第2話 スライムとスライヌレース!


01 スライムの世界


 積み木でできたような街。

 その中心にある広場の中の小さな噴水。

 バシャッ、という音を立てて、その水流の中からクジラの乗り物が飛び出した。


「スライムの世界にとうちゃーくにゃ!」


 噴水の前にテュポーン号を停め、ルーニャが外に出る。


「うん……」


 今にも踊りだしそうなルーニャと対照的に、僕とコトはぐったりしていた。


「ほらほらどうしたにゃ? そんなローテンションで旅行なんて楽しめないにゃ!」


 腕を振り上げて鼓舞しようとするルーニャ。


「だって……」

「ねえ……」

「まさか迷子になって、棍棒を持った巨人に追いかけられたり、溶岩に落ちそうになったりするなんて思わなかったし……」

「挙げ句の果てに、ゾンビがうようよいる世界に迷い込んで、私達、怖くて漏らしちゃったんだからね! ぷんぷん!」


 テュポーン号に乗ってからわずか数十分の間にそんな大冒険をして、僕たちは身も心もくたくただった。


「にゃはは……まあまあ、生きている喜びを噛みしめつつ、気持ちを切り替えて、今はスライムたちのぷにぷにワールドを楽しむにゃ!」


 ルーニャは頬をかきつつ、苦笑いを浮かべた。

 まあ、せっかく異世界とやらに来たんだし、楽しまなきゃ損だよね!


02 スライムの女の子


 僕たちが今立っている広場には、この世界の住人が何人かいて、みんなこっちの方を興味津々の様子で見ている。


「わっ、なんか半透明でぷにぷにした感じの女の子がいるよ!」


 コトが目を丸くしてはしゃいだ。

 その視線の先には、青やオレンジの肌をもつ、小さな女の子たちがいた。


「スライムの世界にようこそぷにー!」


 女の子のうちの1人がこっちに駆け寄ってきた。


「ルーニャお姉ちゃん、やっとお客さん見つけたぷにね!」


 女の子はルーニャの腕をぷにぷにと叩く。

 知り合いみたいだ。


「私はこの世界の案内人のプルナぷに。よろしくぷに!」


 そのプルナという女の子はこっちを向くとぺこりとお辞儀をした。

「私はコト。こっちの超ラブリーな男の子は私のパートナーのモノ。よろしくね」


 コトは前に出て挨拶すると、プルナと握手をした。

 その後で僕も握手する。

 手がひんやり。


「今回はお試しだから泊まらないにゃ。日帰りで楽しむコースを教えてにゃーん」

「なーんだ、泊まらないぷに? みんなで一緒にたくさん遊びたかったぷに」

「今度ゆっくり泊まりに来るにゃ。まだこの前の鬼ごっこのリベンジが終わってないにゃ。にゃっふっふ……」

「ぷっぷっぷー。じゃあ日帰りコースでごあんなーい! ぷに」


 ルーニャと話し終え、歩き始めるプルナ。

 僕たちも後をついて行く。


03 宿への道


「わあ、かわいい家」


 少し弾力がある地面に戸惑いながらも歩く。

 道に沿ってグミのような家が何軒も並んでいるよ。

 家の窓からスライムの子が顔を出した。


「あっ、異世界からのお客さんぷに! おーい!」


 手を振ってくる。

 僕たちも手を振り返すと、ぴょんぴょん跳ねた。

 かわいい。


04 スライヌ


「あっ、犬……みたいなグミでできた感じの生き物!」


 道の向こうからオレンジ色のぶよぶよした生物が飛び跳ねながらやってきた。


「それはスライヌぷに。ベスっていう名前で、みんなに可愛がられてるぷに」

「かわいいなあ。こっちにおいで……うわあっ」


「キャー! モノがものすごい勢いで犬に飛びつかれた!」


 スライヌがペロペロと顔を舐めてくる。

 ひんやりする。


「人懐っこい犬だなあ」

「ずるーい! 私も抱きつく!」


 コトはぴょーんと飛び上がると、僕の背中に抱きついてきた。


「ぐえっ」


 犬じゃなくて僕に抱きつくの?

 お、重い……。


「そろそろ行くぷに」


 プルナは服のポケットから丸い実のようなものを取り出すと、スライヌに食べさせた。

 スライヌはプルナをぺろっと舐めると立ち去っていった。


05 宿

 

