第7話 エルフさんと呪われしTシャツ!
17 エルフの朝
朝、コトと一緒に下の階に降りると、ダリアさんが掃除をしていた。
「あら~、おはようございます~。昨夜はよく眠れましたか~?」
「はいっ、ばっちりです」
コトはぴょんと飛び上がった。
実際、朝起きた時からほとんどだるさがない。
昨日の温泉や、ふかふかのピョコットの上で寝た事も良かったんだと思うけど、途中から聞こえてきた笛の音でまたかなり気分が安らいだんだよなあ。
一体どこから流れてきたんだろう。
朝食に、いろいろな木の実や種が入ったピョコットヨーグルトを食べた後、散歩に出かけることにした。
店をまわっておみやげを買ったら、テュポーンに乗って家に帰る。
それが今日の予定だ。
お土産を買うお金は、あらかじめルーニャに僕たちのお金(円)を渡して、現地の通貨に交換してもらっている。
コトと合計で3万円ほど替えてもらった。
どんな物が買えるだろう。
わくわく。
「じゃあ私が村のお店を案内しますね~。うふふ、ついてらっしゃ~い」
「わーい! どんなお土産が買えるか楽しみにゃ!」
ルーニャがはしゃいでダリアの後ろにくっついて外に出た。
彼女は案内人としての役割をすっかり忘れてるみたいだ……。
あと、隅の方に下着姿のエルシアさんが大の字に横たわっていびきをかいていたけど、見なかった事にしました。
18 エルフのおみやげ
外に出て、森の香りを感じながら歩いていく。
周りは本当に木、木、木だ。
その中に大きな家があった。
なんか、古民家みたいな感じだ。
「ここがお土産のお店です~。エルフの世界は異世界と交流してからまだちょとしか経ってないので、旅人さん向けのお店はほんの少ししかないんですよ~」
ちょっとって言っても数十年だけど。
エルフは人間とは時間の感覚がちょっと違う。
さて、中に入って旅の思い出にちょうど良い品を探そう。
「ふぉふぉふぉ。いらっしゃい」
薄暗い店の奥から店主と思われるダークエルフが現れた。
見た目は人間でいうと30歳前後か。
「さあさ、見ていきなされ。買っていきなされ。なかなか旅人さんが来ないから暇でしょうがないんじゃ~!」
ぐいぐいと迫ってくる店員さんの熱気に押されながら店内を回るけど……木刀とかペナントとか、正直欲しいものがあまりないなー。
コトと並んで色々見ていると、
「ね、これなんてどう?」
ピョコットのぬいぐるみとかキーホルダーのコーナーがあった。
「うーん、それにしようかな」
無難ではあるけど、自分用だし、もうちょっと冒険したい気もする。
食べ物のコーナーもあるけど、見慣れないお菓子が多くて迷う。
とりあえずコトと一緒におまんじゅうっぽいのを一箱買ってみようかな。
「うーん、微妙な品揃えだにゃ!」
ルーニャがはっきり言っちゃった。
「び、微妙か……。色々な異世界を調べて回ったエルシアにアイデアを出してもらった品々だが……、やっぱり微妙じゃったか……」
がっくり。
店長はうなだれた。
「それならこれはどうじゃ」
店長は店の奥に行くと、大急ぎで走って戻ってきた。
手には大きな荷物を抱えて。
これは期待して良いのかな。
「これじゃ!」
ばーん!
「変Tじゃん! 買いたくないよ!」
彼女が持ってきたのは、クレヨンのようなものでぐちゃぐちゃと落書きが描かれたTシャツを着たマネキンだった。
「これはエルシアがデザインしたシャツじゃ。彼女によると一度着たら病みつきになるらしい。着てみるが良い~ほれほれ~」
「ひいっ! 脱がさないで!」
彼女は僕の服を脱がせると、無理やりTシャツに着替えさせた。
その瞬間、ドンドコドンドコという不吉な音がした。
「ん? なんだ今の音は……? まあ良いや、脱ごう……ん? ふ、服が脱げない!」
「おお! 装備が外せなくなる呪いがかかってしまったようじゃ! エルシアのやつ、こんな仕掛けをするとは。これなら諦めてTシャツを買わざるを得ないのう!」
「感心してる場合じゃないでしょ! 脱がして~!」
結局脱げなかったので、Tシャツはもらうことになった。
あとはお菓子をちょっとと、ピョコットの形の貯金箱を買った。
「これに2人で今後のお土産代貯金しようね」
コトは嬉しそうに貯金箱を眺めている。
店を出て、広場でしばらくエルフたちの演奏や踊りを眺めて、帰る時間になった。
19 人間界へ
森の中を歩いて、最初に降りた場所に行くと、テュポーン号が待機していた。
「さあ、忘れ物はないにゃ?」
「うん」
忘れ物というか、逆にTシャツを置いていきたいんだけど、生憎呪いのせいで脱げない。
1日で魔法は解けるらしいけど、それまではずっとこの格好で過ごさないと。
エルシアさんとダリアさんも送りに来てくれている。
エルシアさんは、
「おお、そのTシャツ、似合ってるぞ」
と言ってくれたので、僕は引きつった笑みを返した。
「また来て下さいね~。エルシアちゃんと一緒にも~っと良い宿屋にしますから~」
「ぷい、ぷぷいー……」
ピョコットが何匹か、僕たちの袖を引っ張りながら首を振っている。
寂しがってくれてるのかな?
その頭を撫でていると、木の上の方から笛の音が聞こえてきた。
見上げるとエルンがいた。
笛を吹き終わると彼女は降りてきて、
「………………」
無言で僕に笛を渡すと、また木に登って去ってしまった。
くれるみたいだ。
「あっ、ありがとう!」
慌ててお礼を言うのが精一杯だった。
20 帰宅
公園から家に帰って、ご飯を食べる。
今日はコトを呼んで一緒に食べる日だ。
お母さんにはTシャツのセンスを褒められた。
そして部屋でコトと一緒にくつろいでいると、
「ね、さっきもらった笛、見せてよ」
カバンからエルンの笛を取り出す。
木で出来ていて、少し暖かい。
口に当てて、適当に吹いてみる。
ぷぺーっという音がした。
しばらく吹いていると、コトが座ったままこくり、こくり、と船を漕ぎ出した。
疲れたのかな?
でもさっきまで全然そんな素振りはなかったし、昨日の夜は外から笛の音が聞こえてきてから急に眠気が強くなったし、そういう効果があるのかもしれない。
なんか吹いてる僕まで眠くなってきたし。
「えへへ~……、モノ~、大好き……」
幸せそうな顔で寝言を言っているコトを眺めているうちに意識が途切れた。
次の日、目を覚ますと、ベッドの上にいた。
夜のうちに自分で移動したのか、コトが運んでくれたのか。
コトはいなかった。
もう帰ったのかと思ったら、下で僕のお母さんと話す声が聞こえる。
朝食を作っているみたいだ。
スライムの時もそうだったけど、こうして日常に帰ると異世界に行ってた事が夢のように感じられるよ。
まあでも、枕元に置いてある笛はエルフたちの世界が夢じゃなかった事を物語っている。
それに、僕が今着ている変Tも、寝ている間には呪いは解けなかったみたいで、あともうしばらくは異世界旅行の余韻に浸れそうだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます