! テュピちゃん弱ーい!」


 ピヨは連戦連勝していた。

 決して上手いわけじゃないんだけど、テュピが池に落ちたりして自滅していた。


「……………………………………もう一回……」


 テュピは小刻みにプルプルとしていた。

 ピヨの隣に移動してプレイを再開する。


「あっ、テュピちゃんまたバナナの皮で滑った! よーし今のうちに!」


 ピヨがまたテュピとかなり差をつけているみたいだ。

 体を大きく左右に倒しながら操作する。

 テュピも体を思い切り左に傾けて必死にプレイする。


「…………!」


 ころん。

 体を傾けすぎて、テュピはピヨの膝に倒れこんでしまった。


「あっ!」


 ピヨは驚いて操作を誤ってしまったみたいだ。


「もー!」


 何とか体勢を立て直すけど、テュピに抜かれてしまう。


「…………」


 テュピはそのままピヨの膝に抱きついて邪魔をする。


「ちょ、ちょっと、何すんの」


 焦るピヨだけど、テュピはお構いなしに膝の上に乗ったりしながらプレイする。


「もー! もー! こうなったらあたしも邪魔する〜! こちょこちょこちょー!」


 二人はゲーム機を置いてくすぐり合いを始めた。

 うん、楽しそうだ。

 僕はコトやルーニャと一緒に二人の様子を見守った。

 ひとしきり遊び終わると、二人とも疲れたみたいで、うとうとし始めた。

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