第3話 スライムとお風呂で鬼ごっこ!


08 食事


「たーんとお食べぷに!」


 食堂の中には、プルナとそのお母さんが立っていた。

 半透明の紫色のテーブルの上には料理が入ったお皿がいくつも並べれられている。


「な、なんか色とりどりだね」


 大きなお皿にはパスタのような、5色ぐらいの細長い麺が盛り付けてあって、その上にオレンジ色のソースがかかっている。

 一口食べてみると、お菓子みたいな見た目に反してちょっと辛かった。

 でも美味しい。


「スープもおいしいね」


 暖かいどろっとしたスープの中に、赤と黄色の星形のぷにぷにしたものが浮いている。

 人参やジャガイモに似た味で、こっちはやや甘い。


「ふーふー。熱いにゃあ」


 ルーニャは息を吹きかけて冷ましながらも夢中になって食べている。

 他にもクッキーのようなもの、プリンのようなものなど、いくつも料理があった。

 それは見た目通りの味だったり、あるいは意外な味だったりしたけど、大抵どれも美味しく食べれた。


「ごちそうさまでした」


 二十分ほどで食べ終わった。

 食事の間、スライムの世界や僕たちの世界の食べ物について話し合った。 

 どうやらこの世界には肉は存在しないらしい。

 まあ人も動物もみんなぷにぷにしてるからね。

 世界が違えば食べ物も違うものだね……。


09 エルフさん


「むっ、君はさっき私の着替えをのぞいた奴!」

 

 後ろから突然声がかかる。

 振り返ると、


「あっ、さっきのエルフさん」


 エルフさんもご飯を食べに来たのか。


「モノ……、そんな事してたの? 覗くなら私の着替えを覗けばいいのに……」


 コトがジト目で見てくる。


「ふむ、モノ殿というのか。ちょっと良いかな?」

 

 エルフさんが僕の前に立ちはだかる。


「ひいっ、さっきはごめんなさい! 魔法撃たないで!」

「そんなに怯えんでも……」


 エルフさんはちょっとシュンとした。


「ところで君は旅人のようだが、エルフの世界に興味はないか? 私はエルフの世界で案内人をやっているエルシアという者だ。もしよかったら今度来てくれたまえ。魔法も見せてやろう。もちろん安全なものをな」


 エルフのエルシアさんはチラシを僕たちに渡した。

 読もうと思ったけど文字が読めない。


 ちなみに話し言葉が通じるのはルーニャの能力のようだ。

 そのルーニャにとりあえずチラシを渡す。


「まかせるにゃ! エルフの世界は小さい頃行ったきりで、どこにあるかわからないけど、適当に捜し当ててモノさんたちを連れて行くにゃ!」


 ルーニャは胸をドンと叩いた。


「そ、そうか。チラシに一応エルフの世界の情報を書いておいたから是非読んでくれたまえ。じゃあ、楽しみに待ってるよ」


 エルシアさんは、本当に大丈夫かな、という顔をしながら立ち去っていった。


「ちょっと! ご飯食べ忘れてるぷに!」

「しまった、食事をしに来たんだった!」


 エルシアさんは慌てて席に着いた。

 凛々しい感じの見た目に反して意外とうっかりさんなのかな?


「エルフの世界……この世界からあんまり遠くないみたいだし、適当に運転してればそのうちたどり着くにゃ」


 ルーニャはケラケラ笑った。


「僕たちは無事にたどり着けるんだろうか……」


 僕とコトは抱き合って怯えた。


10 お風呂へ


「さてっ! 日帰りならもう時間がないぷに。早速今度はお風呂に向かうぷに」


 エルシアさんの食事をお母さんに任せて、プルナは僕たちに付いて案内してくれることになった。


「よーし、しゅっぱーつにゃ!」


 お風呂かあ。

 国内の旅行だと温泉は定番って感じだけど、異世界はどうなんだろう。

 わくわく。


「あっ、あなたがルーニャちゃんが連れてきた旅人さん? 噂になってるぷに!」


 歩いていると向こうから小さな子供がわらわらとやってきた。


「わわわ……」


 大勢のスライムの子に囲まれる。


「まさかあのドジなルーニャちゃんがお客さん連れてくるなんて……」

「信じられないぷに」

 

