第12話 ハーピーと雲の上!
01 ゲーム
紙袋を抱えて、コトと夕焼けの中を並んで歩く。
今日は電車でちょっと街まで出て、本や服を買いに行った。
うーん、久しぶりに人混みの中に飛び込んだけど、やっぱり疲れるよね。
少し部屋で休もう。
コトを家まで送って、自分の家に帰って手洗い・うがいをして水を飲み、部屋に戻る。
「あ、おかえりにゃー」
「おかえりー……」
ルーニャとテュピが僕のベッドの上にうつ伏せになって携帯ゲーム機で遊んでた。
「で、出たー!」
「人を化け物か幽霊みたいに言わないで欲しいにゃ!」
プンプンと頬を膨らませるルーニャ。
テュピはルーニャの背中の上に乗ってゲーム画面を覗いてる。
「っていうか人間の文字読めないんじゃないの?」
ケット・シーは周囲の種族と会話ができるようになる能力があるみたいで、それによって異世界旅行が円滑に進むわけだけど、文字に関しては管轄外のようだ。
「うん。だからママさんにこのゲームをお勧めしてもらったにゃ。これならジャンプするだけだから文字は関係ないにゃ!」
画面を見せてくるルーニャ。
アクションゲームか。
それなら確かに文字の量は少ないね。
でも文字が多くても僕とコトが読んであげれば良いわけだし、今度みんなでゲーム大会でもやろうかな。
「……じゃなくて、なんでルーニャ達が僕の部屋にいるの?」
「いやだにゃ〜、ワタシたち、友達だにゃ〜。部屋に遊びに行くぐらい普通だにゃ〜」
「だにゃ〜……」
「それにしても馴染みすぎでしょ……」
そのうち僕の家に居座りそうで怖いし、更に恐ろしいことに、うちのお母さんがそれを拒否するのが想像できない。
「それよりコトさんはどうしたにゃ?」
「家に帰ったよ」
「ええっ、モノさんとコトさんって、一緒に住んでたんじゃなかったにゃ!? あんなに毎日いちゃいちゃちゅっちゅしてるのに?」
「う、うん……」
ちゅっちゅはしてないでしょ。
してないよね?
「うーん、コトさんがいたら今から強引にハーピーの世界に連れて行くつもりだったけど、もう自分の家に帰っちゃったんなら、明日にするしかないにゃ……」
良かった。
旅行には行きたいけど準備ぐらいさせて欲しいよ。
もう夜に近いし。
お母さんも夕飯作り始めてるし。
「というわけで今日は泊まるにゃ!」
「ええ……」
「お泊まりお泊り〜♪」
「いえーい……」
ルーニャとテュピはベッドの上で足をバタバタさせている。
「ルーニャちゃーん、ご飯よー」
下からお母さんの声がした。
もうすでに了承済みなのか……。
食後、コトにボイン(人気のコミュニケーションアプリ)でルーニャが泊りに来た事を告げると、急遽コトも泊りに来た。
そして4人でパジャマパーティーをした。
深夜に旅行に行くとか言いださなくて良かった。
02 朝
次の日。
目がさめると、目の前にテュピの顔があった。
僕の目を覗き込んでいる。
「……おはよう」
「おはー……」
ドキッとしながらも挨拶をする。
昨日はルーニャとテュピがベッド、僕とコトは床で寝た。
ルーニャとコトは先に起きたみたいで、ここにはいない。
テュピは口数が少ないし、二人きりだと少し緊張する。
テュピはそのまま携帯ゲーム機で遊び始めたので、僕はパジャマから服に着替える。
下に降りる前に少しスマホを見ようと思ってベッドに腰掛けると、膝の上にテュピが座ってきた。
「テュピ?」
「ここ……教えて」
僕にゲーム画面を見せてくる。
先に進めないみたいだ。
僕はテュピの手の上からゲーム機を握ると、ぴょこぴょこと敵を踏み越えて安全な場所まで進めた。
「ありがとう……」
テュピはまた自分で操作し始めた。
僕の膝の上からどく気は無さそう。
うーん、下に降りたいんだけどなあ。
仕方なくじっとしていると、コトたちが部屋に入ってきた。
「おはようモノー、朝ごはん出来てるからそろそろ……」
僕と膝の上のテュピを見て硬直するコト。
「お、おはようコト」
「もー! そこは私の特等席なのにー!」
コトは僕のベッドにダイブすると、後ろから抱きついてきた。
すりすり、すりすり。
顔を背中に擦り付けてくる。
「ひゅーひゅー♪」
ルーニャは僕たちの様子を見て、下手な口笛を吹きながら踊り出した。
03 出発
「今回はハーピーの世界に行くにゃ」
朝食の後でルーニャが宣言した。
「ハーピーはこの前会った通り、翼が生えている種族……。空の上の世界を堪能できるはずにゃ。ぶるぶる……」
小刻みに震えているルーニャ。
高いところが苦手なのかな。
僕だって得意じゃないけどね。
ゴブリンの世界では打ち上げられたり、落ちたり、無理やり飛んだりしてますます苦手になった気がする。
「じゃあテュピちゃん、早速しゅっぱーつしんこーう! だにゃ」
「待って……このステージ……クリア……してから……」
「……早くしてにゃ」
まだゲームやってたのか。
04 ハーピーの世界
「さあ、ここがハーピーのおおぉぉぉぉ!?」
テュピの髪に包まれて移動した先は、空の上だった。
周りには何もない。
地面も、足場も。
「お、落ちるーーー!」
空中で足をバタバタさせる。
ひ〜!
