第5話 エルフさんとぴょんぴょん!
06 森を歩こう!
服を直してもらっている間、外を歩くことになった。
裸で出歩くわけにもいかないので、僕はパジャマとして使う、浴衣のような服を着ている。
エルシアさんは食事を用意してくれている。
通りかかった時に厨房の方から、
「ああっ! 呪文の詠唱を間違えてキノコに闇属性を付与してしまった! ……まあ良いか」
とか聞こえてきた気がする。
まあ気のせいだよね。
外に出よう。
コト、ルーニャ、僕と3人横に並んで歩く。
こんなに木がいっぱいなところに来たのは久しぶり、というか初めてかもしれない。
空気もおいしい気がする。
もぐもぐ。
「あっ」
木の下に駆け出すルーニャ。
「にゃっふっふ、さっきもらった果物、すっごいおいしかったにゃ。たくさん取ってくるから待ってるにゃ」
07 ルーニャの失敗
上を見ると、確かにさっき食べたパプリンの実がいっぱい生ってる。
でも結構高い木だよ……。
「危ないよ~」
「大丈夫大丈夫。木登りは子供の頃から得意だにゃ!」
するすると登るルーニャ。
言葉通りあっさり実の所までたどり着く。
すごいなあ。
「にゃっ、ゲットだにゃ」
すっと手を伸ばして、木の実をもぎ取った瞬間、バランスを崩してしまうルーニャ。
何とか両手で太い枝にしがみつくけど、落ちそうだ。
「にゃ~っ! お、落ちる~! にゃ~! にゃ~! にゃ~!」
木の実とサンダルが僕の頭の上に落ちてきた。
「あわわ」
「ひええー」
何とか助けなきゃ……。
僕が恐る恐る木に登ろうとすると、影が木から木へと飛び移り、こちらに近づいてきた。
「あっ、さっきのエルフさん!」
さっき実をくれたエルフさんは、ルーニャのいるところまで近づくと、手を掴んで引き上げた。
「にゃっ、んにゅ~!」
枝の上に座って息を整えるルーニャ。
「良かったー」
僕たちもホッと胸をなでおろす。
「にゃ~……、助かったにゃ……ありがとにゃん!」
ルーニャがお礼を言うと、エルフさんは照れたような顔をして、あわててどこかに去ってしまった。
「あ……」
うーん、僕たちもちゃんとお礼を言いたかったんだけど。
08 ルーニャの失敗その2
また歩くと、今度は大きな木の根元に穴が空いていた。
その穴の中にはさっきの木の実も含めて色々な種類の果物やナッツ、きのこなどが置いてあった。
「にゃにゃっ、こんなところにおいしそうな食べ物がたくさん! じゅるり……。早速頂戴するにゃ!」
「勝手に食べるの? やめた方が……」
食べ物はどれも綺麗な状態だし、廃棄されたものとは考え辛い。
誰かが何らかの目的があってここに置いたんだと思う。
「大丈夫にゃ。きっと誰かが取り過ぎちゃった分をここに捨てたにゃ。もったいにゃいもったいにゃい」
そう言うとルーニャは穴の中に入って、ゴソゴソと物色し始めた。
お尻と尻尾がフリフリと揺れている。
うーん、やっぱり止めたほうが良いかも、と思っていると、あるものがルーニャの背後に忍び寄った。
そしてポンポンと彼女の肩を叩いた。
「にゃ? モノさん、ワタシは今忙しいにゃ……ん、なんかずいぶん腕が毛深く……」
ルーニャがくるりと振り返る。
そこにいたのは、大きい、ウサギとカンガルーが合わさったような生き物だった。
しかも3匹いる。
「にゃーーーーーっ!」
「ぷぷー!」
ルーニャは驚いて手に持っていた果物を落とした。
「ぷぷーい、ぷんぷん!」
動物たちは怒ったようにぴょんぴょんと跳ねた。
「ひっ、お助け……」
穴に潜ってうずくまるルーニャ。
その時、木の上から声が聞こえた。
さっきのエルフさんだ。
「『この穴の中にある食べ物は私たち一家の保存食です。少しくらいなら食べても構いませんが、投げ捨てたらダメです』って言ってる」
「紳士だったにゃ……。ごめんにゃさい……」
ルーニャは穴の中に伏せたまま動物たちに頭を下げた。
動物たちは「気にしないで」という感じに首を振って、「ぷい!」と鳴くと去って行った。
エルフさんは木から降りると、ビシッと僕たちを指差して、
「あなた達、危なっかしい。私が案内する」
そう宣言した。
「あ、ありがとう!」
僕たちはお礼を言うと、自己紹介をした。
彼女はエルンというようだ。
一通り名乗り終えると、エルンは早速歩き出した。
09 エルフの広場
「ここが広場。みんなが集まってお茶会をしたり楽器を演奏したりする」
開けた場所に大勢のエルフさんが集まっている。
