第6話 エルフさんと混浴温泉!
12 温泉に行こう
夜になった。
「さあ、そろそろ温泉に行きましょ~」
ダリアさんがやってきた。
「温泉は広場の奥の方にあるんですよ~。さあ、エルシアちゃんも一緒に行きましょ~」
「ハイ、ワカリマシタ」
エルシアさんは一体どうしたんだろう。
まあ気にしないようにしてのんびりと歩き出す。
ダリアさんに続いて宿から出て、さっきエルフさんたちがお茶会をしていた広場の方にやってきた。
昼間よりもさらに大勢のエルフさんが集まっていて、切り株の上で演奏をしたり、静かに踊っていたりしていた。
「ここからピョコットさん達に案内してもらいましょう~」
そう言うとダリアさんは口笛を吹いた。
すると、ピョコットたちがわらわらと集まってきた。
「ぷぷ!」
ダリアさんはバスケットから大きなお団子のようなものをいくつか取り出すと、ピョコットたちに配った。
「さあ、みんなを温泉まで運んでください~」
ピョコットは僕に背をむけると、
「ぷぷい」
バックして僕に背中を押し付けた。
恐る恐る背中に乗ってみる。
1人1匹ずつ、ダリアさんとエルシアさんも合わせて5匹のピョコットが集まっている。
それぞれが乗ると、
「ぷ~……ぷぷぷーい!」
5匹は同時にジャンプして、木のてっぺんに着地した。
すごいジャンプ力だ。
僕たちが驚く間もなく、ピョコットたちは木から木にぴょんぴょんと跳ね回って進んでいく。
揺れないようにか、結構穏やかに飛んでいるけど、やっぱりちょっと恐いよ。
「ふふふ、慣れないうちはしがみつかないと恐いだろう。私ぐらいのベテランになるとこの通り、両手を離しても悠々と乘っていられるがな……のわーっ!」
「あっ、エルシアさんが落ちた!」
しばらくして、ピョコットは木から飛び降りた。
大きな耳を羽のようにパタパタさせて、ふわりと着地する。
温泉に着いたみたいだ。
ピョコットに乗っていたのはほんの2、3分ぐらいだったかな?
でも歩いたら30分以上はかかったと思う。
「さあ、早速入ろう。一刻も早く汚れを落としたい」
後から合流したエルシアさんが脱衣所に駆け込む。
彼女は落ちた時に沼に突っ込んで、泥だらけだった。
13 エルフと温泉
脱衣所に入って僕は困惑した。
「あれ、男女で分かれてないよ」
目の前でダリアさんとエルシアさんが躊躇なく服を脱いでいく。
「どうした2人とも。恥ずかしがってないでさっさと入ろう」
服を脱いで裸になったエルシアさんは僕の方を一瞥すると温泉の方に歩いて行った。
「もう、タオルを持って行ってくださ~い」
ダリアさんが後を追った。
うーん、僕のことを全然気にしていないみたいだ。
スライムの世界もそうだったけど、異世界では混浴が普通なのかな?
