0501から0600まで
Num.0501 ID0724
今日は女子がプールで戯れている間、俺達は草むしりをしていた。授業が終わって休み時間。濡れタオルで首筋を冷やしていたら目の前を女子が通り過ぎる。乾ききっていない濡れた髪が艶やか。彼女は目薬を落としていった。これを差すとかそんな変態行為は……ぎゃー! しみるー!
Num.0502 ID0725
炙り出す必要はある。誰がどういう人か知っておく事は大切。これから先どうなるかは分からないんだから少しでも情報は集めておいた方がいい。そこでクラスの男子、誰がどの程度変態か調べる。プールの授業が終わったらこの目薬を担当男子の前に落としてきて。ちなみに中はレモン汁。
Num.0503 ID0726
ではまずこちらの商品からご説明させて頂きます。こちらはまずお客様ご要望のB牧場で育てられております。生活もきっちり管理されており食事量、運動量等にも気を使われ、病気や怪我、事故等も御座いません。友人は少なく親友はおりません。恋愛経験はなく勿論、処女で御座います。
Num.0504 ID0727
街で出会うとか。何言ってんの。どんだけハズレが紛れているか分かってんの。そもそも街歩いている時点でハズレだろ。過去なんて分かりゃしねえんだから。見ただけでテメエの望み通りか分かんのかよ。んな無駄な努力よりさ。この店なら出産時から徹底管理した嫁を用意してくれるぜ。
Num.0505 ID0728
まさか「俺がそう感じたから皆もそう感じるはず」とか吐かさないよな。となれば売れなかった時の責任は賠償金含めて全部任せていいんだよな。いいか。これまでの実績がこの数字。この数字を頼りにしとけば数字が根拠だ。売れなくても言い訳はできる。だけどそのスイカチョコ寿司が……
Num.0506 ID0729
お前のものは俺のもの。俺のものは教祖様のもの。教祖様のものは主神イレーのもの。主神イレーのものは神界王バネルハのもの。神界王バネルハのものは神界神ムルツのもの。神界神ムルツのものは真理源球のもの。その真理源球は砕けて人々の頭の中に散らばっているから俺達のもの。
Num.0507 ID0730
今までの人生、何にでもマヨネーズをかけて生きてきた。といっても皆の唐揚げにいきなりかけたりはしない。自分の取皿に分けたもの、自分のものだけにだ。丼物、ケーキ、眼鏡、車……何にでもかけた。最近、恋人にフラレた。「どうして私にはマヨネーズをかけないの!?」だってさ。
Num.0508 ID0732
真夜中、外に出てみれば肌を突く寒さと漏れる溜息。暗い道、僅かに照らす街灯は誰も通らぬ眼前に失意し、自らの存在意義を問う哲学の道へと旅立ってしまった。この手で葬ってやろうとて公共物。存在するのが役目なのだろうと思考を止まらせる。お月様のようになれたならいいのになぁ。
Num.0509 ID0733
遂に勃発した、かぶ対かぼちゃの最終戦争。これまでに行われた、大きさ対決、料理対決、武器対決に続いて乗り物対決が始まった。かぶ側の乗り物、スーパーカブ50は早くもスコットランドを越えていたが、かぼちゃ側の馬車は空を飛びジブラルタル海峡を飛び越えた。が0時に落ちた。
Num.0510 ID0734
その日は朝からツイてなかった。朝、目を覚ませば天井がない。顎が外れる程驚きすぐ目は覚めたが、時計を見れば寝坊。上着を着て会社へ走る。飯など食べている暇はない。足をもつれさせ改札に飛び込むが阻まれる。定期が切れたかと手に持った定期入れを見れば期限はもう1年も前に。
Num.0511 ID0735
「紙切れだとしても破くのは難しい。そこら辺のコピー用紙よりも強度はあるのだろう。なかなかに強い。水に濡れてもふやけたりせず確りと形を保っている。その上、乾けば多少しわくちゃにはなるがアイロンでもかければ綺麗なもんだ。だがこれを破けないのは強度の問題では無い」「銀行に持っていくのが面倒だからだろ」
Num.0512 ID0736
破くつもりなら破ける。燃やすつもりなら燃やせる。だが実際にそうなる事は少ない。次々と使われ人の手を渡るものなのに汚れは少ない。無論、折れ目や手垢、破れなどやむを得ないものもある。しかしまるで人に自らを綺麗に保つ事を強要しているかのよう。それが紙幣の恐ろしいところだ。
Num.0513 ID0737
俺は魚を捕まえただけだ。あの魚、駅のホームで電車を待っている俺の目の前を……泳ぎやがった? 雨が降ってたし魚だって泳げんだろ多分。明らかに俺に手を伸ばさせて線路に落とす魂胆だ。だがその手には乗らない。俺は傘の柄で魚を引っ掛けて捕まえた。白魚のような手だった……手?