 子供達は僕たちのことを不思議そうにツンツンとつついてくる。


「んにゃー! 失礼にゃ!」

「だって、ママにくっついて見習いしてた頃も、お客さんをうっかり棍棒を持った凶暴な巨人がいる世界や、溶岩の世界に連れて行っちゃったりして怒られてたぷに。旅人さんも気をつけるぷに」

「もう手遅れだよ……」


 数時間前の記憶が蘇る。

 定番のミスだったのか。

 

 今後の旅行について不安になりつつも、とことことゼリーのような地面を歩く。


「ここがお風呂ぷに」


 宿屋から三分ほどで着いた。


11 お風呂の中


 ここは屋根や脱衣所などはなく、そのままお風呂に入るようになっているようだ。


「服着たままで入れるんだね」


 中には20人くらいのスライムの子がいた。

 さっそく湯船に浸かる。

 お湯の色は薄い緑で、どろっとした感じで、しゅわしゅわしている。

 僕たちの世界の温泉とは全然違うけど、これはこれで気持ち良い。


「おお、ボールが一杯入ってる」


 小さくて色とりどりのボールがいっぱい浮かんでいて、みんなそれを投げたり、お手玉みたいにしたりして遊んでいる。


「旅人さん、鬼ごっこしよ!」


 コトとボールを投げ合って遊んでいると、3人の女の子に声をかけられた。

 彼女たちの姿を見て、のんびり肩まで浸かっていたルーニャは戦慄した。


「で、出たにゃ! この界隈では有名な鬼ごっこ3姉妹! 前ここに来た時はコテンパンにやられたにゃ! 今こそリベンジを果たすとき!」

 

 ルーニャは立ち上がると、ビシッ! と3人に指をつきつけた。


「そうこなくっちゃ! じゃあ旅人さんたちとルーニャちゃんが鬼ね。捕まえてごらんなさ~い!」


 そう言うと、赤、黄色、青のスライムの3姉妹はお湯の中に潜って泳ぎ始めた。


12 鬼ごっこ


 僕たちは慌てて追いかけるけど、歩き辛くて全然進まない。

 一方でスライムたちは魚のようにすいすい逃げる。


「きゃっ」

「おっと」


 お湯の中でバランスを崩してよろけるコトを抱きとめる。


「ありがと、モノ」


 ルーニャはぴょんぴょん飛ぶようにお湯の中を進むけど、一向に3姉妹との距離は縮まらない。


「へっへーん」

「捕まらないぷにー!」

「お尻ぺんぺーん!」


 3姉妹はルーニャの周りをぐるぐる回った。


「むっきー! ひえー!」


 ルーニャは捕まえようとムキになるけど、自分を中心に回り続ける3姉妹たちを見続けて、目を回してしまったようだ。

 ざぶーん、とお湯の中に沈んでしまった。

 

 あわてて僕たちとプルナで引き上げる。


「あの3人、調子に乗って! も~怒ったぷに」


 ぷっぴぴー! と口笛を鳴らすプルナ。

 なんだろうと思っていると、ぼよーん、ぼよーん、という音が遠くから響いてきた。


13 ベス疾走


 後ろを振り向くと、オレンジ色のスライヌ、ベスが飛んできた。

 ベスは背中に僕を無理やり乗せた。


「ひえー、また!? 僕の何が気に入ったのー!」


 叫ぶ僕を無視してベスはお湯の中を疾走した。

 いや、お湯の中というか、忍者みたいにお湯の上を走っている感じだ。

 こんなの初めて~!


「モノ! 私も乗るー!」


 コトもジャンプして背に乗る。後ろから僕に抱きつく形だ。

 そのまま走り続けるベス。

 3姉妹の背中がみるみる近付いてくる!


「ふふん、ここまで逃げれば……ん?」

「ぴええ! ものすごい勢いで旅人さんが迫ってくるぷにー!」

「止まらないんだー! 助けてー!」


 ベスは鬼ごっこ3姉妹にぶつかると、彼女たちを巻き込みながらジャンプ!