僕がそう言うと、
「っていうか、そもそもスライムもエルフも女の子しかいない……というより性別の概念が存在しないにゃ」
「えっ……」
「実は性別がある世界自体とっても珍しいにゃ。ワタシも、知識としては知ってたけど、実際に性別が分かれている種族を見たのはモノさん達が初めてだにゃ」
なんと。
性別がないから、僕がいても気にしないで服を脱いでるのか……。
じゃあ僕も気にしない方がいいのかな。
でもこっちにはコトもいるし、どうしようかな……。
と思っていると、
「い、一緒に入ろ!」
僕の葛藤を察したコトが僕の手を握ってきた。
「せっかくなんだから、気にしないでみんなと入ろうよ! 子供の頃は一緒に入ったでしょ! べ、別にやましいこと考えてないからね! 本当だから!」
なんか必死に言ってきたので、一緒に入ることにしました。
14 湯船
服を脱いで、温泉の方に向かう。
暖簾をくぐって石の階段を降りると、岩に囲まれた湯船が見えた。
ダリアさんがこっちに手を振る。
みんなタオルで一応体を隠しているので、僕もそうする。
ちよっとホッとした。
「お湯が緑色だね」
「エルフの魔法でそういう色になっているんだ。回復の効果があるぞ」
お湯をザバーッと浴びてから湯船に入ってみると、じわっとする。
疲れが湯船に溶けていく感じだ。
匂いは、なんかお茶の香りに近い感じがする。
「あれ、ピョコットは?」
「ピョコットさん達は近くの湖で遊んでますよ~。お湯は苦手みたいなので~」
ダリアさんは湯船に入らずにエルシアさんの体を洗っている。
まずは泥を落とさないといけないからね。
「あー、気持ちいい。髪も洗ってくれ~」
「はいはい~」
エルシアさんはされるがままだ。
泡がモコモコして羊みたいな状態になってる。
「あ~、極楽極楽~、だね。モノ」
コトが僕の肩にもたれかかる。
ルーニャはやけにおとなしいなと思ってみると、
「すうすう、むにゃ~んむにゃ~ん」
寝てる……。
お風呂で寝たら危ないよ……。
「でも寝ちゃいそうなくらい気持ちいいよねー。回復魔法のおかげかな」
「そうかもね」
「美容の効果もあるのかな?」
お湯をすくって肩からかけるコト。
「コトはもう十分綺麗だと思うけど……」
僕がそう言うと、コトは顔を赤くして、
「も、もう~! モノの方が可愛いよ! 可愛い、可愛い!」
ぴょ~んと飛びついてくる。
「わっ、暴れないでよー」
バシャバシャ。
お湯が跳ねる。
「にゃっ! ここはどこ! にゃー! 溺れるー!」
今の衝撃で起きたルーニャが寝ぼけてはしゃいでる。
「はい~、キレイになりましたよ~」
「うむ、ありがとう。今度はダリアも洗ってやろう」
「私はいいですよ~」
「遠慮するな。さあさあ」
「いたた~、もっと優しくしてください~」
攻守交代して、ダリアさんを洗うエルシアさん。
「僕たちも体洗おっか」
「うん」
湯船から出てダリアさん達の隣に並ぶ。
「背中洗ってあげるね」
「え、いいよ恥ずかしいし……」
「だめ! 洗います!」
「う、うん。じゃあお願い……」
僕が言い終わる前に、背中に泡立てたタオルを当てるコト。
「ごしごし……」
背中を洗い終えると今度は腕にタオルを移動させてきた。
「あの、コト? 背中だけでいいんだけど……」
「やっぱり全部洗う! 頭のてっぺんからつま先まで全部洗ってあげる~!」
「ひ、ひええ~!」
脱兎のようにコトの手から逃げて駆け出す僕。
「待てー! あはは!」
彼女はタオルを持って追いかけてくる。
僕は脱衣所の方に逃げ出した。
すると、
「きゃっ」
女の子とぶつかった。
「ごめんなさい……あっ」
「あっ……」
その女の子はエルンだった。
僕は彼女の肩を掴んでいる状態だ。
エルンの顔が赤くなる。
「は、離して……」
「ご、ごめん! つい……」
「エルンちゃん、放さないでモノ捕まえてて! 今から全身あわあわにしてあげるんだから!」
「えっ、えっ?」
エルンは目を白黒させている。
15 湯上りと牛乳
「ふぅ~、いい湯だったぁ~」
僕たちは脱衣所で服に着替え、近くにあったベンチで休んでいた。
あの後、温泉で走った事をダリアさんに怒られてしまった。
エルシアさんがダリアさんに弱い理由がちょっと分かった気がするよ。
ぶるぶる。
「にゃっにゃっにゃー、いい気分だにゃー♪」
ルーニャはさっきから踊りまわっている。
まだ下着姿だ。
「ルーニャちゃーん、早く着替えないと置いてっちゃうよー」
コトが声をかける。