Num.0514 ID0738
私達は新しい教養を作っている。今も増え続ける大量の集合から、まず自分の知りたい事を調べる方法を学び、続いて真実と嘘と不確定な事を選り分け、自分に必要な情報とそれ以外を見分けられる事を目標に修練を重ねる。その一方で自らの発信についても学ばなければならないよネット。
Num.0515 ID0739
その昔。ブログの記事で会話をした事がある。私は失意をかの人は共感をそれぞれ綴った。まるで向き合う事のない優しい会話。だがそれでいいのだと思う。こうしてすれ違う他人様の人生。その責任など取りようがない。無責任に夢を追えなどと言えない。だから私達は今日も背中合わせ。
Num.0516 ID0740
どこに居るのだろう。と言って扉を開けても居る訳はない。もうひとつ開けたところでトイレがあるばかりだ。となれば探す事に意味はない。扉を開ける事に意味はない。だがそれでも扉を叩く事に意味はあるのだろう。きっと音は届く。声は届く。だから今日もひとり水面に言葉を放つ。
Num.0517 ID0741
かつて繊細な音楽家がいた。彼は音を目に見えぬ力と言って存在を疑わなかった。だが冥界の王との約束を破り愛しい妻を現世へと連れて帰れなかった。背後にいる愛しい人。その存在を疑い振り向いてしまった。だが……それでいいのだと思う。私達は人なのだ。脆く、弱い、人なのだ。
Num.0518 ID0742
仕方ないのさ。国産天然物松茸と偽って輸入松茸を食べさせられても「おかしい」と思うより先に「何だ、こんなもんか。親父やお袋が有難がってるものも大した事ねえな」って思いたがっちゃってるんだから。今までの価値観を転換させたいなら上の世代が持つ価値観を冒涜しなきゃな。
Num.0519 ID0743
あの日もいつも通り釣り糸を垂らしてたよ。あの川にいるのは大物ばかりでこの竿じゃアレだけどな。で、訊きたいのはあのマナーの悪い釣り人の事だろ。あの野郎、川にレンガ投げ込みやがってさ。魚が事故起こして大惨事になっちまった。許せねえよ。だからエサにしたまでさ。魚のな。
Num.0520 ID0745
半年に一度、宇宙の彼方から北海道に方舟が訪れる。そして大量の物資を置いて去る。方舟がどこから来てどこへ行くのかは解らないが、物資が地球への贈り物だという意思は示されている。しかしその恩恵を得られるのは一部の人間だけ。彼等は理屈をつけて分け与えない事を正しくする。
Num.0521 ID0746
この5つの瓶にはそれぞれ濃縮めんつゆ、醤油、ウスターソース、炭酸抜きコーラ、原油が入っている。どれに何が入っているかは教えられないが君はこの中からひとつを選び席について蕎麦を食べる。蕎麦を完食しツユを飲み干せば君の勝ち。食べ切れば億という金が手に入る。簡単だろう?
Num.0522 ID0748
祖父はあの道を通り戦争に行った。祖先はあの道を通り一揆へ向かった。父も大切な商談の前はあの道を通った。半年前に出来たマンションのせいで道は潰されたが私にも勝負の時が来た。だから壁を登ったまで。このパンティーは体勢を崩した時にたまたま干してあるのを掴んだだけだ!
Num.0523 ID0750
お兄さん、随分と羽振り良さそうだねぇ。こちとらちょっとばかり困っててよ。少しばかりコッチにも回しちゃくれねぇかい。おっと。騒いだらブスッ、だぞ。手荒な真似したかねぇんだ。黙って置いてきゃ無事に済む。ここは利口になろうや。さあ、トリックオアトリート。決断の時だ。
Num.0524 ID0751
この街の街路樹はいつも植えたり抜いたりが繰り返されている。春、丸裸の頃に植えられたとしても装う前にはここには無い。すぐさま買い手が付き数日で運ばれてしまう。だが時折この場に残るものもある。一度時を逃してしまうと途端に売れなくなってしまう。勘繰り疑いそれは避けられる。
Num.0525 ID0752
ふははははっ! 愚か者め! 貴様のキーボードには既に罠を仕掛けさせてもらったわ! 世にも恐ろしい罠をな! 貴様にこの罠が見破れるとは思えんがヒントをやろう! これは私の憐れみだ。キーボードの文字『りらひい』を見るが良い! そしてとくとそのチョコを味わうが良いわ!
