第14話 ハーピーとこわ〜いオバケ!

10 ハーピー料理学校


「早速これを上に持って行こう!」


 ピヨは階段を上り始めた。

 両手で木の実を抱えているので、さすがに駆け上がる事はできない。

 ペタペタと一段一段木の階段を上がる。


 しばらくは同じような、作物がなっているフロアが続いた。

 それでも生っている実は少しずつ違うようだ。

 ピヨによると、さっき水をまいて育てた雲が、この木に雨を降らせる事によって色々な実が生るようだ。

 このカラフルな光景は後でスケッチしておきたい。


 休みながらも階段を上に上に登っていって、ようやくちょっと違うフロアについた。

 なんかもうお腹ぺこぺこだよ。

 今回の旅行はずいぶん運動量が多いよね。


「ここがハーピーのお料理学校。さっきの3人はここの生徒だから、多分いると思うんだけど」

「あ、ピヨちゃん! 親分さんたちも」


 僕たちを運んでくれた3人がやってきた。

 服の上にシンプルなエプロンをつけている。


「コッコちゃん、木の実いっぱい持ってきたからなんか作って!」


 コッコちゃんと呼ばれた赤い髪の子は僕たちが持ってきた木の実を見回した。


「これだけあればかなりの量の料理ができますよ」

「うん。だから出来たらみんなで食べよ!」

「いいですね!」


 僕たちは壁際のテーブルに収穫した木の実と壺を置いていった。


「ん? こ、この壺の中身はキラキラシロップ!?」

「へへーん! すごいでしょ! おやぶんが取ってきたんだよ!」

「こんな壺いっぱい手に入れるなんて、びっくりしてかなり漏らしちゃった!」


 大丈夫? 

 とりあえず僕たちは3人が料理をする様子を見学させてもらう事にした。


「えいっ」


 コッコが赤と紫、二つの実を空中に投げた。


「はー!」


 髪が青い子がその二つの実に空中でチョップを放つと中身が飛び出した。


「てやー!」


 茶色い髪の子がそれを素早くボウルでキャッチすると、泡立て器みたいなもので激しくかき混ぜた。


「にゃー……」


 ルーニャは感心して見入ってる。

 それからも3人がかりで実を切ったり、混ぜたり、伸ばしたりして、キッチンの上はダイナミックに、かつカラフルに姿を変えていった。


「えーい!」


 最後に、3人は空を飛んでぐるぐる回りながらキラキラシロップを匙で上からかけた。


「よーしっ! これで完成です!」


 3人は床におりると、腰に手を当ててポーズをとった。

 僕たちは拍手をした。

 ピヨも腕を振り上げて喜んでる。


 ん、何だ? 

 部屋の奥の方からも拍手の音が聞こえるぞ。


「感動したざます……」


 上の階からソフトクリームみたいな髪型の、30歳ぐらいのハーピーが降りてきた。


「先生!」


 3人はその女性の元に駆け寄った。


「もうあなたたちに教える事は何もないざます。卒業ざます」

「せ、先生〜!」


 3人は先生に抱きついた。


「3人とも、木の実料理人になって世界中の木の実を調理してみんなに食べてもらうのが夢だったんだ。これで一歩それに近づいたね」


 ピヨは壺の底に残った蜜を舐めながら3人の姿を眺めていた。


11 みんなで遊ぼう


 素晴らしい食事の後は、みんなで遊ぶ事になった。


「ここからちょっと上の方に行くとアミューズメントのフロアがあるんだ。行ってみよ!」


 そういう事になったので、僕たち4人はハーピーの背中に乗って上に飛んだ。

 ピヨの背中の上から、空を見上げる。

 やっぱりどこまでも木は伸びていってる。

 先は見えない。


「この木はねー、世界が始まったときからずっと伸び続けてるんだよー」


 ピヨはせっせと翼を動かしながら言う。


「始まりは一つの種だったんだ。そこから芽が出て、ぐんぐん伸びて、何万年もったった今も伸び続けてる。その先も、その根っこも、見た人は誰もいない」



 しばらく飛ぶと楽しげな音楽が樹の中から聞こえてきた。


「ここがアミューズメントフロアだよー」


 4人のハーピーはネオンが輝く丸いスイングドアから中に入った。

 中には鳥の形をした乗り物が何台かあった。

 この階にあるのはそれだけだった。


「あれ、これがアミューズメントフロア?」

「この階だけじゃないよ。1つの階に1つのアトラクション。全部で50階あるよ。1階ずつ歩いて登っていくのは大変だから、ここでこの車を借りて移動するの」


 車は二人乗りだった。

 4台借りて、僕はコトと一緒に乗った。


「安全運転でね、モノ」

「う、うん。頑張る」


 車運転したことないけど大丈夫なのかな? 