温泉に使われているという回復魔法の効果なのか、身体中がポカポカするし、ここに来た時よりもはるかに元気になっているから、テンションが高くなってしまうのはしょうがないね。
「賑やかな人……」
エルンが僕の隣で呆れている。
結局彼女と一緒に温泉で話すことになって、三十分以上湯船に浸かっていた。
ふと目の前にビンが差し出された。
「ぷぷーい、ぷい」
ピョコットだ。彼はビンを僕の手に持たせると、コトやルーニャ達にも同じものを配った。
「くれるって。ピョコットミルク。おいしいよ」
エルンが説明してくれた。
僕とコトは立ち上がると、腰に手を当ててミルクを飲んだ。
やっぱりお風呂あがりにはこれだよね。
実際にやった事はほとんどなかったけど。
飲み終わってそろそろ帰ろうかというときに、目の前を色黒の小さな少女が通り過ぎた。
とんがり帽子をかぶった少女はそのまま服を脱ぎ始めた。
こちらを気にしている様子はなかったけど、不意に僕たちの方を見ると、
「おや、あんた達、旅人かい?」
「そうにゃ」
「そうか……。あたいはゴブリンのリン。もしよかったら今度はうちの世界に寄って行きなよ。ちょっと刺激的な体験ができるよ」
そう言うと裸になったリンは温泉の中に消えた。
「ふむふむ、ゴブリンの世界、考えてみるにゃ」
「ルーニャ、それも良いけどいい加減服着なよ……」
16 エルフ達の夜
ピョコットに乗って宿に戻り、しばらくエルシアさんやダリアさんと、エルフ界で定番のカードゲーム(ババ抜きみたいな感じだった)で遊んで、寝る時間になった。
「じゃあおやすみなさい~。また明日~」
そう言うとダリアさん達は部屋から出て行った。
「あれ? 布団もベッドもないんだけど……」
部屋は棚や机があるだけで、寝具は一切用意されていなかった。
床でそのまま寝るしかないのかな?
そう思っていると、ぽいんぽいんという音がして、ばたーん、と急にドアが開けられた。
「ぷっぷい!」
ピョコットだ。
しかも10匹近くいる。
「わあっ、な、何の用?」
僕たちが戸惑っているうちにピョコットの集団で部屋はぎゅうぎゅう詰めになってしまった。
「ひええ~、ふかふかするよ~」
コトは困った顔をしながらもふもふしてる。
ピョコットたちの後ろからダリアさんがひょいと顔をのぞかせた。
「ああ~、説明し忘れてましたね~。夜はピョコットさん達の上で寝てください~。ふかふかですよ~。ピョコットさんは密集して寝る習性があって、みんなでくっついて寝るのが大好きなんですよ~」
な、なるほど。
「ぷい!」
ピョコットがお腹を叩いて上に乗るように催促している。
「とりあえず眠いから寝るにゃ!」
ルーニャがぴょーんと飛び上がってピョコットのお腹の上に乗った。
「にゃーっ!」
彼女はお腹の上で跳ねると、天井まで飛んで頭をぶつけた。
「すごい弾力にゃ……すう……」
ルーニャはピョコットの上で頭を押さえてうずくまり……そのまま寝てしまった。
「私たちも寝よう」
僕とコトもピョコットの上に乗った。
ピョコット達は既にみんな寝息を立てていて、ルーニャや僕たちが乗ってもビクともしない。
「ふかふかで気持ち良いね」
「うん」
僕たちは小声で囁くと、目を閉じた。
見知らぬ土地だとよく眠れない事もあるけど、この分だとその心配はなさそうだ。
などと思っていると、
「おーい、ダリア~、ダリアも一杯どうだ~」
「わ、私はいいですよ~」
「なんだよ~、こんなに楽しいのに~」
「じゃあ一杯だけ……」
「わはは、いいぞ~飲め~飲め~そして踊れ~!」
下の階からエルシアさんが騒ぐ声が聞こえた。
お酒を飲んでいるようだ。
「さあ、脱げ~脱げ~あっはっはっは~!」
「は、はしたないですよ~エルシアちゃん……」
き、気になる。
下に様子を見に行こうかなと思ったけど、コトが僕の手をぎゅっと握りながら寝ているので動けない。
仕方なく目を瞑る。
ふと意識を窓の外にやると、何やら笛の音が聞こえる。
落ち着く音色だなあ。
下でどんちゃん騒ぎをする音が混じっていなければ一瞬で寝れちゃうんだけど。
それからかなりの間2人の宴会は続いて、
「ううっ……もう勘弁してくれ……」
「何れすか~、エルシアちゃんは私のお酒が飲めないんれすか~? まらまら夜は長いんれすよ~?」
そんな声が聞こえたような気がした頃、ようやく僕は眠りについた。
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