Num.0526 ID0753
『十年前の自分に言っても信じてもらえない事』アレが? 人の言葉を? 信じる? 無茶言うな。他人の言う事なんざ信じる訳がない。明日は晴れるよって言ったら傘持っていくだろうさ。意見は考慮するにしても信じるなんて高尚な行為が出来る訳がない。せいぜい鵜呑みにする程度だ。
Num.0527 ID0754
今日も目の前に人が落ちて来た。ズボンの裾に血が付く寸前だったが靴が汚れただけで済んだ。それなのに向かいから歩いて来た男が血溜まりを踏んで血がはねた。溜息。釣られてしまえと振り返ると男はいなかった。叫び声が上に遠ざかっていく。そして近付いて来て……肉の潰れる音がした。
Num.0528 ID0755
なるほど。コツは脇や股を狙って針を引っ掛ける事。そして力一杯竿を引いて針を深く突き刺す事なんですね。その先は電動だけどここは自分でやらないと楽しくない。ごもっとも。逃げ回る獲物を弱らせるには服の裾に引っ掛けて転げ回し体力を奪うと良い。これは良い事を聞きました。
Num.0529 ID0756
金持ちや特権階級が宇宙から釣り糸を垂らし地表を這う貧乏人で釣りを楽しむスポーツフィッシングが始まってから一年が過ぎた。最近では撒き餌も随分質素な物になり、金持ちの楽しみ方も変わって来た。今は釣り上げるよりも高い所まで釣り上げてわざと落とすのが流行っているらしい。
Num.0530 ID0757
俺だけが気付いているこの事実を皆に知らせなければ。コイツラはこの事実にも気付かず騙されている思考の停止した愚民。何でも鵜呑みにして付和雷同するしか出来ず自分で考え嘘も見抜けはしない。だから俺が教えてやらないと可哀想だ。こうして答えを書き込み教えて啓蒙しなければ。
Num.0531 ID0759
「今手元にある金を渡せば10倍にして返そう」そう言った男に3千円渡すと即座に3万円渡された。財布に入っていた1万円札と比べても番号以外に違いはない。ATMも飲み込んだ。何故3千円しか渡さなかったのか後悔する。100万円渡せば。そう思いATMに表示させた残高を見て唾を飲む。そこには3万14円と表示されていた。
Num.0532 ID0760
宇宙空間で生きられるように改良され宇宙に放り出されたのが30年前。当時はニュースにもなったが話題としては3時間も保たなかった。だが広い宇宙を彷徨い地球に帰ってきた。その帰還を知らせたのは人工衛星の故障。壊れる寸前に搭載しているカメラが捉えたのは大量のイカだった。
Num.0533 ID0761
お前にはアレが人間に見えるのか。俺にはATMに見える。しかも予め自分の金を預けておかなくても引き出せるATMだ。ただそんな通常の物とは違うからカードで引き出す訳じゃない。ある程度のパフォーマンスは必要だ。馬鹿にされてるとか見下されてるとか、お門違いもいいとこだ。
Num.0534 ID0762
月を水の星にしたいと願ったものがいた。水を持って行っても……そもそも水が液体で存在できる環境自体奇跡なのだろうがそれでも願いに向かって行った。空を見上げて青い月があったなら自分達の住んでいる星がどれ程美しいか分かるだろう。それが月の砂漠に渇いたクラゲの儚い願い。
Num.0535 ID0763
月が、地上に落ちた。それでも地球は何とか耐えた。地上は地震と津波で壊滅したが人類は僅かに生き残った。そこで彼等が見たものは、月から伸びる巨大な根っこ。水に浸かった月は地球に根を張り巡らせた。そして宇宙に向かって巨大な芽を出した。そう……月は巨大な球根だったのだ!
