第13話 ハーピーと大きな木の実!

06 ピヨの友達


 彼女達は手にジョウロを持っていた。


「あ、みんなー。ちょうど良いところに!」


 ピヨはパタパタと手と翼を振った。


「なになにー」


 ハーピーたちは僕たちがいる雲に降りると、ジョウロから水をまいた。


「あ、旅行者さん? 珍しいですねー」

「あのね、この人、おやぶんっていうとっても偉い人なんだけど、この人たちを樹まで連れていきたいの。手伝って!」

「お安い御用ですよー。よろしくね親分さん」


 ここでも親分にされてしまった。

 照れるなあ。


「じゃあ乗ってくださいー」


 ハーピーたちが屈む。

 ちょうど4人いるので、一人ずつ乗れる。

 でも、女の子の背中に乗るのは、なんというか、ちょっと背徳感があるなあ。


 そう思いつつ、僕はピヨに、コト、ルーニャ、テュピはさっきやってきた3人に乗る。

 みんな人間の大人に比べるとやや小柄だけど、見た目よりはるかに力があるみたいで、重たそうな様子はまったくない。


「私たちは雲に水をまきながら帰るから、ちょっと時間かかりますよー」


 空を羽ばたきながら、コトを背負ってる子が言う。

 かなりのスピードで飛んでいるので、風圧が強いし、声も聞き取りづらい。


「雲に水を?」

「そうやって雲を大事に育てるとー、甘い雨が降って〜、樹においしい木の実がなるんだよ!」

「そういえばピヨも水やりに外に出たんでしょ? ジョウロはどーしたんですか?」


 ピヨの友達が頭の上にハテナマークを浮かべる。


「え……、ああ、おやぶんたち見つけた時に嬉しくて思わず放り投げちゃった!」

「ピヨー……これでもう何個ジョウロなくしてるんですか……」


 3人はため息をついた。


07 伝説の樹の中で


「さ、そろそろ着くよ」


 30分ぐらい飛んで、いよいよ樹が近づいてきた。

 木肌に空いた窓のような穴や、丸くて大きな扉、木の枝になる色とりどりの実などがよく見える。

 周りには大勢のハーピーが飛び回って雲に水をあげたり、木の実をとったり、追いかけっこをしたりしている。

 ピヨたちはゆっくりと下に降りながら、丸いスイングドア(スーパーの奥とか西部劇のバーの入り口によくある感じの、手を使わずに押し開けられるドア)をくぐりぬけた。


 樹の中は公園のようになっていた。

 芝生があって、ベンチがあって、木や花が植えてあって。

 木の中に木があるなんて! 


「ここはおうちのフロアだよ。あたしの部屋もここにあるから案内するね」


 ピヨは僕を背中から降ろした。

 さすがに人を乗せるのは大変だったのか、首筋には汗が浮かんでいる。

 それから芝生の上を駆けて、雲の絵が描いてある壁紙のところに向かった。

 そこはよく見ると扉になっていた。


「ここがあたしの部屋ね」


 がちゃり。

 ピヨはドアを開けて中に入ると、僕たちを手招きした。


「私は勉強があるからあとで遊びに行きますねー」


 コトたちを運んでくれたハーピーたちは一旦自分の部屋に帰ってしまった。

 僕たちは彼女たちにお礼を言うと、ピヨの部屋に入った。



「お邪魔しまーす」


 部屋の中も、ドアの外と同じように芝生が敷き詰めてあった。

 そこにはボールやぬいぐるみ、クレヨンや積み木などが転がっていた。

 天井からは藁のようなものが敷かれたハンモックが吊るされている。

 そこで寝るのかな。


 ピヨは棚からジュースを取り出すと、コップに入れて、僕たちに配った。


「みんなお腹すいてない? あたしお腹ぺこぺこ」


 芝生の床にぺたんと座るピヨ。

 僕たちも座ってジュースを飲む。

 うん。

 100パーセントのフルーツジュースって感じだ。

 柑橘系の味がする。


「ワタシもお腹すいたにゃ。あんなに走ったのは久々だにゃ」


 ちびちびとジュースを飲むルーニャ。

 彼女にはちょっと酸っぱかったかもしれない。


「じゃあみんなでご飯食べに行こう! いえーい!」


 ピヨは勢いよくコップを掲げた。

 その拍子に中身がこぼれた。


08 木の実のパラダイス


 部屋から出ると、ピヨは階段を駆け上がった。

 上の階も、下と似たような、公園と扉が並ぶフロアだった。

 そこもどんどん駆け上がる。


 しばらく上がると少し様子が違う場所に出た。

 そこは吹き抜けみたいになっていて、外に太い枝が伸びているのが見える。

 緑色に茂った葉っぱの隙間に、赤や黄色、紫色など様々な色の木の実がキラキラと輝いている。

 何人ものハーピーがそれを摘み取って何処かに運んで行っている。


「ハーピーの料理人はね、ここにある木の実をね、いくつも組み合わせて料理を作るの。さっきコトちゃんたちを運んだ3人は木の実シェフの見習いさんなんだよ」

「へー……」


 僕たちはその大きな木の実の鮮やかさに心を奪われていた。


「今からこの実をいくつか摘むよ。手伝って」


 ピヨは走って枝の方に行くと、早速大きな赤い実を引っ張った。


「うーん、うーん」


 思いっきり引っ張って引っ張って引っ張って……、

 ぶちっ! ドシーン! 