 まあゴーカートみたいな小さい車だし、何とかなるよね。

 とりあえずアクセルを踏んでみると、ぶぉーん! と音を立てて車体が宙に浮いた。


「わっ」


 コトがしがみついてくる。

 僕は思わずアクセルから足を離した。

 車はゆっくりと下に降りる。


 なるほど。

 飛べる車か。

 ハンドルは回す以外に上下に動かすこともできるみたいだ。

 これで高度を調節するのか。


 僕はハンドルを下に動かしてまたアクセルを踏む。

 車はほぼ真上に飛んだ。


 しばらくフロアの中を飛び回る。

 どうやら人や天井にぶつかりそうになると自動的に止まってくれるようだ。

 ルーニャ、テュピの車が部屋をぐるぐると円の軌道を描きながら走っている。


「目が回るにゃー! にゃにゃにゃ!」


 ピヨやコッコたちの車は慣れたように並んで走っている。

 だんだんコツをつかんできたところで、上の階に向かう。


 このフロアは階段ではなく、上り坂になっている。


 上の階はメリーゴーラウンドがあった。

 この階にはそれだけがあって、ひたすら鳥の形の乗り物が軽く上下に揺れながら回っていた。


「どうする? 二人で乗る?」


 コトが横から訪ねてきた。

 うーん。

 全部で50階あるっていうし、一つ一つ回る時間はないよね。

 絞っていかないと。


「何かオススメのアトラクションはあるの?」


 ピヨに聞いてみる。


「そうだねー、お化け屋敷は結構楽しかったかも」

「お化け屋敷?」


 ハーピーのお化け屋敷か。

 どんな感じなんだろう。

 怖いのは苦手だけど興味はある。


「じゃあそこに行ってみよう」


 僕たちはメリーゴーラウンドを後にして上に向かう。

 ジェットコースターみたいな乗り物が途中に幾つかあって、そこはそれなりに賑わっていた。

 ちょっと乗ってみたい気もしたけど、まあ後で時間があったらにしよう。


12 お化け屋敷


「ここだよ」


 前を走っていたピヨたちの車が止まった。

 お化け屋敷っていうからどんなおどろおどろしい場所かと思っていたら、部屋の中は明るくて、あちこちにお菓子が散らばっていた。


「ふふふ、お化け屋敷にようこそ! 私たちゴースト族があなたたちを怖がらせちゃうからね!」


 真っ白な風船にシンプルな顔の落書きが描いてあるような子がフワフワと飛んできた。


「わあ、かわいい」


 コトがゴーストに抱きつく。


「えっ、コトちゃん結構勇気あるね」


 ピヨがちょっとビクッとしながら感心している。

 後ろでコッコたちはガタガタ震えている。


「お化け屋敷はやだよー! もう帰ろうよー」

「いーっひっひっひ!」


 ゴーストが彼女たちを追いかけ回す。

 彼女たちはもうほとんど泣いていた。

 他のハーピーもキャーキャー声を上げながら逃げ回っている。


 どうやらハーピー族はゴーストが苦手みたいだ。

 こんなに可愛いのに。


「ほーら、こっちも怖がれ〜!」


 青白いゴーストが近づいてきた。

 どうしたらいいかわからなかったのでとりあえず頭を撫でる。


「ひゃっ、いきなり何するの!」


 ゴーストはみるみる赤くなった。


「いや、可愛いからつい……」

「か、かわいい……!?」


 ボン! と音を立ててゆでだこみたいに真っ赤になるゴースト。


「もう! そんなこと言われたの初めて! ゴーストをからかうなんて……! みんなー!」


 ゴーストが叫ぶと部屋中のゴーストたちがわらわらと集まってきた。


「この人、全然怖がらないの! みんなで怖がらせて!」


 青白いゴーストが叫ぶと、周りの子は驚いた表情を浮かべて、それから僕に襲いかかってきた。


「ゴーストを怖がらないなんて、悪い子!」

「怖がれー! 怖がれー!」

「えーい、くすぐっちゃうよ!」


 何十ものゴーストたちに囲まれて、ぺしぺし小突かれたりくすぐられたりした。


「ひいっ、やめてー」


 くすぐったくて思わずうずくまると、ゴーストたちは少し安心した感じになった。


「おや、膝を抱え込んじゃって、そんなに怖かったの?」

「ふふふ、わかれば良いんだよ」

「これに懲りたらもう、か、可愛いなんて言わないでよね!」


 どうやら彼女たちは僕が怖くてうずくまったと勘違いしているみたいなので、すっと立ち上がると、彼女たちを撫で回した。


「ひゃあっ、怖がったふりだったの!?」

「人を騙すなんて、そんな子にはお菓子あげないからね!」


 僕は構わずゴーストを撫でる。

            撫でる。

             撫でる。


「ひえー! 全く怖がらないよー!」

「えーん、怖がらないなんてひどいよー!」


「待てー!」


 逃げ回るゴーストたちを追いかけて撫でる僕とコト。



 僕たちは出入り禁止になった。


13 次のアトラクション


「まったく、お化け屋敷であんなにはしゃぐ人は初めて見たよ」


 ピヨたちは少し呆れている。


「でもあのゴーストたちを怖がらないなんて、さすが親分さん」


 コッコがキラキラした目で僕たちを見ている。


「あれを怖いと思うかは結構種族によって違うにゃ。私は割と慣れてるけど、テュピちゃんは、ほら」

「お化け……なんて……怖くない……怖く……ない……」


 ぷるぷると携帯のバイブレーション機能のように震えるテュピ。

 汗がダラダラと流れている。

 あんまり感情がないような感じのテュピにも苦手なものがあるのか。


「じゃあ次はどこに行こうか」

「今度は宝探しなんてどう?」


 宝探しはかなり上の方の階らしい。

 車でひたすら登っていく。

 途中たくさんのアトラクションがあって、気になったものは、短い時間で楽しめそうなものを中心にどんどん遊んでみた。

 宝探しのフロアに着く頃には夕方になっていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る