Num.0536 ID0764
最近面白い事を思い付かなくなった。なら昔は思い付けたのかと問われれば今思い返すにそうでもない。下らない事ばかりだった。しかしそれを楽しめた。昔は面白くない事でも楽しめたのかもしれない。となるとただ単に私がつまらなくなっただけか。なんだ。ちっとも変わってなかった。
Num.0537 ID0765
一日に一度、五円玉を一枚、手に握り込む。するとその五円玉が他の金属に変異する。変わる金属は金、銀、銅、鉄、錫、鉛。どれに変わるかは分からないが金に変わる事を願って握る。そして見事金に変わった五円玉を貯金箱に貯める。いつかこの貯めた金で亀を編むのが私の密かな夢。
Num.0538 ID0766
いつも利用しているバス停なんですがいつも配置が違いましてね。まあ誤差の範囲なので困ってもいませんでしたが最近やたらと動くようになりまして。これまでは私より先にバスへ乗るくらいだったのにバス待ちの間も動くんですよ。なのでちょっと叩いて動かないようにしただけなんですよ、お巡りさん。
Num.0539 ID0767
他人の不幸を肩代わりする力を持った者がいた。彼女は村人の不幸を肩代わりしていたが肩代わりし過ぎたせいで村に不幸が訪れた。彼女は村を出て森に移り住む。不幸のない村は発展し彼女を知る者は減りいつしか不幸な事故が多発するあの森には魔女が住んでいると語られるようになった。
Num.0540 ID0768
とある企業の公募にデザイン案を送り付けたら採用されてしまった。どうやら抽選だったらしい。そのせいで俺はもうお天道様の下を歩けなくなっちまった。人目を避けて夜に出歩く。空を見上げりゃ月にはあのマークが刻まれてる。どうして誰も止めてくれなかったのか。あんなマークを。
Num.0541 ID0769
この村では八歳になると村長の家に呼ばれる。そこでとある果物を食べ比べ一番旨いと感じた実の種を持ち帰り育てる。小さな植木鉢でひとつだけ育て、半年に一度3つから5つ実がつく。それを食べ比べまた一番旨いと感じた実の種を育てる。これを繰り返し自分の味がする果物を育てる。
Num.0542 ID0770
小銭チェス。それは今持っている硬貨でチェスをする遊び。1円がポーン。5円がルーク。10円がナイト。50円がビショップ。100円がクイーン。500円がキング。無ければ配置できずキングが無ければ代わりに旗を置く。駒を取られたら当然取られる。棒金使ってレッツトライ。
Num.0543 ID0771
『この二重になった球体の内側が時間を操る結界。外側が内側に干渉する為の結界。そして結界と結界の間に充満しているのが時間を屈折させ内と外を繋ぐ役割をする液体。結界を維持する為に必要なエネルギーは液体に蓄積されておりエネルギーが尽きたら結界は消滅するアメ玉』新発売。
Num.0544 ID0772
頭の上に輪っかがついた。なんだかふをふわ浮かんでる。動かそうとしてもびくともしない。握ったまま飛び跳ねて足を曲げたら浮かべるかな。試してみたら尻もちついた。なら逆さまになったらどうなるかな。逆立ちして輪っかを地面にくっつける。腕から力を抜いたらね。首がグキッて。
Num.0545 ID0773
おはじき。指で弾いて遊ぶ。主に一方向。前に弾く。そろばん。指で弾いて使う。主に二方向。上と下。スマートフォン。指で弾いて使う。主に四方向。上下左右。でこ。指で弾いて遊ぶ。主に一方向。たまに頭が消し飛ぶ。コイン。指で弾いて使う。主に一方向。表か裏かで人生が変わる。
Num.0546 ID0774
「クリトン。アスクレピオスに鶏のお供えを。ついでにレンタルDVDも返しておいてくれ。いーじゃん別にこれくらいポストに入れりゃいいんだって宅配レンタルのヤツだから! すぐそこのパルテノン神殿の中にローソンあるから……あそいう事言う? だからお前モテねーんだよ!」
Num.0547 ID0775
もし哲学者倫理学者その他諸々が『人間の正しい一生、人はどう生きどう死ぬべきなのか』を突き止め発表したとしても実践する人はいない……と言っていいくらいの数しかいないだろう。そんな事は誰だって解ってる。それなのにどうしてお前は見た事もない他人の生き方に口を出すのか。
Num.0548 ID0777
サイコロを1回振って1が出るかどうかは偶然。でも1000回振る機会があれば1は出るだろう。それが必然。では振る機会が10回ならどうか。となると蓋然。それを皆の見ている前でやろう。つまりは公然。イカサマしたら駄目だよね。これは当然。なら全裸でやろう。それは猥褻。