その中の、木のテーブルを囲ってお茶やお菓子を楽しんでいる子たちに声をかけられた。
「あ、エルン! 今みんなでお茶してるんだけどエルンもどう?」
「わ、私はこの人たちを案内してるから……」
一歩後ろに下がるエルン。
「あ、外の世界の人ー? 珍しいねー。楽しんでいってねー」
エルフは僕たちに会釈すると、エルンにビスケットのような物を何枚か握らせ、お茶会に戻った。
エルンは僕たちに、もらったビスケット(のような物)を配ると、自分も1枚口に放り込んで、広場の奥に向かった。
あ、おいしい。
10 ピョコットと遊ぶ
「ぷぷーい」
広場の端には穴がいっぱいあって、さっきルーニャと色々あった動物がそこで果物を食べたりしていた。
「あっ、さっきのおっきいウサギがいっぱいいる!」
「ウサギじゃなくて、ピョコット」
「ピョコットっていうんだ。ふふっ、ピョコットちゃーん!」
「ぷっぷい」
ぴょんぴょんと寄ってくる動物たち。
「あはは、かわいい!」
「ここはピョコットの巣。ピョコットはここで集団生活をしているけど、よくエルフに食べ物をわけてくれる。エルフも、ピョコットに高い木の上の実をとったり、怪我を魔法で治してあげたりする」
ほほう。
さっそくピョコットたちがエルンのところにやってきて、キノコを差し出す。
エルンが頭を撫でると、他の子も僕たちにキノコや実を持ってきた。
「か、噛まないにゃ?」
「ぷい」
恐る恐る手を出して受け取るルーニャ。
頭を撫でるとピョコットはぴょんぴょん踊りだす。
「か、かわいいにゃ!」
「ふふふ、ぴょんぴょーん!」
コトとルーニャも踊りだした。
「エルンちゃんもこっちに来るにゃ?」
「わっ、私はいい……」
エルンがそう言うと同時に、ピョコットの中の1匹がエルンを背中に乗せてぴょんぴょん飛び回った。
「にゃはは、みんなで踊るにゃ」
「やっ、やめて~」
エルンを乗せたピョコットはコトとルーニャの周りをぽよんぽよん飛び回る。
僕はその様子を近くの切り株に腰掛けてスケッチした。
あれ?
そういえば僕の趣味が絵を描く事だってもう言ったっけ?
うーん。
まあいいや。
描こう。
「もう……」
エルンは顔を赤くしながらピョコットの背中でに揺られている。
「そろそろ宿屋に戻ろうかな」
あの後、お茶会をしていたエルフさんたちも駆けつけてきてかなり大きなダンスパーティーになったりしたけど、それもさっき終わった。
宿屋ではそろそろ食事の準備もできてる頃じゃないかな。
「そう。じゃあそこまで送る」
エルンに宿屋に送ってもらった。
「じゃあまた後でねー」
僕たちが手を振ると、エルンはひらひらと手を振り返して、すぐに近くの木に登って、枝から枝に飛び移って何処かに行ってしまった。
11 エルフの食事
「服は直しておきましたよ~。それ~」
ダリアさんは僕の服を、直した服に着替えさせてくれた。
一番大きく穴が開いていた部分にはピョコットのアップリケが縫い付けてあった。
恥ずかしいなあ。
「はあ……はあ……、これが……食事だ……!」
エルシアさんが息も絶え絶えの状態で食事を持ってきた。
何故か後ろにはピョコットもいる。
なんで食事の用意で瀕死の状態になるんだろう。
「ふふふ、苦労の甲斐あって会心の料理ができたぞ。褒めるがいい」
エルシアがそう言って胸を張りながら料理を並べていると、
「ぷぷーい、ぷんぷん!」
ピョコットが地団駄を踏みながら怒り出した。
「あー、まあ友人のピョコットにも手伝ってもらったが」
並べられた料理はキノコのソテーのようなものとスープ、そして炭の塊だった。
「にゃにゃ! 炭なんか出さないで欲しいにゃ!」
「な……炭だと……! 唯一私が作った料理なのに……。確かにちょっとウェルダン過ぎるかもしれないし、私だったら食べないがな!」
はっはっはと笑うエルシアさん。
やっぱり失敗作なのか。
エルフの世界では普通の食べ物なのかと思って食べちゃうところだったよ。
危ない危ない。
「エルシアちゃ~ん、ちょっとこっちに来てくれませんか~?」
やりとりを見ていたダリアさんがにっこりと手招きをすると、エルシアさんがブルブル震えながら部屋の外に消えていった。
残された僕たち3人はピョコットに見守られながら食事を食べ始めた。
炭は残しました。
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