 しばらく歩くと、プリンアラモードのような見た目の、ゴージャスな建物がどーんと現れた。


「わあ、大きいね。お菓子でできたお城みたい」

「ここが宿屋ぷに。私のママが経営していて、異世界からのお客さんにも慣れているぷに」


 プルナが胸を張る。


「ワタシも、見習い案内人としてママとこの世界に来たときは毎回お世話になったにゃ」

「まあ今回は泊まらないみたいだから、ご飯の準備だけするぷに」


 そう言うとプルナはとてとてと走って宿の中に入っていった。

 僕たちもぞろぞろと続く。


「いらっしゃーい」


 中にはスタッフの人たちが何人もいて、僕たちを迎えてくれた。

 プルナはカウンターで何かを話している。

 様子からすると、相手はプルナのお母さんみたいだ。


「ルーニャちゃん久しぶりぷにー。独立してから初めてのお客さんなんだってー?」


 スタッフの1人が声をかけてくる。


「そうにゃ。やっと見つけたお客さんだからもう逃がさないにゃ。にゃっふっふ……」


 そこにお母さんと話し終えたプルナが戻ってきた。


「ぷっぷっぷー。今から食事の用意をするから、それまでお庭をみててぷに。ママとおいしーい料理を作るぷに!」

「いえーい! 久しぶりに腕によりをかけるぷに!」


 プルナとそのお母さんはドタドタと厨房に駆け込んで行った。


06 中庭


 僕たちは奥の扉から中庭に出た。


「おやおや、庭というより公園になってるよ」


 そこには滑り台とかアスレチックがあって、それで遊ぶスライムたちが何人かいた。


「楽しそう」

「ねえ、あれで遊ぼうよ」


 コトが指差す先には大きなトランポリンみたいなものがあった。


「えいっ」

「わっ」

「にゃっ」

 

 そこに思いっきりダイブする3人。


「あはは!」


 ぼいーんぼいーん。

 もの凄い跳ねる。

 建物の屋根が見えるぐらいの高さまで跳ねて、少しこわい。


「うわっ」


 なんて思った矢先にコトと空中でぶつかりそうになる。

 とっさに抱きしめる。


「あっ……」


 そのままトランポリンの上に落ちるけど、跳ねる勢いは止まらない。

 助けて~!


「にゃにゃっ!?」


 今度はルーニャともぶつかりそうになったのでまた抱きしめる。


「………………」


 無言で抱き合ったまま跳ねる3人。

 トランポリンから投げ出されるまで数分間そのままだった。


07 レース


「おーい、旅人さーん」

「こっちで一緒に遊ぼうよ!」


 ベンチで休んでいると2人の女の子に声をかけられた。


「スライヌレースだよ。早速乗って!」


 庭の隅には5匹のスライヌがいて、女の子達はそれにひょいと跨った。

 ルーニャとコトも、よくわからないままそれらに乗る。

 僕も残りのスライヌに恐る恐る乗ってみる。


 ……って、この子、さっきのオレンジ色のスライヌ、ベスじゃないか。

 やんちゃな感じだったし、大丈夫かな……。


「お庭の周りを回って一番速く1周できた人が勝ちだよ。よーい、ぽん!」


 女の子達は腕を振り上げてスタートダッシュを決める。

 よーし、僕も頑張って走ろう。

 ……あれ、どうすればスライヌを上手に走らせられるんだろう?

 何の説明も受けてないよ?


「うわわっ」


 とりあえず頭をプニプニしたら、突然ベスが飛び上がった。


「あっ、モノー!」


 コトの悲鳴を背中に受けつつ、ベスと僕はそのまま扉に向かって走って、宿の中に入ってしまった。


「ひええっ!暴れ犬だー!」


 ベスは宿屋中を駆け回ると、慌てて追いかけてくるスタッフさん達の手をかいくぐって厨房に飛び込んだ。



「こらー! 厨房に入ってきたら困るぷに!」


 料理を作りながらぷんぷん怒るプルナ。

 ぐるぐるプルナとお母さんの周りを回るベス。


「ぷええー、目が回るぷにー」


 目が渦巻きのようになってしまった2人をそのまま置いて2階に走るベス&僕。

 ひええー!

 そんなに揺らしたら酔っちゃうよ!


 ベスの勢いはまだ収まらず、今度は客室に飛び込んだ。

 

 そこにはスライム族とは違う、背の高い金髪の女性がいた。

 おや、僕と同じ旅行者の人間かな?

 しかしよく見ると耳が尖っている。


 も、もしかしてファンタジーで定番の、エルフさん……?

 感動してまじまじと見ていると、


「きゃあっ、曲者!」


 エルフさんは布で体を隠した。

 よく見たら彼女は下着姿だった。

 着替え中だったみたい。

 がびーん!


「失礼しました~!」


 僕の謝罪の言葉とは裏腹に、ベスはぴょんぴょんとベッドやソファーを飛び回った。


「ええい、賊め! 早く出て行けー!」


 エルフさんは何かをぶつぶつ唱えた。

 魔法陣が浮かび上がる。


「こ、これは呪文!? ちょっとみてみたいけどひどい目に遭いそうだから逃げよう! 改めてごめんなさいエルフさん!」


 僕が叫ぶとベスは窓から飛び降りた。


 下は中庭だった。

 地面はプニプニしているから、2階から降りてもそれほど衝撃はない。

 

 着地して辺りを見ると、コトやスライヌに乗った女の子達が手を振って待っていた。

 もうレースは終わったみたいだ。

 僕はベスから降りた。


「もーう! まじめにやってぷに!」

「モノ、どこ行ってたの? 私が格好良く優勝するところ、見て欲しかったのに」


 王冠をかぶって、仁王立ちするコト。

 優勝したのか。

 すごいなあ。


「ふにゃあああ! 助けてにゃー!」


 なぜか木に引っかかっているルーニャ。

 一体どうしたんだろうね。



「ごはんできたぷにー!」


そこにプルナがやってきた。


「じゃあねー。また遊ぼうねー」


 スライヌに乗った2人に手を振ると、僕たちは宿の中に戻って、食堂に向かった。

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