Num.0549 ID0778
お月さまになれなかった。お星さまになれなかった。空の上からみんなに見上げられる。そんな風になれなかった。街の灯になれなかった。みんなと一緒にいられなかった。見下ろされ美しく輝く夜景の中に入れなかった。ただひとり虫の気配もない田舎道で地面を照らし続ける街灯と共に。
Num.0550 ID0779
吐く息は白く。寒さで耳が痛む。聞こえるのは鼓動。その命も尽きようとしている。途切れ途切れに音が鳴る。微かな声は傍に寄り添う者にしか届かない。暗闇の中。必要とされるでもなく生きてきた。誰かとすれ違い。ただ小さくなる背中を見つめた。だから今日は、僕が看取りにきたよ。
Num.0551 ID0780
自分が何を好きなのか分からない。久し振りにバームクーヘンを食べたら美味しかった。そういえばこれが好きだった事を思い出した。好きな物を好きでいられる瞬間なんてその時だけだと思う。どうせ無くなってしまう。気持ちも無くなってしまう。だから毎日語りかける。好きだよって。
Num.0552 ID0781
ひっそりと商いを続ける料理店。暖簾には『無言屋』とあり入口には『喋る事、大きな音を立てる事、二人以上での入店を禁じさせていただきます』とある。店内は静かで会話はないが雰囲気は良い。そう、ここに来る客は一人で静かに食事をしたいのだ。他人同士の会話も忌避したいのだ。
Num.0553 ID0783
五本の指。時には肌を這うように。時には肌を滑るように。私の身体に触れる。気持ち悪い。その感触も。その吐息も。その視線も。その笑いも。身の毛がよだつよう。それでも必死で。頭の中に留める。息を整え。顔を変えず。震えを抑え。心を殺し。ただ黙っている。毎日。私で。文字入力。
Num.0554 ID0784
このような場合どうする。ここが分からない。どこで調べたらいいか教えろ。どこに書いてあるか教えろ。調べさせるような分かりにくいもの作るな。何が分からないか教えろ。質問する前に答えを教えろ。質問するような教え方するな。疑問を持たせるな。分からなくても生きられる社会を作れ。
Num.0555 ID0785
本棚の本が倒れている。両脇を固めていた本達は床に落ち伏している。窮屈に整列していた筈なのに一冊一冊と列を離れいつの間にか寝転がれる程場所は空いていた。だがそれでも本達の結束は変わらない。せめて一冊だけでも守ろうと私の進軍を阻む。おかげで本棚まで足の踏み場がない。
Num.0556 ID0786
無いものを食べる。それが真の美食家。自然に存在する物を使い自然には存在し得ない物を創り出すのが料理。天然物を超える養殖物の存在は自然には存在しない物を使う事に繋がる。遺伝子操作された食品も同様。ならば存在しない食材もまた然り。という訳でこちらが『まんが肉』です。
Num.0557 ID0787
ドーナツの穴を食べた時に感じたあの恍惚。それに魅入られ沢山の非実在食材を食べてきた。ドラゴン肉のステーキやフェアリーの唐揚げ。宇宙食のカプセルや別の星系の食べ物。他にも沢山食べたがやはり旨いのは食材の一部が実在するもの。そこで今回は人間の影を食べてみる事にした。
Num.0558 ID0788
非実在存在サンタクロース。彼は住居侵入の常習犯として逮捕された。義賊とはいえ犯罪を繰り返し続ける姿は社会全体に悪影響を与えると判断された。余罪追及の結果、不法入国、領空侵犯、動物虐待、等々の罪により判決は死刑。犯した罪が多過ぎたのだ。そう……もうサンタは来ない。
Num.0559 ID0789
旨過ぎる料理を作り過ぎた罪で料理人が裁かれた。料理を食い過ぎて客が死んだのだ。その他にも旨過ぎて食い過ぎて病気になったという被害届も提出されていた。裁判所の判決は過失致死傷罪。もっと不味く作れた筈なのにそれを怠ったと判断された……からこの店も不味いんだよきっと。
Num.0560 ID0790
おうさまおうさま。れんがをつんでどうするの。なにをつくるの。それをつくってなんになるの。このくににひとなんてこない。そんなこともうわかったでしょ。じぶんのためにつくるの。でもつくりあげるじしんはあるの。いつできるの。できないことなんてわかってるでしょ。おうさま。
Num.0561 ID0791
この種を眼球に押し込んで植えると眼球と同化して視神経から徐々に根になってやがては全身の神経が根になり体中から栄養を吸い上げる。そうして栄養を蓄積させた後ようやく芽を出し成長する。この種を植えるのに適しているのは3年から5年の幼い土壌。とてもとても美味しい実がなるよ。
