第4話 エルフさんの風魔法でいや〜ん!
01 エルフの世界に出発
スライムの世界に行ってから3日後。
ルーニャから手紙が来た。
次の旅行に出かけるからとっとと公園に来るにゃ! という内容だった。
日時は今週末。
今度は1泊2日。
コトに手紙を見せるとすっかり楽しみな様子だ。
「今度は変な世界に迷わないといいね」
「それだけが心配だよ」
「準備をしないと」
とはいえ、服は現地で、その世界に合う物をルーニャが用意してくれるし、持って行く物はあまりないんだよね。
とりあえずスケッチブックを持って行く。
親にも説明した。
さすがに異世界に行くとは言えなかったので、夢と魔法の国に行くと言っておいた。
そして当日。
公園に行くとルーニャがブランコをこいでいた。
ネコミミはネコミミフードで隠してある。
「モノさん、コトさん! 待ってたにゃ!」
そう叫ぶとルーニャはブランコからぴょんと飛び降り、そして転んだ。
お尻をさすりながら起きると、無理矢理陽気に踊り始めた。
「今回の異世界ツアーにようこそ~! 今回はエルフの世界だにゃ。エルフは森を愛する民族で、魔法が使えるにゃ」
魔法ならスライムの世界でエルシアさんに使われそうになったよ。
大慌てで逃げたけど。
攻撃魔法じゃなければ見てみたいな、魔法。
「エルフさんかー。楽しみだねー、モノ」
スライムもそうだけど、エルフもファンタジー映画やゲームで馴染みがあるから、実際に会えるのはかなり心躍る物があるよ。
僕たちは前回と同じように砂場のそばに待機しているテュポーン号に乗り込むと早速出発した。
02 エルフの世界
「エルフの世界にとうちゃーく!」
ルーニャは勢いよくテュポーン号から飛び降りた。
あたりは一面深緑に覆われている。
今回、ルーニャが用意してくれた服は、物語の中でエルフがよく着ているイメージの、緑色の膝丈の服だ。
本当はこっちに到着してから着替えるつもりだったんだけど、僕とコトは既にその服に身を包んでいた。
漏らして、着てきた服を濡らしてしまったからだ。
「まさか妖怪の世界に迷い込んで、『何か用かい!?』って追いかけられるなんて……」
怖かった……。
怖かったよ……。
「ま、まあまあ。次からは気をつけるにゃ。それよりほら、エルフの案内人がやってきたにゃ」
見ると、背の高い女性が向こうからやってくる。
長い金色の髪が風に流れている。
「おお、君たちはこの前の」
「ああっ、あなたは、僕がスライムの世界で着替えをのぞいてしまったエルシアさん!」
「そんな説明的な言い方をせんでも。この前言ったとおり来てくれたんだね。うれしいよ」
エルシアさんはニッと笑った。
「にゃにゃ。じゃあ早速エルフの世界の魅力を見せつけて、モノさんたちを異世界旅行の虜にしちゃうにゃ!。にゃー。まずは手始めに、二人に魔法をばばーんと見せてびっくりさせるにゃ!」
「ふむ。びっくりさせるのか。とりあえず火の魔法で髪を燃やせば驚くかな? どう思う?」
「やめて!」
そんな事で異世界旅行の虜になる程僕は変わり者じゃないよ。
「まあ魔法は後にして、とりあえず宿の方に向かうか」
そう言うとエルシアさんは来た道を戻り始めた。
03 エルシアさんと宿へ
「この世界は閉鎖的でね。ちょっと前まで異世界旅行は禁止されていたんだ。最近になってようやく解禁されて、私は案内人としていろいろな世界に行って情報収集や宣伝をしている。この前もスライムの世界で宿のサービスについて調査をしてきたところだ」
エルシアさんの説明を聞いていると、近くから笛の音色が聞こえてくる。
「あ、木の上に誰かいる」
「!」
木の方を見ると、ガサッという音を立てて小柄なエルフさんが隠れるのが見えた。
「外部の人間にはまだ慣れていないからね。ああやって逃げてしまう子もいるよ」
「驚かしちゃったかな」
そのまま歩こうとすると、また出てくる。
今度は木の枝を渡って僕たちの方に近づいてくると、木の実をそっと投げてくる。
「くれるの?」
「…………」
無言でこくりとうなずくエルフさん。
「ありがとう!」
コトと一緒にお礼を言うと、エルフさんはまたガサッと隠れてしまった。
尖った耳が赤くなっている。
「これ、どうやって食べるのかな?」
もらった実をじっと眺める。
色は黄色で、つやつやした感じだ。
パプリカをリンゴぐらいの大きさに膨らませたようなイメージかな。
「それはパプリン。そのまま食べれるぞ」
「そうなんだ」
早速かじろうとすると、
「む、ちょっと待ちたまえ。むーん……」
突然呪文を詠唱し、大量の水を放つエルシアさん。
こ、これが魔法! とか感心する余裕もない。
「あばばばば! きぃーっ! 突然何するんですか!」
「いや、水で洗わないと……ばっちいだろ?」
「もっと穏やかにやってくださいよ……」
文句を言いながらも、洗ってピカピカになった実を食べる。
むむむ。調理していないのに、プリンのようなのような甘くてとろけそうな味がする。
「あむっ」
横からコトも食べてくる。
「おいしいねっ」
2人でペロリと食べてしまう。
「にゃーん……ワタシにもちょうだい!」
「あ、すっかり忘れてた」
ルーニャはがっくりと項垂れた。
「むう、仕方ない……はっ」
突然呪文を詠唱し、鋭い風の刃を放つエルシアさん。
大破!