 湯船から飛び出して外に走った。


「ど、どこに行くぷにー!」

「犬に聞いてくれー!」

 

 背中に僕とコト、そして3姉妹の5人を乗せた大所帯でもますますスピードに乗って、風のようにベスは駆けた。

 

 結局スライムの街をぐるーっと一周してしまった。

 なんだかんだ言って結構気持ちよかったです。


14 鬼ごっこ終了


 それからお風呂に戻ると、またゆっくりとお湯に浸かって、その後はルーニャと一緒にごろっとマットで一休み。


「うーん、私たちの負けぷに……」

「ちょっと調子に乗りすぎたぷに……」


 3姉妹たちはプルナにガミガミとお説教されて反省しているようだ。


15 帰る時間


「さて、そろそろ帰るぷに。じゃなくて帰るにゃ。毎回ここに来ると口調が移っちゃうにゃ」


 お風呂から帰る途中でルーニャ。

 そうか、もう僕たちの世界を出てから三時間以上は経ってるもんね。

 人間界だと多分夕食の時間だ。

 正直全然お腹すいてないけど。


「えっ、もう帰っちゃうんぷに?」


 プルナと並んで歩く鬼ごっこ3姉妹が寂しそうに言う。


「うん。楽しかったから名残惜しいけど……」

「また来るぷに?」

「またすぐ来るにゃ。しかも泊まりで。モノさんたちにはもっとスライムの世界を知って欲しいにゃ」


 ルーニャが3姉妹の肩をぷにぷにと叩く。


「うん。私ももっとここで遊びたい!」


 コトが応える。

 うん。異世界なんて最初はどうなるか不安だったけど、蓋を開けてみれば楽しい事ばかりで、数時間で帰ってしまうのはもったいないよね。


「そっか。じゃあ、これあげるぷに」

「これは?」


 姉妹に渡されたのは星形の黄色く輝くグミのような物。


「スライムスターだよ。この世界では珍しい宝石ぷに。3人で山に行ったときに見つけたぷに」


 コトはその宝石をぷにぷにと握りながら眺める。

 本当に星みたいだ。


「きれい……」

「夜中に妖しい光を放ちながらふわふわ飛び回ったりするから気をつけるぷに」

「怖い!」


 呪いのアイテムじゃん!


「私たちに勝ったご褒美だからね! 今度来たときまた勝負して、私たちが勝ったら、そっちの世界の物プレゼントしてね!」

「うん。約束」


 コトと僕は3姉妹と握手した。


「わ、私も」


 プルナが3姉妹たちの間から顔を出す。


「私もモノちゃんとコトちゃんともっとお話ししたいぷにー! 帰っちゃいやぷにー!」


 手足をバタバタさせるプルナ。


「すぐまた遊びに来るから、今度はゆっくり話そうね」


 コトはプルナの手をにぎった。


「またここに来るためにも、モノさんたちにはどんどん旅行して、異世界の虜になってもらうにゃ。そしてその旅行記を異世界中に広めて、私は一躍有名な異世界案内人に……にゃっふっふ……」


 ルーニャが怪しい笑みを浮かべると、プルナも笑った。


「ぷっぷっぷー。でもまずは迷子になる癖を何とかしないとぷに」

「そ、それは慣れればそのうちなんとかなるにゃ!」


16 帰宅


 それから、広場に置きっぱなしでスライムの子供達のおもちゃになりかけていたテュポーン号に乗って、僕たちは元の世界に戻った。

 ルーニャと出会った公園にたどり着くと、あたりは暗くなっていた。

 テュポーン号が街灯に照らされている。

 すぐ家に帰らないと。


「今回の旅行はどうだったかにゃ? また来週あたりに連絡するから、これからもよろしくにゃ!」


 そう言うとルーニャは去っていった。

 それぞれの家に戻る。


 あまりお腹は空いていなかったけど何とかご飯を食べた。

 部屋でネットをやったりコトと電話したりして、お風呂に入って、ベッドに潜り込む。

 明日はコトと電車に乗って、ちょっと大きな街に買い物に行く予定がある。


 でも……。


「ね、眠れない……」


『ぷっぷに……♪ ぷっぷに……♪』


 3姉妹からもらったスライムスターが僕の机の上で妖しく光りながらゆらゆらと踊っている。

 ホラーだ。


 近いうちにまたスライムの世界に行って、これを返そう。


 僕はそう思いながらぼんやりとその小さな星を眺めていた。

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