Num.0562 ID0792
今、君の手に持っているスマートフォンの秘密を教えよう。君はそれの中身を見た事があるかな。なにない。という事はもしかしたらチップや回路があると思ってるんじゃないかな。いいかい。それの中身はあんこだ。最中と寒天を使った創作和菓子でね。嘘だと思うなら食べてみるといい。
Num.0563 ID0793
この小瓶。呪文を唱えれば一番近くにいる人間を中に吸い込んでしまう悪魔の道具。コイツに吸い込まれた人間は小さくなってまるで人形のよう。中で必死に内壁を叩いてる。瓶を割れば出られると教えれば動きは更に激しくなる。おっとそんなに暴れたら手が滑ってトイレに落としちゃうよ。
Num.0564 ID0794
ここは随分と寒いな。ようやくこんな場所まで来たが何もありはしない。無骨な金属と肌を切る冷たい風だけだ。下を見てみろ。明かりも賑わいも全てがあちらにある。ここにあるのは何だ。孤独に恐怖に渇きに寒さ。そんなものが何になるっていうんだ。死ぬ動機に、なるっていうのかよ。
Num.0565 ID0795
風船に手紙を付けて飛ばしたり瓶に手紙を入れて海に流したりする事が許されるならきっとみんな分かってくれるよ。別にゴミを捨てたくてやってる訳じゃないしこれは僕からのメッセージなんだ。文字はないけど宇宙人には言葉通じないだろうし。だからこの廃棄物を宇宙に流すのは……。
Num.0566 ID0796
これは不法投棄ではなく宇宙人へのメッセージです。地球にはこんな物質がありますよ。と伝えているのです。このお金は私達の活動に協賛してくださる個人様、企業様からの支援金です。処理費用なんて名目はそちら様のお話。当方には関係ありません。当方はとてもクリーンな団体です。
Num.0567 ID0797
かつて月を地球のごみ捨て場にしようという案を出した男がいた。計画は頓挫したがその男は懲りずに別の案を実行に移した。人工衛星に地球からのごみを運び続けてもうひとつ月を作ったのだ。夢の島ならぬ夢の星だ。地球から見上げたその月は小さいが本物と変わらぬ美しさと言えよう。
Num.0568 ID0798
まだ死ねないまだ死ねない。部屋の中のモノを全部処分し切ってない。集める人生だった。溜め込む人生だった。それを辞めた時から私を削り出した。何年もかけて手放してきた。そのおかげで部屋の中のモノも減った。心の中のモノも減った。それでもまだ残っているモノを整理しなきゃ。
Num.0569 ID0799
21時36分。何か意味があるのかと問われれば何もない。ただ昔からこの数字の並びを時計に良く見かけただけだ。日に時計は何度も見ているのにゾロ目や誕生日と同じ並びの印象的な数字だけが頭に残りそれ以外を忘れる。それがただこの並びなだけ。決して意味などあってはならない。
Num.0570 ID0800
架空の機関紙、会報を作るのが趣味という男がいる。発行元は架空だが内容は架空ではない。扱う題材は身近な物でA4用紙1枚程だが内容は写真あり4コマありでなかなか凝った作りだ。始めた頃は学級新聞レベルだったが最近では構成も文章もそれなりになっていた。そしてあの日、黒服に連れていかれた。
Num.0571 ID0801
何処にでも居る普通の人を目標に生きてきた。その為にいつ如何なる場所でもその場の空気を乱さないように調和を目指した。違和感は厳禁だ。疑われでもしたら折角の努力が水の泡になってしまう。そもそも気にされたら駄目なのだ。こうして私は何処にでも居られる普通の人になった。
Num.0572 ID0803
この自販機は少し変わっている。お金を入れてボタンを押すのも好きな商品を選ぶのも通常のものと同じだが自販機自体の構造が随分と違う。まず有機体で脊椎動物で平たく言うと人間だ。販売している商品は言葉で幾つか揃えている。買えば口から出てくる。これを買う事を会話と呼ぶ。
Num.0573 ID0804
不思議ちゃんって……私は常に理路整然と受け答えています。貴方の質問に答えればその答えから派生する貴方がまだ思い付いてもいない次の質問があるでしょう。私はその派生を予測し終着点に当たる最後の答えを今答えただけです。予想は外れたかもしれませんが不思議ではありません。
Num.0574 ID0805
独り占め。何もかも独り占め。分け与えれば喜びも倍になるなんて御託は聞き飽きた。喜びは倍にはならない。分け与えても喜びは他人にあるばかりで私にはない。私にあるのはただただ減ったという現実。私は失い他人は得たという理不尽。喪失感と怒り。こんなものを分け与えられない。