 尻もちをついた。


「ほら、おいしそうでしょ!」


 ピヨは倒れたまま腕に抱えた赤い実を見せた。

 スイカでもあれほど大きいのはなかなか見ないな、というぐらいの大きさだ。

 ピヨは見た目によらず結構力があるみたいだし、僕たちは二人組でやったほうが効率的かもしれない。


 僕はコトと一緒に枝を渡り、まずは手始めに小さめの白くて丸い実をもぎ取る事にした。

 二人で実を両側からつかんで、捻るようにして引っ張る。


 ルーニャは綺麗な星形の黄色い実をテュピと一緒に引っ張ってる。


 ぷちっ。

 二つのグループはほぼ同時に実を収穫する事に成功した。


「その調子その調子! じゃああと2個取ったら上に運ぼう!」


 あと2個、という事は一人1個ずつ運ぶのか。

 確かに大きさを考えると複数持つのは難しい。


 僕は枝の先の方まで歩くと、緑色の、小さめの実がたくさんついた房に目をつけた。

 小さめとは言っても、メロンぐらいの大きさはある。


「よし、次はこれを採ろう」

「大丈夫? 重いんじゃないの?」

「でもおいしそうだし」


 僕はブドウのようなその房の根元を引っ張った。


「うーん……」


 二人がかりでもなかなか取れない。

 途中からはピヨにも手伝ってもらって、3人でぐいぐいと引っ張ったり捻ったり。

 そして、

 ブチーン! 


「やった、取れたー! うわっ」


 なんとか房を枝からもぎ取る事には成功したけど、僕は重さでバランスを崩してしまった。


「う、うわー! うわー! うわー!」


 その拍子に、僕は果物の房ごと枝からポロリと落ちてしまった。


09 キラービー


「ひょえー!」


 数メートル落下した僕は、別の枝の上に尻もちをついた。


「いたた……。早く上に戻らないと……」


 房を抱えながら落ちちゃったけど、どうやら実は無事のようだ。

 黄緑色に輝いてるよ。


 お尻を押さえながら立ち上がると、何やら良い匂いがする事に気づいた。

 何だ? 


 近くにはツボのようなものがたくさん並べてある。

 匂いはここからするみたいだ。

 のぞきこむと、オレンジ色っぽいどろっとした感じに光る液体が入ってる。

 何かの蜜かな? 


「あっ! ドロボーさん!?」


 突然背後から声をかけられて僕はビクッとした。

 振り返ると、そこには槍を持った女の子が6人立っていた。

 ハーピーとは違う虫のような羽が生えていて、お尻の部分が膨らんだ黄色い服を身にまとっている。


「キラービー族の貴重な蜜、取っちゃだめなのー! えい!」

「えい! えい!」


 6人のキラービーさんたちは手に持った槍で僕をついてきた。

 4人は前後左右から。残りの2人はブーンと飛んで上からついてきた。


「痛! 痛!」


 実際には、その槍はグミみたいな材質で、あまり痛くはなかった。

 でも、女の子6人に囲まれて攻撃されるというのは、何というか、別の意味の痛みを感じる。

 僕は思わず手に持った大きなブドウ型のフルーツを落としそうになった。

 するとキラービーたちもその果物に気づいた。


「ん、その手に持ったフルーツは!」

「粒がいっぱいある!」

「ひい、ふう、みい、6個ある!」

「6……私たちと同じ数だ!」

「もしかして……!」

「私たちにくれるの!?」


 キラービーたちは僕をツンツンしながら口々に言った。

 何でそんな話に!? 

 でもこのままではずっと攻撃されそう。


「えーと、う、うん」


 僕が答えるとキラービーたちの顔がぱあっと明るくなった。


「わーい!」

「この人、良い人!」

「すごく良い人!」


 彼女たちは槍を引っ込めると、ぶんぶんと踊り出した。


「すごく良い人にはこれあげる!」


 キラービーは僕に蜜が詰まった壺を一つくれた。

 うおお、ずっしりする。


「上の方から来たんでしょ。ついでに送ってあげる!」


 6人のキラービーたちは協力して僕を持ち上げると、ふわふわと上昇した。

 ハーピーは1人で軽々と人間を持ち上げたけど、彼女たちは6人でも大変そうだ。

 ピヨたちのいる場所に戻ると、コトが心配そうに下を覗き込んでいた。


「あ、モノ! 大丈夫!? 怪我はない!?」

「うん。心配かけてごめん!」


 キラービーたちはへろへろになって下に戻って行った。


「これ、お土産」


 僕は蜜が入った壺をコトたちに渡した。


「こ、これはキラービーにしか作れないキラキラシロップ!」


 ピヨは壺の中身を見て飛び上がった。


「めったに手に入らない超レアアイテムだよ! びっくりしてちょっと漏らしちゃった!」


 そんなすごい物なのか。

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