下も上も雲ばかり。
落ちたら助かりっこないよー!
「みんな……落ち着いて……」
テュピが僕たちに髪を巻きつかせたままの状態で言う。
あれ、落ちてないぞ。
「私、ちょっとの間なら飛べる……」
僕たちを長いピンクの髪で支えながらふわふわと移動するテュピ。
そうか、この子はテュポーン号でもあるんだから、飛ぶ事ぐらいできるか。
はー、一時はどうなる事かと。
「ただし人間モードだとあまり長くは飛べない……。具体的には今が……限界……」
そう言うとテュピは糸が切れたようにストーンと落ちた。
もちろん僕たちも一緒だ。
「ぎゃー!」
もうだめだー!
みんなで抱き合ってひたすら重力に忠実に従う僕たち。
「あれ〜、みんな何してるのー」
下から女の子の声がする。
「楽しそう! あたしもやる〜」
女の子は僕の目の前まで飛んでくると、羽をたたんで一緒に落下した。
「きゃー♪」
「ちょっとー!楽しんでないで助けてー!」
僕が涙目で叫ぶと、女の子はキョトンとした。
「助ける? どうすればいいのー?」
「せ、背中に乗せて欲しいにゃ! ワタシたちは飛べないにゃ!」
「うん。飛べないのは知ってるよー。でも別に落ちても大丈夫だよー」
「大丈夫じゃないよー! 僕たちの命の火は今まさに消えかけてるんだよ!」
「大丈夫だって。ほら……」
ぼよーん!
という音がして僕たちは何か柔らかいものの上に落ちた。
「これは……」
雲だった。
「ね?」
05 ハーピーの背に乗って
「おやぶんあたしに会いに来てくれたんだね! 嬉しい!」
落ちている時には必死だったから気づかなかったけど、目の前にいるのはゴブリンの世界で会ったハーピー族のピヨだった。
「今日は一緒にいっぱい遊ぼうね!」
ピヨはぴょんぴょん飛び跳ねながら僕たちの手を次々に握った。
「ハーピー族は雲の上に住んでるの?」
辺りを見るけど、他に人は見当たらない。
僕たちが今立っているのはふわふわした綿菓子みたいな雲の上だ。
実際に綿菓子なのかもしれない。
ルーニャが食べて、「あ、甘いにゃー!」って言ってたし。
「ハーピーのおうちはねー、あっちだよー」
ピヨは僕たちの後ろを指差した。
「うわあ……」
そこには大きな木があった。
とてつもなく大きな木だ。
視界の下から上まで、どこまでも木だった。
根元も見えないし、先も見えない。
ただ太い幹と、そこから無数に伸びる枝葉がどこまでも続く。
そんな木だった。
「あの中にあたしたちが住んでる町があるの。案内してあげるね!」
ピヨは雲の上を走り出した。
裸足で駆けるピヨをなんとか追いかける。
雲はポヨポヨしていて、ジャンプしたら背丈の何倍も飛んでしまう。
雲から雲へ飛び回って、僕たちはどんどん前に進んだ。
でも……。
「ねえ、ちっとも木に近づいてなくない?」
コトが立ち止まって息を切らせた。
走り始めてから1時間ほど経った。
樹は相変わらず遥か彼方に見える。
僕ももうクタクタだよ。
中学、高校とほとんど運動には縁がなかった人間にはちょっときついものがある。
「あとどれくらいで着くの?」
「うーん、ずっと走り続ければ、夜には着くと思うよー」
「無理だー!」
雲の上は食べ物も水もない。
その状態じゃあ昼までももたないよ。
「飛んでいけばすぐだけど、あたしはさすがに全員は連れて行けないし」
そうかー。
僕たちにも翼があればなー。
「ねえ」
コトが雲に座り込みながら口を開く。
「テュピちゃんに、テュポーン号モードになって貰えば、簡単に移動できるんじゃないの?」
「!」
そうか。
あのクジラの乗り物ならこれぐらいの距離、なんとかなるよね。
「確かにテュポーン号モードなら一瞬であの場所にいける……。でも走り続けてもうエネルギー切れ……」
「…………」
走る前に気づいていれば……。
僕はガクッと膝をついた。
ここは休んでエネルギーの回復を待ったほうがいいのかな?
なんて思っていると、
「おーい、ピヨー。どうしたんですかー」
木の方から何人かのハーピーがやってきた。
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