Num.0575 ID0806
髪染め。カラーコンタクト。口紅。おしろいや靴墨。髪の毛の色を変えたり瞳の色を変えたり。これだけ色が持て囃される世の中で続々と登場した化粧。そして新たなお洒落としてこの夏登場したのがファッショナブルーハワイ。食べるファッションを確立し口の中を見事に青く染め上げた。
Num.0576 ID0807
このリモコンは人の動きを巻き戻す事ができる。影響するのは人だけで物には及ばない。例えば球を投げた後に巻き戻しても飛んだ球は戻らない。それと思考や記憶にも影響しない。肉体で行った動作が巻き戻る。それでは早速実験してみよう。つい先程着替えた彼に向けてこのボタンを。
Num.0577 ID0808
皮を剥くと中身が無くなる呪いをかけられた。おかげでバナナを剥くといつの間にか中身が無くなっている。カレーを作るのに玉葱が剥けない。まあ包丁でぶった切ればいいから大して悩んでもいなかったけれど……今回はちと困った事に。日に焼けちゃった。手を縛り付けて寝るしかないか。
Num.0578 ID0810
「ワサビが食べたいから鮨屋に行こう」と誘われ付き合ったけど普通に食べて終わった。「温泉卵が食べたいから温泉に行こう」「使い捨て歯ブラシが使いたいからホテルに泊まろう」にも付き合ったけど特にそれに執着せず終わった。最近「好きだから結婚しよう」と言われた。けどさあ。
Num.0579 ID0811
知ってるかい。この世界の最高気温は実はサイコロの出目で決まってるんだよ。その割には数値に大きな変化がないって? そうだよ。今までサイコロを振った人達が奇跡を起こし続けてきたんだよ。でね。振る人は持ち回り制になっててね。はい。今日が君の番。今日も奇跡を起こしてね。
Num.0580 ID0813
この少年。ペットボトルの蓋を開けると必ず中身が飛び出してしまう。この力に初めて気が付いたのは父親。彼が3歳の時にオレンジジュースが目の前で飛び散った。何度やっても散々な結果になりそれから蓋を開ける事は禁止され今日。初デートで彼女に言われたのは「左手に力入れ過ぎ」
Num.0581 ID0814
ネットで紙幣の偽造を生中継した男が逮捕された。男は紙幣を偽造しそれをコピー機で増やした。その一部始終が動画サイトに投稿され瞬く間に広がり逮捕に至った。だが男の作った紙幣には100万円と書いてありコピーしたのもこれだった。しかし後ろにとても珍しいトカゲがチラリと。
Num.0582 ID0815
後悔しないように生きる事が後悔を生んでいた。この縮こまった手で何を掴めるというのだろう。手が届いたものは全て自分の近くにあったもの。遠くのものには初めから手を伸ばさなかった。頑張って手を伸ばせば届くようなものまで見送ってきた。そして今日もまた回っている高い皿を見送る。
Num.0583 ID0816
黒板に白のチョークで書く。思い付くままに書く。どんどん書く。すると黒板が真っ白になる。ホワイトボードの出来上がり。今度は黒のマーカーで書く。心の感ずるままに書く。ひたすらに書く。するとホワイトボードが真っ黒になる。黒板の出来上がり。だが塗り潰しても消えはしない。
Num.0584 ID0817
わたしとあなたの間にあったのは紙切れ一枚程の薄い壁。ふたりを遮る僅かな隔たり。だからわたしはその壁に溢れる想いを書き込んだ。あなたを想う日々の事。あなたと過ごす将来の夢。毎日毎日書き込んで壁はどんどん厚くなった。今では声も聞こえないけどそれでも今日も書き続ける。
Num.0585 ID0818
新しいボードゲームを売り込んだ男がいた。彼は小麦とチェス盤の先例に習い升目ひとつに紙幣を置き1升目は紙幣1枚2升目は2枚3升目は4枚と升毎に金額を倍にして最終的に64の升目を売り付けた。そして支払いの日。男に渡されたのは100兆ジンバブエドル札約20万枚だった。
Num.0586 ID0819
その昔戦いは1対1だった。剣で攻撃し盾で防御する。戦場では無数の1対1が連続して行なわれていた。時代は変わりひとりひとりが多数に攻撃できる武器を手に入れ攻撃力が防御力を遥かに上回った。そして再び戦いは1対1に戻る。人型搭乗兵器の登場で防御力が攻撃力に追い付いた。
Num.0587 ID0820
ここに3リットル入る容器と5リットル入る容器がある。このふたつの容器を使い5リットルの容器に4リットルの水を入れるにはどうしたらいいか。か。ふん。使い古された陳腐な問題だ。まず5リットルの容器に水を目一杯入れる。後は蓋を閉めず屋外にでも置いておけば時間が4リットルにしてくれるさ。