僕の服がぼろぼろになる。
「ギョエー! いやーん! 何するんですか!」
「いや、ルーニャ殿にも実をあげようと……」
「もっと穏やかにやってくださいよ……」
足元を見ると風で実が落ちている。
エルシアさんがそれを水の魔法で洗い、ルーニャに渡す。
当のルーニャは僕の有様を見て「にゃはははは!」と爆笑してる。
もう!
04 服を直そう
「それにしてもずいぶん穴だらけのクールな格好になってしまったな。来たまえ。先に店で服を買おう」
エルシアさんは苦笑しながらそう言うと、道を右に曲がった。
すぐ先に小さな木の家があった。
ドアの上にエルフの言葉で何かが書かれた看板がかかっている。
ここが服屋さんか。
「いらっしゃい。おや、エルシアさんと旅行者さんですか。珍しいですね」
中に入ると、メガネをかけた店員さんが本を読んでいた。
「ああ。ちょっとアクシデントがあって、弁償することになってな。服を一着用意してくれないか」
「ふーん。服っていっても色々ありますからねえ。どんな感じのものがいいんですか?」
「とりあえず一番安いやつでいい」
「それなら葉っぱ3枚で体を隠すセクシーな服がおすすめですね」
「それでいい」
「よくないよ!」
それならこのぼろぼろになった服の方がまだ布面積が多いよ。
「うーむ、しかしあまり高い物は弁償したくないし。今月のお小遣いは酒でほとんど使っちゃったからな」
エルシアさんが本音をぶっちゃけた。
「そうだ、宿にいる私のパートナーに縫ってもらおう。それでいいな。よし、そうしよう」
そう言うとエルシアさんは足早に店を去って行った。
服を試着して楽しんでいるコトとルーニャを連れ出して、エルシアさんの後を追う。
05 エルフの宿
「ここがエルフの世界の宿屋だ。立派だろう」
エルシアさんの言う通り、木でできたその建物は、大きく、歴史を感じさせるような造りだ。
ぱっと見和風っぽい。
宿の中に足を踏み入れると、エルシアさんはブーツを脱いだ。
ここは靴を脱いで上がるのか。
褐色の肌のエルフさんがぽてぽてと駆け寄ってきた。
「エルフの宿屋にようこそ~。あれ~、エルシアちゃん、その方達は……」
「どうだダリア。お客さんを連れてきたぞ。この前スライムの世界に行った時に知り合ったんだ。えっへん」
エルシアさんは胸を張った。
ダリアさんはぽわぽわした雰囲気の人で、銀色のポニーテールを揺らしながら喜んでいる。
「すごいですね~。エルシアちゃんが外の世界に行っている間はとっても寂しいですけど、お客さんを連れて来てくれるのは大助かりです~」
「そうだろうそうだろう。もっと褒めても良いんだぞ?」
デレデレした表情を見せるエルシアさんと、ぴょんぴょんしながら拍手するダリアさん。
エルフさんに抱いていた、クールビューティーっぽいイメージは崩壊寸前だよ。
「すごいすごい~。やんややんや~。……あれ~、でも何でそちらの旅人さんは服がボロボロなんですか~?」
「ぎくっ!」
僕のファッショナブルな格好に気づいたダリアさん。
エルシアさんはあからさまにうろたえる。
「あ~! もしかしてまた魔法をうっかり旅人さんに当てちゃったんですか~?」
「す、すまん! だから直してくれないか?」
「も~、あんまりそう言うことをしてると、お客さん来なくなっちゃいますよ~」
しゅんとするエルシアさん。
ダリアさんには弱いようだ。
尖った耳がちょっとだけ元気をなくす。
「ごめんなさいね~、旅人さん。あっ、紹介が遅れました~。私はダークエルフのダリアです~。エルシアちゃんと二人で宿屋をやってます~。まだ創業30年のできたてほやほやの宿なんですよ~」
30年と言えばそれなりの年数だと思うけど、エルフさんにとってはできたてと言える時間みたいだ。
ダリアさんとエルシアさんも、見た目は僕たちとそう変わらないぐらいに見えるけど、本当は何倍も年上なんだろうなー。
「じゃあ~、お部屋にご案内しま~す。服はすぐに直しますから~、そこで脱いじゃいましょう~」
ダリアさんと一緒に2階に上り、案内された部屋はシンプルで装飾も最低限。
なんか作業に集中するのに向いていそうな部屋だ。
締め切り前の作家さんとかがいそうな感じ。
ちゅんちゅん。
ぴいぴい。
鳥の声がする。
窓から外を覗くと、さっき木の実をくれたエルフさんがこっちを見てる。
僕と目が会うと影に隠れてしまった。
まあいいや、とりあえず破れた服を脱ごう。
「あれ、着替えがない」
そう思ってるとダリアさんがやってくる。
「お着替えを……あっ」
「あっ、すみません」
ちょうど服を脱いだところだったので、下着姿を見られてしまった。
これじゃあエルシアさんと出会った時みたいだよ。
などと回想していると、ダリアさんがすぐそばまで近づいてきた。
「下着もちょっと破れてますね~。これも直しますよ~」
そう言うとダリアさんは何のためらいもなく一気に僕の下着を下ろした。
裸になってしまう。
ふっ、『風』を感じるぜ……。
何て言ってる場合じゃないね。
「ふえーん! 何するんですか!」
「ああ、ごめんなさい~。いきなり過ぎましたね~。じゃあ、ゆっくり足を上げてくださいね~」
「やめてー! コトも、居合抜きみたいな速さでスマホを取り出さないで。カメラアプリを起動しないで」
「手が勝手に……」
ふと外を見ると、さっき実をくれたエルフさんが双眼鏡でこっちを見ていた。
が、目が合うと影に隠れてしまった。
何なの……。
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