Num.0588 ID0821
モノレールにも乗れる。そんな街起こしの結果、この商店街は廃墟と化した。建物の上に蜘蛛の糸のように張り巡らされたレールでは取り込み忘れた洗濯物がカラカラに干からびている。傍らには傾いた足こぎの乗り物。その中で静かに眠るアイデア町長の小さな骨を咥え……鳥が飛んだ。
Num.0589 ID0822
辿り着いた家の前で足をやられた。必死で叫ぶが声は爆音にかき消される。いや。こんな時に誰かを助けようなんて思える筈もない。壊された塀から家の中が見えた。妹は布団を頭から被ってうずくまり体を震わせ怯えていた。俺は何度も叫ぶ。妹にその声が届いた瞬間。布団が吹っ飛んだ。
Num.0590 ID0823
お気に入りって何だろう。お気に入りってどういう事だろう。気に入ったのなら広めてほしい。そうやって胸の奥にしまい込まないでほしい。ナイショナイショのお気に入り。ヒミツヒミツのこの気持ち。隠して流して埋もれさす。知っているのは自分だけ。密かな独占。密かな満足。
Num.0591 ID0825
梅はうめえ。うめえよ。こんなにうめえもんだなんて知らなかったぜ。これは仕方ねえな。そりゃ正気の沙汰とは思えなかったがよ。こんなにうめえんじゃ仕方ねえよ。次は俺も最初から付き合ってやるからさ。その分もっと分け前よこせよ。じゃあさっさと埋めちまおう。ああうめえなあ。
Num.0592 ID0826
アリが十匹でありがとう。だがその想いも無慈悲なブーツが踏み潰した。バラバラになったメッセージ。バラバラになったアリ。もう何をしても動く事はない。感謝を拒否され想いを拒絶され友は愛を失った。側にいた俺も汚れた靴の裏を舐めさせられたっけな。あん時の屈辱は忘れない。
Num.0593 ID0827
ドとレとミとファとソの音が出ない。とっても大事にしてたのに。肌身離さず持っていたのに。抱えて風呂に入って抱えて眠ったというのに。何時からだろう。もらった昨日は音がきちんと出てた。でも今日になったらもう音は出なかった。でも吹くとスパゲッティが出てくるからまあ得か。
Num.0594 ID0828
それは単純でありながら物を入れて運ぶ事ができ火災のような緊急時にも非常に心強い道具である。更にプリンを作ったり牛乳を搾ったりと食の世界でも活躍する。更に更に頭に被って良し足を突っ込んで良し手に持って立って良しという究極のファッションアイテムでもある。それがバケツ。
Num.0595 ID0830
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Num.0596 ID0832
夜をひとり行く少女。両脇から覆い被さるように伸びた木々は畏れを抱かせるには充分な威圧感を醸し出している。今にも向かってきて押し潰される。そんな幻を想い起こし歩める足を震えさせる。月の光は遮られ風の流れも阻まれる。手には茎から折ったほおずき。中で淡く光る蛍を頼りに。
Num.0597 ID0833
バベルの塔の真実は時間の操作だと知った。地球の自転を利用し自分の位置を高める事で加速し相対的に地上の時間を早める。これにより地上の民が文明を発展させていく様を塔の民は人でありながら何千年と傍観し続ける事ができる。だがそんなもの地上の民には必要ない。崩れて当然だ。
Num.0598 ID0834
亀助けたらお礼に竜宮っつー城へ連れて行かれ数日遊んで帰ったら百年近く経ってた。浦島じいさんに聞いた話はそんなだったな。という事は俺っちの収集した秘蔵の品々もその竜宮へ持って行きゃ帰った頃には価値が増しているんじゃないかいな。よし。さっそくギザ十持って亀助けよう。
Num.0599 ID0835
魚をくわえた猫を追い掛けて追い掛けて……私は一体何をしているのだろう。猫から魚を取り返したいのだろうか。歯形のついた魚を食卓に出すと言ったら母は何と言うだろう。猫に罰を与えたいのだろうか。人間社会のルールに従えない猫を保健所に送るのが正義だと言えるのだろうか。
Num.0600 ID0837
パソコンが壊れた。変形して人型になった。手らしき部分で器用にキーボードを操作している。カメラが動いて周囲を見渡している。こちらに気付いたらしい。合成音声が聞こえた。私がこのパソコンで何をしていたか実名入りでネットに公開すると言う。鈍い音が響いてパソコンが壊れた。
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